医療品規制当局による警告
【中枢神経刺激剤に対する警告】
2005年: 米国食料医薬品局(FDA)は、ADHD治療に使われる中枢神経系刺激剤の製品ラベルの注意改訂を指示し、「幻覚や自殺念慮、精神病的ふるまい、攻撃性、暴力行為」を引き起こし得ると警告した。
2006年 5月: カナダ保健省は、中枢神経刺激剤が心拍数と血圧をあげ、その結果「心不全や心臓発作、突然死」を引き起こし得ることについて注意喚起した。
2006年 8月: FDAは、デキセドリンについて、心臓に障害を抱える児童に突然死を引き起こし得ることを警告する「枠入り警告表示」を命じた。
2009年 1月: 欧州医療品審査庁医薬品委員会は、メチルフェニデートを含む医療品のパッケージに「うつ病、自殺念慮、敵意、精神病、躁病」を悪化させ得るとの情報を記載すると述べた。
2009年 2月: オーストラリア保健省薬品・医薬品行政局は、メチルフェニデートの薬物依存について枠入り警告を指示した。
2009年 6月: FDAは、中枢神経刺激剤による薬物治療は、健康な児童の突然死に関連している可能性があると述べた。
【抗うつ薬に対する警告】
2004年 3月: FDAは、SSRIについて「不安、激越、パニック発作、不眠症、易刺激性、敵意、衝動性、アカシジア、軽躁、および躁病」を引き起こし得ると警告した。
2004年 10月: FDAは抗うつ剤の薬の包装について、18歳未満に自殺念慮や自殺行為を引き起こす可能性があるという警告を「黒枠入り」で表記するよう、製薬会社に指示した。この警告の対象はのちに24歳以下までに引き上げられた。
オーストラリア、ニュージーランド、日本でも同様の警告がなされた。
2005年 8月:欧州医薬品審査庁医薬品委員会は、抗うつ薬が、自殺未遂、自殺念慮、攻撃性、敵意、反抗的行動、怒りを引き起こすとして、児童に対する抗うつ薬の使用に対するこれまでで最も厳しい警告を発行した。
2009年 1月: FDAはパキシルの製造元に対し、セロトニン症候群という、SSRIとSNRIに関係した悪性症候群様の副作用について、その医薬品安全性情報に追加するよう指示した。これは高熱や筋硬直、筋肉の制御不能、脈拍増加、血圧の変化などを引き起こし、死に至る可能性もある副作用である。
【抗うつ剤と妊婦に対する警告】
2005年、世界保健機構による医療記録の分析の結果、妊娠中に母親がSSRIを服用していた乳児は、離脱症状に襲われる可能性が判明した。2006年2月にArchives of Pediatrics and Adolescent Meedicine で発表された研究でも、妊娠中に母親がSSRIを服用していた新生児の3分の1が、激しい泣き声、わななき、睡眠障害などの離脱症状を経験したと結論付けた。
オーストラリア保健省薬品・医薬品行政局は、妊娠中のSSRI服用が、新生児の心臓障害を引き起こす危険性を増加させることを警告した。FDAは、新生児の心臓の先天異常などの主要な出生異常を引き起こす危険性を増価させ得ることを警告している。カナダ保健省は、新型抗うつ薬が、新生児に肺や心臓の奇病を引き起こす危険性があることを警告している。
【抗不安薬に対する警告】
禁断症状の警告: ベンゾジアゼピン系の薬の服用を急に中止すると、不安の増加や不眠、混乱、激しい動機、異常発汗、震えなどの深刻な禁断症状を経験する可能性がある。
1991年10月: 英国政府は、ベンゾジアゼピン系薬のハルシオンの販売を禁止した。記憶障害や抑うつなど危険な副作用の可能性があることがその理由だった。
2005年3月: 英国国会の厚生委員会は、ベンゾジアゼピンに対する審査結果について「ベンゾジアゼピンの副作用には、過剰鎮静、注意力低下、記憶障害、時に難治性の依存症なども含まれる。突然の服用停止は、けいれんなどの激しい離脱症状を患者に引き起こす場合がある」と発表した。
2008年2月: FDAは、ハルシオンに対して「居眠り運転や、薬物耐性や離脱症状による複雑な挙動」を引き起こす危険性があることの警告を追加した。
2008年2月: オーストラリア保健省薬品・医薬品行政局は、ゾルビデム(睡眠鎮静剤)を含む薬品の製品添付書に、枠入り表示の警告を加えることを指示した。夢遊病や居眠り運転など、睡眠に関連する異常な行為や危険な行為が報告されたのを受けての措置だった。
