知の侮辱(8)・・・副流煙(結論が先にある罵倒合戦) | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

知の侮辱(8)・・・副流煙(結論が先にある罵倒合戦) (2/9)



これまでこのブログを10年ほど書いてきましたが、その中でもっとも読者の方の反撃が厳しかったのが「タバコ」の問題です。日本人の40%がまだ喫煙しているというのに、タバコのことを話そうとすると、猛烈なバッシングを受けるのですから、これも異常な社会現象の一つでしょう。


タバコを忌避する人には2種類があって、一つは日本人を健康にしなければならないという強い使命感を持った医師で、この人たちは他人が「不健康」な生活をするのに異常なほどの嫌悪感を持っています。


私の知っている医師で、大きな病院に勤めていて「タバコを吸っているような人は健康に注意をしていないのだから、診察は断る」と言っている先生がいます。そこまでになると、職業倫理としてもやり過ぎと思います。


もともと医師というのは戦場でも負傷兵を治療しますが、「戦争など、人殺しをやる人の治療はしない」というのではなく、「医師は患者がどんな状態であっても、治療する」というのが医師の大切な倫理なのです。


もう一つは、「煙が臭い」、「タバコを吸う人は図々しい」ということで喫煙を嫌っている人たちです。確かに日本人はきれい好きで臭いのない国で生活をしていますし、タバコの臭いはタバコを吸う人が少なくなればなるほど敏感になりますから、気持ちはわかります。


また、タバコを吸う人は確かに図々しく見える人が多いようです.特に人混みでタバコを吸って、プーッと息を吐いているときなど実に図々しい人に見えるし、こちらがタバコも吸わずに仕事をしているのに、「タバコを吸わないと続かない」などと言って仕事中にサボってタバコを吸っている集団を見るとイヤな気がしない方がおかしいと思います.


でも、それだけでは社会的にタバコを排斥する理由にはなりにくいと思います。臭いについては人によって違いがありますし、体質的に臭いのきつい人もいて、うっかりすると差別になります.現在の日本のようにタバコを吸うところが限定されていて、日常的にはそれほどたばこ臭いところが無いのですから、問題は無いように思います。


また、「図々しい」というのは人の感じですから、これも排斥しようとすると危険でしょう.日本国憲法で保証された基本的人権とは、過度に人に迷惑をかけなければその人の自由な人生を保証しているのです。多くの人が一緒に住んでいる日本、この素晴らしい規定の精神も尊重したいものです。


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ところで、タバコの問題を「知」として取り扱う場合、喫煙が吸う人の健康に関わるかという問題と、タバコを社会から追放しなければならないほどの毒物かという疑問の二つがあります。喫煙と吸う本人の健康の問題については少し前に整理して、まだ未完成ですが、ここでは「副流煙」を取り上げます.


副流煙の人体への害を最初に証明したと言われる有名な平山論文を読んでみましたが、すでに多くの人が指摘しているようにこの論文で「副流煙が肺がんの元になる」ということはまったく言えません.ただ、平山先生が意欲的なご研究をされたことに敬意を表します.


この論文を読むと、タバコを吸う人と長年、一緒にいると脳腫瘍になる可能性が高いことは判りました。しかし、この脳腫瘍が一緒に暮らしてきた方のタバコの煙によるものか、別のものが原因かはわかりません。先日のブログに書きましたが、私が学生に注意すること「なにかが原因ではないかと考えて、それで整理をするとほとんどのものが何らかの関係があることになる」という原理原則があるからです.


肺がんは脳腫瘍よりかなり少なく(タバコを吸わない人と一緒に住んでいる場合に比較してですが)、副流煙での影響は肺より脳に強いようです。実験結果を忠実に整理して「肺より脳」と言いますと、「そんなことはない。タバコが脳に影響があるはずがないじゃないか」という反論があるのですが、それならもともと「実験や調査」をする必要はありません。


人間の脳は不完全なので、実験や調査を行います。その時には、「自分はタバコを吸う人と一緒に住んでいたら肺に影響を受けるとおもうが、(それは自分の浅はかな考えなので自然に聞いてみるという意味で)実験や調査をしよう」ということですから、意外な結果がでるのが大切なのです。


その他の資料にも目を通しましたが、現在のところ科学の心を持った人はこの問題に近づかない方が良いように感じました。というのは、どれもこれも非常に感情が高ぶった論文や調査、論評が多く、先入観や最初から「タバコの副流煙は肺に悪いに決まっている」という前提で行われているからです。まるで「魔女狩りとその対抗勢力」のような状態です.


