この記事は「雨池編」のつづきです。
土砂降りから何とか逃げ切り、麦草峠で一晩明かす。
食料・飲料水の補給には成功したが、アルコールの補給に失敗して淋しい一夜になった。
三日目の朝は、またしてもどんよりと曇り空。
公園のように整備された麦草ヒュッテの前を通り、まずは白駒池へ向かう。
「すっぱーつ!」
麦草ヒュッテから白駒池一帯は観光地として整備されているようだ。
木道や案内標識などもしっかり整備されていて気軽に散歩できるようになっている。
白駒池周辺には立派なウッドデッキが設置されている。
もはや登山道や遊歩道というより、どこかの庭園のようである。
きっと昼間になれば観光客であふれることであろう。
早朝の白駒池はひっそりとしていた。
それでも周辺の宿泊施設に泊まった人が朝の散歩をしていたりバードウォッチャーが大きなカメラを抱えてウロウロしていたりと常に人気がある。
白駒荘はびっくりするほど立派な建物だった。
これはもう山小屋っていうよりホテルだよなー。
「ソフトクリーム…」
「まだ営業してないって」
旧館?の方が趣があるかな。
「こういうところに泊まって優雅に過ごしてみたいっぺ」
「…お金、貯めようか」
白駒池には湖畔を周回するように道がつけられている。
我々は途中の分岐から白駒池を離れにゅうを目指す。
それにしても「にゅう」というのは不思議な山名だ。
「乳」に由来する…という説をどこかで見たような気もするが、現地での表記も統一されておらず本当のところはわからない。
ちなみに「にゅう」の他には「ニュウ」「にう」「にゆう」「にぅ」など。
どこかの分岐で「ニュー中山」という表記があったが、これは遊んでいるとしか思えない。
場末のホテルかっつーの。
「にゅう・中山峠方面っていう意味だっぺ」
しばらく進むと白駒湿原に至る。
樹林帯に囲まれた静かな湿原だ。
いきなり道がひどいことになった。
観光地は白駒湿原まで、此処から先は登山者の世界…ということか。
軽装の観光客が山に向かわないようにわざとやっているのかと思うくらい整備の落差が激しい。
泥濘ゾーンはやがて岩ゾーンへ。
靴底の泥と岩に生えた苔で滑る滑る!
岩ゾーンはさらにウッドゾーンへと変わっていった。
今度は張り出しだ木の根に足を取られて何度も転びそうになる。
「にゅう」という柔らかいイメージの山名とは裏腹に、なかなかクセの強い登山道だ。
朝っぱらから一汗かかされたが、にゅうの肩に出たところで感動が待っていた。
富士山が見えたのだ!
「富士山!」
「今日は岩手山!って言わなかったね」
「さすがに学習したっぺ(ドヤ」
ずっと樹林帯の中で気が付かなかったが、青空がのぞいているじゃないの!
急いで山頂直下の岩場をよじ登る。
山頂の岩の上に上がると絶景が広がっていた。
天気は回復傾向のようだ。
足元には白駒池が見える。
その向こうの雲を被っているのは茶臼山や縞枯山だろうか。
これから向かう南八ヶ岳方面。
北に比べ荒々しい雰囲気の片鱗がうかがえる。
「にゅう、登ったどー」
まずは本日一座目、にゅうに無事に登頂することができた。
つづく