廃寺巡りの楽しみの一つに「瓦めくり」があります。
文字どおり落ちている瓦片をひっくり返してみるのです。
いったい何が面白いのだ?と思ったそこのアナタ、おそらく伝わらないだろうが、これからその醍醐味をご説明しよう。
とある廃寺跡を訪れ、瓦の破片らしきものがこんなふうに半分地面にのめり込む形で落ちていたとする。
瓦と思いきや石だったりすることもしばしば
めくってみる。
バァァァァァァン
めくる。
オラオラオラオラオラオラ‼‼
もうおわかりいただけたであろう。
めくってみるのは「布目(ぬのめ)」が付いているかどうかを確かめるためなのである!
布目が付いた瓦、すなわち「布目瓦」は、古代から室町期あたりまでの瓦に特徴的なもので、古代寺院跡でこいつを見つければ、その寺院の屋根に葺かれていた瓦の残骸である可能性が高いと考えられるのだ。
なぜ布目が付くかというと、瓦の製造時に布が「剥離剤」のような役目を担っていたからです。
古代の瓦の製法の一つの方法として、底の抜けた桶のような木型に麻布を貼り、その上からひも状の粘土を巻き付けて成形するというものがあったらしい(桶巻きづくり)。
平瓦の製作道具(トヨタ産業技術記念館『千年の甍』展より)
粘土がある程度乾燥した段階で、筒状の粘土を4つ又は2つに分割して木型から外し、瓦の形状に整えるのだが、脱型する際に粘土が木型に張り付いてしまわないように用いられたのが布だったというわけだ。
ちなみにこの方法、室町末期以降は雲母粉などをまぶして剥離しやすくする技法に取って代わられたとのことで、それからは布目瓦は見られなくなるのだそう。
つまり、布目瓦の破片があるということは確かにここに古代寺院があったとの証拠になり、これを見つけることで、いにしえの人々の存在がぐっと近くに感じられるのだ。
これこそが瓦めくりの醍醐味!
(わかっていただけますかな?)
もちろん瓦をめくるまでもなく、初めから布目がわかることもあるし(あまりない)、めくってみてもスカの場合もある(結構ある)。
神社の境内の裏手でよく見かける光景。全体的にスカっぽいがまれに布目瓦が混じっていることもあり油断できない
表面が黒くて焼しめられたようなものや釉薬の付いたもの、植木鉢の破片のようなものはアウトオブ眼中。
表面がやや風化していて、ベージュや灰色、薄いれんが色のようなものが狙い目だ。
パサついた土に半ば埋もれているようなことも多い
畑なんかだと耕作にジャマなので脇に放り出されていることもしばしば
このように瓦めくりはトランプゲームのようなドキドキ感もあって、廃寺跡では当たりカードを求めて熱心に地面を観察してしまったりする。それがハイジスト。
(不審者だ。気をつけよう)
気をつけると言えば、瓦めくりでの注意点。
ジメジメしたような場所での瓦はいろいろなムシたちの格好の居場所になっていたりする。
そんな場所の瓦をめくると、裏側に得体の知れないサナギが貼り付いていたり、見た目がヤバそうなちっこいアリどもが無数にひしめき合っていたりすることもあるのだ。
んぎゃああああぁぁぁぁぁ!(絶叫) ※イメージです。
ご用心、ご用心。
それにもう一つ。瓦片にしろ現場から持ち去ることはマズいと思います。
布目瓦を見つけても持ち帰らずにせいぜい写真を撮るだけにしておきましょう。
(もちろん私もそうしていますよ)