序詩・森の若葉
なつめにしまっておきたいほど
いたいけな孫むすめがうまれた
新緑のころにうまれてきたので
「わかば」という 名をつけた
へたにさわったらこわれそうだ
神も 悪魔も手がつけようない
小さなあくびと 小さなくさめ
それに小さなしゃっくりもする
君が 年ごろといわれる頃には
も少しいい日本だったらいいが
なにしろいまの日本といっはら
あんぽんたんとくるまばかりだ
しょうひちりきで泣きわめいて
それから 小さなおならもする
森の若葉よ 小さなまごむすめ
生れたからにはのびずばなるまい
・・・(金子光晴「若葉のうた」より)
1975/7/1 中日新聞
「若葉のうた」という詩集を開いたら、
新聞の切り抜きが はさんであった。
自分がはさんだのは まちがいないけど、
すっかり忘れていた。
ボクが金子光晴を読んだのは、
反戦詩からだった。
当時は ベトナム戦争が活発で
そんな流れに乗っかっていた
戦争を知らない世代のボクだった。
この「若葉のうた」は、
そんな反戦とは 無関係な
ただただ 孫娘・わかば のことが
可愛くて仕方のない おじいちゃんの心情ばかり。
生れたからにはのびずばなるまい
でも、
最後の一行からは、そんな詩人の思いが伝わる。