今回は、平成29年度税制改正の大綱から、組織再編・連結納税関係について、ざっくりと(大綱の)逐条解説をしたいと思います。引用箇所は大綱の文章そのままになります。
1. スピンオフ税制の整備
組織再編税制等について、次の見直しを行う。
① 適格分割の範囲に、分割法人が行っていた事業の一部をその分割型分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割として次の要件に該当するものを加える。ただし、分割に伴って分割法人の株主の持株数に応じて分割承継法人の株式のみが交付されるものに限る。
まずは今回の改正の目玉であるスピンオフ税制です。これまで、米国と異なり、日本ではスピンオフは基本的に非適格でしたので、税制がスピンオフを阻害しているという批判やニーズがあったところです。①はこの内、分割型分割についてです。共同で事業を営むためではなく、「独立して行うための」分割として整備されることになりました。尚、「分割法人の株主の持株数に応じて」というのは分割型分割の適格要件として元々あるものですね。で、次のイ~ホの要件を全て満たす必要があります。
イ 分割法人が分割前に他の者による支配関係がないものであり、分割承継法人が分割後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること。
まず、これは目新しい感じですが、もともと誰かの子会社だとダメで、更に、スピンオフ後も誰にも支配されない必要があるようです。グループ内の再編になると、そもそもスピンオフじゃないし、他の適格分割の類型で救われるんですかね。
ロ 分割法人の分割事業の主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること。
ハ 分割法人の分割事業の従業者のおおむね 80%以上が分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること。
ニ 分割法人の分割事業が分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること。
この3つは、まあそうでしょうということで、特にコメントなし。
ホ 分割法人の役員又は重要な使用人が分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること。
「重要な使用人」というのは新しいですね。元々、分割法人の役員であることを要求すると要件として厳し過ぎるでしょうから、妥当な感じはしますね。重要かどうかの具体的な判定要素はよくわからないですが。。
尚、対価として分割承継法人の株式の交付を受けた株主の株式継続保有要件は課されないようです。独立して事業を行うための再編なので、投資の継続も要求しないんでしょうかね。
② 100%子法人株式の全部を分配する現物分配について、分割型分割と同様に取り扱うための措置として、次の措置を講ずる。
次に、子会社株式の現物分配によるスピンオフの整備です。100%子会社に限定されていますので、要注意ですよ。
イ 現物分配法人の株主において、旧株(現物分配法人の株式)のうちその交付を受けた子法人株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなすとともに、下記ロに該当しない場合には、その子法人株式の価額のうち資本金等の額を超える部分を原資とする金額を配当とする。ただし、現物分配法人の株主の持株数に応じて子法人株式のみが交付される場合には、旧株の譲渡損益の計上を繰り延べる(所得税についても同様とする。 )。
整理すると、まず、①以下のロを満たす場合は適格現物分配となり、株主は株式譲渡益課税もみなし配当も生じないことになります。次に、②ロを満たさない場合は非適格現物分配になり、現物分配財産が子法人株式のみの場合は、みなし配当を認識しつつ株式譲渡損益はなし、一方、③現物分配財産が子法人株式だけじゃない場合は、株式譲渡損益とみなし配当課税の対象になります。他の組織再編の取扱いと整合している感じですが、利益剰余金を原資とする現物分配でもみなし配当が生じるということで、これまでとは大きく取扱いが変わるのかも知れません。これも、現物分配財産が100%子会社株式の場合に限定された話なんでしょうかね。
ロ 次の要件に該当する 100%子法人株式の現物分配を適格組織再編成の一類型とし、現物分配法人における子法人株式の譲渡損益を計上しないこととするとともに、源泉徴収等を行わないこととする。ただし、現物分配により現物分配法人の株主の持株数に応じて子法人株式のみが交付されるものに限る。
で、100%子法人株式の現物分配によるスピンオフの適格要件は(イ)~(二)のすべてを満たすことです。源泉徴収を行わないこととするというのも重要ですね。持株数に応じて、というのは配当なので当り前ですが、種類株発行会社の場合ってどうなんでしょ。
(イ)現物分配法人が現物分配前に他の者による支配関係がないものであり、子法人が現物分配後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること。
分割型分割によるスピンオフと同様に、グループ内はNGのようです。