ことは人の健康、子供の健康に関することですから、もう少し冷静に議論できないのでしょうか? データは不十分で先入観に満ちていますし、あまりに攻撃が激しいので、反論もまた科学とは言えない状態にあります.


私たちがもし「知」というものを尊重するなら、それは相手を誹謗することでも、自分の得になることでもありません。あくまでも人間の「知」を信じて、お互いに憎しむことなく、少しでも前進することです。


日本に住む誇るべき民族:アイヌは平和を愛し、戦争をしなかった民族ですが、人間が戦争をしないというのはかなり大変なことで、それを達成するためにアイヌはタバコを愛しました。ケンカをしそうになると相手にタバコを勧め、一服して争いを収めたのです.


人間には体の栄養とともに、頭脳の情報を整理するための栄養が必要です.多くのタバコを吸うかたの随筆を読むと、タバコが情報整理の栄養になっていることを否定することは難しいように思います.


人間は理解しがたいものであり、体は複雑で、人は多種多様です.その中で、このタバコというものをどのように考えるのか、それを冷静に進めることで人間の「知」を一つ高める方向に行けばと願うところです.


(平成24年2月9日)



--------ここから音声内容--------


ええと、このブログですね、もう10年ぐらいになりますか・・・えー、書いてきたわけですが。この中でもっとも読者の方のですね、反撃が厳しかったのは、地球温暖化とかそういうんじゃなくて、「タバコ」だったんですね。で、タバコとかパチンコってのは、結構反撃が激しいんですね。






えー、しかしまぁ、タバコについては特にですね、まぁ今、日本人の40%、もう今40%をちょっと切ったかもしれませんが、そのくらいが喫煙してるというわけですから、ま、普通のことなんですよね。あの、ま、今タバコを吸う人はすごく肩身の狭い思いをしてるんですが。タバコってのは、まぁ半分ちょっと少ないぐらいの人が普通に吸っておられることなので、それが猛烈なバッシングを受けるって言うのも、ちょっと異常な社会かな?と。






実はね、タバコのバッシングが始まったときは、日本人の7割がタバコ吸ってたんですよ。だから、バッシングする方が少数派だったんですけど。ま、それは正しいことを言えばいいんですから、別に少数派でも何でもいいんですけどもね。






えー、しかしこのタバコが嫌いだって言う人にはですね、どうも二つあってですね、一つは日本人の健康を問題にしてる、と。特にお医者さんですね。ま、強い使命感持ってる、というお医者さんがおられまして。その中にはですね、ちょっと行き過ぎかなと思うんですけども、他人が「不健康」な生活をすると、非常にこう嫌がる人たちがいるんですね。例えば私の知ってるお医者さんで、大きな病院に勤めておられる方おられるんですが、「タバコを吸ってる人は、診察しない」って言う人がいるんですよ、いや、ちょっと行き過ぎかな、と。






これ私、職業倫理なんかで時々話しますけども、お医者さんってのは元々ですね、戦場で負傷兵を治したり、治療したりするんですけどね。元々、戦争をやるっていうはお互いに傷付け合うわけですから、とんでもないことなんですね、医療から言えば。だけども、医者というのは、どんなときでも治療してくれるっていう、信頼感が要るんですよ。その原因がですね、例えば殺人であろうと、こっちから斬りかかって返り刀を受けようとですね、そういうことじゃなくて。医者はそういう原因は聞かずにですね、懸命になって治して頂けるっていうところが、我々が医師に対して持ってる信頼感なんですね。






医師が価値を持ってですね、「日本人は治療しない」とかですね、それから「酒飲んでる人は、俺は嫌いだ」とか言われるとですね、もうとても困っちゃうんですね。これは実は私、学校の先生なんで、学校の先生もそうなんですよ。時々ね、「勉強しない学生は教えない」って言うような先生いるんですけども、私はね、「違う」って言ってんですね。先生って言うのは、相手が勉強しようとしまいと、やっぱり、相手の学力とか人格を高めるために、ま、全力を注ぐ、とこれが先生というものの使命だ、と。「相手がとても頭が悪いから、教えない」なんて、とんでもないことですからね。ま、それがあるんです。






