「凄くなくていい」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

 

本日、私は横浜市内の某教育施設まで久方ぶりとなる工事案件で朝から現場へ。

 

と言っても去年末に「勝手に閉じてしまうことがある」と施設関係者から指摘があった防火扉のラッチを1ヵ所交換するという、至って小さな作業。

 

その去年末の指摘を受けた際、ダイゴローと共に現地に赴き、既に調査自体は終えていた。

ラッチのロックの強度を最大限まで高めたものの、しかし再ロック不良であったので関係者の方にラッチの交換をご提案し、本日の交換と相成った。

 

因みに「再ロック不良」とは、防火設備検査員資格をお持ちの方ならご存知かと思うが、感知器連動などで起動をかけた防火戸が「まだ受信機からの火災復旧を入れていないにも関わらず防火戸が収まってしまう現象」のこと。

 

通常、起動後に受信機から火災復旧を入れてもらいラッチをリセットした上で防火戸を枠内に押し込むが、まだ火災復旧を入れていないにも関わらず押し込んだ防火戸がラッチのロック機能で枠内に収まってしまうと検査上の指摘事項となる。

 

もしも本当に火災が起き、そして防火戸が起動すれば館内の人々は避難の際その閉鎖した防火戸を避難経路側に押しながら非難する。

 

その際、防火戸のことを知らない人などが「避難の邪魔だから」と、防火戸を枠内に押し込みそのまま扉が収まってしまうとその後の煙や炎を防ぐことが出来ず、結果的に被害が拡大する可能性がある。

 

それゆえ「受信機からの火災復旧を入れる前はいくら枠内に防火戸を押し込んでもラッチのロックが利いちゃダメよ」ということ。

消防設備点検では通常そこまでみないが、防火設備検査では検査項目となっており、この再ロック不良は比較的よく出くわす現象でもある。

 

消防設備点検における防排煙設備の点検が如何に「流れ作業」に成り果てているのかが分かる。

前々回の記事の繰り返しになるが、いい加減、無駄な点検の重複を省く努力を消防設備業界も率先して行ってほしい。

 

「ここは毎年防火設備検査が行われているので防火戸やシャッターは点検対象にはなりません」

 

そう堂々と言えるだけの環境作りを自火報メーカーなどが中心となって行ってはどうだろうか?

「点検費用を下げられてしまうから」などという理由でいつまでも防火設備を項目に定めているならそれはあまりにも「下衆で卑劣な金稼ぎ」と言う他ない。

 

 

それはともかくとして…

さてそんなワケで無事に交換工事を終えた私。

 

独立当初は工事専門の方の現場応援が中心で日頃からこうした防火戸ラッチ、あるいは感知器や非常放送用スピーカーの増設工事などを日常的にこなしていた。

なので工事については今よりも当時の方があからさまに「出来た」と思う。

 

しかしここ数年は点検がメインで工事もたまにはあるが、しかしその多くが感知器や誘導灯といった端末機器の交換。

「何も無いところに新たに何かを設置する」といった技術など私は持っていない。

 

大した工事技術を持たない私は切った接続部から順次新しい機器の配線と繋げていく。こうすることで接続ミスの防止にもなる。

 

また工事慣れした方の場合、リングスリーブなどで結線した箇所を上手いことビニールテープでクルクルと巻いていくが、あれが上手くできない私は予め適度な長さにビニールテープを切った上で丁寧に巻いていく。

 

仕事を継続する上で「無駄な背伸びはするまい」と自身に誓っている。

業界人の中には「工事が出来てこそ一人前」などと偉そうに語る人間も多いが、しかし各々の環境次第で工事に携わる機会があまり持てない人も多い。

 

「自分は工事が出来る」と誇らしく思うのは結構なことだが、しかし「それが何?」ということである。

たまたまそうした作業を覚えてゆく環境に恵まれただけで、別にその人間が凄いわけでも、また偉いわけでもない。

 

工事はあまり出来ない私だが、しかしこれは「負け惜しみ」などで言っているのではない。

ある工事について私自身が出来なくとも、それが出来る人間を手配してその作業を完了すれば、それは「私が(平成め組が)その作業を無事に完了させた」ということである。

 

例え抱える人員は少なくとも、しかし私はあくまでも経営者の立場。

経営者として組織の発展を考えるのであれば「全て自分でやろう」という考え方を先ずは捨てなければならない。

 

目の前のその作業を「自分ほどではないがそれなりに出来る」という人間が身近にいるのであれば、それは意地でもその人間に任すべきなのだ。

経営者が「全て自分でやろう」と考えていたのではその組織は成長のしようがない、と言える。

 

だから私は点検も工事も今の能力で「もう十分」と考えている。

今最も注力しているのはやはり高所ロープ作業であるが、これも社内に出来る人間を2~3人育てることが出来たのなら、引退とは言わずともフォロー役に徹したい。

あるいは更なる危険作業に挑むのか… まぁ多分後者の方を選ぶのだろうが。

 

何はともあれ、背伸びをしない、自分に求めすぎない、自身のあらゆる能力に「ここまで」と目途を付け、そして自分で出来ないなら出来る人間を連れて来る。

これこそがリーダーたるべき人間に求められるべき能力である。

 

凄くなくていいのだ。

 

 

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