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Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


オリックスが大京の優先株を普通株に転換し子会社化するとのこと。

大京といえば産業再生機構案件で、2005年にオリックスがスポンサーになったんでしたね。

というこどで、子会社化のインパクトを中心に見てみました。

・・・

まず、現在のオリックスの大京株式の保有状況です。

普通株については大京の発行済総数442百万株の31.6%に当たる139百万株をオリックスか保有しています。このほとんどは2005年に第三者割当増資を引き受けたものです(増資額は230億円/単価172円)。

また、優先株については、第1種、第2種、第4種、第7種、第8種の合計5種類を保有しています。この内、1種・2種・4種は2005/3期に、7種・8種は2009/3期に取得しています。株数は合計で89百万株、払込単価は全て400円で総額354億円相当です。優先株主はオリックスのみです(但し、第1・2・4種は既存株主からの取得)。

優先株はいずれも似たような設計で、①普通株に配当する場合の優先配当は額面×TIBOR+1.75~2.00%、②普通配当へは非参加、③優先配当は非累積、④議決権なし、⑤普通株への転換権あり(期限は2025年~2031年でいつでも行使可能)、⑥転換権消滅後、会社側からの転換条項あり、という感じです。

ポイントは普通株への転換条件ですが、転換価格は基本的に市場株価連動ながら(年1回修正される)、各々に上限/下限が定められており、第1種だけは355~444円と高い設定ですが、残りの4種類は上限価格でも64円~101円となっています。

現在の大京の株価は300円くらいですので、第1種以外はかなり有利な転換が可能というわけです。

・・・

今回オリックスが普通株に転換するのは、まさにこの第1種を除く4種類です。

その結果、新規発行される普通株は398百万株。発行済総数に対し840百万株、オリックス保有は538百万株、出資比率は64.0%となり大京は子会社になるというわけです。

この希薄化を嫌気してか、大京の株価は本件公表前(1/17)305円から公表後(1/20)287円と下落しました。元々希薄化の条件は公表されているにも拘わらず、いざ権利行使されるまでは意外と株価には織り込まれていないのでしょうね。

・・・

次に会計の話です。

オリックスは米国会計基準を採用していますので、現在、持分法適用している大京の子会社化に際しては、既存持分の時価評価損益がPL計上されます。

影響額は未開示ですが、ちょっと推測してみましょう。

まずは大京株の連結簿価を知りたいところですが、有報等からでは金額がわかりません。上場関連会社の簿価と時価は開示されていますが、大京に絞った金額は不明です。

なので、取得原価からの積上げで試算してみます。

オリックスがこれまで引き受けた大京株の取得原価は、2005年に普通株230億円、優先株(1・2・4種)236億円、2009年に優先株194億円(7種、8種)と思われます。

但し、2008年に優先株の一部を償還していること、また09/3期末に大京の株価が62円まで下落してかなりの減損損失を計上していることから、正確な金額はわかりません。ただ、09/3期の減損後のオリックス単体決算上の簿価は377億円と開示されていますので、連結上もここまで減損したものと仮定し、ここを起点にします(その後、持株数の変動はありません)。

その後の10/3期~14/3期会社予想までの大京の優先株配当控除後の連結純利益のオリックス持分から、普通株配当の持分を控除し、また10/3期のみなし売却益38億円を加算すると、連結簿価の異動額は262億円と推定されます。従い、2014/3末の連結簿価は377億円+262億円=639億円となります。

一方、時価については、普通株転換時点の時価なので現時点では決定できませんが、仮に1月20日の終値287円で試算すると、普通株538百万株×287円=1,543億円になります。これに残存する第1種の時価(不明なので払込額と同額と仮定)40億円を加算し、1,583億円と試算されます。

ということは、時価評価益は税効果前で1,583億円-639億円=945億円!

