知の侮辱(7)・・・「野菜と健康」に関する知の偽装 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

知の侮辱(7)・・・「野菜と健康」に関する知の偽装 (2/8)



福島の被曝の問題が出てくると日本の医療関係者、特に国立のガン研究の医師たちは一斉に「被曝はたいしたことはない。それより野菜の不足の方が発がんには危険だ」と奇妙なことを言い出しました。

野菜とガンの関係については、今から20年ほど前から研究が始まり、初期のころには次の表にあるようにどちらかというと「野菜はガンを防ぐ」という研究報告が多かったのです。

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それを受けて、マスコミなどを中心として「野菜を食べよう!」という運動がはじまりました。でも、もともと人間のガンの発生というのは非常に複雑なことなので、「野菜とガン」などという簡単な関係はおそらく存在しないのではないかと思われます。



その証拠に、その後、調査人数が増えてくると必ずしも野菜不足がガンをもたらさないという大規模な調査が2005年以後は増えています。


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ある程度、学問や科学というものを研究した人ならわかることですが、ガンというのは非常に複雑な反応ですし、一口に「野菜」といっても内容はさまざまですし、また「野菜を食べたので、相対的に食事が減り、その中に発がん性のものがあった」ということもあり、その場合は「野菜」というのは要因の一つにはなりません。


だから、仮に初期の研究のように「野菜を多く食べる人にガンが少ない」と言うことが判っても、それ故に「野菜はガンを防止する」ということにはならないということです。また、「それでも事実、ガンが少ないのだから」というのも学問ではなく、最近の野菜の研究の中には、カリフォルニア等の20万人の調査で、野菜をとると病気の比率が高いという研究もあります。


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私は科学者として、少し別の見方をしています。先回、「相関関係」だけでは何の結論もでないことを示しましたが、科学では「因果関係」についても常に同時に考えておかなければなりません。


人間は雑食性の動物ですが、主として「肉、穀類(実)」などを食べる動物で、「草」の類はそれほど取りません。人間が野菜を食べるようになったのは農耕文化に変わってからで、日本ではさらに10世紀から15世紀になってから意識的に野菜をたべるようになってきました。


草食動物ではない人間は草は消化できませんが、コメ、麦、イモ、豆、リンゴのような「実(種)」は主食や副食として積極的に食べてきました。そして、多くの研究が示しているように、動物の体は「数万年間の環境の中でもっとも適切な防御系になっている」ということですから、500年前頃から食べ出した「葉物野菜」などが人間の体に良いということになると、かなりこれまでの学問とは異なる結果と言えます。


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現在の日本ではほとんど宗教ではないかと思われるほど「野菜主義」のようなものが常識化していて、「野菜は健康に良い」というのを疑う人はいません。そしてそれが「科学」や「学問」の裏付けがあると錯覚をしています。でも、そのような情報の伝え方は「知の侮辱」でもあります。


私は学生(研究生)に対して、「「Aを変えればBがどうなるか」という実験の整理は危険です。自分ではBに対してAが一つの因子として関係があると考えていると、どんな物でもある程度の相関性がありますから、間違った結論が得られます」と指導します。



このようなことは「科学者の基礎教育」ですが、現代の社会はあまりにも「知の初歩的制限」を無視したものが多く、お医者さん、科学者や学者の方は注意をされた方が良いと思います。


(平成24年2月8日)


(注)記事のデータに一部に(財)食生活情報サービスセンターのものを使わせていただきました。


--------ここから音声内容--------



ええと、あの「知の侮辱」もですね、3日坊主になるかなと思ったら、一応続いとりまして。少し、ま、記念と言いますか、「野菜と健康」という、少し違った側面から見てみようと思います。





福島の被曝の問題が出てきたときですね、日本の医療関係者、特に国立のガン研究のお医者さんじゃないかと思いますが、ほとんど一斉にね、被曝は大したことないと、それより野菜の不足の方が発ガンには危険だなんてこと、奇妙なこと言い出したわけですね。もうこんなこと、絶対ないんですよね。つまり、一つ一つのことは相互に比較をするんではなくて、そのものがどのぐらいの発がんの危険性があるのか、ってことで規制するわけですね。それが1年1ミリなわけですね。





