マジすか学園GX☆#4ー2☆
『やめて!』
幼い少女は、毎日のように、叔父に虐待を受けていた。
『もう、やめて...、もう...、叩かないで...』
そんな
少女の声が、届くことはなく...
来る日も...来る日も...、叔父からの虐待は、続けられた。身体中、傷だらけ。しかし、発覚を恐れ、叔父が、少女を、病院に連れていくことはなく、何度か、少女は、生死の縁をさまようこともあった。
そんな
ある日──。
(『やめて!もう、やめて!』)
拳が、肉の塊を殴る音。
(『やめて!お願い!』)
止まらない。
止むことのない暴力。
(『お願い!もう、やめて!もう...これ以上...、“叔父さんを”殴るのは......』)
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..
現在───
渡辺リカが、ふと目を覚ます。
ここは、公園のベンチ。先程まで暴れていた商店街から、少し離れた場所。
隣には、チームMARRYのリーダー格、お嬢様然とした菅井ユウカの姿があった。
わたし...、また、やっちゃったんだ...
というような表情で、リカは、ベンチに座り直すと、拳についた赤黒いものを見つめた。その様子を見て、優しく問いかけるユウカ。
「また...、昔のことを思い出していたんですの?」
リカは、こくりと頷く。
「何度も言うようですけど、あなたは、悪くはありませんわ。それは、少年法がどうのという問題ではなく」
「でも...」
「世の中、善だとか悪だとか、きっちり線引き出来るものではないんですのよ。そんな単純な二元論で語れるほど、わかりやすくはありませんわ。グレーゾーンがまかり通っていますのよ、この世は。オフホワイトとかね」
クスっと笑いながら、菅井ユウカは、自論を展開する。
「あなたが、解離性同一性障害であろうが、ただの喧嘩っ早い女の子であろうが、関係ありませんのよ。あなたは、あなた...ですわ」
「わたしは...、わたし...?」
「少なくとも、チームMARRY(わたしたち)は、みんな、そう思っています」
タブレットで、“卒業試験”の進捗状況をリアルタイムで更新している、“プリズン”特設サイトを眺めながら、
「それに、大丈夫ですわよ、今回は。たまたま、相手が、卒業試験の“対象者(ターゲット)”でしたので」
むやみやたらと一般人を傷つければ、強制終了もありえるのだが、
対象が、『ランキング』メンバーであれば、関係各所に忖度もはたらくのであった。“プリズン”の運営は、日本政府主導の国家機密という噂もある。あくまで、公表は、はばかられることではあるが。
「これで、ベリカさんには、まず、2ポイントが入りましたわ。幸先が良いですわね」
本人が、望むと望まざるとに関わらず。
「“対象者(ターゲット)”マジすか女学園三年、鬼塚だるま。ランキング『第19位』──。まあ、雑魚の部類ではありますけどね」
菅井ユウカが、微笑む。
遠くで、救急車のサイレンの音がした。
マジすか女学園──
「前田たち、遅(おせ)ぇなー。どこまで探しに行ったんだ?」
いつもの如く、
ヲタ及びチームホルモンの面々は、ホルモン中であった。
「やっぱり、おれたちも、一緒について行けばよかったかな?学ランみたいにさ」
バンジーの提案に、ウナギが、応える。
「なんで、オレ達が、だるまのやつなんか探しに行かなきゃいけねーんだよ。どうせ、途中で、何か買い食いでもしてんだろ?たぶん、たこ焼きとかな」
「ありえるな。いや、逆に、なんか、それ以外、ありえない気がする」
ホルモンを頬張りながら、アキチャが、勝手に、断定する。
「...............」
「どうした?」
ムクチが、無言で見つめる視線の先──教室の入り口には、
真っ赤なパーカーのフードを被ったネズミと松井ジュリナ、二人の姿があった。
「どうもっス。前田に用があったんスけど、今日は、いないっスか?」
「ああ。何か、だるまを探しに行ったまま、帰ってこねぇ」