1,000億円近い金額です。すごいですね。オリックスの連結純利益は13/3期実績で1,119億円、14/3期の会社予想でも1,450億円です。時価評価益に対する税効果もあるでしょうが、それでもかなりの影響があることは間違いありません。

おそらくその内答えが開示されるでしょうから、結果を楽しみに待ちたいと思います。

ちなみに大京の連結純資産は2014/3末の会社予想純利益ベースで、帳簿上の暖簾と第1種優先株の払込額を控除すると1,372億円です。この持分64%は878億円で、新たな子会社の取得原価1,543億円(普通株部分)との差額から、暖簾等に配分されるのは親会社持分ベースで665億円になります。

また、米国基準はIFRSと異なり全部暖簾方式なので、非支配持分も時価で認識され、暖簾が計上されます。なので、オリックスの連結財務諸表上はこれまた1,000億円程度の暖簾になりますね。

・・・

ちなみに、この優先株は(第1種を除き)かなり有利な条件で普通株への転換が可能で、基本的にいつでも転換権は行使可能です。

従い、オリックスがIFRSを採用した場合、従来から連結子会社だったものと取り扱われるでしょう。米国基準は形式基準なので、議決権比率が50%超なければ(VIEのような特殊ケースでない限り)、転換権のような潜在的議決権があったとしても連結にはなりません。この点、IFRSとは大きな会計基準差異がある状態です。

いつかオリックスがIFRSに移行すれば、この時価評価益はなかったことになりますので、会計的には、その前に転換権を行使して米国基準の段階で評価益をenjoyした、とも考えられますね。

・・・

今回はここまでです。

09/3期の株価62円での巨額減損からすると、現在の株価は300円程度で1,000億円の時価評価益とは、なかなかの成功事例かも知れませんね。


(1/22追記)
今日の東洋経済オンラインの記事。大京の評価益の金額について初めて言及した、記事だと思いますが、株価270円で850億円て、僕のエイヤの試算とほぼ一致してます。
http://toyokeizai.net/articles/-/28809?utm_source=granks&utm_medium=http&utm_campaign=link_back

偶然?

けっこう連結簿価はホント推測なんだけど。もしこのブログを参考にして頂いたのなら有難いですし(間違ってたらすいませんが)、外部ソースなのであれば推測が正しかったということで嬉しいですね。


(2/27追記)
本日、オリックスが大京優先株の転換を実施し、今期の業績予想を純利益ベースで350億円上方修正しました。

但し、これには営業収益の上ブレも含まれており、大京子会社化のよる評価益の金額はまだ開示されていません。

一応、本日の株価227円で試算値をあっさりすると、税効果前で622億円になりますが、結果はどうなりますかね。

しかし、2/27の株価が227円だなんて、大京もうまいですねぇ。


(2/28追記)
いい加減しつこいのですが、本日の日経朝刊によれば、時価評価益は税前570億円だそうです。

ま、会計基準も違うしピタリ当たるわけもありませんが、当たらずとも遠からず、でしたかね。。
サントリーホールディングス(サントリーHD)がJim BeamやMaker's Mark等のブランドを有する蒸留酒メーカーであるビーム社(米国上場)を買収するようです。

買収価額は企業価値ベースで160億ドル(1兆6,500億円/103円換算)という超巨額案件です。

さっそくSECに開示されている合併契約書等を見てみました。

・・・

まずはストラクチャーの確認です。

サントリーHDが米国デラウェア州に100%出資のSPCを設立し、当該SPCを消滅会社、ビームを存続会社とする逆三角合併を行います。合併対価は全て現金とし、ビームはサントリーHDの100%子会社となり上場廃止になります。

買収者は昨年IPOしたサントリー食品ではなく、非上場親会社のサントリーHDです。

ストラクチャーはシンプルですね。

買収価額はビーム社1株当り83.5ドル(公表前日の市場株価に対し25%のプレミアム)。発行済株式総数が164百万株なので株式総額で137億ドルになります。これにnet有利子負債(2013/9末時点で22億ドル)等を加えた企業価値ベースで160億ドルです。

合併対価が現金なので株主にとっては当然課税ディールですが、逆三角合併なのでビーム社自身には特に課税関係は発生しないものと思います。要するに、米国税務上は株式買収と同じということです。

・・・

さて、この160億ドルという評価はどんな感じなのでしょうか。

ビーム社の業績を見ると、EBITDAで2011年度6.0億ドル、2012年度6.9億ドル、2013/9時点のLTMで7.6億ドルです。直近のEV/EBITDAでも約21倍です(両社の開示資料でも20倍以上と記載されています)。

