このブログは、「正しいピラティス」を伝えるためのものではありません。
私が20年以上ピラティスを学び、指導する中で見えてきたこと、感じてきたことを、一人の指導者として綴っています。
身体に絶対の正解はありません。だからこそ、問い続け、学び続けることを大切にしています。
足裏のアーチは「持ち上げる」のではなく、機能させる
― ピラティス指導者が知っておきたい足部の機能とFoot Corrector
ピラティスを指導していると、
「膝が内側に入る」
「股関節がうまく使えない」
「片脚になると急に不安定になる」
「リフォーマーのFootworkで左右差が大きい」
「立っていると足の内側に体重が落ちる」
そんなクライアントに出会うことがあります。
そのとき私たちは、膝、股関節、骨盤、体幹へ目を向けます。
もちろん、それらを見ることはとても大切です。
しかし、もう一つ忘れてはいけないのが足部(foot)です。
立位では、足は身体と床との接点になります。
つまり、床反力を最初に受け取り、また身体から生まれた力を床へ伝える場所でもあります。
その足部が十分に機能していなければ、その影響は足だけでは終わりません。
足関節、下腿、膝、股関節、骨盤へと連鎖していく可能性があります。
だから私は、ピラティス指導者にとって「足を見る」ということは非常に重要だと思っています。
そして、その足について考えるときに欠かせないのが足部のアーチです。
足のアーチは「土踏まず」だけではない
「足のアーチ」と聞くと、多くの方は足の内側にある土踏まずを想像すると思います。
しかし、足部のアーチは一つではありません。
大きく分けると、
内側縦アーチ
外側縦アーチ
横アーチ
という構造があります。
内側縦アーチは踵骨、距骨、舟状骨、楔状骨、第1〜3中足骨などから構成され、比較的高さがあり、弾性のあるアーチです。
外側縦アーチは踵骨、立方骨、第4・5中足骨などから構成され、内側縦アーチより低く、床との安定した接触に関わります。
そして横アーチは、足部を横方向から支える構造です。
これらは独立しているわけではなく、立体的に連携しながら足部全体を形成しています。
つまり足は、平らな一枚の板ではありません。
複数の骨が関節を形成し、それを靭帯、足底腱膜、腱、筋肉などが支えながら、荷重に応じて形を変える非常に複雑な構造です。
アーチは「崩れてはいけない」のではない
ここは指導するときに、とても大切なところだと思います。
私たちはつい、
「アーチを落とさないで」
「土踏まずを持ち上げて」
と言ってしまいます。
もちろん、過剰にアーチが崩れている場合には、それを修正する必要があるかもしれません。
しかし、本来の足部は、荷重したときにもまったく形を変えない構造ではありません。
歩行を考えてみましょう。
足が床に接地すると、足部は床面や荷重に適応するため、ある程度柔軟に変化します。
そして身体が前へ進み、蹴り出しへ向かうにつれて、今度は足部がより安定した構造となり、力を床へ伝える必要があります。
つまり足には、
柔らかくなる能力と、硬くなる能力の両方
が必要なのです。
私はこれを、
「動けること」と「支えられること」の両立
と考えています。
これはピラティスで身体を見るときにも非常に重要な考え方です。
脊柱も同じです。
「安定させる」といって脊柱をずっと固めてしまえば、本来必要な分節的な動きは失われます。
逆に動くだけでコントロールがなければ、安定した運動にはなりません。
足部も同じです。
アーチは固定するものではなく、動きながら機能するものなのです。
アーチを支える筋肉
では、そのアーチを支えているものは何でしょうか。
骨の形そのもの、靭帯、足底腱膜などの受動的な構造に加えて、多くの筋肉が関係しています。
代表的なものを少し見てみます。
後脛骨筋
後脛骨筋は、内側縦アーチの支持を考えるうえで非常に重要な筋肉の一つです。
下腿後面から内果の後方を通り、舟状骨を中心として足根部へ広く付着します。
荷重下では、足部が過剰に内側へ崩れることをコントロールする働きに関与します。
しかし、だからといって「後脛骨筋を鍛えればアーチができる」と単純に考えるべきではありません。
実際の立位や歩行では、一つの筋肉だけで足部を支えているわけではないからです。
長腓骨筋
私は足部を見るとき、長腓骨筋もとても興味深い筋肉だと思っています。
長腓骨筋の腱は外果の後方から足底へ回り込み、第1中足骨底・内側楔状骨付近へ向かいます。
つまり外側から始まり、足底を横切って内側へつながっています。
その走行を考えると、足部の外側と内側をつなぎ、特に第1列の安定や横方向の支持にも関与していることがわかります。
後脛骨筋と長腓骨筋は、それぞれ異なる方向から足部へ作用します。
このように、足部では複数の筋が協調しながら、荷重に対して足を安定させています。
長母趾屈筋・長趾屈筋
長母趾屈筋や長趾屈筋も、単純に「足趾を曲げる筋肉」と考えるだけでは十分ではありません。
これらの腱は足関節を越え、足底へ入り、足趾へ向かいます。
そのため足趾の運動だけでなく、荷重時の足部の支持にも関与します。