ヲタの言葉に、
「そうっスか...。だったら、いいっス」
「おいおい!何か言いたいことあったんだろ?何だよ!気になるじゃねーか」
「そうっスね。まあ、これは、アンタたちも、無関係とは言えないんで...」
「もったいつけてんじゃねーよ!さっさと言いやがれ!」
「昨日、矢場久根のやつらと、やりあっちまったんだ」
ジュリナが、渋々といった態で切り出す。
ホルモンが焼かれた七輪を囲み、話し始める。
大阪で、ディーヴァとやり合ったチームホルモンたちに負けず劣らず、傷だらけの顔の二人に、苦渋の色が濃く滲んでいた。
「なにっ?矢場久根とは、休戦協定結んでるだろうが!そこらの雑魚と小競り合いでもしたってのか?」
「いや。相手は、矢場久根の総長(トップ)...、市川ミオリだ!」
「なんだと?」
どこが、どうなって、矢場久根の総長とやり合うことになったのか。ヲタたちには、見当がつかなかった。
「あっしが...」
単身、矢場久根のアジトに殴り込みに行った
ネズミの言葉を制し、ジュリナは、語る。
「矢場久根(やつら)は、ずっと、マジ女(うち)を潰す機会を狙ってたんだ。こっそりとな。近隣の学校を次々と制圧していき、うちらを助けてくれていた、アンダーガールズの元特攻隊長や親衛隊員たちも倒され...、近く、マジ女(うち)に総攻撃を仕掛けてくるところだったんだ...。それを察知したネズミが、わたしと...」
「なんてこった!それで、どうなったんだ?」
「矢場久根死天王のオメガは、ジュリナが倒したんスけど、市川とは、結局、決着が、つかなかったっス」
「そうだったのか...。まあ、この際、やっちまったもんは、仕方ねぇ」
「おっ?なかなか、理解ある先輩気取ってるじゃねーか?で、この先、どうなると思う?」
ウナギが、ヲタに、訊く。
「そんなもん、考えなくても、わかンだろ?」
その時。
ずっと無口を貫いていた
ムクチが、キメ顔で、口を開いた。
「こりゃあ、『大戦争』の始まりやで!」
関西弁が、何故か、抜けていない、ナニワ臭漂うムクチであった。
公園──
『そうか。まあ、無事でよかった。小さな獲物も狩れたみたいだしな』
「ええ。不幸中の幸いといったところでしょうか」
菅井ユウカが、志田マナカに電話で、状況を伝えていた。
「それでは、一旦、学校へ戻りましょう。今後の戦略を話し合うために」
むやみやたらと“対象者”を狙っていっても、効率化ははかれない。また、警戒されてしまうことにもなる。さらに、今後は、渡辺リカも狙われる可能性が出てきた。この“卒業試験”は、あくまで、目立たなく、それでいて、確実に、物事を遂行していかなければいけないのだ。
『そうだな...。こっちは、少し、遅れるかもしれねーけどな』
「どうかなさいましたか?」
次の瞬間。
スマートフォン越しに、マナカの悦びの声が、ユウカの耳に伝わってきた。
『大物、見つけたぜ』
幼い少女は、毎日のように、叔父に虐待を受けていた。
『もう、やめて...、もう...、叩かないで...』
そんな
少女の声が、届くことはなく...
来る日も...来る日も...、叔父からの虐待は、続けられた。身体中、傷だらけ。しかし、発覚を恐れ、叔父が、少女を、病院に連れていくことはなく、何度か、少女は、生死の縁をさまようこともあった。
そんな
ある日──。
(『やめて!もう、やめて!』)
拳が、肉の塊を殴る音。
(『やめて!お願い!』)
止まらない。
止むことのない暴力。
(『お願い!もう、やめて!もう...これ以上...、“叔父さんを”殴るのは......』)
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..
現在───
渡辺リカが、ふと目を覚ます。
ここは、公園のベンチ。先程まで暴れていた商店街から、少し離れた場所。
隣には、チームMARRYのリーダー格、お嬢様然とした菅井ユウカの姿があった。
わたし...、また、やっちゃったんだ...
