伊坂幸太郎さんの作品を読むのは「アヒルと鴨のコインロッカー 」「重力ピエロ 」に続き3冊目になります。

 

相変わらず安定した面白さです。伊坂さんの本は今のところハズれなしですね。

 

推理物ではありませんが、得体の知れない何かとの戦いはスリリングです。

 

文章も伊坂さんらしく、相変わらず「 」の直後にセルフツッコミの心情または自分のセリフを続けているのは私はあまり好きではありませんが、面白さを損なうものではありませんし、ここまでくると「伊坂節」とも思える職人芸です。

 

(なお言外のセリフについての私の見解を早坂吝さんの「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件 」で少しだけ述べております)

 

そして伊坂さんの描く物語のキャラクターはどれも生き生きしています。特に脇役のオヤジたちがいい味を出して私は好きです。

 

青柳の父親やロッキーや保土ヶ谷は印象に残りますね

 

そして物語に無駄な部分がないのが伊坂さんの作品であり、記述の全てに意味があり、全てがつながっていると思わせるくらい緻密です。

 

 

何しろ青柳の人生は今までのこの逃亡のためにあったのかと思えるくらい、過去の青柳の体験した出来事が逃走劇に結びつきます。

 

 

森田やカズや樋口との会話や出来事、花火工場でバイトや親父の病的な痴漢嫌い、果てはご飯粒を残すことやエレベーターのボタンを押す指まで、青柳にとって良いことから悪いことまで、どこかで物語につながってきます。

 

 

そしてビートルズの「Golden Slumbers」はあの頃を思い出すようにつなぎ合わされて作り出された曲と、今まで別々の人生を生きてきた人たちのそれぞれの行動がつなぎ合わされ青柳の逃走劇を作り上げていく。

 

 

また青少年文化研究会の4人はビートルズのメンバーと被らせているのでしょう。否応なく月日は経過し、仲間が1人亡くなり、もうあの頃にはもどれないと思いながら一つのもの(一つのこと)を作り上げていく・・悲しい対比ですね。

 

 

黒幕は誰かと真相を知りたくなりますが、そこを描かないことが伊坂さんのいじわるなところでしょう(笑)。

 

また物語のベースになっているケネディ大統領暗殺事件の真相が闇の中なので、それに倣っているのかもしれません。

 

第三部にノンフィクションライターの調査が描かれています。

 

全体の内容から私の印象としては、海老沢たち日本の政敵とアメリカが手を組んで実行したのかなと思いました。
途中で利権がどうこうという話とあいまいな思惑の話が出てくるので、医師会やカジノ業界も絡んでいるのかもしれません。

 

気になることといえば、第二部の病院です。

 

保土ヶ谷は出てきました。
妙に大人びてなれなれしい中学生は三浦=キルオか?と思ったのですが、田中徹の「隣の個室に入院する中学生」とあるのでたぶん三浦とは別人でしょう。
また2日目の明るいうちに三浦は病院で死んで、同じ2日目の夜の8時に病院の喫煙室に中学生がいるのでこの記述も別人の根拠になるのではないでしょうか。

 

田中徹は第二部のメインの語り部なのに、その後は出て来た様子がないと思われます。

 

記述を無駄にしない、全てをつなげる伊坂さんのことなので田中徹は第三章のノンフィクションライターではないかと思っておりますが・・「森の声」という表現を使っていることからノンフィクションライターは青柳で、田中は中学生と同じく第二部のみの出演ということでしょうか。

 

最後にどうでもいいことですが、いくつかのツッコミを(笑)

 

 

政治家が関わっているのは間違いないでしょうが、1人殺すのに大げさで迷惑な話ですね。

 

どうせならケネディ大統領暗殺のように1人のスナイパーを雇って対象者を殺し、そのスナイパー1人を口封じした方が楽なのに・・

 

それに比べてずっと前から計画して、影武者や仕掛け人のような関係者をたくさんつくって、用が済んだら関係者全員を殺す・・無駄が多すぎです。

 

 

また子どもの描写、特に4歳の七美の描写は物語であるにしても、少し子どもらしくなさすぎではないかと思います。

 

七美が話すたびに、違和感が最後まで抜けず不自然だな~と思っていました。

 

あと大学時代に放置されていた車が10年以上経ってバッテリーを変えただけで動くものなのでしょうか。

 

それ以前に10年以上放置されていたらガラスが割られてたりタイヤが盗まれていたりして走る以前の問題になる気がします。

 

これら以外にも全体的に都合の良いことばかりが続きますが、それが物語の面白さを損なうものではありませんからいいんですけどね。

 

 

(個人的評価)

 

面白さ   ☆☆☆☆☆
スリリング ☆☆☆☆
都合のよさ ☆☆☆☆☆
脇役のよさ ☆☆☆☆☆