特に母趾は、歩行や立位での荷重、そして蹴り出しにおいて重要な役割を持っています。
足部内在筋
そして忘れてはいけないのが**足部内在筋(intrinsic foot muscles)**です。
これらは足部の中で起始し、足部の中で停止する小さな筋群です。
母趾外転筋、短趾屈筋、小趾外転筋、骨間筋、虫様筋など、多くの筋肉があります。
大きな力を生み出すというよりも、荷重に応じて足部の形を細かく調整し、足趾やアーチをコントロールする役割を担っています。
つまりアーチを考えるときには、
外在筋と内在筋、そして受動的な組織が協調している
という視点が必要です。
「足趾を握ること」と「アーチを支えること」は違う
ここもピラティス指導ではよく見かけるところです。
足裏を使ってもらおうとすると、クライアントが足趾を強く丸めてしまうことがあります。
一見すると足裏に力が入り、アーチが高くなったように見えます。
しかし、
足趾を握ること=機能的なアーチを作ること
ではありません。
むしろ足趾を過剰に握ることで、足底全体で床を感じる能力が低下したり、前足部の荷重が変化したりする場合があります。
私が見たいのは、
「どれだけ強く足趾を曲げられるか」
ではなく、
足趾を必要以上に固めず、踵・前足部・足趾を通して床からの情報を受け取りながら、足部全体をコントロールできているか
というところです。
母趾はなぜ重要なのか ― Windlass mechanism
足部の機能を理解するときに、もう一つ知っておきたいのが**Windlass mechanism(ウインドラス機構)**です。
歩行の後半、踵が床から離れ、母趾が背屈していくと、足底腱膜に張力が生まれます。
その結果、踵骨と前足部との距離が変化し、内側縦アーチが高まり、足部がより剛性のある構造へ移行します。
つまり足は、
接地するときには床へ適応し、
蹴り出すときには力を伝えやすい構造へ変わっていく。
その切り替えに、母趾、足底腱膜、アーチの関係が重要になります。
ですからピラティスでも、
「母趾球を押してください」
だけではなく、
母趾がどのように床と接触し、その力がアーチや踵までどうつながっているか
を見る必要があります。
足関節が動くことと、足部が崩れることを区別する
例えば、クライアントに足関節背屈をしてもらったとします。
膝が前へ進んだので、
「足首がよく動いていますね」
と判断してしまうことがあります。
しかし、本当に距腿関節を中心とした背屈が起こっているでしょうか。
場合によっては、
足部が過剰に内側へ倒れ、
踵の位置が変化し、
中足部が崩れ、
前足部がずれることで、
見かけ上の可動域を作っている可能性があります。
つまり、
可動域があることと、良い動きができていることは同じではありません。
これは足部に限らず、ピラティス全体に共通することです。
「動いたか」ではなく、
どこが、どのように動いたのか。
そこを見るのが指導者の役割だと思います。
ここでFoot Correctorが面白くなる
ここまで足部について考えてからFoot Correctorを見ると、この小さな器具の意味が少し変わって見えてきます。
Foot Correctorは非常にシンプルな器具です。
スプリングによって抵抗がかかったプレートを、足底で押していきます。
ところが、このプレートは完全に固定された床ではありません。
だからこそ面白いのです。
ただ下方向へ力を出せばよいわけではありません。
力の方向がずれると、
プレートが横へ逃げる、
足部が内側または外側へ崩れる、
踵の位置が変わる、
足趾を握る、
母趾側だけで押す、
小趾側が浮く、
といったことが起こります。
床の上ではごまかせていたことが、不安定なプレートの上では見えてくることがあります。
つまりFoot Correctorは、
「足裏を強くする器具」だけではありません。
足部に力が加わったとき、
その力をどの方向へ伝えるのか、そして足部の配列を保ちながら足関節をどう動かすのか
を学習する器具として考えることができます。
Foot Correctorで「アーチを取り戻す」とは
私はFoot Correctorについて、
「アーチを取り戻す」
という言葉を使うことがあります。
ただし、それは単純に「土踏まずを高くする」という意味ではありません。
私が考える「アーチを取り戻す」とは、
荷重を受け入れることができる。
必要に応じて足部が変形できる。
しかし過剰には崩れない。
そこから再び安定できる。
そして力を次の関節へ伝えられる。
そんな機能としてのアーチを取り戻すことです。
ですから、扁平足の人だけが対象というわけではありません。
アーチが高い足、いわゆるハイアーチでも、足部の可動性が少なく、床へ適応できないことがあります。
見た目にきれいなアーチがあるから、機能的な足とは限りません。
反対に、荷重したときにアーチがある程度低下していても、その後に再び剛性を高められるのであれば、それは必要な適応かもしれません。
形ではなく機能を見る。
これはピラティス指導でも、とても大切な視点だと思います。
Foot CorrectorからReformerのFootworkへ
