考える練習(1) (明るくなる話) 石油の寿命40年? | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

考える練習(1) (明るくなる話) 石油の寿命40年? (2/18)


そういえば、かなり前から「日本政府」というのは無かったのかも知れません。でも長い自民党政治の中で、なんとなく「政府」というのがあるような錯覚襲われていたような気がします。



でも、原発事故で「国民を守ろうとする政府」がすでにいないことがハッキリしました。かくなる上は国民が一人一人で自分と自分の家族を守らなければならない時代が日本にもきたということになります。



そこで、このシリーズ(三日坊主にならないように!)では、「政府無し、NHKがウソをつくとして、自分で考えて正解を見つける」という練習を「知識を増やさずに、今のまま判る練習」を目指したいと思います。



「知識がなければ正しい判断はできない」というのが普通ですが、どうも今の日本はそれ以前のことが多いように思うからです.知識は小学生でも良く頭を巡らすことができれば、かなりのことまで判るし、それから質問するとその質問もかなり的を得たものになるからです。


・・・・・・・・・


解説者:「石油会社が確認している油田の量を「確認埋蔵量」と言うが、それはわずかに40年分なのだ。だから、確実な石油の寿命は40年で残りが少ない。」


視聴者:「えっ!あと40年しか無いのですか?! ところで、むかし石油の会社は大きくて「メジャー」と言われていたような気がしますが、大きな会社が油田を持っているのでしょう?」


解説者:「そう、かつてはセブン・シスターズなどと言っていが、今は、エクソン・モービルやロイヤル・ダッチ・シェルなどを「スーパーメジャー」と言っている」


視聴者:「大きな会社ですから、歴史も古いんですね?」


解説者:「そうだ。ロックフェラーが作ったスタンダード石油が1911年だから、今年でちょうど100年になるな」


視聴者:「創立100年の会社なのに、これから石油が40年しかないということになると、会社が40年しか持たないのですから、不安ではないのですか?」


解説者:「ん? 会社が40年しか持たないって?」


視聴者:「だって、石油が40年しかないんでしょう? 石油が無くなったら石油会社は売るものがなくなるんじゃないですか?」


解説者:「えっ?石油が40年しかない? 何で?」


視聴者:「さっき、そういわれませんでしたか?」


解説者:「ああ、それは「確認埋蔵量」だよ。私は確認埋蔵量って言ったはずだが」


視聴者:「だって、石油はあと40年って言われたでしょ」


解説者:「慌てちゃだめだよ。私は「確認埋蔵量」の解説もしたはずだ。確認されている石油は40年っていうことだよ」


視聴者:「それじゃ、今から石油ショックの時に「石油があと40年」と言っていたのも「確認埋蔵量」ということですか?」


解説者:「そうだ。無くなるわけじゃない。」


視聴者:「それじゃ、石油が無くなって、そのスーパーメジャーとかいう会社が仕事ができなくなるのはいつ頃なのですか?」


解説者:「スーパーメジャーが別の仕事をしだしたということも聞いたことがないから、まだかなり先なんじゃないか。第一、スーパーメジャーは40年先の油田しか探していないし、もしそれで無くなるというなら先を争って探すから、かえって確認埋蔵量は増えるだろうから」


視聴者:「確かにそうですね。40年までしか油田を探していないということは、探せばすぐ見つかるという自信があるからでしょう。それにしても「石油が無くなるから節約しろというのはどういうことなのでしょうね」


・・・・・・・・・


石油は探査を始めてから生産まで30年ぐらいかかります。でも、石油はたっぷりありますので、メジャーはギリギリにならないと新しい油田を探査しません。つまり、油田の候補地は多いし探査をし始めたらすぐ見つかるので、他の会社に先を越される心配もないからです。でも、この解説者はそれを説明するのを巧みに逃げ、日本人に「石油はまもなく無くなる」という錯覚を与えているのに成功しています。



こういう解説者を「頭が良い」と言うことがありますが、頭というのはそんなことに使うのですか?