もう一つはしかしですね、「煙の臭い」が嫌いっつうのが強いんですよ。それからもう一つはね、何となく「タバコ吸ってる人は図々しい」っちゅうんでね、そいで嫌だって言うのがあるんですね。とにかくまぁ日本人はきれい好きですから、気持ちは分かりますね。えー、外国に行きますとですね、あまり大したこと気にしないんですけども、日本人は清潔好きですからね、やはりタバコはちょっと汚く見えるのかもしれません。






それからタバコの臭いっていうのは、タバコを吸う人が少なくなればなるほど、敏感になりますんでね、ますますタバコが嫌になるっていう。もう昔はタバコの臭いがもう周りにあったわけですが、このごろタバコの臭いは全然無いもんですから、ちょっと誰かがタバコ吸いますと、非常に目立ちますね。そいから、こうプーッと息を吹いてるときなんか、実に図々しい、と。昔はですね、人の顔に煙を吐き出す人いましたからね。ま、それはある。






それから、こっちが一生懸命に仕事してんのにですね、誰かが「タバコ吸わないと、どうも仕事が続かない」なんて言ってですね、仕事中にサボって、タバコ吸ってる、と。何となくその、8人ぐらいで部屋に入ってワーッと笑いながらタバコ吸ってると、やっぱりそこを前通る人は嫌な気持ちはします、それはそうです。






しかし、だから社会的にタバコを排斥するのかっていうとですね、ちょっと難しいですね。ま、体臭のある人を差別するっていうのも問題ですしね。で、今はまぁ昔と違って、タバコを吸うところは限定されてますから、ま、このくらいでいいのかな、と思ったりもします。






日本国には「基本的人権」ってのがあるんですね。私はこれ、非常に重要だと思ってるんですよ。何でもかんでも、これしちゃいけないあれしちゃいけない、って自分の意見で言うんじゃなくて、やっぱりそれぞれの人が良識を持ってやるんだ、っていうのが大切なんじゃないか、と。だから私はまぁ、あまりやり過ぎると、やっぱり「基本的人権」侵すんじゃないかと思いますね。






で、まぁあの、タバコが健康に害があるかって、これまぁ、もう一回慎重にやりたいわけですが。もう一つの問題は、タバコを社会から追放しなきゃならないほどの毒物か、ってのがあるんですね。これは本人だけに害があれば、通常は追放しちゃいけないんですよ。これは、もう過去には「禁酒法」っていう、そういう非常に変なのがありましたが。そういう問題ですね。






ここではあの「副流煙」の問題を取り上げます。つまり、タバコを吸う本人ではなくて、周りの人が迷惑掛かるかどうかっていうことを科学的に考えたい、「知」として考えたいってことですね。で、まぁあの私はですね、世界的に有名っちゅうか、日本では非常に有名な「平山論文」っつうのがあって。これはまぁ、副流煙の人体ヘの害を最初に証明したと、まぁいうことで、みんなに取り上げられております。えー、私がこれを読んでみますとですね、驚いたことに、この論文では、副流煙が肺ガンの元になるってことはまったく言えないように思えますね。







もちろんこの論文の批判はずいぶんあるんですよ。私は批判はしません。えー、こういった意欲的な研究をされた最初の頃はですね、いろんな欠点もやっぱりありますからね。そんな欠点を一々言ってたら、研究できませんから。平山論文自身を非難しませんよ、平山論文を非難するんじゃなくて、この論文で「副流煙は肺ガンの元になるんだ」と、まぁいうふうに言った人の方はちょっといただけないですね。






この論文によりますと、タバコを吸う人と長年一緒にいる人、家族ですね…は、一番多いのは脳腫瘍なんですね。ですから、「脳腫瘍になる」ということなんですよ。えー、こう言いますとね、「タバコを吸って、脳腫瘍になるはずないじゃないか」っていうような話が出てくるんです。これはね絶対、科学ではダメなんですね。私がよく学生に注意することですね。「何かが原因だと自分で勝手に考えて、それで整理するとほとんどのものは関係がある」んですよ。ですから、その危険が学問では一番大きいんですね。






えー、肺ガンは脳腫瘍よりかなり少ないんですよ、副流煙についてはですね。従って、どうも副流煙というのは肺よりも脳に打撃を与えるようだ、と。ま、こういうことなんですね。私がですね、そいじゃ「実験結果を忠実に整理しますと、肺より脳に打撃があるようですね」なんて言うとですね、「そんなことはないですよ。タバコが脳に影響あるはずがないじゃないですか」っていうような反論が来るんですね。いや、そういう先入観を持った実験なら、最初から実験とか調査やらない方がいいんですよ。






