「その四文字を信じろ」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

「その人、毎度車の中で寝ているだけで何もしないんですよ」

 

先日、数年来の仕事仲間の一人である外注の「Kさん」にウチの現場応援に来て頂いたのだが、その休憩中の車内で「かつて付き合いがあった元請先の人間」について触れ、冒頭の様なことを話されていた。

 

「マンションの点検に行っても毎回自分だけ点検を任され、その人ずっと車の中で寝ているんです」と。

でその「毎度車の中で寝ている人」の言い分が以下の様なものであったらしい。

 

「消防設備は誰も触らなければ壊れようがない。点検するからぶっ壊れるんだ」

 

正論と言えば正論、と言って良いのだろうか。

消防設備に限った話ではないが、確かに誰もそれを触らなければ壊れようがない。

だがしかし、この言い分はあくまでも「点検をしなければならないオーナー側」の主張である。

 

前述したその人物の解釈の如何に拘わらず、点検依頼を受けた以上、当然作業はしなければならない。

 

Kさん自身は「自分はただの応援だし、その会社の物件だから別に気にしても仕方がない」と考え、特にその人物に意見することはしなかったそうだが、私なら間違いなくブチ切れていたことだろう。

 

私も数年前、人を介してとある会社の応援に行った際、その日は応援の私を含め3名で他2名は「その会社の社長と従業員」という構成。

がしかし、午後になるとその社長はひたすら車の中で寝ているだけ。

 

てっきり私は「体調が悪くてそうしている」と思ったのだが、後から聞いた話だと特に体調が悪いということではなかったらしく、本当にただ寝ていただけであった。

要するに適当な理由を付けては「仕事をサボる人間」はどこにでもいる、ということである。

 

それはともかくとして…

前述したKさんがかつて出くわしたその人物。

「誰も触らなければ壊れようがない」という主張。

 

それについて、19年間この仕事を継続してきた自身の経験から確かに言えることがある。

それは「過去全く誰も触れていなかった機器ほど壊れやすい」ということ。

 

私も年に数回ほど「今回5年ぶりに点検」とか、あるいは「10年ぶり」という物件を任されることがある。

 

加えて一応事前に頂いた「前業者の報告書」を見ると「全設備不良無し」の判定。

前述した人物の理論で言うと前回の点検から今回まで誰も触れていないのだから「壊れているはずがない」ということになる。

 

ところがいざ点検するとそうした物件の方がむしろあれこれと問題が出てくることが多い。

無論それらは「点検しなければ発見されなかった」という事実を踏まえると、「点検しない限りにおいては半永久的に不良無し」ではある。

 

しかしそれは「普通に管理していれば発見できたはずの問題点を「普通以下」の管理であったが故に長らく見逃し続けていた」ということでしかない。

 

やはり定期的に「人の手による点検」が入っている設備の方が断然動きが良い。

そもそもどんな物にも「経年劣化」という現象がある。

 

性欲旺盛な二十歳の若者を20年間監禁し、いざ20年後にその身を解放してやったとして、20年前の様にポコ☆ンが直ぐにガン勃ちするのか? ということである。

20年間「誰にも触れてもらえなかった」という事実は、その者のポコ☆ンに深刻な劣化を齎すだろう。

 

それこそ40~50年前の消防設備は感知器ひとつとっても金属製であることが多かった。

発信機の表示灯にしても昔ながらのガラス製の品は今でもたまに見る。

むしろ当時の品の方が経年劣化に対しては強かったのだろうと思う

 

しかし最近の品はプラスチック製である場合が殆どで、発信機のボタン等、押したと同時に壊れてバカになることはよくある。

 

消火系の設備はともかく、少なくとも自火報関連設備については「定期的な点検」が行われることを前提として製造されていると言って良い。

そうした意味でも「誰も触れなければ壊れようがない」という理屈はまかり通るものではない。

 

一方、だからこそ我々は堂々と「点検中に発見した不良個所」については一部のアホな顧客が言う「点検で壊したんだろ?」という理屈をぶっ倒して「シッカリと点検したからこそ早期に発見出来た」という理屈を押し通すべきなのだ。

 

仮にそれが本当に点検で壊したものであったとしても、そう主張するくらいの気概が必要である、ということだ。

 

客側に叱責されて縮こまる様な人間は消防設備士には向かない。

時に「言い返す」くらいの強さがある人間でなければ到底この仕事の継続は不可能である。

 

Kさんがかつて出くわしたというその人物。

「誰も触れなければ壊れない」という馬鹿げた理屈を主張する人間が必ずこの業界には居るのだろうとは思っていたが、しかしいざそうした話を聞いてむしろ私は考えさせられた。

この仕事を継続する意味を。

 

「経年劣化」

 

この四文字を信じ、我々は破損など恐れずに設備を動かしてやるべきである。

「触れなければ壊れない」のではない。

 

「誰も触れないから劣化が早まる」である。

 

 

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