というような表情で、リカは、ベンチに座り直すと、拳についた赤黒いものを見つめた。その様子を見て、優しく問いかけるユウカ。
「また...、昔のことを思い出していたんですの?」
リカは、こくりと頷く。
「何度も言うようですけど、あなたは、悪くはありませんわ。それは、少年法がどうのという問題ではなく」
「でも...」
「世の中、善だとか悪だとか、きっちり線引き出来るものではないんですのよ。そんな単純な二元論で語れるほど、わかりやすくはありませんわ。グレーゾーンがまかり通っていますのよ、この世は。オフホワイトとかね」
クスっと笑いながら、菅井ユウカは、自論を展開する。
「あなたが、解離性同一性障害であろうが、ただの喧嘩っ早い女の子であろうが、関係ありませんのよ。あなたは、あなた...ですわ」
「わたしは...、わたし...?」
「少なくとも、チームMARRY(わたしたち)は、みんな、そう思っています」
タブレットで、“卒業試験”の進捗状況をリアルタイムで更新している、“プリズン”特設サイトを眺めながら、
「それに、大丈夫ですわよ、今回は。たまたま、相手が、卒業試験の“対象者(ターゲット)”でしたので」
むやみやたらと一般人を傷つければ、強制終了もありえるのだが、
対象が、『ランキング』メンバーであれば、関係各所に忖度もはたらくのであった。“プリズン”の運営は、日本政府主導の国家機密という噂もある。あくまで、公表は、はばかられることではあるが。
「これで、ベリカさんには、まず、2ポイントが入りましたわ。幸先が良いですわね」
本人が、望むと望まざるとに関わらず。
「“対象者(ターゲット)”マジすか女学園三年、鬼塚だるま。ランキング『第19位』──。まあ、雑魚の部類ではありますけどね」
菅井ユウカが、微笑む。
遠くで、救急車のサイレンの音がした。
マジすか女学園──
「前田たち、遅(おせ)ぇなー。どこまで探しに行ったんだ?」
いつもの如く、
ヲタ及びチームホルモンの面々は、ホルモン中であった。
「やっぱり、おれたちも、一緒について行けばよかったかな?学ランみたいにさ」
バンジーの提案に、ウナギが、応える。
「なんで、オレ達が、だるまのやつなんか探しに行かなきゃいけねーんだよ。どうせ、途中で、何か買い食いでもしてんだろ?たぶん、たこ焼きとかな」
「ありえるな。いや、逆に、なんか、それ以外、ありえない気がする」
ホルモンを頬張りながら、アキチャが、勝手に、断定する。
「...............」
「どうした?」
ムクチが、無言で見つめる視線の先──教室の入り口には、
真っ赤なパーカーのフードを被ったネズミと松井ジュリナ、二人の姿があった。
「どうもっス。前田に用があったんスけど、今日は、いないっスか?」
「ああ。何か、だるまを探しに行ったまま、帰ってこねぇ」
ヲタの言葉に、
「そうっスか...。だったら、いいっス」
「おいおい!何か言いたいことあったんだろ?何だよ!気になるじゃねーか」
「そうっスね。まあ、これは、アンタたちも、無関係とは言えないんで...」
「もったいつけてんじゃねーよ!さっさと言いやがれ!」
「昨日、矢場久根のやつらと、やりあっちまったんだ」
ジュリナが、渋々といった態で切り出す。
ホルモンが焼かれた七輪を囲み、話し始める。
大阪で、ディーヴァとやり合ったチームホルモンたちに負けず劣らず、傷だらけの顔の二人に、苦渋の色が濃く滲んでいた。
「なにっ?矢場久根とは、休戦協定結んでるだろうが!そこらの雑魚と小競り合いでもしたってのか?」
「いや。相手は、矢場久根の総長(トップ)...、市川ミオリだ!」
「なんだと?」