ま、これに付随して、もっと変なのがありましたね。「放射線を気にする方が、ガンになりやすいんだ」と。いや、そりゃあなたね、「水銀で病気になる」と、「水銀、怖がっちゃいけない」と言ってもダメなんですよ。やっぱり規制値があって、規制値以下ならば安心し、規制値以上なら注意する、っていうのが当たり前のことなんですよ。で、規制値以上にしといて、「心配だから、ガンになる」って・・・あなたね、何言ってんの?って感じなんですけどね。そういうことがずいぶん多かったですね。




ところで、野菜とガンの関係については、今から20年ぐらい前からは研究が始まったんですね。そんなに古いもんではないんです。で、初期の頃のデータをちょっと見てみますと、ここにちょっと示しましたが、どっちかって言うとですね、野菜を食べた方が健康になるという、ガンになりにくいというですね、そういう研究報告が主でしたね。ここではあの、1992年、1996年という、まぁ今から20年ぐらい前の研究を発表したものを載せました。大腸がん・肺ガン・胃ガン・食道ガン・喉頭ガン・膵臓ガンなんかに対して、野菜が有効である、と。ま、いうような発表が相次いだんですよ。で、まぁマスコミを中心にですね、お医者さんも一緒になって「野菜を食べよう!」という運動が始まったわけですね。





ところが、人間のガンというのは、そんなに簡単なもんじゃありませんから、その後ですね、少しずつ研究が進みまして、データが豊富になってきますね。そうしますと、まぁ逆の結果もまぁ出てくるわけですね。で、特に最近の、ずっとデータを見てますとですね、かなり逆のものが多いんですよ。例えば、ここに示したのは最近の、2005年から2008年の研究報告、これかなり多くの研究報告ですけども。どうも、個別の野菜と胃ガンの発症には関係がないと、野菜総量はちょっと分からない、とこれが11万人。49万人のまぁかなりの膨大なデータではですね、胃がんと野菜の関係が判らないという、そういうふうな結果が出ておりますですね。





で、あのこれは学問ではよくあることでですね、一番最初、何か傾向があるかなと思ったけども、それは一部であって、よくよく調べるとあまりハッキリしない、ということがそのうち判ってくることは、これはよくあることなんですね。ええと、まぁあの、それは当たり前でですね。いろんなことが考えられるわけです。野菜を多く摂る人がガンになりにくいから、野菜はガンに効くか、ということにはならなくてですね。例えば野菜を食べたので、相対的に食事の量が減って、つまり栄養物が減ってですね。そしてその中の発がん物質の量が減ったっていうことも、あり得るわけですね。ですからあの、なんかこう、効果判んないわけですね。






で、まぁこういった中でですね、最近ではカリフォルニアを中心とした20万人の調査で、野菜を摂ると病気が多いって研究もあるんですよ。これもまた納得できますよね。野菜っていうのは、栄養のあるもんじゃありませんから。体力が衰えて、病気の比率が増えるってことも納得できるわけですよ。ですから、いろんな解釈ができます。





そいから、これをですね、ちょっと今日は学問的「知」として、見ておりますとですね、我々科学者っていうのは常に、こういうデータに会うときに、別のことを考えております。それは、野菜を食べると、ガンが増えるとか減るとか、それから病気になるのが多いとか少ないとかいうデータはデータで、そのまま受け取ってんですよ。しかし何故だろうか、っていうことの裏打ちがないとなかなか、もう一個先に踏み込まないですね。






例えば私でしたら、こう考えました。人間は雑食性の動物なんで、普通ですね、肉か穀類を食べるんですよ。で、草っていうのはですね、草食性の動物が食べるもんで、人間はあまり食べないわけですね。ですから、人間が野菜を食べるようになったのは少なくとも、農耕文化に変わった1万年ぐらい前からのはずなんです。特に日本の歴史を調べますと、今から1000年、もしくは500年前から、ま、野菜を栽培して食べるようになりました。それまではですね、野菜に類したものっていうと、コメとか麦とかイモ、豆、リンゴのようにですね、まぁ実ですね。種と言うか。そういったものをですね、食べてきたわけです。





えー、それでもう一つの問題はですね、今までの多くの研究は、動物というのは、遺伝子がどの時点で決まるか、体の防御系がどの時点で決まるかって言うと、だいたい数万年じゃないかと言われてるわけですね。その中でもっとも適当な防御系になっていると、いうことなんで。例えば、日本人が500年前から葉物野菜を食べ始めたわけですが、それが環境に良いってことになるとですね、これまでの学問の結論とは違うんですよ。