これはかなりの高値買いではないでしょうか。

(ちなみに昨年上場したサントリー食品のIPO時の市場評価はEV/EBITDAで9倍程度でしたね。)

ビーム社の連結純資産は2013/9末で49億ドルですが、ここから暖簾25.5億ドル、無形資産(税効果後)17億ドルを除くと6億ドルしかありません。従い、株式買収価額のほとんど全額の131億ドル(1兆3,400億円)程が買収による暖簾/無形資産等として会計上認識されます。

サントリーHDの連結純資産は1兆円程度ですので、暖簾等が純資産を上回ることになります。

ビーム社が米国基準の財務諸表で認識している無形資産のほとんどは2005年に買収したブランドの商標(Maker's Mark、Canadian Club等)で、大部分が耐用年数を確定できず非償却の無形資産となっています。

サントリーHDはJim Beam等も含めて無形資産を改めて時価評価するわけで、かなりの金額になると思いますが、同社は日本基準を採用しており、日本基準にはいわゆる非償却無形資産という概念がありません。

本件のような米国基準で非償却となっている無形資産を日本基準においてどのように取り扱うのか、興味深いところです。

そして無形資産に配分できなかった差額は暖簾になります。日本基準では暖簾は20年以内で均等償却されます。仮に無形資産も含めて20年で償却した場合、年間の償却費は税効果後で670億円程度になります。

サントリーHDの連結純利益は、今期は子会社サントリー食品の上場による売却/評価益という特殊要因がありますが、これがない2012年度で366億円、ビーム社のLTMの純利益で390億円程度なので、これらを吹き飛ばす程のインパクトです。

おそらくサントリーHDが一般株主を意識しなくていい非上場会社だからこそできるんでしょう。

まあ、通常の上場会社であれば、これを機にIFRSに移行すれば暖簾の償却は避けられるわけですが。

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最後に、買収資金はサントリーHDの手元現金と東京三菱UFJからのローンで調達するようです。

サントリーHD単体の手元現金残は2013/6末で約2,400億円、これにサントリー食品上場時の株式売却で800億円程度のキャッシュインがあったはずなので、買収に活用できる手元現金は3,000億円程度と思われます。

上場で新株発行したサントリー食品にも3,000億円近い現金が溜まっていますが、今回は出資参画しませんし、特別配当で親会社に引き上げるわけでもなさそうです。

とすると、残りの1兆3,500億円はローンということになるのでしょう。

調達条件やビームへのpush down/親会社保証の有無等は今のところわかりませんが、ビーム社を含むサントリーHD連結ベースでもEBITDAは2,600億円程度と思われ、これに対しnet有利子負債が1兆6,500億円ということで(買収前のサントリーHD連結ベースではnet有利子負債はほとんどなし)、net Debt/EBITDAでも6.2倍です。

ちなみにこれは2006年にソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収した時のnet Debt/EBITDAの6.2倍と同じ水準で、昨年のスプリント買収完了後の3.2倍を大きく上回ります(同社開示資料より)。

資金調達環境のいいタイミングでしょうけれど、やはり相当な規模です。

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今回はこんな感じです。

かなりの割高な買収で減損リスクも気になりますが、佐治社長の仰る「一世一代の大勝負」に期待したいですね。



(1/15追記)

Bloombergの記事によれば、東京三菱UFJ銀行からの融資は100億~120億ドル(最大1兆2,400億円)だそうです。

とすると、サントリーHDは手持ちの現金で4,100億円が必要になります。

HD単体の手元資金は上記の通り約3,000億円。これだけでは1,000億円ほど足りませんので、やはり上場子会社のサントリー食品の現金を活用するのでしょう。

同社の手元現金は上場後の2013/9末で2,829億円。2,000億円程度は英GSKからの事業買収に充てるわけですが、1,000億円くらいなら何とかHDにグループ内融資/キャッシュマネジメント等で回せるんですかね。

まあ、ギリギリですが。

上場子会社のグループ内融資は意外と要注意なんですけど、まあその話はやめときます。

尚、net Debt/EBITDAで6.2倍という水準は変わりません。手元現金控除後ベースの議論なので。


(1/16追記)