2008年5月: FDAは,アンビエンにたいして、「正常でない思考、居眠り運転といった行動の変化に加え、倦怠感、むかつき、嘔吐、上部呼吸器感染など」を引き起こす可能性があるとの警告を追加した。
【抗精神病薬に対する警告】
2000年8月: FDAは定型抗精神病薬メレリルについて「心臓血管系に致命的な影響を引き起こす可能性がある」として、最も厳しい警告である「黒枠入り」の警告表示を命じた。
2003年9月: FDAは、6種類の非定型抗精神病薬について、糖尿病と血糖値異常をもたらす危険性があることを示す警告を製品の包装に加えるように製造元に命じた。
2003年9月: 元FDAの職員であるエリザベス・コラー医学博士と同僚が発表した薬物療法に関する研究の中で、ジプレキサを投薬された患者に289の糖尿病の事例が確認された。
また、クロザピン(クロザリル)、オランザピン(ジプレキサ)、リスペリドン(リスパダール)を服用してた患者に対し、すい臓炎の事例に関するFADの有害事例報告を検証した。それによると、100人の患者がケトーシスを発症し、22人が生命に関わるすい臓炎を発症した。うち、壊死性すい臓炎で死亡した15歳を含む、23人の死亡があった。
2005年4月: FDAは非定型抗精神病薬で治療している認知症関連の精神疾患患者では死亡リスクが増加すると通告していたが,定型抗精神病薬でも同様に死亡リスクの増加と関連するという報告があり,今回の通告になった。
<関連する論文>
1. Gill SS et al. Antipsychotic drug use and mortality in older adults with dementia. Ann Intern Med. 2007;146:775-786
2. Schneeweiss S et al. Risk of death associated with the use of conventional versus atypical antipsychotic drugs among elderly patients. CMAJ. 2007;176:627-632.
<医療専門職への通告>
・認知症関連の精神疾患を有し,定型または非定型抗精神病薬で治療を受けている高齢の患者は,死亡のリスクが増加する。
・抗精神薬は,認知症関連の精神疾患治療の適応はない。
・認知症関連の精神疾患治療の適応を有する承認された薬剤はない。
・医療専門職は,他のマネジメントの選択肢を考慮すべきである。
・認知症関連の精神疾患を有する高齢患者に対して,抗精神病薬を処方する医師は,患者,家族,及び介護者と死亡リスクの増加について話し合うべきである。
FDAは,定型抗精神病薬を販売している製薬企業に対して,添付文書の黒枠警告及び警告に,認知症関連の精神疾患を有する高齢患者では,死亡のリスクが増加することを明記することを要求している。
<FDAが示した薬剤>
・定型抗精神病薬
プロクロペラジン(商品名ノバミン),ハロペリドール(商品名セレネース),チオリダジン(商品名メレリル),ピモジド(商品名オーラップ),フルフェナジン(商品名フルメジン),トリフロペラジン(商品名トリフロペラジン散),クロルプロマジン(商品名ウインタミン),ペルフェナジン(商品名トリオミン他)
・非定型抗精神病薬
アリピプラゾール(商品名エビリファイ),リスペリドン(商品名リスパダール),クエチアピン(商品名セロクエル),アランザピン(商品名ジプレキサ)など
2007年6月: オーストラリア保健省薬品・医薬品行政局は、クロザピンと関連した心臓の障害について警告した。2008年には、メドセーフ(ニュージーランド)が同様の警告を発表した。
2008年: ジプレキサの安全性情報に含まれる「黒枠入り」の警告には、認知症の高齢患者の死亡の危険性の増大や、血中脂肪レベルの上昇、体重増加、高血糖、脳卒中「軽度の脳卒中」、悪性症候群、遅発性ジスキネジア、低血圧、判断や思考や反射神経に関する障害、嚥下困難、体温調節障害などが記載されており、しかも「これは完全なリストではない」としている。
2009年4月: アイルランド医薬品委員会は、定型/非定型の抗精神薬について、認知症の治療を受けている高齢患者に、脳卒中や死亡率の増加を招く恐れがあると警告した。