このブログは、「正しいピラティス」を伝えるためのものではありません。

私が20年以上ピラティスを学び、指導する中で見えてきたこと、感じてきたことを、一人の指導者として綴っています。

身体に絶対の正解はありません。だからこそ、問い続け、学び続けることを大切にしています。

 

腹圧は「入れる」ものなのか?

―ピラティスの動きと知識のあいだで―

最近、「腹圧」について、もう一度深く考えてみたいと思っています。

ピラティスでも、

「コアを使う」
「お腹を締める」
「腹圧を入れる」
「体幹を安定させる」

という言葉をよく使います。

では、そもそも腹圧をかけるとは、どういうことなのでしょうか。

 

私はこれまで、肋骨と骨盤の間にある体幹の不安定さを安定させ、その安定を土台として四肢を動かしやすくする。

そのために腹圧が働く、と考えてきました。

 

調べていくと、この考え方は大きく外れてはいないようです。

 

人が腕や脚を動かしたとき、身体にはその反作用が返ってきます。そのとき横隔膜や腹横筋などが活動し、腹腔内圧が上昇することが報告されています。さらに、その圧は四肢の動きによって生じる力に応じて変化します。つまり身体は、動作に必要な安定性に応じて腹腔内圧を調整していると考えられます。

ここで、とても大切だと思うことがあります。

 

腹圧は「強くかければいい」ものではない。

そして、おそらく、

「入れる・抜く」というスイッチのようなものでもない。

のだと思います。

腹圧は、動くための「安定」

横隔膜は呼吸をするための筋肉ですが、呼吸だけを担当しているわけではありません。

横隔膜、腹壁、背部の筋群、骨盤底などが協調しながら、腹腔内圧を含めた体幹の剛性を調整しています。横隔膜には、呼吸と姿勢制御という二つの働きがあることも研究されています。

 

たとえば、仰向けで片脚を持ち上げるとき。

重いものを持ち上げるとき。

リフォーマーでLong Stretchをするとき。

同じ腹圧が必要なはずはありません。

 

必要な力が違えば、必要な安定も違う。

 

つまり本来の身体は、

「今の動きに、どのくらいの安定が必要なのか」

を調整しているはずなのです。

 

私はここに、ピラティスの大切な部分があると思っています。

身体を固めてから動かすのではなく、

動くために必要な安定を作りながら動く。

これが腹圧の役割の一つなのではないでしょうか。

 

「お腹をへこませる」と腹圧は同じなのか

もう一つ、考えたいことがあります。

「お腹を薄くしてください」
「おへそを背骨に近づけて」
「もっとお腹を締めて」

ピラティスでは、こうしたキューイングを耳にすることがあります。

もちろん、それが必要な場面もあります。

 

しかし、

お腹をへこませることと、適切な腹腔内圧を作ることは、必ずしも同じではありません。

 

腹腔内圧は、一つの筋肉だけで作られるものではありません。

横隔膜と腹壁などの協調によって変化し、姿勢や呼吸、負荷によっても変わります。

 

だから「腹横筋を使えばいい」「お腹を締めればいい」と一つの筋肉、一つの動作だけに置き換えてしまうと、

本来もっと複雑な身体の働きを見失う可能性があります。

 

知っていることと、できていることは違う

ここが、私が最近一番考えているところです。

解剖学を勉強すると、

横隔膜。
腹横筋。
多裂筋。
骨盤底筋群。

という名前を知ります。

 

「これらが協調して体幹を安定させます」

という説明もできます。

 

でも、それを知っていることと、自分の身体の中で実際に起こせていることは、まったく別です。

 

むしろ知識が増えるほど、

「腹横筋を入れなければ」
「骨盤底を引き上げなければ」
「肋骨を締めなければ」

と、身体に指示を出し過ぎることもあります。

 

その結果、本来は自然に調整されるはずの身体を、自分で固めてしまうこともあるのではないでしょうか。

これはピラティスを教えている私たちにとって、とても重要な問題だと思います。

ピラティスの呼吸は腹圧を上げ過ぎるのか

「ピラティスは腹圧を高くするから良くない」という話を聞くこともあります。

 

しかし、ここも単純には言えません。

 

健康な女性を対象に、マットとリフォーマーの初級ピラティス中の腹腔内圧を測定した研究では、調べられたエクササイズの平均最大腹腔内圧は、立ち座り動作より有意に高くありませんでした。

ただし対象者やエクササイズが限定された研究なので、すべてのピラティスに当てはめることはできません。

 

つまり、

ピラティスだから腹圧が高い。
腹圧が高いから悪い。

というほど単純ではないのでしょう。

大切なのは、何をしているかより、

その人が、その運動を「どうしているか」。

なのだと思います。

身体は、教科書通りには動かない

私は長く身体を見てきて、いつも感じることがあります。

同じエクササイズをしていても、人によって身体の使い方は全く違います。

同じように見えるHundredでも、

呼吸が自由な人。
肩や首を固めている人。
腹部を強く引き込んでいる人。
息を止めている人。

それぞれです。

だから、エクササイズ名だけを見て、

「これは腹圧が高い」
「これはコアに効く」

とは、本当は言い切れないのではないでしょうか。

エクササイズを見るのではなく、その人の身体の中で何が起きているかを見る。

そこが指導なのだと思います。

 

知識を身体に戻す

解剖学を学ぶことは、とても大切です。

研究を読むことも必要です。

でも、それだけでは身体は分かりません。

自分で動いてみる。

呼吸してみる。

力を入れてみる。

逆に少し力を抜いてみる。

脚を動かしたとき、体幹はどう反応するのか。

腕を遠くへ伸ばしたとき、身体のどこが支えようとするのか。

呼吸を止めたときと、呼吸を続けたときで、何が違うのか。

そうやって、自分の身体の中で確かめる。

そして、その経験と解剖学や研究の知識を行ったり来たりする。

私は、それが「身体を学ぶ」ということなのだと思います。

腹圧も同じです。

腹圧を「入れる方法」を覚えることより、

身体がなぜ腹圧を必要とするのか。
いつ必要なのか。
どのくらい必要なのか。
そして、必要がなくなったら緩めることができるのか。

そこまで感じ取れる身体を作ること。

ピラティスが目指しているのは、強く固められた体幹ではなく、

必要なときに安定し、必要なときに動ける身体。

なのではないか。

 

腹圧を入れると言っても、同じではなく、その時々によっても変わるし、その感覚は人それぞれ

だからこそ、その安定性に目を向け、少しの可動を許し、安定性を引き出すことが私たちの指導になるのではないかと思います。

 

 

身体に絶対の正解はありません。

今日の内容も、現場で学び続ける私自身の一つの視点です。

「ピラティスは、するものではなく、生きるもの。」

 

 

「ピラティスは、動きを学ぶことではない。身体との対話を育てることである。」