今日の日経によれば、融資額は1兆4,000億円とのこと。

やっぱそうだよね。

1兆2,400億円だとギリギリ過ぎて危ないもん。まあ、イチイチ新しい報道が出るたびに更新しても仕方ないのでこの辺にしますが。その内、サントリーから正解が公表されるでしょう。


2014年のブログ更新第一段です。

三菱自動車の新株発行と優先株の処理が同社から公表されていますので、以前のエントリーのアップデートを兼ねて確認してみます。

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まずおさらいですが、三菱自動車が発行している優先株はA種と第1回~第4回G種の合計5種類です。残っている優先株の総数は38万株、発行価額で3,808億円相当になります。

これは三菱自動車の経営支援目的で三菱グループの三菱重工、三菱商事、東京三菱UFJ銀行(MUFJ銀行)、東京三菱UFJ信託が引き受けたものです。

・・・

さて、今回の公表された三菱自動車の増資/優先株処理の概要は以下の通りです。

まず普通株の公募増資で218百万株、第三者割当増資で23百万株を発行します。第三者割当増資はオーバーアロットメントがなされた場合に実施されるので、どの程度実施されるかはまだわかりません。

発行価額は未定ですが、1月7日の開示資料によれば総額2,416億円を見込んでいるとのこと。つまり1株当りで1,003円程度、ということになります。(ちなみに本日1月9日の終値は1,090円です)

そして、この内、2,100億円程度を上限に優先株の償還を行うとのことです。

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優先株の償還は、定款変更により三菱自動車による取得条項を付すことによって実施します。取得条項は、増資による払込及び同時に実施する減資による剰余金確保を行った上で発動されます。

取得条項の行使による各優先株の取得価額は、全種類ともに発行価額100万円/株であるのに対し、A種及び第1回G種で85万円/株、第2回~第4回G種で62万円~69万円/株となっています。

これは、A種及び第1回G種の普通株への転換条件が有利(=転換価格の上限・下限が低い)であることから、第2回~第5回G種に比べて評価額が高くなっていることによります。

とはいえ、これらの優先株の償還価額は発行価額から15%~38%のディスカウントとなっています。PwCによる株価算定書を取得しているようですが、優先株の経済実態からは乖離しているような印象です。(この点は以前のエントリー記載の通り)

そして三菱自動車は、ディスカウント率の高い優先株から順番に取得していくと公表しています。

・・・

さて、この条件で優先株を全て償還するには2,848億円の現金が必要ですが、優先株の処理に充てるのは上述の通り2,100億円です。残りの優先株は基本的には普通株に転換されることになります。

三菱グループ各社は、現時点で三菱自動車の普通株の33%程度を保有しているわけですが、今回の増資による希薄化及び優先株の一部の普通株への転換により、引き続き普通株(議決権)の34%~35%を保有するとしています。

具体的に計算してみました。

現在の三菱自動車の普通株の発行済総数は623百万株、増資後は最大で864百万株になります(第三者割当増資も全株実施前提)。この時点で、三菱グループ各社の保有株207百万株の割合は33%から24%に低下します。

ここから、例えば34.5%まで出資比率を高めるには、139百万株相当について優先株を普通株に転換させる必要があります(分子、分母ともに増える計算になっています)。また、仮に第三者割当増資が実施されない場合には、普通株への転換は127百万株相当が必要です。

・・・

計算が複雑になってきますが、第三者割当増資が全株実施され、ディスカウント率の高い第2回~第4回G種から普通株に転換される(転換価格は20営業日VWAPですが1,050円と仮定)と仮定すると、優先株の一部転換により34.5%の出資比率とした上で、残りの償還金額は1,884億円になります。

ちなみに同条件でディスカウント率の低いA種、第1回G種から普通株に転換すると、償還金額は1,631億円にしかなりません。

三菱グループ各社からすれば、現状の株価であればどの優先株を転換しても普通株への転換比率はさほど変わらないので、であればディスカウント率の高い優先株から普通株に転換していくインセンティブが当然あるはずです。しかし、三菱自動車もディスカウント率の高い優先株から償還すると公表していますので、実際にはどうなるのでしょうかね。

