米ベインによるマクロミルへのLBO ~Valuation、資金調達、会計・税務概観 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


米国投資ファンドのベインキャピタルがTOBによりマクロミル(東証一部上場/ネットによる市場調査業)を買収するようです。

買収総額514億円という大型のLBO案件です。

ということで、早速開示資料を覗いてみました。

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ベインキャピタルの設立した日本子会社BCJ12が、マクロミルの全発行済株式(新株予約権等を含む)を対象にTOBを行います。

希薄化後の発行済株式総数(自己株除く)は65百万株、TOB単価は786円で買収総額は514億円になります。

主要株主であるマクロミル社長及びヤフーとの応募契約により、21百万株が確保されています。その上でTOB成立の下限を44百万株(議決権の2/3)としており、これは一般株主の過半数の応募にほぼ相当します(いわゆるmajority of minority)。

買付の上限は設定されていません(100%TOB)。応募しなかった株主については全株取得条項付種類株式を活用してスクイーズアウトを行い、最終的にはBCJ12を存続会社とする吸収合併によりマクロミルは消滅することになります。

典型的なLBOスキームですね。

マクロミルは2000年に設立されたベンチャー企業で、払込資本の総額は80億円程度です。当初の株主は相当のリターンを享受できますね。

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Valuationを見てみましょう。

TOB価格786円は公表前日終値の674円に比べて16.6%のプレミアムです。株価との比較としては、あまりプレミアムは高くない方かも知れません。(ちなみに年初来高値は5月8日の890円。これは第3四半期決算発表直後に上昇したものですが、その後右肩下がりです。)

マクロミルの業績は、営業利益で前期実績38億円、今期の会社予想36億円、来期は47億円の増益予想です。マクロミルの減価償却費は5億円程度なので、EBITDAで41~52億円になります。

また、net有利子負債は2013/9末時点で64億円の現金超過(TOB対象となっている新株予約権付社債を除く)なので、TOB価格ベースの事業価値は450億円(買収総額514億円-現金超過64億円)になります。

従い、EBITDA倍率は今期予想ベースで11倍、来期予想ベースで9倍程度。それなりの利益成長を織り込んだValuationという感じでしょうか。

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しかし、一点気になるところがあります。

今期予想の営業利益36億円は、本件公表に先立つ12月6日に2億円上方修正されたものです(電通マーケティングインサイトの子会社化の影響)。これにより12月7日の株価は前日の649円から683円に上昇しました。

一方、来期の大幅な増益予想については、今回のTOB開示資料の中で(DCF評価の前提として)初めて公表されています。増益の要因は「Questant」という新事業の収益貢献等ということです。当然ながら、この影響はTOB公表前の株価には織り込まれていません。

なので、これを公表していれば足元の株価はもっと高かったはずであり、市場株価との比較においてはTOB価格のプレミアムは十分ではない可能性があります。この点、既存株主の保護の観点からはやや疑問がありますね。

ま、DCFに基づく評価には影響しませんし、それで適正ならいいんですけどね。

尚、マクロミルはFAのメリルリンチからTOB価格の妥当性等につきフェアネスオピニオンを取得しており、取締役会でも株主に対する応募推奨を決議しています。

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次にBCJ12の資金調達を見てみます。

これは12月12日付の公開買付届出書で確認できます。

調達資金の総額は530億円。

この内、みずほ銀行のローンが280億円(TIBORに基づく変動利率、期間は7年、均等返済のタームローンAと一括返済のタームローンBで約半額ずつ)メザニン融資が80億円(固定利率3.0%、期間は8年)、ベインによるEquity拠出が170億円です。

ざっとDebt:Equityで7:3程度の割合です。

当然ながらこのローンは合併後のマクロミルのCFから返済するわけですが、金利や返済期限等の融資条件についてはかなり会社に有利な条件と思われます。優先劣後関係の記載がないので確たることは言えませんが、メザニン(と思われる資金)でも固定利率3.0%と安く、銀行ローンについても返済期限が7年と一般的なLBOローンより長いように感じます。

BCJ12/マクロミル合併会社の毎期の資金負担は、タームローンAの返済で20億円、金利でざっくり9億円(平均利率2.5%と仮定)、合計29億円程度ではないかと思います。マクロミルのFCF(EBITDAから法人税を控除)は35~40億円程度と思われ、けっして余裕のある水準とは思えません。

金融機関もけっこうリスクを取りましたね。というか、今の資金調達環境がこんな感じなんでしょうかね。

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最後に会計・税務の整理です。

ストラクチャーの最終形としては、全株取得条項を活用してスクイーズアウトした後、BCJ12とマクロミルが合併します。

存続会社はBCJ12です。

100%親子間の合併ですので、税務上は適格合併(=簿価引継ぎで課税なし)でしょう。

但し、買収直後の合併である上、親会社であるBCJ12は買収目的のSPCであり事業を有していませんので、いわゆる「みなし共同事業要件」を満たせず、両社の繰越欠損金等の引継ぎ等に制限が生じます。とはいえ、マクロミル本体には繰越欠損金がありませんので、実質的には問題ないものと思われます。

会計上は、合併会社のBSに370億円程度の暖簾が計上されます(買収額514億円-13/9末の暖簾除く純資産142億円。連結決算上の暖簾が合併により親単体に引き継がれる)。日本基準では20年以内の均等償却ですので、最低でも年間19億円の償却費になります。

税後利益25億円(前期実績)のマクロミルに、年間9億円の金利(税前)と19億円の暖簾償却費(税前=税後)が計上され、当面はほとんど純利益の出ない会社になりそうです。

尚、逆にマクロミルを存続会社にした場合、会計上、マクロミルのBSに暖簾は計上されません。しかし、BCJ12の取得したマクロミル株式が自己株式となる結果、約200億円の大幅な債務超過になってしまいます。債務超過は避ける必要があるでしょうから、償却負担はあるものの、BCJ12を存続会社にするのはやむを得ませんね。

(銀行から連結決算の作成を要求されてる可能性もあるので、その場合はいずれにせよ連結決算上は暖簾の計上は避けられませんが。)

ちなみに、マクロミル株式に含まれる暖簾は税務上は認識されず、適格合併によりBCJ12の資本金等の額のマイナスとして処理されます。従い、暖簾見合いのプレミアムを損金算入することは永久に出来ません。勿体ないですが、株式買収後に適格合併するストラクチャーの場合は仕方ありません。

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今回はここまでです。

これだけ単体の暖簾の負担が大きいと、再上場も容易ではないでしょうね。

7年後のリファイナンス或いはベインのExitまでにどれくらいのValue Upができるのか、今後に注目したいと思います。