このブログは、「正しいピラティス」を伝えるためのものではありません。
私が20年以上ピラティスを学び、指導する中で見えてきたこと、感じてきたことを、一人の指導者として綴っています。
身体に絶対の正解はありません。だからこそ、問い続け、学び続けることを大切にしています。
レッスンを見学していると、私もそうですがよく聞こえる言葉のキューイング。
「腹筋を使ってください。」
「肩甲骨を寄せてください。」
「骨盤をニュートラルにしてください。」
そうそう、確かに。
もちろん、どれも間違いではありません。
しかし、私は最近、こう思うことが増えました。
本当に身体は、その部分だけで動いているのでしょうか。
私たちが身体を動かすとき、脳は筋肉一つひとつに命令を出しているわけではありません。
脳は「歩く」「立つ」「手を伸ばす」といった**目的のある動作(Task)**を実現するために、多くの筋肉や関節を同時に協調させています。
これは運動制御学(Motor Control)の基本的な考え方です。
つまり、
「腹筋を動かす」
ではなく、
「全身を協調させて姿勢を保つ」
ということなのです。
だから身体は、部分だけでは動きません。
例えば、リフォーマーでフットワークをしている場面。
膝が内側に入る。
多くの人は、
「膝をもっと外へ向けてください。」
と指導します。
もちろん必要な場面もあります。
しかし、その前に考えたいことがあります。
足部は安定しているだろうか。
母趾球は荷重できているだろうか。
骨盤は左右均等に乗っているだろうか。
胸郭は偏っていないだろうか。
呼吸によって体幹の支持は得られているだろうか。
どこか一つでも条件が崩れれば、膝は結果として内側へ入りやすくなります。
つまり、
膝だけの問題ではない
ということです。
この考え方は、運動連鎖(Kinetic Chain)の概念でも説明されています。
人の身体は閉鎖運動連鎖・開放運動連鎖を繰り返しながら力を伝達しています。
一つの関節で生じた力は、隣接する関節だけでなく、全身へ伝わります。
だから、
足部の機能低下が膝痛につながり、
股関節の可動域制限が腰痛につながり、
胸椎の硬さが肩関節障害につながる。
これは臨床でも数多く報告されていることです。
さらに近年は、筋膜(Fascia)の研究も進んでいます。
Thomas Myersの『Anatomy Trains』では
、筋肉は単独ではなく、筋膜を介して身体全体が連結していることが示されています。
もちろん、この理論には議論もあります。
しかし、
「身体は連続体として働く」
という考え方は、多くの臨床家が日々実感していることでしょう。
例えば、
ハムストリングスをリリースしたら肩が軽くなった。
足底を整えたら骨盤が安定した。
胸郭の動きを改善したら股関節が動き始めた。
こうした経験は、一度や二度ではないはずです。
ピラティスが素晴らしいのは、まさにここです。
一つの筋肉を鍛えることが目的ではありません。
全身が協調し、
適切なタイミングで、
必要な力を、
必要なだけ使える身体を育てる。
ジョセフ・ピラティスが目指した「Contrology」とは、ただ単なる筋トレではなく、
身体全体をコントロールする能力だったのだと思います。
だから私は、
エクササイズを教える前に、
「何が動いていないのか」
ではなく、
「何と何のつながりが失われているのか」
を観察したいと思っています。
部分を見ることは大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、
全体の中でその部分がどんな役割を果たしているのか。
この視点を持つだけで、エクササイズの選択も、キューイングも、ハンズオンも、大きく変わってきます。
身体は部分の集まりではありません。
身体は、一つのシステムです。
だからこそ、私たちインストラクターも、「部分を教える人」ではなく、「全身をつなぐ人」でありたいと、私は考えています。
身体に絶対の正解はありません。
今日の内容も、現場で学び続ける私自身の一つの視点です。
「ピラティスは、するものではなく、生きるもの。」
「ピラティスは、動きを学ぶことではない。身体との対話を育てることである。」