・・・用語解説・・・


「確認埋蔵量」:すでに石油会社などが開発している油田にある量。寿命は40年ぐらいが普通で、40年前からずっと40年と言われている。


「究極埋蔵量」:確認埋蔵量などから推定した最終的に人間が掘ることができる石油で、その寿命は550年から600万年(600万年であることに注意)。


(平成24年2月18日)



--------ここから音声内容--------



ええと、アメリカ人があの、銃を持ってですね、ピストルとかそういうの持つことを、ほんとにこう日本人って理解できないわけですよ。ときどきドカーン!と打たれたりして死にますでしょ、そうすると「そんなことしなくたっていいのに」って言うけど。アメリカには、ま、いわば警察がない、国が無いんですよね。ところが日本はもう1500年ぐらいずっと国があったわけですから、まぁ国が守ってくれるということだったんで、私もそういうふうにずっと思ってきたんですけど。










どうもかなり前から、日本はあの、「政府」が無かったのかもしれませんね。自民党政治の最後の方でも、まぁ政府があるような気がしてましたけど、ほんとは国民を守ってくれなかったのかもしれませんね。だけど、今度の原発事故で、「国民を守ろうという意志のある政府」はもう日本にはいない、ということがハッキリ判りましたね。アメリカと同じように、自分とか自分の家族を守るためには銃を持たなきゃいけないと、日本の場合は銃じゃなくて「知識」ですけど。そういうふうになりました、私はそう思いますね、残念ですけど。これはまた、いずれ回復すると思いますが。










このシリーズではですね、「政府が無い国民」ということになりますと、アメリカのように自分で考えなきゃいけませんので、少し練習をですね、私も含めてやってみようと。で、普通はですね、「知識がなければ判断ができない」というのが普通ですけど、そうでもないんですよ。私、あの学問やっとりましてですね、ま、知識なくたって相当程度はですね、「おかしい」ということを追い詰めることができるんですね。そういった考え方をですね、いろんな例をとってこれから少しやっていこうかなぁと思って、これもあの三日坊主にならないように。幸い、あの「知の侮辱」っていうのが、私三日坊主になるかなぁとか思ったら、もう11回とか続きましたから、成功しましたんで。こちらも何とか、頑張りたいなぁと思っとります。










ちょっと最初は、対話形式で。テレビの解説者、NHKみたいなことを想定してんですが。何とか偉そうに言うと、それに対して視聴者がちょっと質問するという形で最初書いてみました。こういう形で書くのがどうかな?と思ったけど、割合と良さそうですね。ええと、まぁあの、この対談というか会話形式のやつは、まぁ文章見てもらうことに致しまして。










解説者が、「あと『確認埋蔵量』が40年しか無い」と、まぁこう言いますね。そうすると、あとで判るんですけど解説者は「確認埋蔵量が40年」と言ってるだけで、あとは別に言ってないんですけど、それを聞いた視聴者の方は「えっ、あと40年しか無いんですか!?」、「じゃあ、メジャーと呼ばれる大きな石油会社はどうなんですか?」と、「もう40年で仕事なくなっちゃうんですか?」って疑問が湧くわけですね。










そうすると、解説者は相変わらず、「いや、このメジャーは昔はセブン・シスターズって言ったけど、今はスーパーメジャーと言うんだ」、「エクソン・モービルとかロイヤル・ダッチ・シェルなんかがあるんだ」とまぁいうようなですね、ことを解説する…知識を十分持ってるわけですね。「ロックフェラーのスタンダード(石油)は1911年だから、今は100年目なんだ」と、まぁこういうようなことを解説するわけですね。










そうすると、何となく相手が知識がいっぱいあるように思えて、視聴者としては“これ、あとは聞けるかな?”と思って、「石油があと40年しか無い。今まで100年間も長い歴史を持ってきた石油会社は、もうあと40年でなくなるんじゃないんですか?」と。そうすると、「石油会社がもう会社があと40年でなくなると大変ですね」と言うとですね、そこら辺から様子が変わってくるわけですよ。解説者が「えっ、会社が40年しか持たない?」っていうようなことを言うわけですね。そうすると、“何で?”って、今度は解説者がちょっと思うわけですね。そいで今度はですね、言い訳に入るんですよ。










実は、解説者というものはですね、知識はあるように見えるけども、知識はバラバラなんですね。確認埋蔵量は40年だ、と。石油会社は100年前にできている、と。セブン・シスターズから今スーパーメジャーになった、なんてことは良く知ってるんですが、それが何を意味するかっていうのは、結構考えてないんですよ。だから根本的なことをポン!と聞くとですね、判んなくなっちゃうってわけですね。










