このブログは、「正しいピラティス」を伝えるためのものではありません。
私が20年以上ピラティスを学び、指導する中で見えてきたこと、感じてきたことを、一人の指導者として綴っています。
身体に絶対の正解はありません。だからこそ、問い続け、学び続けることを大切にしています。
人は、なぜ動きを変えられないのか。― 運動学習から考えるピラティス指導 ―
インストラクターを養成していると、いつも感じることがあります。
「理解していること」と「できること」は、まったく別だということです。
例えば養成コースでは、
「チャートの順番を守りましょう。」
「『〜しながら』という曖昧なキューイングは減らしましょう。」
「『コアを使って』『骨盤底筋を引き上げて』という抽象的な表現だけで終わらず、お客様が実際に身体を変えられる言葉を選びましょう。」
そう伝えると、多くの受講生は理解し、納得します。
しかし、模擬レッスンが始まると、以前と同じ順番でエクササイズを組み立て、以前と同じ言葉を繰り返しています。
私は以前、この現象を「理解不足」や「練習不足」と考えていました。
しかし現在は、運動学習という視点から見ると、ごく自然な反応なのだと考えています。
私たちは「知識」で動いているのではなく、「運動プログラム」で動いている
人間の動作の多くは、自動化されています。
立つ、歩く、呼吸する、話す、キューイングをする。
これらは毎回考えて行っているわけではなく、長年繰り返してきた結果として形成された運動プログラムによって実行されています。
つまり、レッスン中に出てくる言葉も、エクササイズの選択も、一種の運動パターンなのです。
だから知識を学んでも、その瞬間に運動プログラムが書き換わるわけではありません。
知識は大脳皮質で理解できます。
しかし、実際の運動として再現されるには、何度も実践し、新しい神経回路として定着させる必要があります。
私自身も、同じでした
子育て中、私は常に右腰へ子どもを乗せて生活していました。
何年もの間、その姿勢を繰り返してきた結果、現在でも立位になると無意識に右腰へ荷重し、右側で身体を支えようとします。
「左右均等に立とう。」
そう意識しても、身体は以前の運動プログラムを選択します。
これは筋力だけの問題ではありません。
感覚入力、姿勢制御、荷重戦略、筋活動のタイミングまで含めて、中枢神経系が「これが効率的な方法」と学習してしまっているからです。
このような現象は、お客様にも、養成生にも日常的に起こっています。
ピラティス指導で最初に行うべきことは
「修正」ではなく「気づき」である
ここで重要なのは、「正しい動きを教えること」ではありません。
まず必要なのは、自分自身の運動パターンを認識することです。
・また右腰へ乗っている。
・また肩をすくめている。
・また胸郭を固定している。
・また同じキューイングを使っている。
この「気づき」が生まれて初めて、運動学習は始まります。
認識されていない運動は、修正することができません。
だから観察力とは、お客様を見る能力だけではなく、自分自身を観察する能力でもあります。
完璧を目指すことは、運動学習を妨げる
養成生を見ていると、
「全部直そう。」
「毎回完璧にやろう。」
としてしまう方がいます。
しかし、神経系はそのようには学習しません。
私は受講生によく、
「今日は5回に1回できれば十分ですよ。」
と伝えます。
レッスンを始める前に、
「今日はチャートだけを意識しよう。」
「今日はキューイングだけを意識しよう。」
そのように課題を一つに絞ることで、注意の質が変わります。
その小さな成功体験を何度も繰り返すことで、新しい運動プログラムが形成されていきます。
最初に何を学ぶかが、その後を決める
もう一つ重要だと感じていることがあります。
それは、最初の学習経験です。
初めてエクササイズを学ぶ時、
「なぜこの順番なのか。」
「なぜこの呼吸なのか。」
「何を評価し、何を変えようとしているのか。」
この目的が理解できないまま形だけを覚えると、その形だけが運動プログラムとして定着してしまいます。
逆に、目的・評価・運動戦略を理解した上で身体を動かすと、同じエクササイズでも全く違う学習になります。
だから私は、養成コースでも、お客様へのレッスンでも、「形を教えること」よりも「考え方を育てること」を大切にしています。
そして、お客様が最初にピラティスに出会う、私たちの役割はとても大きなことなのです。
ピラティスとは、神経系の再教育である
私は、ピラティスは単なる筋力トレーニングではないと考えています。
身体に負荷をかけることが目的ではなく、
長年築かれた運動プログラムを見直し、より効率的で適応性の高い運動戦略へ再構築していく過程です。
だから変化には時間がかかります。
一度できたから身についたわけではありません。
何度も気づき、何度も試し、何度も失敗し、その経験を積み重ねることで神経系は少しずつ書き換わっていきます。
私たちインストラクターに求められるのは、「正しい答えを教える人」ではありません。
お客様や養成生が、自分自身の運動を観察し、気づき、新しい選択を繰り返せるような学習環境をつくることです。
それこそが、ピラティスが本来持っている「身体を教育する」という価値であり、インストラクターが担う最も重要な役割なのではないでしょうか。
身体に絶対の正解はありません。
今日の内容も、現場で学び続ける私自身の一つの視点です。
「ピラティスは、するものではなく、生きるもの。」
「ピラティスは、動きを学ぶことではない。身体との対話を育てることである。」

