久しぶりの綾辻行人さんの作品です。

 

まだ未読が6作品もある「館シリーズ」からなぜ「時計館の殺人」を購入したのかは定かではありませんがしばらく本棚に眠っていたので、気合を入れて600ページを超える大作を読んでみようと気になり読み始めました。

 

読み始めから続きが気になる展開で、私にしては珍しく一気に読むことができました。

ただ全体の印象は序盤から終盤にかけて、「かなり横溝チック」という印象がぬぐえませんでした。

 

過去の館の周辺にまつわる連続死や、その後の館周辺で巻き起こる幽霊騒動などはどこかで見たことあるような展開です。

そして極めつけは野々宮が館に訪れた江南たちに対して「今すぐ出ていくことじゃ」とか「破滅じゃ」と警告するとことろは、あまりにも横溝チックで思わず頬がゆるみます。

 

また過去の子どものいたずらが原因で愛する娘が死に、その原因を作った子供たちに復讐するとか、自殺した姉の無念を晴らすため妹が復讐するとか、偶然写った写真を処分するためにカメラマンを殺害するなど、悪く言えばありきたりな展開が続くため、面白い内容ではあるのですが、あまりにも古典的だなという印象がぬぐえませんでした。

 

しかし「綾辻以降」と言われる新本格の旗手である綾辻さんの事、きっとこれだけでは終わらないと思い残り少ないページ数を読み進めました。

 

そして期待を裏切らないアッと驚く展開にさすが綾辻さん!!!と思いました。

横溝チックで終わるかと思ったら、新本格らしくやぱり最後にひっくり返してくれました。

 

もともと私が3年前に読書を始めたきっかけはミステリー小説が読みたかったからで、そして真っ先に買ったのが「十角館の殺人」であるので、綾辻さんには思い入れがあります。

そんな綾辻さんの見事なひっくり返しを読んで、”やはり綾辻さんはすごかった”と再認識しました。

 

そして久しぶりに”やっぱり読書はいいな~”とも思いました。

 

今回の最大のトリックである通常の1.2倍の早さで進む時計を考えついたのもすごいです。

 

さてそんな感動を与えてくれて作品ですが、個人的にツッコみたいことはいろいろあります(笑)。

そこでしょうもないツッコミをいくつかしていきます。

 

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ミステリー小説において降霊術なんてやってはいけません。絶対何かが起きますから(笑)!!

・・と思ったら案外すんなり終わりました。

私はてっきり明かりがついたら誰かが死んでると思ったのですが。

これは敢えて綾辻さんが私のような読者の期待を裏切るためにハスしてきたと思いました。

 

小学生(しかも同じ塾に通い、一緒に遊ぶような友達)の4人が、同じ大学に進学し同じサークルに入り、小学生のころ合宿に行った鎌倉の森の館に大学生になってから再び訪れる・・どんだけご都・・いえ、どんだけすごい確率なのやら、と思います。

 

東京や首都圏なら大学も多いので同じ大学に進学する可能性はありそうですが、なぜ大学に入ってまで同じサークルに入るのでしょうか?

中学、高校の交友関係も入り込めないほど盤石な関係だったのでしょうか??

彼女や彼氏はいなかったのでしょうか?

 

私の経験と照らし合わせるとちょっと信じられませんが・・まあ仲がいいのは良きことなんですけどね。

 

沈黙の女神の歌声で塔が崩れる時に、時計塔の外した針が落ちてきて伊波に刺さりました。

落下した時計の針が刺さるというのは私の一番のお気に入りの作品【ここからネタバレ】麻耶雄嵩さんの「神様ゲーム」【ネタバレここまで】にもあるシーンですが、この作品においては塔が崩れるドサクサに紛れてしまい、針が落ちて刺さるのは衝撃度が少ないため、必要性をあまり感じません。

 

今更ご都合主義をどうこう言うつもりはありませんが、もう少し効果的な使い方があったのかな~と思いました。

 

それにしても通常の1.2倍の早さで時計が進んだら一日が短く感じるでしょうね。

作中で江南が”お腹がすいていない”というのも、館内の時計と体になじんでいる体内時計とのギャップを考えたら、そりゃそうでしょう。

 

ちなみに今の時代なら、一人くらいこっそり携帯電話、音楽プレーヤー、携帯ゲーム機などを持ち込んで、その機器と時間を照らし合わせてバレそうですね。

 

カメラを壊した理由が予想をした「偶然に取られてしまった写真のフィルムを消すため」ではなく「カメラの時計機能を壊すため」だったのには、これはなるほどと思いました。

 

江南はこれで2回殺人事件の関係者になり、しかも生き残ったわけですが・・これで江南はある意味死神確定ですね(笑)。

江南は大学の同じサークルの人間と仕事の関係者を亡くしてますからね。

 

江南とは仕事でもプライベートでも居合わせたくないです。

 

そして中村青司・・呪われた建築家(笑)。

もういっそのこと中村青司の設計の建物を調べ上げて、調査して何かしらの違法な箇所を指摘して告発して取り壊した方が世のため人のためになるのではないでしょうか。

 

今回の時計館でも事件が起こる10年前から自殺、怪我が元で破傷風、交通事故、山での遭難、火事で焼死、交通事故・・偶然が重なりすぎです。

これはもう完全にご都・・いえきっと中村青司の呪いでしょう(汗)。

 

ミステリー小説を読んでいつも思うのですが、人間の死体を運び出すという作業は一人で行うにはかなり重労働だと思うのですが、伊波は女性一人で納骨堂に運んだり、森に運んだりしています。

 

物語で鹿谷が『たった一人で死体を一つ一つ森まで運ぶのは、口で云うよりもずっと大変な作業だっただろうさ。・・』と言っていますが、実際には並み大抵の精神状態ではできないでしょう。

 

巻頭に「平野優佳女史に、感謝を込めて」とあります。

これは「霧越邸殺人事件」でもありましたが、今回は編集者への感謝のようですね。

霧越邸では奥さんに捧げていたようですし、綾辻さんの気の利く男ぶりは見習いたいものです(笑)。

 

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表紙のタイトルに「MURDER OF TOKEI-KAN」とあります。

おそらくいろいろ考えた末に”TOKEI-KAN”が以外に合うタイトルがないという結論に至ったのでしょうね。

 

”CLOCK TOWER”だと時計塔ですし、"CLOCK MANSION"もなんか違う気がしますし。「迷路館の殺人」でも書きましたが、そのあたりは綾辻さんのこだわりがあるのでしょう。

 

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さて久しぶりに綾辻さんの作品を堪能しました。

綾辻さんの作品で読んでみたいのはたくさんあるので、まだまだ楽しませてくれることでしょう。

 

(個人的評価)

面白さ    ☆☆☆☆☆

スケール   ☆☆☆☆☆

トリック   ☆☆☆☆☆

ツッコミどこ ☆☆☆☆☆