そうなると今度はパッとですね、今度は言い訳を考える。この速さは大したもんでですね、えー、解説者とかそういう知識人っていうのはですね、状況に応じてパッとこの、言い訳を変える。

そいで、

解:「私の言ったのは『確認埋蔵量』であって、石油がいつ無くなるって言わなかった・・・」というようなことを言うんですね。

視:「えっ、さっき石油があと40年と言ってたんじゃないですか?」と。

解:「えっ、それは『確認埋蔵量』だから、無くなるわけじゃないよ」とこういうふうになるんですね、ええ。で、

視:「じゃ、無くならないんですか?」って言うと、

解:「無くならないかもしれないね。あの、スーパーメジャーも今んとこ慌ててないから・・・」

っていうようなことになって、訳が分かんなくなる、ってこういう経過を辿るわけですね。で、まぁ普通こういうふうなことで、誤魔化されるっていうことになるわけです。相手は知識をうんと言ってるようであって、実は肝心なこと考えてない。









だって、石油があと40年つったら、石油会社は40年で必ず潰れるわけですからね。メジャーつったらもの凄いでかいですから、そんなとこがコロッと倒れるのに、指をくわえてるってことないわけですね。で、どうして40年しか判んないかって、むしろ石油がほんとに無ければ先を争って油田を確保しようとしますから、結構、寿命はかえって延びるわけですよ、変な話ですけども。ここですね、頭の使いどころっていうのは。










つまり、石油が40年しか掘らないっていうことは、もし石油が無さそうだったらば、先に掘って取っとかないけませんからね。先に掘ると、そこバレますから、必ず。石油ですからね、油田ですから、政府に言ったりなんかしますからですね。そうすると、どんどんどんどん石油が無くなれば無くなるほど、寿命が延びるって変なことになるはずだ、と。ここがですね、実は私の言う、「知識がなくても、おかしなことには気が付く」っていうことですね。








で、だから途中まで言ってるわけですね。あの、テレビとか、そういう解説者は「石油はまもなく無くなる」と、こういう錯覚を与えるのには成功するんですよ、これで。
しかし、ちょっと振り返って考えると、石油がまもなく無くなるのに、何で石油会社は悠々としてるの?っていうようなことを考えるわけですね。アメリカもそうなんですが、アメリカも悠々として全然「脱・石油」っていうのやってないわけですよね。ま、そう言う意味では、そういうことをこう、素朴に考えるってことですよね。









よくあの対人関係で、“あの人はこういうこと言ったから、ほんとはこういうこと考えてんじゃないか”ってなことを考えを巡らしますね。これと同じですね。“あの、アメリカはこうなのに、こうなんじゃないの?”、 “メジャーはこうなのに、こうなんじゃないの?”っていうふうに、普段の生活で対人関係で思いを巡らすようにいろいろ考えてみますとね、結構判ってくるわけです。










だって、40年って言いながら悠々と仕事をしてる、と。で、全然40年って言いながら先を探そうとしない、と。“おかしいな、あれ?、40年っていうのはウソなんじゃないの?”ってこういうふうな感じなんですね。こういうようなもし頭の働きができれば、知識があまりなくてもですね、相当、相手の言うことがインチキであるかどうか判ります。










ところで、最後に用語解説を付けときました。「確認埋蔵量」は、石油会社がもう見つけている石油の量なんですね、これが40年ぐらい。だから40年前からずっと、40年と言われて変わらないわけです。「究極埋蔵量」はどのぐらいあるかっていうの、大体550年ぐらいから600万年まで…600年じゃないですよ。これ間違える、とここだけ“赤”にしたんですけど。寿命は550年から600万年、ずいぶん開きがあるんですよね。









つまり、まぁ石油っていうのはどのくらいだかよく判らないんですが、ま、メジャーが慌てて掘り出すまでは大丈夫なんでしょうね。メジャーがどんどん、自分の仕事がもう40年でなくなるとまずいと思って、100年先200年先を探して、かえって石油の寿命が延びてくると注意しなきゃなんない。こんなですね、非常に変なことになるということで。一回目はこれ、考える練習、でも成功したような気がします。


(文字起こし by danielle)