引き続き、①湾岸最深部(チャイトーやビリン等)のコインの紹介です。

 

7.49g/28mm, Mahlo Appendices 4.6.1(現品)、Htun 164.1& 3(写真とは異なる個体)

 

表:ライオンに襲いかかる象(ライオン頭部は上)

裏:マカラの上に乗る女神ガンガー・花

 

非常にインド的で、又描写的なモチーフ。ガンジス川の女神であるガンガーは彫刻のモチーフとしてインドではよく見かけますが、ガンガーが描かれているコインはインドでも多くはありません(注1)。Mahloは描写の特徴からグプタ朝のコインと推定していますが、グプタ朝のコインで同様のものはインド本国では発見されておらず、又3-4枚現存するとされるこのタイプのコインの全てはマルタバン湾のビリン付近でのみ出土しているのでミャンマーのコインと思われます。尚、グプタ朝のコインの影響を受けたサマタタ(現在のバングラデシュ)のコインの描写の特徴が似ているとの説もありますが、やはり同じモチーフや似た雰囲気のコインはサマタタでは発行されていません(注2)。いずれにしてもインド方面より渡来し定住した人たちがマルタバン湾に拠点を築きコインを発行したものと推定しています。

 

発行地:不明であるがビリン付近で3-4枚出土。

発行時期:5-6世紀と推定される。

 

(注1)インドにおけるガンガー彫刻等


ガンガ―の像 足元に右向きにマカラが描かれている。(どこの博物館かは忘れましたが、インドの博物館の展示品)

 

Mathura様式の女神像(Bhutesvara Yakshi・2世紀)。ガンガーではないがコインに描かれているガンガー女神を彷彿させる。(Mathura Museum, Mathura, India)

 

 

ガンガ―の描かれたインド・スリランカ古代銭はいくつかマーケットで見かけたことはありますが、残念ながら入手には至っていません。以下のインドスキタイのアジリセスの銀貨のモチーフはガンガではなく、ガジャラクシミー(ラクシミー神と象のモチーフ)のものですが、全体的な雰囲気は似ている感じがします。

出典:JONS No.239 (Spring 2020) “Zeionises as Successor of Azilises” by R.C. Senior

写真のコインは前回触れたカシミールで出土した36枚のインドスキタイ銀貨の中で最も希少なもので、現存数は多分1-2枚(上記筆者は一枚と推定。)。2020年米国のオークションにてUS$32,500で落札されたものです。このデザインは一目見て、「欲しい!」と思いましたが、スタート価格がUS$15,000でしたので参戦すら叶いませんでした。

 

(注2)以下はサマタタのコインです。モチーフや描写の雰囲気は似ているとは思えません。

Samatata, 5.69g/20mm, AV stater late 6th century AD. Ref. Mitchiner 2000-55、SEA-225/7

 

グプタ朝の金貨も描写的で美しく現存数も多いのですが、価格が高騰しており入手に至っておりません。

 

 

 

年の瀬も押し詰まりました。よいお年を!

 

(2020年最後の夕日・やはり富士山は絵になりますね。)

 

 

 

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