間違った『生命保険の原価』論 その2 | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

前々回書きました「生命保険の原価 」に関連して、今回は「純保険料はどこでも同じ」という部分について考えてみたいと思います(すぐに続きをUPしたかったのですがデータを消してしまい間が空いてしまいました)。以下はライフネット生命の広告です。


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「保険の原価(純保険料)はどこも同じでも」という言葉があります。今回もまず結論を書きます。純保険料はどこも同じではありません


例えば、最近「タバコを吸わない」「BMI指数が保険会社規定範囲内」という場合に保険料が安くなる保険があります。これらは、タバコを吸わなかったり(非喫煙体)、身長体重の割合(優良体)によって亡くなる確率の低い層に対して保険料を割り引いている訳ですが、これはどこで保険料を調整しているかというと、ライフネット生命のいうところの生命保険の原価=純保険料です。


「病気の方でも入れます」という保険も目にします。これらは通常の保険よりも保険料が高いという点が話題になりますが、当然、お亡くなりになる方の確率を通常の保険よりも高めに考えています。これら前述の非喫煙体や優良体とは逆ですが、これも純保険料に関係する部分です。


通販型の保険会社の場合、加入時の様々なチェックは対面型の会社よりも精度が低くなります。「逆選択」といって「保険に入りたい人」というはリスクが高いと考えられるので、対面方式の場合、担当者が別途書類を作成したりということがあります。そのため、通販型は本意でない(わかりやすくいうと病歴を隠して加入する)お客様からの申込の可能性が対面型よりも多くなりやすく、会社が予定死亡率(医療保険の予定発生率)を算定するにあたってその点を考慮して保守的に考えるということも経営上大切な観点です。これらも純保険料に関与します。

上記は「保険金(給付金)の支払い」に関することですから純保険料はどこも同じではありません


運用面に関しても「同じ」ではありません。例えば、私は外資系の生命保険会社に勤務していましたが、私が扱っていた保険のほとんどが「無配当」といって配当金のない保険商品でした。一方、いわゆる大手日本社の扱っている保険は「有配当」がほとんどです。


無配当保険と有配当保険では予定利率の考え方が異なります。無配当保険は配当金を払わないので予定利率を高めに設定したり、他方、有配当保険は予定利率を低めに設定し、利益が出たら配当金で契約者に還元するといったことが考えられます。しかも、「有配当」といっても「利差配当」「三利源配当」などがあります。一般論として、無配当保険は配当金がない分保険料が安い、有配当保険は無配当保険よりも保険料が高いけれども利益が出れば配当金がもらえるという違いがあります。


また、保険商品には「定額」と「変額」と2種類あります。変額保険に関しては定額の保険とは異なる「特別勘定」で運用しています(定額の保険は「一般勘定」で運用)。これらに関しても、予定利率の考え方は当然異なります。私達は「定額型の終身保険よりも変額型の終身保険の方が保険料が安い」といったことで確認することができます。これらも純保険料に関連する話です。


このように、「運用」に関することも商品、会社によって異なることがあり得ます。これらは「純保険料」の部分ですから、やはり純保険料はどこも同じではありません


上記2点から「純保険料はどこも同じ」というのは事実に即していません。これらの表現を意図して使っていなければ「間違い」、意図して使っていれば「嘘」ということになります。前者、後者のどちらなのかは私にはわかりませんが、どちらにしても正しい記述ではありません。


ライフネット生命は一次選択(加入時の担当者による面談)がありませんし、様々な料率(非喫煙体、優良体など)も持っていないので、死亡率の面では対面の会社よりも不利な要素を持っています。しかし、そこは突かれたくない部分です。


ですから、「純保険料は生命保険の原価」という言葉と手数料は会社によって違う」という言葉をセットにして手数料=会社が受け取るお金=利益=付加保険料という流れにし、消費者の意識を付加保険料だけに着目させたい訳です(彼らは「死亡率」には触れられたくない)。しかし、付加保険料だけで保険会社の利益は考えません。保険会社が受け取るのは手数料ではなく「死差益」「利差益」「費差益」です。死差益、利差益は付加保険料ではなく純保険料に関係しています


なにより、ライフネット生命の利益の源は死差益、つまり純保険料の部分です。若い世代の保険料を意図的に安くしてその世代の方達を集めます。一次選択がないという反面、若い世代であれば病気の方が少なく告知義務違反の確率が低く、なおかつ保険金を支払う確率も低くて済みます(支払い実績を見ればそれは明らか)。そして、定期保険の更新は70歳までです。70歳以降保険金を払う確率は高くなります。保険は「いざ」というときのためのものですが、その「いざ」という確率が高く、間近に迫ったその年代の方達を放り出してしまえば保険金は払わないで済みます。その分会社にお金は残ります。


つまり、保険金を払わないことで会社が利益を得るという戦略です。どういう戦略をとろうが、付加保険料を開示しようが「お好きにどうぞ」ですが、それに関連して明らかに事実と異なる記述をして募集をすることは批判されるべきでしょう。純保険料からも利益を得ているくせに、純保険料を原価と称してその分の儲けを隠蔽し、あたかも保険会社の利益は付加保険料だけだとする広告手法などもっての他です。


会社の利益は付加保険料と誤解させておけば一般の方は純保険料から利益を得ているという点に気づけません。消費者が知らないこといいことに手玉に取っているともいえるでしょう。これがライフネット生命のカラクリです。


彼らの考えの根底には「だいたい合っていればいい」というのがあるようです。私はそれに関しては同感です。なんでもかんでも100%を求めなくてもいいでしょう。難しいものを理解していただくために私も例え話をすることがよくあります。しかし、「純保険料は生命保険の原価であり、どこでも同じ」というのはだいたい合っているというようなカワイイものではなく、とんでもない間違いです。


それこそ、後田亨さんのような自称とはいえ保険の専門家およびダイヤモンド社をはじめとするメディアというのは、「疑え」だとか「だまされるな」というのであれば、こういうことに対しても問題提起するべきではないでしょうか。現実は完全にそれを助長しているという異常な事態が続いています。


彼(彼女)らには「生命保険という商品は人の命を預かり、ご遺族の生活を支える商品である」という使命感が圧倒的に欠如しています。こういう人達のいうことを鵜呑みにしたり、称賛する方達は、企業のモラルについて今一度考え直すことをお勧めします。