マジすか学園GX☆特別編☆
──高橋みなみは、生きている──
まことしやかに、街中に流れ続ける噂話。かつて、この街には、弱き者たちを守り、助け続けてきたひとりの少女がいた。
“勝利の女神”と呼ばれたその少女は、既に、天に召されている。にもかかわらず、現在(いま)もなお、夜な夜な、彼女が出没するという目撃談は後を絶たない。
たいていは、都市伝説の類いではあるが。
なかには、
その名を
悪用する者もあらわれていた。
「お疲れ様でーす」
全国チェーンの
ファストフード店での
アルバイトが終わり、ひとりの女子高生が、店舗を後にする。
腰まで届きそうな長い黒髪を赤のリボンで、二つに後ろ分けし、
パッツンと前髪が、揃った
小動物のような顔の少女。
数歩、歩いて、
何故か、
コケた。何もないところで──。
顔面をアスファルトの地面に、強打する。
それでも、
「ふぅ。何があっても、へこたれないっ」
立ち上がる。
それが、
彼女──荻野由佳の口癖だった。
真面目そうにみえる
由佳だったが、そのまま、すぐに、帰宅するわけではなく、
何故か、ネオン燦めく
夜の街へと、消えていった。
高いビルに囲まれた
暗く狭い路地裏──
派手な格好をした二人のヤンキー少女たちが、ひとりの若いサラリーマンをボコボコにしていた。
「おっさん!知らなかったのかい?ここ通るときは、通行料が発生するってこと」
身長差のある凸凹コンビの
身長の高いほうのヤンキー少女が、理不尽なセリフを吐いていた。
「ごほっ...、ただの...、カツアゲじゃ...」
「ゴチャゴチャ、うっせーんだよ!金出しな!早く!」
相方の小柄なヤンキー少女が、倒れたサラリーマンのネクタイをグイグイ引っ張っていた。
「もう、やめてくれ...、金なら、払う...」
「あ!そうそう。自己紹介しておかないと」
長身のヤンキー少女が、
「わたしの名前は、高橋みなみだ。よーく、覚えておきな」
「ギャハハ!ウケるー!誰も聞いてないしー!じゃあ、ウチも、高橋みなみってことで!」
「それじゃ、おかしいだろ!高橋みなみが、二人になっちまうじゃねーか!」
笑い合う二人。
他人(高橋みなみ)に罪を擦り付けようと──。
以前、この二人は、高橋みなみに、手ひどく、お灸をすえられたことを、深く、根に持っていた。その恨みから、彼女に対する悪評を振りまこうとしていたのだ。いままでの“高橋みなみ”の善行を覆そうとするかのように。
カン!
という軽い音と共に、
空き缶が、どこからともなく、降ってきた。コロコロと、地面を転がる。
「ん?」
「やめなさいっ!そこの二人組っ!」
このような場所に似つかわしくない、
バイト帰りの前髪パッツン真面目な制服少女が、叫んだ。
「あん?なんだお前?」
「アンタたちでしょ!最近、この辺りを荒らしまわってる二人組は」
「うっせーよ!やんのか?こら!」
由佳は、躊躇うことなく、前に一歩進み出る。
そして、
コケる。思い切り、顔面から。
「おいおい、カッコつけて出てきた割に、なんなんだよ、ドジっ子かよ。お前は」
「いたたっ...」
鼻を押さえる由佳。
「そんなんで、ウチら、高橋みなみに、勝てると思ってるのか?キャハハ!」
「アンタたちは...、ただのニセモノだっ!勝手に、その名前を...、口にするなっ!」
「だから、うっせーっつぅんだよ!わかってるよ!あいつは...、“高橋みなみ”は、もう、死んじまったんだろ!」
「死んで、ないよ...」
「なにっ?」
ニセモノに向け、
由佳が、はっきり、言い放つ。
「だって、わたしが...、わたしが、“高橋みなみ”なんだからっ!」
(『みなみさん...、教えて下さい。努力は...必ず、報われますか?』
『そうだな...、報われるかどうかは、正直、誰にもわからない。だけどな、努力をして、意味のないことはないんだ。それを、おぎゆか...、お前が、証明してみてくれないか』)
「ぷっ!何言ってんだ?コイツ!ウチらに、その名前騙って、どうすんだよ!」「いいから、やっちまおうぜ!」
ケンカ慣れした二人組の拳が、どこからどう見ても真面目で華奢な由佳を襲う。
狭い路地。なんとか、かわそうとするも、左右に、逃げ場はない。
細い腕で、拳を受け止める由佳の腹部に、
長身のヤンキー少女の前蹴りが、決まる。
こみ上げるものを堪える由佳。さらに、立て続けに、拳が、小さな顔に、何度も、何度も、打ちつけられた。
「うう...、痛い...、でも...」
何度、殴られて、
傷だらけになっても、
何度、地面に倒されても、
由佳は
立ち上がる。
「......へこたれないっ!」
(『みなみさん、どうやったら、わたし...、強くなれますか?』
『そうだなー。まずは、筋トレかな。腕立て、腹筋、背筋、その他もろもろ』
『わかりましたっ!これから、毎日、頑張りますっ!』
『お前は、いい瞳(め)を持ってる。それを、活かすことが出来れば、きっと、強くなれる。ただ、最後の最後は、やっぱり...』)
「努力は...、必ず...」
口許の血を拭う。
「......報われるんだっ!」
打たれ強さも
日々の努力の証。
「なんだぁ?まだ、やる気かよ?」
由佳は、ゆっくりと、
顔の前に、両腕を掲げ、右の拳を強く握りしめた。
(最後の最後は、やっぱり...)
