副題は“行き遅れ令嬢の事件簿1”。
19世紀の英国。
誰にも注目されない冴えない令嬢が、ひょんなことからハンサムで頭脳明晰だけど鼻持ちならない公爵さまとバディを組んで殺人事件の謎を解くことになります。
物語の舞台は19世紀初頭のイギリス、物語は主人公のベアトリス・ハイドクレアがスケフィントン侯爵の屋敷でのディナーの席で、目の前にいるケスグレイブ公爵ダミアン・マトロックに苛立ちを募らせているシーンから始まります。
5歳の時に両親を亡くし、叔父のホーレスと叔母のヴェラの夫婦に引き取られたベアトリスは、26歳になった今も未婚で叔父夫婦の家に居候の身でした。
そのヴェラ叔母さんが30年前にクロフォード女学院で一緒に寄宿生活を送った学友のスケフィントン侯爵夫人のヘレンからハウスパーティに誘われたため、ベアトリスは、ヴェラ叔母さんとその息子のラッセル、娘のフローラと共に湖水地方にある侯爵家の屋敷に3日前から滞在中でした。
ホストであるスケフィントン侯爵は55歳で見上げるほど背が高く、夫人のヘレンもすらりとした長身で、もてなし上手でした。
このハウスパーティの参加者は、侯爵夫妻とその息子で24歳になるアンドリュー、侯爵のいとこのヌニートン子爵マイケル・バリントン、アンドリューの友人のアマーシャム伯爵、ヴェラ伯母さんと同様に侯爵夫人の学友のアメリア・オトレーとその夫でインドで事業を展開している資産家のトーマス・オトレー、2人の娘で典型的なイギリス美人のエミリー、そして、ケスグレイブ公爵でした。
公爵は、たくましい肩をした180㎝を超す長身で見目麗しいルックスで、さらに頭脳明晰と、何から何まで完璧ながらも高慢な32歳の男性でした。
その夜、ベッドの入ったものの寝付けなかったベアトリスは、侯爵家の図書室に本を探しに行きます。
そして、何かを踏み、ろうそくを消してしまったベアトリスは、月明かりの中で立つケスグレイブ公爵と床に横たわるオトレー氏の死体を発見します。
公爵に体よく現場から追い出されたベアトリスは、翌朝、ヴェラ伯母さんとフローラからオトレー氏が自殺したと聞いて驚きます。
公爵の真意を疑うベアトリスは自らの手で真相を明らかにしようとします。
ミステリとしては、関係者がハウスパーティの参加者と侯爵邸の従業員に限られ、パーティの参加者の多くに何か隠し事があるというイギリスの本格ミステリの典型的な設定の下で、犯人とその動機というフーダニット〔whodunit〕とホワイダニット〔Whydunit〕の2つの謎を解く謎解きミステリです。
しかし、その謎解きの完成度はそれほど高くなく、ベアトリスが素人探偵として思い込みの推理を展開しつつ、暴走気味に行動する様子をユーモラスに描くコージーミステリです。
周りの人たちからは軽んじられ、自己肯定感も低いベアトリスが、殺人事件に遭遇したことで、自分でも気づいていなかった気の強さと頭脳の鋭さに気づき、自立しようとする姿を描くビルドゥングス・ロマンでもあります。
さらに、最高位の爵位と莫大な財産を持ち、周りから媚びへつらわれることに慣れている公爵と
身分違いで地味な行き遅れ令嬢のベアトリスという全く正反対の2人が競い合いながら事件の真相を突き止めようとし、徐々にお互いを信頼するようになる様子を描く男女バディ小説でもあります。
中でも、自虐的な笑いを交えながらも尊大で上から目線の公爵と、身分の差を超越した辛辣な皮肉を交えて応酬するベアトリスとのやり取りは抱腹絶倒です。
2人の間に漂うロマンスの予感の行方も楽しみです。
巻末の翻訳の箸本すみれさんの「訳者あとがき」によるとこの作品はシリーズ化され、本国では既に10作目まで刊行されているとのことです。
続編の翻訳が待たれます。
表紙のイラストはイラストレーターの小倉マユコさんです。
本を持つベアトリスと椅子に座ってお茶を飲む公爵が描かれています。
小倉マユコさんの公式ウェブサイトはこちらです。→https://www.oguramayuko.com/
[2023年2月21日読了]