このブログは、「正しいピラティス」を伝えるためのものではありません。

 

私が20年以上ピラティスを学び、指導する中で見えてきたこと、感じてきたことを、一人の指導者として綴っています。

身体に絶対の正解はありません。だからこそ、問い続け、学び続けることを大切にしています。

 

ジョセフ・ピラティスが本当に大切にしていたもの

――背骨とPowerhouseから考える「身体の中心」

ピラティスを学んでいると、「背骨を動かしましょう」「Powerhouseを使いましょう」「Centerから動きましょう」という言葉をよく耳にします。

では、そもそもジョセフ・ピラティスは、身体の何を大切にしていたのでしょうか。

 

少し調べてみると、現在私たちが当たり前のように使っている言葉と、ジョセフ本人が実際に残した言葉には、少し違いがあることが分かります。

そして、その違いを知ることで、ピラティスというメソッドがもっと面白く見えてきます。

 

 

ジョセフが非常に重要視していた「背骨」

ジョセフ・ピラティスは1945年に出版した『Return to Life Through Contrology』の中で、

背骨について非常に強い言葉を残しています。

 

「30歳でも背骨が硬ければ老いている。60歳でも背骨が十分に柔軟なら若い」

 

という趣旨の有名な文章です。

 

彼は年齢を単なる数字ではなく、背骨が自然で正常な柔軟性をどれだけ保っているかによって捉えていました。

実際、『Return to Life Through Contrology』には、姿勢、身体の使い方、呼吸、背骨の柔軟性などについてかなり詳しく書かれています。

ですから、

「ジョセフ・ピラティスは背骨を非常に重要視していた」

これは間違いないと思います。

 

ただし、だからといって「背骨だけを柔らかくすればよい」という話ではありません。

ジョセフが目指したContrologyは、身体の一部分だけを鍛えるものではなく、身体全体を自分の意思でコントロールし、バランスよく発達させることでした。

ここからPowerhouseの考え方につながっていきます。

Powerhouseとは何なのか?

クラシカルピラティスを学ぶと、必ずと言っていいほど「Powerhouse」という言葉が出てきます。

私は以前から、Powerhouseを単純に「腹筋」と捉えることには少し違和感がありました。

調べていくと、その理由が分かります。

 

2004年に『Journal of Bodywork and Movement Therapies』に掲載された論文では、

PilatesのCenter、つまり身体の中心をPowerhouseとして説明しています。

 

一方で同論文には、ジョセフ自身はPowerhouseの正確な範囲を文章として残しておらず、後の指導者の間でも定義には完全な一致がないとも記されています。

 

つまり、

「ここからここまでの筋肉がPowerhouseです」

という明確な解剖学的定義をジョセフが残したわけではありません。

 

ここは意外に重要なところです。

現在では「Powerhouse=core」と説明されることも多く、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋、横隔膜などの働きと関連づけて説明されます。

 

それは現代の運動学としてPowerhouseを理解する一つの方法です。実際、Powerhouseとcore stabilizationとの関係を検討した研究もあります。

しかし、それだけでは少し狭いように思います。

 

Romanaが伝えたPowerhouse

ジョセフから直接学び、その後メソッドを伝えていったRomana Kryzanowskaは、Powerhouseを非常に重視しました。

2004年のTIMEのインタビューでは、Powerhouseについて腹部・臀部・腰部などを含む領域として紹介され、Pilatesの動きの起点となる場所として説明されています。

 

さらにRomanaから学んだAlycea Ungaroは、RomanaがPilatesを、

“movement flowing out from a strong center”

 

つまり、

「強い中心から流れ出る動き」

と表現していたと紹介しています。

 

私は、この言葉がPowerhouseを理解するうえで、とても重要だと思います。

Powerhouseとは単に、

「お腹を締める場所」

ではない。

身体の動きがそこから始まり、そこから全身へとつながっていくCenter。

そう考えると、クラシカルピラティスの動きがとても理解しやすくなります。

 

「背骨」と「Powerhouse」は別々ではない

ここで最初の背骨の話に戻ります。

「ジョセフは背骨を重要視したのか」

それとも、

「Powerhouseを重要視したのか」

私は、どちらかではないと思っています。

 

むしろ両方がつながっています。

 

私なりに整理すると、

Powerhouseは、動きを生み出し、コントロールする中心。


背骨は、その中心から生まれた動きを伝えながら動く身体の軸。


そして腕や脚は、そこから外へと広がっていく。

 

そんな関係なのではないでしょうか。

これはジョセフ本人がこのように文章で定義したという意味ではなく、彼のContrologyの思想と、その後伝承されたPowerhouseの考え方を私なりに整理したものです。

