夏ということなので、怪談を投稿します。
※ これは2012年02月08日にアップしたアメブロ日記を
再度編集したものです。
心優しい幽霊との触れ合いなんかも時々あります。
その中の一つ、
実際に僕が体験した、
こんな話があります。
今から20年前、
僕は自動車整備士でした。
それで札幌市豊平区月寒にあった、
ヤマカミっていう整備工場の二階に、一人で住んでたんです。
僕が勤めていた整備工場跡は現在も未だ残っていて、
僕が勤めていた頃とは別の会社が使っています。
住居部分は、今はもう取り壊されて無くなりましたが、
僕が住み始めた20年ほど前は、
建物の住居部分が、当時既に築40年経っており、
木製の窓枠は立て付けが悪く、
吹雪の日なんかは隙間風に乗って雪が舞い込んで来るので、
ちょっと油断していると部屋の隅に結構ビックリする量の雪が積もっている事なんかもしばしばでした。
時には、部屋の中で雪掻きした事もある程です。
そんな寒~いお正月に、
僕は相当キツい風邪をひいて寝込んでしまいました。
正月なので工場に出勤して来る人は居ないワケで、
高熱にうなされて、自炊したり買い物に出掛ける元気も無く、
外は吹雪いて居る。
そんな訳で、安静にじっと寝ているしか有りませんでした。
本当に心細かった。
そんなある時の事です。
夜中、物音に眼を覚ますと…
大好きな彼女が、
料理を作ってくれてるんです。
僕は布団の中で時々眼を開けて、
愛おしげに彼女が台所に立つ後姿を眺めていました。
鶏肉と野菜の中華炒めとか、
シチューとかそんな感じのメニューが何品かあったと思います。
料理を作って器に盛り付け終わると、
彼女は、まるでいつも当たり前にそうしてくれているかの様に、
『 私、今日はもう帰らなきゃ。』
そう言って、僕の傍に来てニコッと微笑みながら
『今夜は、もう帰るね。』 と言って帰って行った。
僕は、『ありがとう。』と言って
『じゃあね。』と、手を振った。
少し寂しかったけど、
僕はベッドで布団に包まったまま、
温かい料理が美しく盛り付けられた食器が、
綺麗に並んだテーブルを引き寄せながら、
目で彼女を見送った。
『食べ終わったらストーブに当たって暖かくしてゆっくり休んでね。 』
と言って部屋から出ると、工場へと続く階段を降りて行った。
その夜は、やっと食事に有りつく事が出来て、
彼女が言った様に体を温めて、
良く眠った。
翌朝、眼を覚ますと…
幾分 体調が良くなっている。
昨日の夜、彼女が来てくれたお陰だな。
…
…え?
僕って…
彼女、居たっけ?
…
でも来てくれた彼女…
確かに知ってる。
う~ん、
誰だったっけ?
確かに、
彼女が作ってくれた食事を僕が食べた痕跡は…
そのままテーブルの上に残って居る。
…
あれぇ~?
誰だろう。
自分で寝ぼけて作ったかなぁ…
ただ、当時の僕は
料理をするといっても、
せいぜい肉しか入ってないカレーライスとか、味噌汁や麺類だけで、
中華炒めなど作った事もないし、
作り方だって知らない。
冷蔵庫の中だってカラッポで、
材料すらないのだ。
それにしても、
夕べ確かにこの部屋を訪ねて来た、
彼女の、顔や声も
何もかも
思い出せない事自体が不自然だ。
正月であるという事からも、
整備工場には鍵が掛かっていて
その鍵は、僕と社長しか持ってない。
整備工場の更衣室に僕の家の玄関があるので、
外からは、整備工場を通らなければ、
僕の部屋に来る事自体、不可能なのだ。
学生時代に、インフルエンザで亡くなった僕の恋人の霊が、逢いに来てくれたのか…とも考えましたが、
恥ずかしながら定かでは有りません。
あれは一体、誰だったのか…
20年以上 経った今も思い出す事は出来ないけど、
もしかしたら今こうして生きてる事だって、
そういう存在が居てくれたお陰なのかも知れません。
もし、あなたが
あの時の彼女だったとして、
この文章を読んで居たら、
伝えたい事がある。
あなたのお陰で、
今日も元気で やってますよ。
あの時は本当に、ありがとうございました。