飛び落ち理論 精神飛翔理論 ピーターパン飛翔理論 | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  飛び落ち理論 精神飛翔理論 ピーターパン飛翔理論

 

 「トムとジェリー理論」との絡みで、ここでは、私の作った「飛び落ち理論」というものを説明します。

 宮﨑駿のアニメーションでは、飛ぶことが単独では現れず、落ちることと同時に現れたり、落ちることと交互に現れたり、かならず両者が補完的に表現されます。それが見ているもののハラハラドキドキという状態を作り出すと同時に、垂直空間が縦横に描かれることになります。

 

 一番良い例は、「魔女の宅急便」で、飛行艇にぶら下がったトンボを助けるために、キキがデッキブラシに乗って、飛びながら、また落ちながら、近づこうとするシーンでしょう。最後に救う場面も落ちているのか飛んでいるのかが不明です。これを「飛び落ち理論」と呼びます。

 

 なおそこには私の作った「精神飛翔理論」も絡んできます。

 精神飛翔理論は、ある者が飛ぶためには、物理的に飛べるかどうかという話よりも、そのものの精神状態が大きく影響するという理論です。精神状態でだけではなく、例えば箒とかデッキブラシとか、プラスアルファの何かが加わることが必要です。これは私は「ピーターパン飛翔理論」とも呼んでいて、「楽しいことを考えると飛べる」「自分を信じると飛べる」という精神の問題に、妖精のほこりというプラスアルファが加わって飛べるという状態を生み出すというものです。

 

 これは、例えば飛ぶことと落ちることが同時に描かれる宮﨑駿の「オン・ユア・マーク」を考えるとわかりやすいでしょう。

 

 「飛ぶ」というファンタジー的行為に、リアリティーと緊張感を持たせるためには、同時に落ちることを強く意識させる必要があり、「飛び落ち理論」は現代の表現には必須です。

 この「飛び落ち」理論は、「トムとジェリー理論」と似ています。トムとジェリーは天敵であり、憎しみあっているように見え、追いかけっこを続けることで、永遠に生きていられますが、表立って和解してしまうと、そこで二人の物語が終わり、二人の命もとまってしまうという理論です。

 私はこれを、追いかけっこをすることで、バランスが保たれ、いわば飛翔を続けられるので、実はいつでも落下する危機に直面しているととらえます。ふたりが追いかけっこをやめれば、バランスが崩れて落下してしまうというイメージでとらえています。トムとジェリーのような関係は、飛翔と落下の関係であると言ってもいいと考えます。飛翔と落下は天敵関係にあり、仲良くすることはできないので、対立関係を続けながら、共存することになります。

 そういう意味で、「飛び落ち理論」は、表現上は、「トムとジェリー理論」と併用されることになります。

 

 文学作品の場合、横光利一の短編「蠅」を読むために、私は教室で、昔からこの「飛び落ち理論」でラストシーンを説明しています。蠅は飛び上がりますが、蠅の乗っていた場所は崖の下に落ちます。

 小説の書き出しでは、蠅が蜘蛛の巣から落下します。

 飛翔と落下の微妙な組み合わせで、「蠅」という小説は出来上がっています。

 飛ぶことと落ちることをどのように組み合わせ、どのように垂直空間をドラマに仕立てるのかという問題が、そこには広がっています。最後に飛ぶことと落下を同時に描いたところは、実に斬新で見事なラストシーンを作ったものだと感心します。

 

 

 

 

 

天天快樂、萬事如意

  みなさまにすばらしい幸運や喜びがやってきますように。

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 (画像はフリー画像としてスタジオジブリから配布されているものです)