アラカンのチャンドラ朝は、現在のミャンマーラカイン州及びバングラデッシュの南東部(チッタゴン地域)にあった古代王国。諸説ありますが4世紀から8世紀頃、ラカイン州北部のダンヤワディ(Dhanyawadi)又は、ワイタリ(Vasali(Mrohaung))を首都として、エーヤワディー川河口からチッタゴン付近までの銀の交易で栄えたと考えられています。ピューによりエーヤワディー川を下ってきた銀が、モン(マルタバン湾及びタイのドバーラバティー)によって東へ、アラカンのチャンドラ朝によって西へ運ばれていったといいう銀の交易の構図です。

 

毎度出てくる2世紀のギリシャ人地理学者プトレマイオスの地誌では、アラカンの海岸が銀の国(Argyra)と呼ばれ、その記述の中にあるSambraがチッタゴン、Sadaがワイタリ(Vasali)(又はダンヤワディ)に比定されています。

 

8世紀前半にアナンダチャンドラ王によって建立された石柱に紀元前からの歴代のチャンドラ朝の王の名前と治世年数が刻まれています。4世紀終わりから5世紀初めのDvechandra王から銀貨が発行されたと思われ、5世紀初めと思われるラージャチャンドラ王からイニシャルが、5世紀前半と思われるデバチャンドラ王からフルネームが記載された銀貨が発行されているため、5世紀以降は歴史上実在した王と発行したコインの時期がほぼ判明しています。(実際はこの石柱には紀元前からの王朝も記載されていますが、コインという観点から、ダンヤワディ又はワイタリが首都であった時代の部分のみを今回取り上げています。)

 

Dvachandra王 (?), AR 64 ratti, 6.32g/28mm, Ref. Mahlo 26, Mitchiner SEA 66, Htun 250

 

表:触手のあるほら貝、その周りに蔓状の植物。外周は2重のドット。

裏:スリバッサ、上部に三日月と太陽。周囲は蔓状の植物。外周は二重のドット。

 

発行地:ダンヤワディ

発行時期:4世紀末から5世紀初め、Dvechandra王発行と推定されている。

 

これはアラカンのチャンドラ朝では2番目に古いコインとなります。基本的なデザインは、マルタバン湾の最初の金・エレクトラム貨をベースに、シリアム銀貨及びペグー銀貨に似たコンセプトですが、ドットがたくさんあるのが特徴です。

 

ほぼ同じデザインで、ほら貝の下部付近にブラフミ文字で、Raja銘のあるものが、Rajachandra王(多分5世紀 AD530年頃まで)により、および、Deva 又はDevachandra銘のあるものが、Devachandra王(5世紀前半)により、それぞれ発行されています。(なかなか市場に出ないため入手出来ていません。)

 

このDevachandra王から、表が、ほら貝からコブウシへデザイン変更されたコインも発行され、コブウシの上に王の名前が刻まれたタイプのコインとなり、その後9世紀まで一貫してこのデザインの銀貨が発行されます。(裏面のデザインがやや異なり、スリバッサが小さく、その周りの蔓状の植物が大きく強調されているタイプも別ミントと思われますが報告されています。)

 

AR 16 ratti, 1.63g/18mm(国王名未読)

 

表;右向きのコブウシ、その上にブラフミ文字で国王銘(未読)

裏:スリバッサ

 

状態が悪く王名、発行時期が特定できません。

 

AR 8 ratti, 0.81g/12mm, 発行者・時期特定不可

 

表:左向きコブウシ、上にブラフミ文字

裏:スリバッサ

 

ラカイン州


アラカン主要部

出典:”The Early Coins of Myanmar (Burma), Messengers from the Past”

 

アラカンは銀の流通ルートにあった割には、ピューやモンと比較してコインのバラエティーや発行数が少なかったように思われます。したがって、比較的市場で入手しにくいことと、王の銘以外はデザインに変化がない為、収集は進んでおらず、これが典型的なアラカンのコブウシ・スリバッサ銀貨だというものが紹介できないのが残念ですが、次回でチャンドラ朝のコインとほぼ同じデザインの、バングラデシュ東南部のハリケラ銀貨を紹介します。

 

(全部一度にアップ試みましたが、理由ははっきりしませんがアップロードできませんでした。)

 

参考資料:”The History and Coinage of South East Asia until the Fifteenth Century”, Michael Mitchiner

”The Early Coins of Myanmar (Burma), Messengers from the Past”, Dietrich Mahlo

“Auspicious Symbols and Ancient Coins of Myanmar”, Than Htun

 

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