「のれん」はそもそも資産計上するのをやめたら?というお話 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


のれんを償却すべきか、減損テストのみにすべきかという議論が盛り上がっているので、もっと抜本的な解決策があるのでは?という思い付きレベルのしょーもない話です。

1.償却・減損の議論の前に、のれんは資産計上すべきなのか?

ざっくり言うと、IFRSの「のれん」の定義は、「①企業結合で取得した、②個別に識別・認識された資産以外の将来の経済的便益を表す資産」。

 

つまり、当り前だが、のれんは資産であるとされている(だからこそ、資産として計上され、償却すべきやら減損するやらという話になる)。

 

では、その「資産」の定義はというと、IFRSの概念フレームワークでは、「①過去の事象の結果として企業が支配し、②将来の経済的便益が期待される資源」。

企業が「のれん」分の対価を支払って買収する以上、②将来の経済的便益を期待していることは間違いない。一方で、「資産」の定義に照らして、のれんは①企業が支配しているといえるのか?のれんに対価を支払ったのは事実だが、何を買ったのかもわかってないのに、支配もクソもあるのか?(というか、支配ってなんだ?)

尚、ブランドとか顧客との関係とか、無形資産として識別可能なものは「のれん」とは別個に計上されるので、何を買ったのか識別できないのれんというのは、こういう無形資産ですらないもの。超過収益力だとか、シナジーだとかで説明されたりもする。

のれんに対価を支払い、将来の便益を期待するとしても、同じく将来の便益を期待して支払った広告宣伝費と何が違うのか?

例えば中身が全く同じA社とB社があって、B社だけ追加的に株主が100億円払い込んで100億円の広告宣伝を行ったとしたら(税金とかは無視)、両社のBSは全く同じだが(広告宣伝費は資産計上されない)、将来CFの期待が高まるから(100億円そのままかは別にして)B社の方が株式価値は高くなる。

 

その分B社の買収にA社より高い金額を支払ったら、のれんになる。それって、まさに超過収益力なんだろうけど、そののれんに対する支配って何?広告宣伝費は支配してないのに?

ということで、発想を切り替えて、「のれん」は支配という観点で資産の定義を満たさない(かも知れない)から、のれんは資産計上しない、ということにしてみたらどうか。

2.資産計上しない場合ののれんの会計処理は?

のれんを資産計上しない場合に考えられる会計処理は、買収企業において企業結合時に、取得対価が取得した資産・負債の公正価値を上回る部分について(念のため、いわゆる持分プーリング法ではなくて、識別可能なブランド等の無形資産は引き続き、資産として計上する)、

① 費用として処理する、或いは
② その他の資本の控除項目として処理する。

①も②も企業結合後のBSは基本的に同じ(違いは、純資産の減少がREか、その他の資本か、という点のみ)だが、企業或いは事業の買収に際して費用を計上するというのは、買収企業の経営成績を表すという観点から筋が悪そう。

一方で②の場合、資本から控除するということは資本取引なのか?という疑問もあるが、連結グループを構成する企業・事業の構成自体が変更されるので、親会社株主の取引と言えなくもない気がするし、個人的には②資本から控除がいいと思う(最悪、流行に乗ってOCIに逃げる、という選択肢も?)。ここはもう少し検討が必要か。

3.メリット・デメリット

このように処理することによるメリットを挙げてみる。

 

のれんの減損テストが不要になり、関係者(財務諸表作成者、監査人等)の膨大なコストと手間が省ける

② のれんの計上や費用・損失がPERやPBRといった株価指標に与えるノイズがなくなり、(あまり会計知識のない)一般投資家の投資判断に資する。特に、ファンドによるLBOによって膨大なのれんと借入金でBSが構成される会社が上場して、PER等を見る一般投資家が騙されるという悲劇が防止される。(尚、専門的な株式価値評価においては元々のれんはCFとは無関係なので影響なし)。

いずれも非常に大きなメリットだ。もう”too late, too little”だなんて言わせない。償却すべきかどうか、みたいな神学論争もいらない。

逆にデメリットや気になる点(対応が必要な点)としてはこんな感じ。

① 買収によって純資産が毀損することとなる為、財務コベナンツの観点等で問題になり得る。
② のれんの減損テストがなくなることで買収の成否に係る情報開示が後退する懸念がある。
③ LBOのような経済活動に萎縮効果があるかも(LBOやると債務超過になってしまうので)。
④ 税務及び税効果会計への影響

特に②については、何らかの開示制度の整備は必要だろうけど、まあ、どれも何とかなりそう(テキトー)。

・・・

なかなか悪くないのではないでしょうか。