で、どっちが正しいかは判りません。500年前の野菜でも、すぐ遺伝子が変わるっていうとか、防御系が変わるってことありますからね。だから、それはあるんですが、今までの学問によれば、1万年ぐらい前から続いてるもんじゃないと、人間の体に良いということにはならないんで、500年前から食べている野菜がですね、その20倍ほどの期間の必要な、人間の体の防御系に影響を及ぼすってのも、ちょっと理解できないわけですね。




そういう中で、現在の日本では、ほとんどもう宗教でないかと思うほど、野菜主義と言うかベジタブル(ベジタリアン)っていうかですね、野菜は健康に良いって言うのを疑う人がいない感じなんですね。で、それがなぜ問題か?って、ここで言いますと、それが科学とか学問の裏付けがある、と錯覚してる人が多いんですよ。これはまぁ、「知の侮辱」ですね。つまり、学問とか科学ではないんです。錯覚って言いますか、まぁ思い込みなんですね。思い込みが正しいかもしれませんが、学問的裏付けはないんですね。





これはあの私が大学でですね、学生、研究生ですけど、よく言うのはですね、「Aを変えれば、Bがどうなるか?」 「温度を変えたら、この反応はどうなるか?」とかですね、「野菜が食べるの少ないかどうか、健康がどうか、ガンがどうか?」って、こういう実験とか整理するときにもっとも危険なんですよ。というのはその人が、そのAとBの間に関係があると考えてグラフ作りますとね、どんなものでも少し関係があるわけです。





ですから、本当は全然関係が無いものが、関係があるような結論になっちゃうんですよ。で、私は学生に「Aを変えれば、Bがどうなるか?」という実験の整理は危険ですよ、と。何故かって言うとその、あなたがBに対して、Aが一つの因子として関係があると考えて整理すると、どんなものでも相関性がありますから、間違った結論が得られますよ、と指摘するわけですね。これはまぁ、大学の初歩の段階で、科学者の基礎教育として行なわれるもんですね。





そういう意味では、現代の社会があまりにもですね、「知」の初歩的な注意というものを無視したものが多い。それをお医者さんとかですね、科学者・学者の方が言うことが多いんで、私はですね、やっぱりお医者さんや科学者・学者の方はですね、大学時代にそういうことはいけないなと、野菜を食べた人はガンが少ない、なんていう結果が一個だけ出ると、もうそれでですね、野菜は健康に良いとか、ガンが抑制される、っていうようなことを言ってはいけないんだ、と。それは、科学でも学問でもないんだ、と。だから、まぁ信用してですね、野菜の好きな人が信用して野菜を食べるのは、多いに結構なんですよ。ですから、そういうこと言ってんじゃないんですね。それは、科学的裏付けがあるかのごとく、言うのがいけないんです。





私がいつも野菜なんかの話になりますとね、「野菜が健康に良いかどうかなんて、分かりませんよ」と、この前もあるテレビで言いましたら、びっくりされました。「えっ、野菜が健康に良くないっていうデータがあるんですか?」って言うから、「いや、判らないんです」と。「また学問的には判らないんですが、まぁそういうふうにお考えになってもいいかもしれないけど、それは学問ではありませんよ」と、こういうふうに言うわけですね。





これはハッキリしとかないとですね、いろいろ今までありましたね。運動中に水を飲むなといったら、今度は水を飲めというし。野球のピッチャーは肩を冷やしちゃいけないと言ったら、今度はアイシングという英語になって、じゃんじゃん冷やしてますしね。昔はコレステロールはダメだっつったら、コレステロールが善玉と悪玉があるとかですね。昔はもうどんどん日光浴しろっつうのが、この頃はもう日光に当たってもダメだって言ったりですね、ぐるぐる変わってるんですよ。



これはですね、学問になってないことを、あたかも学問のように言うっていうのに問題があります。これは本当に私の言う、「知の侮辱」なんですね。やっぱり「知」というのは、もう少しきちっと考えて全体的なことを考え、まぁ大学の初歩的な、学生に教えるようなことをですね、お医者さんとかね、科学者がやっぱり言ってはいけないと。まぁそういうことをですね、野菜について、少し「知の侮辱」との関係でお話しを致しました。



(文字起こし by danielle)