由佳が、つぶやく。
「“マジ”だよ」
先程までとは
別人のように。
鋭すぎる由佳の視線に、気圧される二人組。
「そ、そんなんで、ビビると思ってんのか!おらぁああああ!」
得体の知れない
恐怖を振り払うかのように、叫び声をあげ、
不用意に、殴りかかってくる長身のヤンキー少女に、
由佳の
目にも止まらないカウンターパンチが、見事、ピンポイントで、顎の先端に、きまった。
一瞬で、激しく脳が揺さぶられ、意識を失った長身のヤンキー少女は、地面に、ぐしゃりと、崩れ落ちた。
「そ...、そんな、バカな...」
喧嘩自慢の相方が、たった一発でやられてしまうなんて。
それを見て、小柄な方のヤンキー少女は、すでに、戦意を喪失してしまっていた。
「ち、ちくしょー!て、てめー、お、覚えてやがれぇえええ!」
そんな、ありきたりな捨て台詞を吐きながら、気絶した少女を背中で担ぎ、引きずるように、この場を、去っていった。
由佳が、傷ついた笑顔で、夜の星空を見上げる。
(“高橋みなみ”さん...、わたしは、いま...、『努力は必ず報われる』ってことを...、証明、出来ていますか...?)
数分後──
巡回中の警察官が、傷だらけで、倒れているサラリーマンに、声をかけた。
「どうしました?」
「ええ...、ちょっと...、危ないところを、助けてもらいまして...」
若いサラリーマンは、情けなさそうに、こう言った。
「......とても、勇気のある...、“高橋みなみ”という可愛らしい女の子に」
そして、“伝説”は、受け継がれていく。
まことしやかに、街中に流れ続ける噂話。かつて、この街には、弱き者たちを守り、助け続けてきたひとりの少女がいた。
“勝利の女神”と呼ばれたその少女は、既に、天に召されている。にもかかわらず、現在(いま)もなお、夜な夜な、彼女が出没するという目撃談は後を絶たない。
たいていは、都市伝説の類いではあるが。
なかには、
その名を
悪用する者もあらわれていた。
「お疲れ様でーす」
全国チェーンの
ファストフード店での
アルバイトが終わり、ひとりの女子高生が、店舗を後にする。
腰まで届きそうな長い黒髪を赤のリボンで、二つに後ろ分けし、
パッツンと前髪が、揃った
小動物のような顔の少女。
数歩、歩いて、
何故か、
コケた。何もないところで──。
顔面をアスファルトの地面に、強打する。
それでも、
「ふぅ。何があっても、へこたれないっ」
立ち上がる。
それが、
彼女──荻野由佳の口癖だった。
真面目そうにみえる
由佳だったが、そのまま、すぐに、帰宅するわけではなく、
何故か、ネオン燦めく
夜の街へと、消えていった。
高いビルに囲まれた
暗く狭い路地裏──
派手な格好をした二人のヤンキー少女たちが、ひとりの若いサラリーマンをボコボコにしていた。
「おっさん!知らなかったのかい?ここ通るときは、通行料が発生するってこと」
身長差のある凸凹コンビの
身長の高いほうのヤンキー少女が、理不尽なセリフを吐いていた。
「ごほっ...、ただの...、カツアゲじゃ...」
「ゴチャゴチャ、うっせーんだよ!金出しな!早く!」
相方の小柄なヤンキー少女が、倒れたサラリーマンのネクタイをグイグイ引っ張っていた。
「もう、やめてくれ...、金なら、払う...」
「あ!そうそう。自己紹介しておかないと」
長身のヤンキー少女が、
「わたしの名前は、高橋みなみだ。よーく、覚えておきな」
「ギャハハ!ウケるー!誰も聞いてないしー!じゃあ、ウチも、高橋みなみってことで!」
「それじゃ、おかしいだろ!高橋みなみが、二人になっちまうじゃねーか!」
笑い合う二人。
他人(高橋みなみ)に罪を擦り付けようと──。
以前、この二人は、高橋みなみに、手ひどく、お灸をすえられたことを、深く、根に持っていた。その恨みから、彼女に対する悪評を振りまこうとしていたのだ。いままでの“高橋みなみ”の善行を覆そうとするかのように。
カン!
