メディアが教えてくれない本当の住宅ローンの話① 【金利の指標編】 | 池上秀司のブログ

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今年の住宅ローンに関しては5月中旬に長期金利が上昇し、メディアやFPが大騒ぎしました。日経MJの上半期ヒット商品番付の西の横綱が「住宅ローン」です。某FPの「テレビ出演が忙しくって!!」という主旨のツイートも拝見しました。年末になって「来年はどうか!?」といった話題になっていますが、まずは今年5月のその騒ぎは正しかったのかの検証が必要でしょう。そこで、今日から3回に分けて今年6月に私が別サイトに投稿した内容をこちらに記載します。まずは、金利の指標についてです。

【2013年6月3日の投稿】

5月中旬より長期金利の上昇に伴い「住宅ローン金利上昇!」といった言葉を頻繁に見聞きするようになりました。「変動金利から固定金利に変更する人達が増加し」というニュースを平然と流しているメディアも多数ありました。個人的には金利が下がったときはおとなしく、上がったときだけ大騒ぎする明らかに偏ったメディアの姿勢に関しては大変辟易しています。そこで、せっかくの機会ですから住宅ローンの金利について、3回に分けて今一度確認しておきたいと思います。

1回目の今回は金利の指標を再確認です。金利を大別すれば「長期金利」と「短期金利」に分けられます。長期金利の代表的な指標といえば最近話題の「長期国債(新発物10年国債)」。一方、短期金利の指標は「無担保コールレート・オーバーナイト物」です。住宅ローンの「固定」とつく金利タイプは「長期国債」の利回りを参考にして決まっており、一方、変動金利は日銀の金融政策における無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導値=「政策金利」を基準にしています。

「長期国債」「無担保コールレート・オーバーナイト物」はどのように動いていくのかというと、日銀のHPが大変参考になるので以下をご確認ください。

長期金利の決まり方...将来の予想が大事

まず、長期金利は、短期金利とは決まり方が大変違う、ということにご注目下さい。短期金利の代表は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)」ですが、これは日本銀行の金融調節によってコントロールされています。また、オーバーナイト物より少し長い短期金利(1週間や1か月の金利)もオーバーナイト物に強く影響されています。つまり、短期金利は、基本的にその時点の金融政策の影響下にあるのです。

これに対して長期金利は、その時点の金融政策の影響も受けはしますが、それとは別の次元で、長期資金の需要・供給の市場メカニズムの中で決まるという色合いが強く、その際、将来の物価変動(インフレ、デフレ)や将来の短期金利の推移(やこれに大きな影響を及ぼす将来の金融政策)などについての予想が大切な役割を演ずる(詳細は後述)、という特徴があります。


それらの相関関係を図に表すと以下のようになります。


次に、5月7日からの長期国債の利回りと無担保コールレート・オーバーナイト物の平均値の推移を見てみましょう。グラフにしてみました。


一目瞭然、長期金利は動いていますが短期金利は安定しています。変動金利で借入中の方が気にするとしたら、長期金利ではなく無担保コールレート・オーバーナイト物です。それらの金利は以下で確認できます。

無担保コールレート・オーバーナイト物 推移

確かに長期金利は短期金利の予測といえるので「これから短期金利が上がっていくだろう」というのは間違いではありませんが、今低金利なのですから上がるのは当たり前であり、問題の本質は「上がり方」です。「急に上がる」と「緩やかに上がる」では返済への影響は異なります。変動金利の金利上昇についてこの「上がり方」を無視した議論は大変稚拙です。ですので「上がり方」については次回解説します。

長期金利が上昇したのは事実です。これから借入する人には影響が出ますが、ここまで騒ぐレベルでしょうか?長期国債の利回りは日本相互証券のHPで確認できます。

長期金利の推移

直近20営業日は↓こうです。


では、過去1年はどうでしょうか?

1年前の水準に戻っただけです。1年前に「金利上昇!」なんて騒いでいません。むしろ「長引く低金利」といっていたはずです。要は直近が低過ぎたというだけの話です。次に過去10年を見てみます。


↑この通りです。10年で見ればまだまだ低い水準です。「長引く低金利」といわれきて、その間でも1%を超える時期があった訳ですから、直近短期間の動きに過剰反応するのは非常に近視眼的であるといわざるを得ません。先月新聞の一面に「住宅ローン金利(10年固定)が上昇」と書いてありましたが、1年前の水準に戻る程度なのですからメディアの論調は浮足立っているといえます。

長期金利は変動金利と直接の関係はなく、動いているのは長期金利だけなのに、そういう部分はメディアから情報提供されておらず、むしろ、変動金利の金利上昇を過剰に煽っているように見えます。次回はこの連載では何度も登場している変動金利について、まとめ的な内容をご紹介してみたいと思います。