尚、優先株償還の上限の目途は2,100億円程度とされており、金額的には上記の検証結果からしてあまり違和感はありませんね。

三菱グループ各社ではこの優先株の償還により462億円~715億円の株式譲渡損が税務上認識されることになります(どの優先株が転換されるかにより幅を持たせています)。

償還金額の妥当性は、PwCから株価算定書を取っているということでしょうけど、「償還で得られる現金より価値が高い思われる普通株への転換権を敢えて行使しない」という選択により株式譲渡損失が発生するわけで、やはり税務上問題にならないか気になりますね。

・・・

さて、最後に話題を変えます。

今回、三菱重工は、100%子会社(SPC)を設立して当該SPCがMUFJ銀行から優先株の一部を取得し、また、当該SPCを営業者、三菱商事・MUFJ銀行を匿名組合員、優先株を匿名組合出資の財産とする匿名組合契約を締結します。

これは、三菱重工がSPCと併せて議決権20%を確保し、持分法適用を継続するための手法と説明されています。

なかなか面白いです。

三菱重工は連結納税を採用していますので、当該SPCは連結子法人になると思われます。当該SPCの所得は受取配当金のみで(出資比率にもよりますが)益金不算入となる一方、匿名組合員である三菱商事・MUFJ銀行への損益分配は損金になります。

従い、SPCとしての課税所得は赤字になるところ、連結納税を活用して三菱重工の所得と通算するのも狙いの1つと思われます。

ちなみに、匿名組合契約による現物出資は、税務上の取扱いについて明文の規定はありませんが、現物出資した財産は営業者に帰属しますので、(組合事業終了時に現物が返還されるような特約がない限り)現物出資時点で税務上譲渡損益を認識するものと考えられます。

三菱商事、MUFJ銀行は譲渡損失を認識するものと思います。

その上で、今後匿名組合により分配される利益は課税所得を構成します。普通株として保有していれば一定割合について非課税となっていたわけですから、この辺りをどのように整理したのか、興味深いところではあります。

・・・

今回はこんなところです。

また本年も宜しくお願いします。

セブン&アイがフランフランを運営するバルスに出資参画するようです。

今年は積極的ですね。

バルスは2011年にMBOにより非上場化していますが、今回のセブン&アイの出資と絡めて確認してみました。

・・・

まず、2011年10月のバルスのMBOにより、バルスの出資構成は以下のようになっています。

経営者である高島氏が香港に設立した100%出資SPCであるBlue Wedge Limited(BWL)が73.3%、三菱商事が26.7%出資する香港のBals International Limited(BIL)を持株会社とし、その下に日本のバルスが100%子会社としてぶら下がっています。

この日本のバルスは、TOBビークルだったTMコーポレーションと旧バルスの合併会社で、TMコーポレーションが存続会社になっているようです。

バルスの買収総額は158億円。

これをEquity45億円、みずほ銀行のローン125億円で調達しています。

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今回、セブン&アイホールディングス(セブン)が出資参画して三菱商事がExitします。

具体的には、セブンがバルスの増資を引き受けて30%株主になるとともに、三菱商事が保有する香港親会社BILの株式26.7%を取得します。

結果、セブンの持分は直接30%+間接26.7%×70%=18.7%の合計48.7%になります。

・・・

セブンの買収価額は非公開ですが、報道によれば約50億円程度の見込みとのこと。

これはMBO時の評価額と比べてどうなのでしょう。

詳細なデータがないので企業価値の比較はできませんが、株式価値ベースなら比較できます。

今回の買収総額50億円は、バルスへの増資額とBIL株式の取得額の合計になります。

バルスへの増資により30%を獲得するということは、既存のバルスを100とすると、43の増資を行うことになります(43÷143=30%)。これに三菱商事保有の27を取得するわけですので、合計70(43+27)に相当する株の買値が50億円ということです。

逆算すると、既存のバルス100%で72億円になります(50億円÷70%)。

MBO時のEquity出資は45億円でしたので(みずほローンは合併によりバルス自身にpush downされている)、MBOから約2年で60%も値上がりしたことになります。株式市場の環境も手伝っているのでしょうが、なかなかいいリターンのようです。