人間の脳っていうのは非常に不完全なので、その実験や調査行なうって事は、「自分の脳が不完全だから自然に聞いてみよう」っていうことなんですね。ま、自分はタバコを吸う人と一緒に住んでたら肺に影響があると思うけども、「だけどもそれは自分の浅はかな考えなんで、ちょっと確認してみたいので実験や調査をする」ってことなんですね。ですから、意外な結果が出るのが良いんですよ。ほいで意外な結果が出たときに、科学者とか学者の一番重要な素質はですね、そのまま受け取るってことなんです、ええ。そのまま受け取る、と。そのまま“あ、そうか。なるほどね”と、こういうふうに受け取るべきです。






で、これ以外にもいっぱいあるんですね。国際的な研究もあるんですけど。私はね、一通り目を通した段階ですが、あまり役に立つものありませんでした。ていうのはですね、もう「タバコの副流煙が肺に悪い」ってこと前提で、実験されてるんですよ。これじゃね、あてになんないですよ。何とでも言えますから、ええ。ですからね、これはね「魔女狩り」に近いんですよね。だから、ちょっとどうかな・・・と思います。






それからもう一つはね、攻撃が激しいですね。とても「知」とはいえません。「知恵」とかそういうものとは違います。「何だっ!」て感じなんですよ。「タバコを吸う人は何なんだ。まったくダメじゃないか!」ってまぁ、こんな感じなんですけどね。それはね、違うんですよ、ええ。ええと、もし私たちが「知」というものを尊重するならですね、相手を誹謗したり、自分が得になったりすること関係ないんです。「知」というのは「知」なんですね。それを、我々は尊重せんといかんわけですね。






例えば、ちょっと反論しましょうか。えー、日本に住む誇るべき民族として、「アイヌ民族」がおります。アイヌ民族は、北海道を中心として住んでたんですが、大変に立派な民族で、1回も戦争しません。刀傷のある骨が見つかんないんですよね。倭人、我々が攻めて行った時だけ3回我々と、倭人と戦争してますが、アイヌ同士はほとんどなかったと思います。






で、こんなにね、平和を守った民族はほんとに偉いんですけども。それをつぶさに調べますとね、やっぱり結構彼らも大変なんですよ。あの、人間がいさかいしないためには、大変なんですよ。それを達成するためにはですね、彼らはタバコを愛するんですね。ケンカしそうになると、相手にこうタバコを勧めて、座って一服するんですよ。人間は一服してる間に気持ちが治まりますからね。それで話をして、戦争を避けてたと、ま、いうこともあるんですね。






それから、人間は体の栄養と共に、頭脳の栄養も要るんですね。で、今んとこ、まだ体の栄養しかあまり見つかっておりませんが。もしかするとタバコを吸うとですね、頭脳の栄養になってるのかもしれないんですよ。タバコを吸う人のいろんなものを読みますとね、明らかに何か落ち着いたり、情報整理がされたりしてるんですよね。ですから、頭の栄養が若干、身体に毒になることもあるかなぁと思ったりもするんですね。えぇまぁ、ここはですね、ものすごく反撃が予想されますので、私はちょっとこれまでにしときますけども。






私はですね、実は副流煙の問題はですね、ケンカする問題ではないんですよ。やっぱり私たちが、まぁ私の考えでは子どもたちを守るとか、そういうためにですね、冷静に議論が必要です。これね、言い合ってる方が早いように思うんですけど、違うんですよね。もうね、感情的になって言い合いますとね、もういつまで経ったって結論出ません。それよりか、むしろ冷静にちゃんと議論をして、データを整理して、先入観を持たずに、自分の意見を通そうとかそういうことじゃなくて、本当に人間とタバコの副流煙っていうのは関係あるんですか?ということですね。






まぁ昔から人間は、焚き火とかですね、囲炉裏なんていう煙の中で住んでました。えー、あれも全部植物を燃やしてますね。ですから、えー、タバコっていうのは、タバコの葉っていう特別なもんではありますが、植物の組成ではあるんですよ。ですから、タバコを燃やした煙だけが極端に健康に悪いってことになりますとね、相当やっぱり慎重に構えんといかん、慎重たって10年ぐらいでいいんですよ。だけども、タバコの反対運動なんていうのは30年も続いてるわけですけど、一向にけりがつかないのは感情的だからすよ。やっぱり「知」と言うものは感情的でなく冷静に議論した方が、むしろ回り道でも早いと、私はそう思います。


(文字起こし by danielle)