(ロ)子法人の従業者のおおむね 80%以上がその業務に引き続き従事することが見込まれていること。
(ハ)子法人の主要な事業が引き続き行われることが見込まれていること。
ここは特にコメントなしですが、100%子会社のentityはそのままなので、分割型分割と異なり、主要な資産・負債の移転要件はありません。
(ニ)子法人の特定役員の全てがその現物分配に伴って退任をするものでないこと。
全てが退任するものではないことなので、1人でも残っていればOKですかね。尚、元々に別entityなので、分割型分割のような「重要な使用人」という概念は採用されていません。
③ 内国法人である現物分配法人の 100%子法人株式の全部を分配する現物分配により子法人株式の交付を受けた外国法人株主について、分割型分割と同様に取り扱うための措置として、次の措置を講ずる(所得税についても同様とする。)。
現物分配によるスピンオフを行った場合の、外国法人株主の課税関係の手当です。これまで、現物分配は剰余金の配当と同じだったので、分割型分割によるスピンオフと取扱いを同じにするということでしょうか。
イ 事業譲渡類似の株式等の譲渡益課税について、子法人株式その他の資産が交付される場合の適用要件の整備を行う。
事業譲渡類似の株式譲渡益課税というのは、いわゆる5/25ルールですが、「子法人株式その他の資産」が交付されるケースの整備なので、これはスピンオフとは別の話ですかね。
ロ 内国法人である現物分配法人の外国法人株主の持株数に応じて外国子法人株式のみが交付される場合には、旧株(内国法人である現物分配法人の株式)の譲渡益(我が国で課税の対象となる国内源泉所得に該当するものに限る。)に対して課税する。 ただし、この取扱いは、外国法人株主がその有する恒久的施設において旧株を管理する場合には、適用しない。この場合、外国法人株主がその交付を受けた外国子法人株式をその交付の時にその恒久的施設において管理しなくなったときは、その交付の時に外国法人株主の恒久的施設と本店等との間の内部取引があったものとして、恒久的施設帰属所得に係る所得の金額を計算する。
このロは、現物分配財産が「外国子法人株式のみ」の場合です。適格スピンオフになる場合でも、外国子法人株式が外国法人株主に分配されると日本の課税権が失われるので、原則として分配時に譲渡益課税の対象にするということでしょうか。(あまり自信ありませんが)
④ 単独新設分社型分割の後にその交付を受けた分割承継法人株式を分配する上記②ロの現物分配を行うことが見込まれている場合には、その単独新設分社型分割に係る適格要件のうち関係継続要件について、その現物分配の直前の時までの関係により判定することとする。
(注)単独新設現物出資についても同様とする。
これもスピンオフ税制の一環です。単独新設分社型分割又は現物出資により100%子会社を切り出した上で、現物分配によりスピンオフする場合でも適格となるように整備するものです。これがないと、単独新設分割等で、親子関係の継続が見込まれないと非適格になってしまいますので。逆に、これも整備しておかないと、スピンオフを適格でやるか非適格でやるか、自由に選択できてしまうという感じなんでしょうかね。
さて、ここまでがスピンオフ関係です。組織再編税制の適格要件にスピンオフを取り込むというコンセプトだと、こんな感じに仕上がりました、ということですかね。
2. その他の組織再編・連結納税関係の改正
⑤ 吸収合併及び株式交換に係る適格要件のうち対価に関する要件について、合併法人又は株式交換完全親法人が被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を有する場合におけるその他の株主に対して交付する対価を除外して判定することとする。
さて、これは超重要な改正です。これまで、合併・株式交換の適格要件として、対価に一部でも現金等が含まれると自動的に非適格になっていたわけですが、合併法人/株式交換完全親法人が再編前から2/3以上の株式を保有している子会社の場合、他の株主には現金等を交付しても適格要件を満たせることになります。現金対価の適格再編を認めるということで、画期的な改正ではないでしょうか。より柔軟な適格再編を認めるという望ましい方向性の改正ですし、ちょっとでも現金を混ぜれば非適格にできるという、ある種のタックスプランニングを防止する効果もあるのかも知れません。更に次の⑥も併せ、非常に大きな影響がありそうです。ちなみに、細かいですが、株式交換については、株式交換完全親法人が保有する完全子法人株式には対価が交付されない(交換の対象にならない)わけですが、「その他の株主に対して交付する対価を除外して判定」というのはやや整合しないような?まあ、うまく条文に落とし込むんでしょうけど。
⑥ 全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理及び株式売渡請求による完全子法人化について、株式交換と同様に、組織再編税制の一環として位置づけ、次の措置を講ずる。
これも非常に重要です。これまで、いわゆるスクイーズアウトの手法として、株式交換は組織再編税制の対象となる一方、全株取得条項・株式併合・株式売渡請求は組織再編税制の埒外ということで、経済的に同じ行為でも課税関係が異なる状況でしたので、今回、これらを統一するようです。