ですが、実際のエクササイズを考えると、とても腑に落ちます。

 

たとえばLeg Circle。

脚を大きく回すことだけが目的ではありません。

身体の中心とのつながりを失わず、骨盤や背骨をコントロールしながら、股関節から脚を自由に動かしていく。

Roll Upも同じです。

単に「腹筋運動」と考えてしまえば、腹筋を使って起き上がれば終わりです。

しかしPowerhouseから動きが始まり、背骨が順序よく動き、腕や脚を含めて全身が協調していくと考えると、まったく違うエクササイズになります。

HundredもTeaserもReformerのFootworkも同じです。

何を動かしているかだけではなく、「どこから動いているのか」。

ここにPowerhouseという考え方の大切さがあるのではないでしょうか。

Powerhouseは「固める」ことではない

そして、私はここを指導する際にとても大切にしたいと思っています。

Centerを使うことと、身体を固めることは同じではありません。

背骨を守ろうとして体幹をずっと硬く固定してしまえば、今度はジョセフが大切にした「背骨の自由な動き」が失われてしまいます。

だから、

中心は働いている。
でも、背骨は必要に応じて動ける。
そして四肢は自由に動く。

この関係を作っていくことが、ピラティスなのではないかと思います。

安定か、可動性か。

腹筋か、背筋か。

クラシカルか、コンテンポラリーか。

どちらか一つを選ぶのではなく、全身がどうつながって働いているのかを見る。

ジョセフが目指したContrologyも、本来はそのような「全身の統合」を目指したものだったのではないでしょうか。

昔の言葉を、そのまま信じるのではなく

今回調べてみて、もう一つ改めて感じたことがあります。

私たちは現在、

「Powerhouse」
「Centering」
「Core」
「Stability」

といった言葉を当たり前のように使っています。

でも、その言葉が、

ジョセフ本人が実際に書いたものなのか。
その後の指導者が体系化したものなのか。
現代の解剖学・運動学によって説明されるようになったものなのか。

一度分けて考えてみる必要があります。

 

昔から言われているから正しい、でもなく、現代科学だけが正しい、でもない。

 

ジョセフが何を目指していたのかを知り、先人たちがどう受け継いできたのかを知り、さらに今の身体科学と照らし合わせる。

そのうえで、目の前のお客様の身体にどう生かすのか。

 

そこまで考えることが、ピラティスを「学ぶ」ということなのではないかと思います。

私はこれからも、エクササイズの形を覚えるだけではなく、

なぜ、このエクササイズをするのか。
なぜ、この器具を使うのか。
身体の中では何が起きているのか。

そんなことを考えながら、ピラティスを学び続けていきたいと思います。

 

参考文献・出典

  • Joseph H. Pilates, William John Miller
    Return to Life Through Contrology
    J.J. Augustin, 1945.
    ジョセフ・ピラティス本人の思想、Contrology、姿勢・呼吸・背骨の柔軟性などを確認するための一次資料。初版は1945年です。
  • Joseph E. Muscolino, Simona Cipriani
    “Pilates and the ‘powerhouse’—I”
    Journal of Bodywork and Movement Therapies, Vol.8, Issue 1, 2004, pp.15–24.
    Powerhouse、Centering、Core Stabilizationなどについて、生体力学的視点から検討した論文。
  • Joseph E. Muscolino, Simona Cipriani
    “Pilates and the ‘powerhouse’—II”
    Journal of Bodywork and Movement Therapies, Vol.8, Issue 2, 2004, pp.122–130.
    PowerhouseとCore Stabilizationの関係をさらに考察した続編。
  • TIME
    “Still Swinging”
    July 19, 2004.
    Joseph Pilatesから直接学んだRomana Kryzanowskaの指導やPowerhouseに関する考えを知るための資料。
  • Alycea Ungaro
    “Pilates 101 with Alycea – The Powerhouse”
    Pilates Intel, 2014.
    Romana Kryzanowskaから学んだAlycea UngaroによるPowerhouseについての解説。「movement flowing out from a strong center」というRomanaの教えが紹介されています。

本文についての補足

今回の記事では、Joseph Pilates本人が残した記述、Romanaらによって伝承された考え、後世の研究による解釈、そして私自身の指導者としての考察を区別しながらまとめています。

特に「Powerhouse」の定義については、資料によって説明に違いがあるため、単一の定義を「Joseph本人の定義」として断定しないようにしています。

 

 

身体に絶対の正解はありません。

今日の内容も、現場で学び続ける私自身の一つの視点です。

「ピラティスは、するものではなく、生きるもの。」

 

 

「ピラティスは、動きを学ぶことではない。身体との対話を育てることである。」