62万はどこへいく | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

夏以降、このブログにネタをご提供いただいている日経電子版の住宅ローンコラムですが、筆者の淡河範明さんもネタに尽きてきたようで、当たり前のしくみにケチをつけるだけの保険コンサルタント(自称)後田亨さんと同じような流れになってきました。

高すぎる住宅ローンの保証料 銀行に都合よい仕組み

住宅ローンを利用する際、賃貸住宅を借りるときと違って保証人を用意する必要はありません。多くの場合は「保証会社」という保証を専門とする会社が保証人代わりとなります。そのために借主が負担するのが「保証料」です。それが「高すぎる」というのですが、高いとする根拠がありません。

例えば全国保証という保証会社の決算を持ち出して「人件費が高すぎる」といっていますが、自分が勝手に作った計算式で「値段が高い」などというのはただの言い掛かりです。そもそも他人がいくらで商売しようがそれはそれ。そもそも全国保証は上場企業ですから利益を上げることが至上命題。上場企業が利益を上げてどこが悪いのでしょうか。

「高い」「低い」は市場が決め、理不尽に高ければ市場から淘汰されるだけのことです。企業は利益を得ることを目的に存在しているのですから、その利益を追求する経済活動を否定するというのはただの非常識です。まぁ、掲載している日本経済(音痴)新聞に常識を求めるのも酷かもしれませんが。

この保証というしくみがあるからこそ、貸し出しができています。保証会社を使わない住宅ローンもありますが、貸し倒れのリスクが直接銀行に及ぶので貸し出しは慎重になります。お金を貸すのですから、様々なリスクヘッジをするのは当たり前です。こんな当たり前のことにケチをつけるなら、まずは自分が低利かつ無担保で何千万円も融資してみたらどうでしょうか。いくらでも借りて差し上げます。

保証料の「あいみつ」をすることを提案したいと思います。銀行によっては複数の保証会社を利用できることがあるため、「あいみつ」することができます。ほとんどの金融機関が保証会社を指定しているので、「あいみつ」できるケースは少ないのですが、保証会社を金融機関が指定しなければならない強い理由はないと筆者は考えます。

とありますが、これは大した意味はありません。例えば保証会社によっては借主の属税によって保証料率は0.2%~0.4%の範囲で決定されるということがあります。融資担当者は審査の際、高い保証料を提示したら顧客離れを誘発する(他行に流れる可能性がある)のですから、

審査に通る → 保証料が安く済む

という流れで判断します。担当者は「審査が通り、保証料が安い保証会社」を優先して選択していますので、一つの金融機関内で保証会社のあいみつをする必要はありません。淡河さんは「金融機関の比較は30行」とか消費者に無駄なことをさせるのが好きなようですが、保証料のあいみつとか本当にただの無駄です。その無駄を省くために我々専門家といわれる人間が存在するのではないでしょうか。

一つの金融機関で複数の保証会社を採用している理由は、「Aという保証会社では審査に通らないお客様をBという保証会社で補完する」というように、審査(保障)の範囲を拡大させるためです。“Aでは通らない”という属性なのですから(失礼な表現ですが)「信用力は低くなる」ということ。つまり、保証料率は高くなります。信用力が低ければ貸し倒れのリスクが高まるのですから、保証料率が高くなるのも当たり前の話です。

その次に、保証料の一括前払いと金利上乗せの比較表で「借入期間35年であれば、前払いのほうが54万円も有利になります。」と結論付けていますが、これはあまりにも安易です。

35年返済のところを見てみると(借入は3,000万円)、一括前払いは総額3,488万円(ケース①)、金利上乗せは3,542万円(ケース②)となるので差額の54万円分一括前払いの方が少ないとなっていますが、実際の資金繰りで考えてみましょう。一括前払いを選択すれば約62万円を保証料として支払います。金利上乗せを選べば金利が0.2%上昇する代わりに手元に62万円残ることになります。

淡河さんの思考ではこの62万円はどこにいってしまったのでしょうか。別に残して増やしてもいいですし、単純に考えれば頭金に充当して借り入れを減らしてもいいでしょう。そうすれば、借入額は2,938万円になり、金利上乗せを選んだとして総返済額は3,469万円になります(ケース③)。以下がその比較表です。



一括前払いが有利というのは、ただの机上論です。

また、一括前払い保証料を選んだ場合、途中で期間短縮の繰上返済を行った場合に保証料が戻ってきますが、そのことも欠落しています。わかりやすく25年経過時点で残債を一括返済したとします。そうすると残りの10年間は保証しなくて済むのでその分の保証料が戻りますが、3,000万円・35年返済、25年経過時点で一括繰上返済をした場合、大手都市銀行の保証料返戻額は23,520円です。事前に支払っていた一括前払い保証料62万円からこの額を引くと60万円を少し下回る額となります。

一方金利上乗せんだ場合、ケース①とケース③の返済額の差が保証料と考えられるので、月あたり1,017円。それを25年(300ヶ月)支払うので総額30.5万円。ですから、ケース③の場合、ケース①の半額程度で済むことも考えられるのです。

また一括前払い保証料が戻ってくる際、金融機関によっては手数料が掛かることがあります(保証料返戻手数料)。保証料返戻額や保証料返戻手数料というのは、なかなか一般消費者の方にはわかりにくい部分ではあるのですが、保証料一括前払いの際はこれらの要素を加味して資金計画を考える必要があります。

それにしても、日経電子版の火曜日=住宅ローン、水曜日=生命保険というコラムは見るも無残な内容ですね。こんな会社の新聞が一部140円もすることの方が高すぎると思います。