イ 企業グループ内の株式交換と同様の適格要件を満たさない場合におけるその完全子法人となった法人を、非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の時価評価制度等の対象に加える。
ということで、当然ながら、適格要件を満たさないスクイーズアウトは非適格株式交換と同様、時価評価課税に服することになります。で、スクイーズアウトというと、普通は対価は現金なわけですが、上述⑤の通り、スクイーズアウト前に株式の2/3以上を保有していれば、現金対価でも適格要件を満たせることになります。2/3も保有せずにスクイーズアウトをすることは考えられませんので、現在のスクイーズアウトの実務を阻害するようなことにはならないと思われます。
ロ 企業グループ内の株式交換と同様の適格要件を満たす場合におけるその完全子法人となった法人を連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度の対象から除外するとともに、その完全子法人となった法人の連結納税の開始等の前に生じた欠損金額をその個別所得金額を限度として、連結納税制度の下での繰越控除の対象に加える。
これも重要です。連結納税開始/加入時の時価評価課税は非常に厳しく、特に加入時については、実質的には株式対価の株式交換くらいしか回避策がない状況でした。これが、現金対価のスクイーズアウトでも(適格株式交換と同様に)連結加入時の時価評価が不要になり、(加入法人の個別所得からのみ控除できる)特定連結欠損金としての持ち込みも可能になります。
⑦ 非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の時価評価制度及び連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度について、時価評価の対象となる資産から、帳簿価額が 1,000 万円未満の資産を除外する。
そして極め付けはこれです。これまで、連結加入時の時価評価課税から除外される資産は、「含み益」が1,000万円未満の資産でした。つまり、いわゆる「営業権」は、税法上の固定資産として時価評価の対象とされ、プレミアム(のれん)を付けた買収等、含み益が1,000万円を超える場合は時価評価課税の対象になるということで、実務上、非常に大きな問題・障害になっていたわけです。これが、含み益ではなく「帳簿価額」基準になる(あるいは追加される?)ことで、通常、自己創設営業権は帳簿価額がゼロ円ですので、多くの場合、営業権は時価評価が不要になります。これは超重要な改正ですよ。上述の⑤⑥により、そもそも時価評価不要(適格)での連結加入の余地が広がり、更に、非適格の場合でも営業権の時価評価課税が不要となるケースが増えることで、連結納税の重大な障害が取り除かれ、連結納税の採用・拡大に大いに貢献するのではないでしょうか。正直、個人的には2010年以来の大改正だと思います。
この当たりの纏め表はこちらをご参照下さい。
⑧ みなし配当の額が生ずる事由となる自己の株式の取得について、その範囲から全部取得条項付種類株式に係る定めを設ける旨の定款変更に反対する株主からの買取請求に基づく取得を除外する(所得税についても同様とする。 )。
(注)買取請求は、株主がその全部取得条項付種類株式の取得決議に係る取得対価の割当てに関する事項を知った後に行った場合で、買取請求をしないとすれば端数となる株式のみの交付を受けることとなる場合に行ったものに限る。
去年まで(?)のスクイーズアウトの代表的手法だった全株取得条項付種類株式スキームについて、種類株式を設ける際の定款変更と、全株取得条項の行使と、どのタイミングで反対するかによって、株主のみなし配当課税の有無に差異があり、特にみなし配当を取る目的で定款変更に反対するようなケースがありました。今回、これらの取扱いを統一するということで、加えて、昨年の会社法の改正も含め、あらかじめTOB等に応じても課税関係や利息等のメリットもなくなる方向になるものと思います。まあ、あるべき改正でしょうかね。
⑨ 組織再編税制における適格要件について、次の見直しを行う。
イ 企業グループ内の分割型分割に係る適格要件のうち関係継続要件について、支配法人と分割承継法人との間の関係(現行:支配法人と分割法人及び分割承継法人との間の関係)が継続することが見込まれていることとする。
これは、正直、改正の意図がよくわかりません。グループ内の分割型分割後、支配法人(親会社)と分割承継法人の支配関係の継続が必要な一方、分割法人との支配関係は継続する必要がなくなるようです。分離する事業を分割承継法人に切り出すか、分割法人に残すか(その他の事業を分割承継法人に切り出すか)はある意味自由なので、何故このような適格要件の緩和を行うのでしょうか。。売却する事業がある場合に、売却対象事業を分割法人に残し、その分割法人株式を譲渡するスキームにすれば、その事業自体に対する課税を回避することが可能になってしまうように思うのですが。しかも、売却対象事業を分割承継法人に切り出す場合は課税を受けることになるので、納税者が選択可能ということになってしまいませんかね?