どこが、どうなって、矢場久根の総長とやり合うことになったのか。ヲタたちには、見当がつかなかった。
「あっしが...」
単身、矢場久根のアジトに殴り込みに行った
ネズミの言葉を制し、ジュリナは、語る。
「矢場久根(やつら)は、ずっと、マジ女(うち)を潰す機会を狙ってたんだ。こっそりとな。近隣の学校を次々と制圧していき、うちらを助けてくれていた、アンダーガールズの元特攻隊長や親衛隊員たちも倒され...、近く、マジ女(うち)に総攻撃を仕掛けてくるところだったんだ...。それを察知したネズミが、わたしと...」
「なんてこった!それで、どうなったんだ?」
「矢場久根死天王のオメガは、ジュリナが倒したんスけど、市川とは、結局、決着が、つかなかったっス」
「そうだったのか...。まあ、この際、やっちまったもんは、仕方ねぇ」
「おっ?なかなか、理解ある先輩気取ってるじゃねーか?で、この先、どうなると思う?」
ウナギが、ヲタに、訊く。
「そんなもん、考えなくても、わかンだろ?」
その時。
ずっと無口を貫いていた
ムクチが、キメ顔で、口を開いた。
「こりゃあ、『大戦争』の始まりやで!」
関西弁が、何故か、抜けていない、ナニワ臭漂うムクチであった。
公園──
『そうか。まあ、無事でよかった。小さな獲物も狩れたみたいだしな』
「ええ。不幸中の幸いといったところでしょうか」
菅井ユウカが、志田マナカに電話で、状況を伝えていた。
「それでは、一旦、学校へ戻りましょう。今後の戦略を話し合うために」
むやみやたらと“対象者”を狙っていっても、効率化ははかれない。また、警戒されてしまうことにもなる。さらに、今後は、渡辺リカも狙われる可能性が出てきた。この“卒業試験”は、あくまで、目立たなく、それでいて、確実に、物事を遂行していかなければいけないのだ。
『そうだな...。こっちは、少し、遅れるかもしれねーけどな』
「どうかなさいましたか?」
次の瞬間。
スマートフォン越しに、マナカの悦びの声が、ユウカの耳に伝わってきた。
『大物、見つけたぜ』
マジすか学園GX☆プリズン編その2☆
〝 さあ
とうとう、この日が、やって参りましたぁあああああ!!!
東ゲートからは──
最強、最高、最アンド高!常勝無敗!
チームMARRYのぉおおお
登場だぁああああああああ!!!〟
スピーカーから発せられる
実況アナウンサーの煽りに、
地鳴りのように、
観覧席からは、歓声が湧き上がる。古代ローマの円形闘技場(コロッセオ)を思わせる“プリズン”内の施設。ここが、定期的に行われる戦闘(バトル)の舞台だ。
「うぉおおおおおお!!!」
「キタキタキタァ──────!!!」
「リサぁああああ!!!」
「ベリカぁああああ!!!」
「菅井様ぁああああ!!!」
「モナぁあああああああああ」
「軍曹ぉおおおおおお!!!」
あちらこちらから、
黄色い声援が飛び交う。
ほぼ全員が、何らかの理由で、プリズンに集められた少女たち。唯一のストレス発散が、この戦闘(バトル)観戦だった。
未だかつて、負け知らず。
全戦全勝。
常勝軍団──。五人のメンバー全員が、クラスS(最上位)。
それが、チームMARRY。
実況のアナウンサーが、興奮気味に、続ける。
〝 さあ、
対しましては!
こちらは、ニューフェイス、平手ユリナの実力やいかに──
それ以外は、クラスCのただの雑魚(笑)たちぃいいいい!
その名もぉおおお
チームゼロプラスぅうううううう!〟
「うぉおおおおおおお!」「すぐに、やられちまえぇええええ!」「思いっきり、負けろぉおおおおおおお!」
完全アウェイな雰囲気が、蔓延している。強さと人気は比例するのであった。
〝 さあ
今回は
チームMARRY相手に
どんな
負けっぷりを見せてくれるのかー!