三菱商事にとっては、MBO時の出資額が12億円、今回の売却額が19億円で、7億円の売却益が出るものと思われます。

・・・

このバルスの出資構成は、香港のSPCを2つも経由していて複雑ですね。

おそらく税制上のメリットを考慮したのでしょう。

経営者の高島氏からすると、バルスに直接出資した場合、バルスが配当した時点で配当所得として所得税が課されることになります。一方、香港の会社を経由することで、バルスが配当しても配当所得が計上されなくなります。

配当を受けるのは香港のBILです。香港では配当は非課税ですが、本邦のタックスヘイブン税制(TH)の対象になります。個人の場合、THの合算所得は雑所得として課税されます。しかし、TH所得の算定上、関係会社からの配当は所得から控除できますので、純粋持株会社であるBILにおいて本邦で合算すべき所得は発生しないものと思われます。

そうすると、やはり経営者個人からすると、BIL、更にはBWLから配当を行うまで、課税を半永久的に繰り延べることができるわけですね。(BILは三菱/セブンとの関係上を配当を行う必要があるかも知れませんが、BWLでは永久に配当を留保することができます)

なるほど。

日本から香港への配当には5%の源泉税が掛かりますが、これを負担してでも香港経由とするメリットがあると判断したのでしょう。

今回出資参画したセブンからすると、国内の出資比率30%、香港への出資比率26.7%でいずれも配当益金不算入のメリットを享受できます。香港経由のところは、多少源泉税が掛かるものの、クリティカルな問題ではなさそうです。

尚、香港で株式譲渡によるキャピタルゲインが生じた場合は、香港では非課税ですが、タックスヘイブン税制により日本で課税されることになります。

・・・

さて、今回はここまでです。

きっとこれが年内最後の記事になりそうですね。

それでは、皆様、メリークリスマス、そしてよいお年を。

米国投資ファンドのベインキャピタルがTOBによりマクロミル(東証一部上場/ネットによる市場調査業)を買収するようです。

買収総額514億円という大型のLBO案件です。

ということで、早速開示資料を覗いてみました。

・・・

ベインキャピタルの設立した日本子会社BCJ12が、マクロミルの全発行済株式(新株予約権等を含む)を対象にTOBを行います。

希薄化後の発行済株式総数(自己株除く)は65百万株、TOB単価は786円で買収総額は514億円になります。

主要株主であるマクロミル社長及びヤフーとの応募契約により、21百万株が確保されています。その上でTOB成立の下限を44百万株(議決権の2/3)としており、これは一般株主の過半数の応募にほぼ相当します(いわゆるmajority of minority)。

買付の上限は設定されていません(100%TOB)。応募しなかった株主については全株取得条項付種類株式を活用してスクイーズアウトを行い、最終的にはBCJ12を存続会社とする吸収合併によりマクロミルは消滅することになります。

典型的なLBOスキームですね。

マクロミルは2000年に設立されたベンチャー企業で、払込資本の総額は80億円程度です。当初の株主は相当のリターンを享受できますね。

・・・

Valuationを見てみましょう。

TOB価格786円は公表前日終値の674円に比べて16.6%のプレミアムです。株価との比較としては、あまりプレミアムは高くない方かも知れません。(ちなみに年初来高値は5月8日の890円。これは第3四半期決算発表直後に上昇したものですが、その後右肩下がりです。)

マクロミルの業績は、営業利益で前期実績38億円、今期の会社予想36億円、来期は47億円の増益予想です。マクロミルの減価償却費は5億円程度なので、EBITDAで41~52億円になります。

また、net有利子負債は2013/9末時点で64億円の現金超過(TOB対象となっている新株予約権付社債を除く)なので、TOB価格ベースの事業価値は450億円(買収総額514億円-現金超過64億円)になります。

従い、EBITDA倍率は今期予想ベースで11倍、来期予想ベースで9倍程度。それなりの利益成長を織り込んだValuationという感じでしょうか。

・・・

しかし、一点気になるところがあります。

今期予想の営業利益36億円は、本件公表に先立つ12月6日に2億円上方修正されたものです(電通マーケティングインサイトの子会社化の影響)。これにより12月7日の株価は前日の649円から683円に上昇しました。

