八王子署の若手刑事・小山田聡介と魔法使いの少女マリィの名コンビが、魔法の力を借りつつ、八王子界隈の事件を解決していく人気ユーモアミステリー“魔法使いマリィシリーズ”の第3弾です。
4編の短編が収録された連作短編ミステリです。
「魔法使いと偽りのドライブ」
「魔法使いと聖夜の贈り物」
「魔法使いと血文字の罠」
「魔法使いとバリスタの企み」
これまでのシリーズ作と同様に、冒頭で犯行場面が描かれ、犯人が明らかになる倒叙ミステリです。
八王子署刑事課の刑事の小山田聡介は、小山田家で住み込みの家政婦として働く魔法使いの少女のマリィの魔法で犯人を知りますが、それだけでは逮捕できないため、証拠集めに奔走します。
上司の美人警部の椿木綾乃に蹴られることに喜びを感じる一見ヘタレな聡介の名推理が光ります。
各話は、弁護士の岡田英明が、顔がそっくりな腹違いの弟の高野英夫を利用してアリバイを作り、愛人の森佳代子の夫の敬三を殺害する「魔法使いと偽りのドライブ」、イケメン人気映画コメンテーターの西脇雅也が、邪魔になった恋人で無名美人女優の中澤美奈子を殺害する「魔法使いと聖夜の贈り物」、バーを経営するイケメン三十男の殿村淳史が、バーの経営資金欲しさに元市役所職員の叔父の高森健作を保険金目当てに殺害する「魔法使いと血文字の罠」、経営する波佐間珈琲店の人気バリスタの波佐間健二が、妻の加奈子の旅行中に突然訪ねてきた不倫相手の愛沢仁美を殺害してしまう「魔法使いとバリスタの企み」と、アリバイ崩しあり、ダイイングメッセージありとバラエティに富んでいます。
私のお気に入りは、第2話「魔法使いと聖夜の贈り物」です。
イケメン人気映画コメンテーターの西脇雅也は、京野遥という婚約者ができ、邪魔になった恋人で無名美人女優の中澤美奈子を殺害します。
そして、美奈子のストーカーの加藤真治に罪を着せようと画策します。
クリスマスという時期設定を活かした構成が秀逸です。
マリィの魔法で西脇雅也が犯人と知った聡介が、被害者の中澤美奈子が持っていた犯行当日に読んだとされる本を使って、犯人の計画を崩していく過程は鮮やかです。
これまでのシリーズ作(第1作『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』、第2作『魔法使いと刑事たちの夏』)と同様に倒叙ミステリとしての完成度は高いものがあります。
もちろん魔法使いが登場するファンタジーの世界でのミステリですが、謎解きミステリとしても破綻はありません。
この作品は、前2作に比べるとラブコメ色がかなり濃厚になっており、犯行現場に駆けつた聡介を八王子署の“椿姫”こと39歳独身の椿木警部が“遅い”と叱責し、聡介がにやにやするシーンや、イケメンの犯人に椿木警部が心を奪われるシーンなどお約束のシーンも満載です。
一方、聡介とマリィの関係は、第2話「魔法使いと聖夜の贈り物」で、マリィがクリスマスに欲しがった誰もが持っているのにマリィが持っていないものをきっかけに微妙に変化し始めます。
そして、第4話「魔法使いとバリスタの企み」でマリィに近づくオカルト誌『マー』の記者の存在が、2人の関係に影を落とします。
聡介とマリィの関係がどうなるのか、目が離せません。
表紙のイラストはイラストレーターのMinoruさんです。
マリィと聡介と椿木警部が描かれています。
Minoruさんのツィッターはこちらです→https://twitter.com/minoru200
[2022年2月19日読了]