楽しみですねー
特別ゲストで
解説の長濱ねるさん?〟
〝 ふふ...、最高かよ〟
〝 え...、えーと...、さあ、チームMARRYに次ぐ実力者の長濱ねるさんも楽しみにされているこの一戦。ただ、チームゼロプラスは、もう負けられない崖っぷち。少しは、粘りを見せてくれることに、ぜひ、期待しましょう!〟
チームゼロプラス陣営では、織田ナナが、観客の声援や、実況の音声に、舌打ちする。
「チェッ!あいつら、すげー人気だな、相変わらず─、ムカつくぜ。
絶対(ぜってー)、ぶちのめしてやる!そして、わたしたちが、初めて、やつらに、土をつけてやるんだ!だから──」
残りの
メンバーに向けて言う。
「先鋒は、わたしに、行かせろ」
「えっ?だって、いつもは...」
髪を短くした今泉ユイが、驚きの声をあげる。
「相手が相手だからな。今日は、わたしから、行くぜ。
見てろよ。平手。必ず、勝つから」
「わかった...」
平手ユリナが、入所してから、まだ、日は浅い。しかし、その間、いろいろな出来事があった。そのことが、チーム五人の絆を、より深めていた。
石森ニジカが、織田ナナの肩に手を置き、
「観客(あいつら)は、いい気なもんだよね。わたしたちは、もう、後がないっていうのに」
周りのお祭り騒ぎとは違い、今日、負ければ、
“排除”される。いやがうえにも、悲壮感は漂う。
「わたしたち五人は、仲間以上に、もはや、家族なんだ。だから、ここは、まず、お姉ちゃんに任せろ。
アオイも、ちゃんと見てろよ。わたしたちは、もう負けられねーんだからな」
震えるアオイも、先日、ついに、異能(チカラ)が、発現していた。
「うん!見てる!もう、『R12』とか、言わせない!」
織田ナナは、拳を胸に当て、前に突き出す。原田アオイも、同じように、拳を突き出した。今泉ユイも、石森ニジカも。そして、最後に、平手ユリナの拳が、そこに、合わせられた。
東ゲート。
チームMARRY陣内では、リーダー格の菅井ユウカが、立ち上がる。
「じゃあ、いつもの通り、わたくしのほうから、行かせていただきますわ」
涼しい顔の
志田マナカ、渡邉リサ。
ザ・クールの二人に、異論はなかった。
「いいんじゃね?」
「ああ、めんどくさ」
直後。
軍曹と呼ばれる守屋アカネが、異変に気づいた。
「あれ?ぺーは、どこ行った?」
〝 さあさあさあッ!注目の先鋒対決はぁああああ、チームゼロプラスからは、普段は、大将である織田ナナが、先陣を切るぅううううう!これは、やはり、絶対に負けられない気持ちのあらわれかぁああああ!対しまして、チームMARRYからは.........。
おや? 誰も出てきません!これは一体!どういうことでしょう!何やら、揉めているのでしょうか?〟
長濱ねるが、ぼそっと。
〝 もう、出てる〟
〝 えっ?〟
実況アナが、ねるの言葉に、目を凝らす。
〝 おおーっと!これは!いつの間にっ!静かに忍び寄る影ぇえええ!織田ナナ選手の背後に立つのは、超絶ビューティ渡辺リカ選手だぁああああ!〟
「はっ」
織田ナナが、気配を感じたときは、すでに、渡辺リカの拳が、動き出していた。振り返る間もなく。
〝 織田選手、顔面を殴られ、吹き飛ぶぅううううう!と同時に、いま、ゴングが打ち鳴らされたぁああああ!〟
「これが、戦闘(バトル)か...」
平手ユリナが、見つめる。およそ10メートル四方の石畳の闘技場。ロープなどはない。
「そうだよ...。ルールは、ただひとつ。『何をやっても構わない』ってこと」
ニジカが、ため息をつく。
勝敗は、相手がギブアップするか、または、戦意喪失、10カウントダウンなどで決する。
平手の瞳には、額から血を流し、
それでも、立ち上がろうとする織田ナナの姿があった。
〝先手必勝ぉおおおおお!これは、 一方的だぁああああ!圧倒的な強さ!これが、渡辺リカ選手の肉体強化系の異能(チカラ)──『サイレントマジョリティー』どぉぁああああ!〟
筋力(パワー)、俊敏性(スピード)、すべてが、格段に通常時よりアップしている。ベリカ弐号機(通称)。
なす術なく蹂躙される織田ナナは、