ロ 共同事業を行うための合併、分割型分割、株式交換及び株式移転に係る適格要件のうち株式継続保有要件について、被合併法人等の発行済株式の50%超を保有する企業グループ内の株主がその交付を受けた合併法人等の株式の全部を継続して保有することが見込まれていること(現行:株主数50 人未満の場合に限り、交付を受けた合併法人等の株式の全部を継続して保有することが見込まれている株主の有する被合併法人等の株式の数が発行済株式の 80%以上であること)とする。
これも基本的には適格要件を緩和する方向ですかね。グループ外の再編(共同事業要件)について、株式継続保有要件が課されるのは、株式の50%超を保有する企業グループ内の株主に限定されるようです。何点か細かい疑問ですが、この大綱の書き振りからすると、被合併法人等の株主が50人以上の場合も適用対象になるんですかね?上場会社等で、確認できない場合はどうなるんでしょうか。
ハ 当初の組織再編成の後に他の組織再編成が行われることが見込まれている場合の当初の組織再編成の適格要件について、所要の見直しを行う。
そうなんですね。現行の規定は、再編後に適格合併が一回だけ予定されているような限定されたケースにしか対応していないので、より柔軟になるのはwelcomeかと思います。
(注)上記⑤から⑨までの改正は、平成 29 年 10 月1日以後に行われる組織再編成について適用する。
適用開始の時期です。この改正を見据え、再編の時期をずらすという選択肢もありそうです。
⑩ 営業権の償却方法について、取得年度の償却限度額の計算上、月割計算を行うこととする(所得税についても同様とする。 )。資産調整勘定及び負債調整勘定についても同様とする。
従来、営業権は5年償却ですが、償却限度額の計算上、月割計算がなかったんですよね。更に、資産調整勘定は会社の損金経理に拘らず強制的な5年均等償却でした。これが、おそらくいずれも月割計算を含めた償却費(又は償却限度額)にするのでしょう。まあ、妥当な改正かと思います。
⑪ 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度のうち支配関係がある法人間でみなし共同事業要件を満たさない適格合併等が行われた場合における欠損金の制限措置及び特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度について、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に生じた特定資産の譲渡等損失額を制限の対象に加える。
細かくなってきました。あまり実務で触れるケースは少なそうですが、買収した子会社が抱えていた繰越欠損金及び含み損資産の実現損失の合併による持込制限について、(子会社の)買収日の属する事業年度の内、買収前に発生した損失についても制限対象に加えるようです。買収を決めた後、買収前に含み損を実現した場合のその損失が従来は制限対象外だったということでしょうか。(やや自信ないので、必要に応じ加筆・修正します)
⑫ 特定株主等によって支配された欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入制度について、特定支配関係が生じた事業年度において一定の事由が生じた場合のその事業年度開始の日から特定支配関係発生日の前日までの間に生じた特定資産の譲渡等損失額を損金不算入の対象に加える。
⑬ 特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の制限措置について、他の者による完全支配関係がある法人が特定支配関係が生じた日以後に解散し、残余財産が確定した場合を制限の対象に加える。
欠損等法人に係る欠損金持込制限の強化ですかね。いずれもこれまで漏れていた細かい穴への対応と思いますが、あまり自信ないです。。
⑭ その他所要の措置を講ずる。
はい、ノーコメント。
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ということで、今回はここまでです。
今後、1月~2月には法案、4月には法律・政令、そして7月ごろに通達という感じでしょうか。最終的にどう条文に落とし込まれるのか、楽しみにしましょう。