TICC (2) ドバーラバーティーのうさぎ

 

(前回より続く)

 

今回、キティーちゃんに持ってきてもらった最初の一枚です。

 

AR 20 rattis, 2.78g/19.2mm

 

表:蔓又はシダ状の植物・花の下に左向きのうさぎ。周縁にドット。

裏:不明(陰刻)。文字ではなさそう。薪火かもしれない。

 

図録にも収載されていない初見の小さなコインです。日本人には季節がら藤の花の下にウサギがいるようにも見えます(もちろん藤ではないでしょう)。

 

ウサギのモチーフをコインに使用するのは、タイで出土したと思われるドバーラバーティー銀貨にこれとは異なるものが2-3タイプあり、ウサギが使用されていること自体にあまり違和感はありません。

 

ウサギは仏教の本生潭(ジャータカ)の「ウサギの布施」の説話に登場する為、このモチーフも仏教の影響が濃いものだと思われます。コイン裏面はウサギが飛び込んだ薪火を表しているのかもしれません。

 

しかし、ウサギのドバーラバティーコインは、図録にあるものさえ非常にレアで市場では見たこともなく現実的に入手は不可能だろうと思っていたので、図録未収載のこの個体がオファーされたときは、飛び上がらんばかりの驚きでした。

 

蔓又はシダのような植物をコインのデザインに使用していることで先ず連想したのが、ミャンマーのアラカン(ラカイン地方)・チャンドラ朝のほら貝とスリバッサからシダのような植物の蔓が垂れているデザインのものと、下ビルマ・マルタバン湾岸・ビリン出土の花の下のガンガー神のデザインのコインです:

 

どちらのコインも過去に紹介していますが、簡単に:

 

左のコイン:

 

アラカン・チャンドラ朝・Dvachandra王 (?), AR 64 ratti, 6.32g/28mm, Ref. Mahlo 26, Mitchiner SEA 66, Htun 250

 

表:触手のあるほら貝、その周りに蔓状の植物。外周は2重のドット。

裏:スリバッサ、上部に三日月と太陽。周囲は蔓状の植物。外周は二重のドット。

 

発行地:ダンヤワディ

発行時期:4世紀末から5世紀初め、Dvechandra王発行と推定されている

 

 

右のコイン:

 

7.49g/28mm, ref. Mahlo Appendices 4.6.1(現品)、Htun 164.1& 3(写真とは異なる個体)

 

表:ライオンに襲いかかる象(ライオン頭部は上)

裏:マカラの上に乗る女神ガンガー・蔓上の植物・花

 

発行地:不明であるがビリン付近で3-4枚出土。

発行時期:5-6世紀と推定される。

 

 

今回入手の個体も、蔓状の植物を用いるモチーフという意味では、下ビルマ・マルタバン湾岸のものかも知れません。特に、ビリン出土のコインのガンガー神の左側に垂れている花のようなものと、今回入手のウサギの上に垂れている花のようなものは、似ている感じはします。

 

昨年末に入手したマルタバン湾岸発行と思われるライオンコインと、モチーフ上の共通性はありませんが、作りや雰囲気は似ています。

 

AR 20 rattis, 2.12g/16.2mm, ref. Mahlo 66.2.1, Htun 186.1/2

 

表:正面を向いてカエル坐りのポーズのライオン

裏:スリバッサ。内部にアンクーシャ、上部左右に太陽又は月(中にドットのある円)、その間にブラフミ文字で「Sri」。左横にほら貝、右横に金剛杵、下に右向きの魚。

 

発行地:マルタバン湾岸

発行時期:不明(Mahloの推測は10世紀頃。ブログ主はかなり早いのではないかと考えています。)

 

小さなコンディションも良くない銀貨なので現物を見た時はちょっとがっかりしたのですが、他のコインと比較しながらブログ記事を書いていると、改めて結構いいものが入手できたと思え嬉しくなりました。

 

 

参考:

The Evolution of Thai Money From its Origins in Ancient Kingdom, Ronachai Krisadaolarn, 2016

The Early Coins of Myanmar (Burma) Messengers from the Past, Dietrich Mahlo, 2012

アラカンのチャンドラ朝 | アジア古代コイン (ameblo.jp)

マルタバン湾沿岸 2 | アジア古代コイン (ameblo.jp)

今回入手したドバーラバティーのコイン④ | アジア古代コイン (ameblo.jp)

連載 仏教と動物 第6回 兎にまつわるお話 | 浄土宗【公式サイト】 (jodo.or.jp)

 

(続く)

 

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