17歳の少女ノーラは、恋人のアイリス、親友のウェスと銀行を訪れます。
アイリスとウェスがぎくしゃくしていることに悩む彼女でしたが、そんな状況を銃声が吹き飛ばします。
銀行強盗によって人質にとられてしまう彼女たちでしたが、ノーラは奴らを出し抜く術を考えていました。
詐欺師の母と様々な修羅場を潜り抜けてきたノーラは、恋人と親友を助け出すため母とともに捨てた詐欺の技をもう一度使うことを決意します。
物語は、“わたし”こと17歳のノーラが、親友で元カレのウェスと現在の恋人のアイリスと共に、チャリティの基金として集めたお金を預けるために地元の銀行を訪れるシーンを描く「1 八月八日 午前九時九分」という章から始まります。
元カレと今カノとの関係で悩むノーラでしたが、銀行の窓口でノーラたちの前に並んでいた男が突然、銀行強盗に早変わりします。
次の章「2 午前九時十二分(人質になって十五秒)」になり、銀行強盗は、白人で身長6フィートぐらいの赤の野球帽の男と、同じく白人で灰色の野球帽の男の2人組であることがわかり、ノーラはこの2人をレッドキャップとグレイキャップと名付けます。
銀行内には、ノーラたち3人の他に、列の最前列にいた1人の女性と窓口の女性、客用の椅子に座っていた10歳ぐらい女の子がいました。
強盗犯は、銀行の支店長のフレインを呼ぶように窓口の女性に迫りますが、女性は支店長はいないと答えます。
そこに警備員の男性が戻って来て、レッドキャップに銃で撃たれ、その混乱の中、ノーラは姉のリーに携帯でSOSのメッセージを送ります。
そして、ノーラは銀行強盗たちを観察しながら、この危機的状況からどうすれば脱出できるのか考え始めます。
ノーラがこのような危機的な状況の下でパニックにならずに落ち着いて行動できるのは、ノーラのこれまでの人生に理由がありました。
ノーラは、詐欺師の母親のアビーことアビゲイル・デヴローによって、人を騙す技術を幼いころから身につけさせられ、母親の詐欺の手伝いをさせられてきていたのでした。
母親は、詐欺のターゲットに合わせて、ノーラの名前や髪形、服装だけでなく、行動パターンや性格も変えさせましたので、ノーラは、これまでレベッカ、サマンサ、ヘイリー、ケイティ、アシュリーとさまざまな名前の女の子としての人生を送ってきたのでした。
ノーラは、ウェスとアイリスを救うためにも、この母親から仕込まれたテクニックを使って、この危機的な状況から脱出するために戦うことを決意します。
物語はこのノーラたちの現在の状況を描く章に、さまざまな女の子として過ごしたノーラの過去を描く章がランダムに挿入される形で進行します。
ノーラたちの現在の状況を描く物語は、ノーラとウェス、アイリスが知恵を凝らし、限られた物資を生かして、武装強盗に立ち向かう様子を描く典型的な冒険活劇です。
ノーラたちの活躍がサスペンスフルに描かれ、読むのがやめられなくなります。
一方、ノーラの過去を描くパートでは、ノーラが母親から詐欺師として育てられる過程が描かれます。
このパートは、自らの意思ではなく犯罪者として育てられる子どもの悲劇を描きながら、姉のリーの力添えもあり、少しづつ自己に目覚めていくノーラの成長を描くビルディング・スロマンです。
また、ノーラが銀行強盗たちと戦う決意を固めることになるウェスとアイリスとの友情と愛情を描く青春小説でもあります。
終盤、自らの新しい人生を構築するためにするノーラの決断に、ウェスとアイリスが協力する場面がノーラの新しい人生を象徴しているようで印象に残りました。
600ページ近い長編ですが、1ページ目からノーラの今後に希望が見える最後のページまでノンストップで読みたくなるまさにページターナーな一冊でした。
表紙のイラストは、イラストレイターのしまざきジョゼさんです。
描かれているのは、犯行現場となった銀行の建物の前に立つノーラでしょうか。
しまざきジョゼさんのツィッターはこちらです。→https://twitter.com/joze_phine_
[2023年3月9日読了]