そしてFoot Correctorで学んだことは、Foot Correctorだけで終わりません。
例えばReformerのFootwork。
一見すると、
膝と股関節の屈曲・伸展運動
のように見えます。
でも、フットバーに接触している足を見ると、とても多くの情報があります。
踵は安定しているか。
母趾球と小趾球はどう接触しているか。
足趾を握っていないか。
足関節が動くときに足部が横へ逃げていないか。
膝の方向と足部の方向はどう関係しているか。
左右の足底圧は同じか。
足部から始まった力が、膝、股関節、骨盤へどう伝わっているか。
ここまで見ると、Footworkは単なる脚のエクササイズではなくなります。
Foot Correctorで細かく学習した足部のコントロールを、Reformerというより大きな運動へ統合していくことができます。
足部から膝・股関節を見る
足部の動きは、下腿の回旋とも関連しています。
そのため、足部の過剰な動きが起こると、その影響が膝、さらに股関節へ伝わる可能性があります。
例えばスクワットで膝が内側へ入る人を見たとき、
「お尻の筋肉が弱い」
だけで説明してしまうことがあります。
もちろん股関節外転筋や外旋筋の機能は重要です。
しかし同時に、
足部が床に対してどう接触しているのか、
踵はどこにあるのか、
母趾側と小趾側の荷重はどうなっているのか、
足関節背屈をどこで作っているのか、
を見る必要があります。
膝だけを外へ押しても変わらなかった人が、足部の接触を変えただけで動きやすくなる。
ピラティスの現場でも、そんなことがあります。
身体は部分ではなく、連鎖して動いているからです。
「足を直す」のではなく、全身の中で足を見る
ただし、ここでも注意したいことがあります。
「膝が内側へ入るのは足が悪い」
という話ではありません。
原因は一つではありません。
股関節の機能かもしれません。
足関節の可動性かもしれません。
体幹のコントロールかもしれません。
あるいは、その人が長年使ってきた運動戦略そのものかもしれません。
だからこそ私たち指導者は、
一部分を見ながら、常に全身との関係を考える必要があります。
Foot Correctorで足部に変化を与えたあと、立位に戻ってみる。
歩いてみる。
スクワットをしてみる。
ReformerのFootworkへ戻ってみる。
すると、
「さっきより床を感じる」
「立ちやすい」
「膝が自然に前へ出る」
「股関節が使いやすい」
と感じることがあります。
ここまで確認して初めて、Foot Correctorで行ったことが全身の運動へつながってきます。
小さな器具だからこそ見えること
ピラティスにはReformer、Cadillacといった大きな器具があります。
それに比べると、
Foot Corrector
Toe Corrector
Pedi Pole
Breath-A-Cizer
などは、とても小さな器具です。
でも私は学べば学ぶほど、
小さなアパラタスほど身体の「ごまかし」を見つけやすい
と感じることがあります。
大きな運動の中では見過ごしていた小さな左右差や、力の方向、代償。
それを一度小さな条件の中で取り出して観察する。
そして、そこで得られた感覚やコントロールを、再び全身運動へ戻していく。
これはピラティスの非常に面白いところではないでしょうか。
Foot Correctorで足を見る。
Reformerで脚全体につなげる。
立位で全身につなげる。
歩行へ戻す。
そう考えると、Foot Correctorは決して「足裏を鍛えるためだけの小さな器具」ではありません。
足は身体の土台。でも「固い土台」ではない
「足は身体の土台」とよく言われます。
確かにそうだと思います。
ただ私は、
土台=動かないもの
と考えない方がいいと思っています。
人間の足は、建物の基礎とは違います。
歩き、走り、方向を変え、傾斜に対応し、片脚になり、また両脚に戻る。
そのたびに足部は環境へ適応しています。
つまり私たちに必要なのは、
強く固めた足ではなく、環境に適応しながら必要な瞬間に安定できる足。
そして、そのためには筋力だけでなく、
感覚、
可動性、
筋の協調、
荷重への適応、
力の方向をコントロールする能力、
すべてが必要になります。
だからこそ、私はFoot Correctorを行います。
アーチを「作る」ためだけではありません。
足部が荷重を受け取り、必要に応じて形を変え、再び安定し、その力を上へ伝えられるようにする。
アーチを取り戻すということは、足の形を取り戻すことではなく、足の機能を取り戻すこと。
そして、その足から膝、股関節、骨盤、脊柱へと動きをつなげていく。
Foot Correctorという小さなアパラタスから見えてくるのは、実は「足」だけではありません。
足から全身を見ること。
それもまた、ピラティス指導の奥深さの一つなのだと思います。
身体に絶対の正解はありません。
今日の内容も、現場で学び続ける私自身の一つの視点です。
「ピラティスは、するものではなく、生きるもの。」
「ピラティスは、動きを学ぶことではない。身体との対話を育てることである。」
