小説「夜の谷を行く」桐野夏生著 | さようならを言う前に

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好きな作家のひとり桐野夏生の小説「夜の谷を行く」
を読んで、今さらながら当時の一連の事件の
異様さというか狂気を思いだしています。
 
 
連合赤軍がひき起こした「あさま山荘」事件から
四十年余。

その直前、山岳地帯で行なわれた
「総括」と称する
内部メンバー同士での批判により、
妊娠中の女性を含む12名がリンチで死亡しました。
 
その死体を運んで埋めた一人、西田啓子の回想で
物語がすすみます。

後に西田啓子は君塚佐紀子とともに
「総括」から
逃げ出してきた一人でした。
しかし山を下りたところで捕まり懲役5年の刑
を受けています。

服役後は親戚からはつまはじきにされ、両親は
早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いを
しながら、一人で細々と暮している。

かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流は
あるが、佳絵には過去を告げていない。
 
そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治
から突然連絡がくる。

時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子
死刑囚が病死したというニュースが流れる。

過去と決別したはずだった啓子でしたが、佳絵の
結婚を機に自分は逮捕されたことがあるという
こと告げたことで、関係がぎくしゃくし始める。

さらには、結婚式をする予定のサイパンに、
過去に起こした罪でアメリカで逮捕される
可能性があり、行けないことが発覚する。

過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について
調べているライター・古市洋造から連絡があり、
啓子は過去と直面せずにはいられなくなる。

いま明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。
「総括」とは何だったのか。集った女たちが
夢見たものとは――。
 
永田洋子は皆から「フウセンババア」と呼ばれて
いたこと。
おだてるとどんどんその気になって上へと
登っていくからだという。
 
そうして男性たちから祭り上げられて、ついには
最高責任者にならざるを得なかったらしい。

そんな永田に気に入られていた啓子は何を思い、
何と戦っていたのか・・・。

一般人の我々にしてみたら狂気としか言えない
彼らの殺人行為に対して、いまだに啓子は
それほど悪いことをしたという感覚がないことに
驚きを感じてしまうのです・・・。

桐野夏生が挑む、「連合赤軍」の真実。
面白い本でした。