一方、来期の大幅な増益予想については、今回のTOB開示資料の中で(DCF評価の前提として)初めて公表されています。増益の要因は「Questant」という新事業の収益貢献等ということです。当然ながら、この影響はTOB公表前の株価には織り込まれていません。

なので、これを公表していれば足元の株価はもっと高かったはずであり、市場株価との比較においてはTOB価格のプレミアムは十分ではない可能性があります。この点、既存株主の保護の観点からはやや疑問がありますね。

ま、DCFに基づく評価には影響しませんし、それで適正ならいいんですけどね。

尚、マクロミルはFAのメリルリンチからTOB価格の妥当性等につきフェアネスオピニオンを取得しており、取締役会でも株主に対する応募推奨を決議しています。

・・・

次にBCJ12の資金調達を見てみます。

これは12月12日付の公開買付届出書で確認できます。

調達資金の総額は530億円。

この内、みずほ銀行のローンが280億円(TIBORに基づく変動利率、期間は7年、均等返済のタームローンAと一括返済のタームローンBで約半額ずつ)メザニン融資が80億円(固定利率3.0%、期間は8年)、ベインによるEquity拠出が170億円です。

ざっとDebt:Equityで7:3程度の割合です。

当然ながらこのローンは合併後のマクロミルのCFから返済するわけですが、金利や返済期限等の融資条件についてはかなり会社に有利な条件と思われます。優先劣後関係の記載がないので確たることは言えませんが、メザニン(と思われる資金)でも固定利率3.0%と安く、銀行ローンについても返済期限が7年と一般的なLBOローンより長いように感じます。

BCJ12/マクロミル合併会社の毎期の資金負担は、タームローンAの返済で20億円、金利でざっくり9億円(平均利率2.5%と仮定)、合計29億円程度ではないかと思います。マクロミルのFCF(EBITDAから法人税を控除)は35~40億円程度と思われ、けっして余裕のある水準とは思えません。

金融機関もけっこうリスクを取りましたね。というか、今の資金調達環境がこんな感じなんでしょうかね。

・・・

最後に会計・税務の整理です。

ストラクチャーの最終形としては、全株取得条項を活用してスクイーズアウトした後、BCJ12とマクロミルが合併します。

存続会社はBCJ12です。

100%親子間の合併ですので、税務上は適格合併(=簿価引継ぎで課税なし)でしょう。

但し、買収直後の合併である上、親会社であるBCJ12は買収目的のSPCであり事業を有していませんので、いわゆる「みなし共同事業要件」を満たせず、両社の繰越欠損金等の引継ぎ等に制限が生じます。とはいえ、マクロミル本体には繰越欠損金がありませんので、実質的には問題ないものと思われます。

会計上は、合併会社のBSに370億円程度の暖簾が計上されます(買収額514億円-13/9末の暖簾除く純資産142億円。連結決算上の暖簾が合併により親単体に引き継がれる)。日本基準では20年以内の均等償却ですので、最低でも年間19億円の償却費になります。

税後利益25億円(前期実績)のマクロミルに、年間9億円の金利(税前)と19億円の暖簾償却費(税前=税後)が計上され、当面はほとんど純利益の出ない会社になりそうです。

尚、逆にマクロミルを存続会社にした場合、会計上、マクロミルのBSに暖簾は計上されません。しかし、BCJ12の取得したマクロミル株式が自己株式となる結果、約200億円の大幅な債務超過になってしまいます。債務超過は避ける必要があるでしょうから、償却負担はあるものの、BCJ12を存続会社にするのはやむを得ませんね。

(銀行から連結決算の作成を要求されてる可能性もあるので、その場合はいずれにせよ連結決算上は暖簾の計上は避けられませんが。)

ちなみに、マクロミル株式に含まれる暖簾は税務上は認識されず、適格合併によりBCJ12の資本金等の額のマイナスとして処理されます。従い、暖簾見合いのプレミアムを損金算入することは永久に出来ません。勿体ないですが、株式買収後に適格合併するストラクチャーの場合は仕方ありません。

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今回はここまでです。

これだけ単体の暖簾の負担が大きいと、再上場も容易ではないでしょうね。

7年後のリファイナンス或いはベインのExitまでにどれくらいのValue Upができるのか、今後に注目したいと思います。