という軽い音と共に、
空き缶が、どこからともなく、降ってきた。コロコロと、地面を転がる。
「ん?」
「やめなさいっ!そこの二人組っ!」
このような場所に似つかわしくない、
バイト帰りの前髪パッツン真面目な制服少女が、叫んだ。
「あん?なんだお前?」
「アンタたちでしょ!最近、この辺りを荒らしまわってる二人組は」
「うっせーよ!やんのか?こら!」
由佳は、躊躇うことなく、前に一歩進み出る。
そして、
コケる。思い切り、顔面から。
「おいおい、カッコつけて出てきた割に、なんなんだよ、ドジっ子かよ。お前は」
「いたたっ...」
鼻を押さえる由佳。
「そんなんで、ウチら、高橋みなみに、勝てると思ってるのか?キャハハ!」
「アンタたちは...、ただのニセモノだっ!勝手に、その名前を...、口にするなっ!」
「だから、うっせーっつぅんだよ!わかってるよ!あいつは...、“高橋みなみ”は、もう、死んじまったんだろ!」
「死んで、ないよ...」
「なにっ?」
ニセモノに向け、
由佳が、はっきり、言い放つ。
「だって、わたしが...、わたしが、“高橋みなみ”なんだからっ!」
(『みなみさん...、教えて下さい。努力は...必ず、報われますか?』
『そうだな...、報われるかどうかは、正直、誰にもわからない。だけどな、努力をして、意味のないことはないんだ。それを、おぎゆか...、お前が、証明してみてくれないか』)
「ぷっ!何言ってんだ?コイツ!ウチらに、その名前騙って、どうすんだよ!」「いいから、やっちまおうぜ!」
ケンカ慣れした二人組の拳が、どこからどう見ても真面目で華奢な由佳を襲う。
狭い路地。なんとか、かわそうとするも、左右に、逃げ場はない。
細い腕で、拳を受け止める由佳の腹部に、
長身のヤンキー少女の前蹴りが、決まる。
こみ上げるものを堪える由佳。さらに、立て続けに、拳が、小さな顔に、何度も、何度も、打ちつけられた。
「うう...、痛い...、でも...」
何度、殴られて、
傷だらけになっても、
何度、地面に倒されても、
由佳は
立ち上がる。
「......へこたれないっ!」
(『みなみさん、どうやったら、わたし...、強くなれますか?』
『そうだなー。まずは、筋トレかな。腕立て、腹筋、背筋、その他もろもろ』
『わかりましたっ!これから、毎日、頑張りますっ!』
『お前は、いい瞳(め)を持ってる。それを、活かすことが出来れば、きっと、強くなれる。ただ、最後の最後は、やっぱり...』)
「努力は...、必ず...」
口許の血を拭う。
「......報われるんだっ!」
打たれ強さも
日々の努力の証。
「なんだぁ?まだ、やる気かよ?」
由佳は、ゆっくりと、
顔の前に、両腕を掲げ、右の拳を強く握りしめた。
(最後の最後は、やっぱり...)
由佳が、つぶやく。
「“マジ”だよ」
先程までとは
別人のように。
鋭すぎる由佳の視線に、気圧される二人組。
「そ、そんなんで、ビビると思ってんのか!おらぁああああ!」
得体の知れない
恐怖を振り払うかのように、叫び声をあげ、
不用意に、殴りかかってくる長身のヤンキー少女に、
由佳の
目にも止まらないカウンターパンチが、見事、ピンポイントで、顎の先端に、きまった。
一瞬で、激しく脳が揺さぶられ、意識を失った長身のヤンキー少女は、地面に、ぐしゃりと、崩れ落ちた。
「そ...、そんな、バカな...」
喧嘩自慢の相方が、たった一発でやられてしまうなんて。
それを見て、小柄な方のヤンキー少女は、すでに、戦意を喪失してしまっていた。
「ち、ちくしょー!て、てめー、お、覚えてやがれぇえええ!」
そんな、ありきたりな捨て台詞を吐きながら、気絶した少女を背中で担ぎ、引きずるように、この場を、去っていった。
由佳が、傷ついた笑顔で、夜の星空を見上げる。
(“高橋みなみ”さん...、わたしは、いま...、『努力は必ず報われる』ってことを...、証明、出来ていますか...?)
数分後──
巡回中の警察官が、傷だらけで、倒れているサラリーマンに、声をかけた。
「どうしました?」
「ええ...、ちょっと...、危ないところを、助けてもらいまして...」
若いサラリーマンは、情けなさそうに、こう言った。
「......とても、勇気のある...、“高橋みなみ”という可愛らしい女の子に」
そして、“伝説”は、受け継がれていく。












