オカルト雑誌に目をつけられた魔法使いのマリィは八王子から姿を消してしまいます。
マリィと小山田のコンビは復活するのか?
八王子署の若手刑事・小山田聡介と魔法使いの少女マリィの名コンビが、魔法の力を借りつつ、八王子界隈の事件を解決していく人気ユーモアミステリー“魔法使いマリィシリーズ”の第4弾、最終回です。
4編の短編が収録された連作短編ミステリです。
「魔法使いと幻の最終回」
「魔法使いと隠れたメッセージ」
「魔法使いと五本の傘」
「魔法使いと雷の奇跡」
これまでのシリーズ作と同様に、冒頭で犯行場面が描かれ、犯人が明らかになる倒叙ミステリです。
八王子署刑事課の刑事の小山田聡介は、小山田家で住み込みの家政婦として働く魔法使いの少女のマリィの魔法で犯人を知りますが、それだけでは逮捕できないため、証拠集めに奔走します。
上司の美人警部の椿木綾乃に蹴られることに喜びを感じる一見ヘタレな聡介の名推理が光ります。
各話は、売れないお笑い芸人の服部富雄が、保険金目当てで小説家の叔父の服部憲次郎を殺害した直後、殺害現場の部屋に来た憲次郎の夫人に叔父の声を真似て返事したことから偶然にもアリバイが偽装される「魔法使いと幻の最終回」、塾講師の熊田司郎が、大学准教授でテレビタレントでもある妻の美幸に罵られ、思わず殺してしまい、美幸が残したダイイングメッセージに気づき処分する「魔法使いと隠れたメッセージ」、音無辰哉が、会社の先輩でエリート社員の松山健人から片思いの相手の桑原麻衣と結婚することを告げられ、そのショックから衝動的に殺してしまう「魔法使いと五本の傘」、叔父の高岡源次郎が所有する土地を狙う高岡祐一が、遠縁で弟分の和田剛と共謀し、源次郎が祐一を襲っている現場を2人の女性に目撃させ、正当防衛を偽装して源次郎を殺害する「魔法使いと雷の奇跡」と、アリバイ崩しあり、ダイイングメッセージありとバラエティに富んでいます。
私のお気に入りは、第1話「魔法使いと幻の最終回」です。
売れないお笑い芸人のトミー服部こと服部富雄は、保険金目当てで小説家の叔父の服部憲次郎を殺害します。
ところが、その直後、憲次郎の夫人の瑞枝が殺害現場の離れの玄関をノックします。
富雄はとっさに叔父の声を真似て返事をし、その場を逃れますが、この結果、富雄の完璧なアリバイが偽装されることになります。
オカルト誌『マー』の記者に自分の存在を気づかれたことを知ったマリィが、
八王子から姿を消してしまった(この経緯は、前作『さらば愛しき魔法使い』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12790901427.html)の最終話「魔法使いとバリスタの企み」に描かれています)ため、いつもマリィの力を借りて事件を解決していた聡介は、この富雄の完璧なアリバイに自分だけの力で挑むことになります。
憲次郎が書き残したはずの原稿の行方から、事件の真相に気づく聡介の推理が鮮やかな1編です。
これまでのシリーズ作と同様に倒叙ミステリとしての完成度は高いものがあります。
もちろん魔法使いが登場するファンタジーの世界でのミステリですが、謎解きミステリとしても破綻はありません。
第2話以降は、前作と同様にラブコメ色がかなり濃厚で、犯行現場に駆けつた聡介を八王子署の“椿姫”こと39歳独身の椿木警部が“遅い”と叱責し、聡介がにやにやするシーンや、イケメンの犯人に椿木警部が心を奪われるシーンなどお約束のシーンも満載です。
一方、聡介とマリィの関係は、第1話「魔法使いと幻の最終回」での、マリィの残した婚姻届を巡る聡介の軽率な行動によって大きく進むことになります。
毎回、楽しく読ませていただいたシリーズもこの作品で終了のようです。
ファンとしては少し残念ですが、マリィと聡介の幸せを祈っています。
表紙のイラストはイラストレーターのMinoruさんです。
箒に乗るマリィと聡介が描かれています。
minoruさんのツィッターはこちらです→https://twitter.com/minoru200
[2022年2月27日読了]