石畳の上を、ただ、殴られ、転がり続けていた。
〝 どうですか?解説の長濱ねるさん。織田ナナ選手のほうは、このまま、異能(チカラ)を使うことなく、終わってしまうのでしょうか!ベリカ弐号機(通称)にボコボコのべッコボコにされちゃいますよね?〟
〝 バカだね...〟
〝 ですよねー。ほんとに、バカとしか言えませんよねー、このままじゃ...〟
〝 バカとは、お前のことを言ってるんだ。このバカ実況!〟
〝 えっ?〟
〝 織田ナナは、すでに、異能(チカラ)を使ってるよ〟
チームゼロプラス。
先鋒
織田ナナ。
能力名──『キミガイナイ』
瞬間的な移動能力。
〝 一瞬で、移動できる距離自体は、大したことはない。けど、彼女は、その異能(チカラ)を使って、かろうじて、急所だけは外してる。そうじゃなければ、とっくに終わってるはずだ〟
織田ナナは、
傷だらけの顔を、ジェノサイドマシーンのようなベリカに向け、
「はぁ...、はぁ...、やべぇ...このままじゃ...やられちまう...」
拳を固く、握りしめる。
「..............................」
返り血を浴び、
うっすら笑みをこぼしながら、
無言で、迫るベリカ。
しかし、彼女の心の中の葛藤は、誰にも計り知ることは出来ない。
(「やめて!もう...、お願いだから...」)
所長室──
戦闘(バトル)を映し出している複数の
モニターを眺めながら、いつも以上に妖艶な雰囲気を醸し出している所長は、強面の看守長に問う。
「あの子は、いつ、出てくるのかしらねぇ?」
「それは、平手...ユリナのことでしょうか。しかし、彼女は...」
「ええ。結局、これまでの間に、異能(チカラ)の発現は、見られなかったということだったかしら?」
毎日、種々
様々なカリキュラムをこなしてきたが、“プリズン”側が、思うような結果は得られなかった。
看守長は渋々、うなずく。
「そのようです。ただ...」
「──?」
「不可解なのが、
通常、微弱でも、何かしら計器類に反応はあるはずなんですが、彼女の場合...
...計器類が、まったくと言っていいほど、反応を示さなかったそうなのです」
「ふふふ...。あの子は、“神の子”なの...。普通とは、違うわ。だって、あの子は、これまで、想像を絶するほどの地獄を味わってきたのだから」
『うぁあああああああああああ!!!!!』
「あの子が、異能(チカラ)を発揮するのは、これからよ」
「彼女は、無事、戦闘(バトル)をクリアし、卒業試験に臨むことが、出来るのでしょうか」
「看守長、あなた、『蠱毒』というものをご存知かしら?」
「たしか...、古代中国で、行われていた呪術だと、聞き及んでおります」
蠱毒。
百種の虫を集め、大きなものは蛇、小さなものは虱と、ひとつの壺に封じ、互いに喰らわせ、最後に残った、最も強くまた生への執着の強い一匹を使役し、毒とするもの。
「ここ、『プリズン』は、まさしく、蠱毒の壺のようであり、巨大な実験室のフラスコとも言えるのよ」
その中に、さらに、“下界”の強力な毒虫を入れてみたら、どうなるか?
「いったい、どんな、素晴らしい『毒薬』が出来上がるのか。いまから、とても、楽しみだわ」
一ヶ月後──
ついに、
卒業試験が、開始されることとなった。
平手ユリナ以下
チームMARRY、長濱ねる、他
十数名が、プリズンを一旦、仮出所の運びとなり、“下界”(プリズンの外)へ、降りる。
プリズンが定めた“下界”における『ランキング』メンバーを、倒すと、上位ランカーに応じて、その都度、ポイントが与えられる。さらに、ポイントを保持しているプリズンメンバーを倒した場合、そのポイントを奪うことも出来る。まさに、バトルロワイヤル。
期間は七日間。
旧約聖書の『創世記』によると、神は、天地創造を七日間で行なったという。
平手ユリナは、誓う。
「わたしは、信じてる。必ず、奪われた自由を取り戻す。みんなで─」と。
───罪は信じたこと
罰は出会ったこと───
(『自分の棺』より)
Illustration by ななきさん

