地震の避け方、かわし方(1)・・・東海地震がなぜ注目されたか? | お手伝いさんたちのブログ

お手伝いさんたちのブログ

中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

地震の避け方、かわし方(1)・・・東海地震がなぜ注目されたか?





物事はそれほど偶然ではなく、それぞれに理由があるものです。特に、かなり大きなことはそれなりに理由を見いだすことも大切です。

「東海地震が来る」と言われて40年。その間に、阪神淡路大震災と東北大震災の2つが日本列島を襲い、今、また関東に大地震があると言われています。なぜ、東海地震が来なくて、阪神と東北に大地震が来たのか? それも1000年に一度というような大規模な地震が予測できなかったのか? それほど予測精度が悪いのに、なぜ「次回だけは予測できる」のか? ジックリと考えたいと思います。

・・・・・・・・・

東海地震がすぐにでも来ると言われる少し前、松代群発地震というのがあり、それがキッカケとなって「地震予報を出そう」ということになりました。このような時に世論を作っていくのは、普通は「若手官僚―東大教授―マスコミ」の連合軍です。

最初はそれほど悪くはなく、「日本は地震国だから、地震予測を進めなければならない」、「仮に地震が予測できたら、人命ばかりではなく、経済損失を少なくする上でも貢献できる」ということで前向きの議論になります。

ところがその直後に問題が発生します。それは「予測を誰がするか」ということです。政策の原案を作るためには「官僚と東大教授」という組み合わせで行われます。日本は議員の政策立案力が無く、官僚がほとんどをやっていますし、東大教授だけが優れているのではないのですが、東京にいることと、官僚と同じ大学(多くは東大)の出身で個人的に知り合いが多いということがその理由となります。


「予測をどのようにするか」という検討段階に入りますと、「全国を一律にやるのも予算がかかる(官僚)」、「東海地震が近いからそこを重点的にやったらどうか(東大)」となって、「東海地震の予知からはじめ、東大がそれを担当する」という筋書きができます。

ここに大きな問題が発生していますが、議論がまともですから、反対もなく、マスコミも特に不思議と思わずに報道します。


「松代群発地震も起こり、社会は地震に対する関心が深くなっている。かつて関東大震災で大きな被害を受けた日本だから、世界に率先して地震予知を進めなければならない。地震学者によると太平洋から日本列島の下に潜り込んでいるプレートのひずみが大きくなっており、次の巨大地震は東海地方がもっとも確率が高い。」

実に論理が通っていて、この報道に反対する一般の人はほとんどいませんでした。それにNHKなどの「よい子報道」を優先する報道機関は「地震予知の研究が始まる」と報じ、それを東大教授が「近々、起こると考えられる東海地震の構造」を解説、多くの人が「プレート」、「エネルギーの蓄積」などに話題が集中します。


このとき、「なぜ、東海地震なの?」と疑問を呈すると、袋だたきに遭います(この瞬間が原発事故も含めて日本の大きな問題を生じる瞬間なのです)。袋だたきにする人は、政府、東大教授、NHK、権威に追従する性質をもっている知識人、「常識」を重視する人、「みんなで渡れば怖くない」と考える人などです。

しかし、この瞬間に「なぜ、東海なの?」と疑問を呈することが、その後、40年にわたるムダなお金、阪神・東北の地震の犠牲者を少なくすることができる大きなポイントと思います。

・・・・・・・・・

学問を議論する「学会」が、オープンで、どんな発表でも、どんな批判でも許されているのは、人間が難しいことに取り組むときには、オープンで自由な議論が必要であるという経験によっています。「権威のある人」が「正しい」ということではなく、山片蟠桃が言う「大知(多くの人の知恵の方が少数の優れた人の知恵よりレベルが高い)」を実践する方法が学会です。

誰でも参加でき、誰でも発言でき、かならず記名、身分をハッキリさせて議論するというのが絶対に必要なのです。

日本での地震予知、予知研究のはじめの段階で「疑問を呈する人」と「それを取り上げるマスコミ」があったら、阪神淡路か東北大震災の一つぐらいはある程度の警告ができ、それに基づいた対策がとられ、犠牲者を減らすことができたと思います。

・・・・・・・・・

なぜ、東海地震が来ると言われたのか? それは「東大が研究費をもらえるから」であって、「科学的に東海地震が先に来る」と言うことではないのです。官僚の東大教授の議論では、東大に研究費をだすという以外の結論にはなりません。まさか政策準備の段階に席に着いていない東北大学や大阪大学には研究費が行くはずも無いからです。


現在でも、それは同じなので、まず第一に阪神淡路大震災と東北大震災を予知できなかった東大関係の地震学者へ研究費を出さないようにすることでしょう。そして、第二に地震学会を再構築して、自由な雰囲気で議論するようにすることですが、そのためには「役に立つ研究」を止めて「研究費を一律に配る」ということに変更する必要があります。


そして第三にNHK、マスコミ、国民が「決定された経過がオープンでないものは、疑い、批判を試みてみる」という習慣をつけることでしょう。これまでの失敗を反省し、あるいは批判するとともに、将来のことを考えてより進んだ社会にする必要があります。


特に、阪神淡路大震災と東北大震災で犠牲になった方々の無念を晴らすためにも、「なぜ、東海地震の前に2つも大地震が来たのか?」を問わなければなりません。


(平成24年1月31日)


-------ここから音声内容--------



えー、東北大震災が起こった直後ですが、相変わらずですね、大きな地震が来るんではないか、ということがずいぶん言われておりまして、ご心配なさってる方、もしくは少し住む場所を変えたがいいんじゃないか、というふうにも考えておられる方がおられます。そこで、原発のことを、ま、だいぶ言ってきましたが、原発と地震とは似たとこがちょっとありましてね。それはですね、福島原発が爆発したのは偶然ではないんですね。設計上、もしくは何かの間違いがあるわけです。




これと同じようにですね。東海地震が来ると言われて、もう40年ほどになりますが、その間に阪神淡路大震災と東北大震災の2回あった、と。で、これはですね、両方とも「1000年に一遍」って言われたんですよ。この1000年に一遍っていうのは、本当に学術的に1000年に一遍なのか?、それとも責任逃れのために1000年に一遍って言ってるのか、判りませんが。おおよそ、まぁマスコミがですね、当事者の国とかの責任逃れに、加担する傾向があるんでですね。ちょっとよく判らない、というのが現状であります。これをちょっと考えてみたいと思います。






ええとですね、東海地震の少し前に、松代群発地震ってありましてですね。これでまぁ、かなり地震に対する皆さんの興味が湧いてきたわけですね。で、これはまぁ、地震予報を出すということをやるとですね、これは政策として支持されるんではないかということで、若手官僚と東大の教授、これでですね、計画を練るんですよ。これは予備政策のようなもんなんですね。





もちろんこれはなかなか良い政策なわけですね。日本は地震国だから、地震の予測を進めなきゃなんない。これは誰も反対しませんね。もし地震の予測ができたら、もちろん人命は助けるけど経済損失も大幅に削減できるんだ、っていうことになって。これでもう両方とも万々歳ってことになるわけですね。そうするとですね、まぁここまでいいんですけど、実はですね、こういった日本の霞ヶ関の政策のほとんどはですね、官僚と官僚の友達付き合いを中心とした東大の先生方、もしくは東大+α、慶応とか早稲田少し入ることあるんですが。そういった人達の中で行なわれるんですね。






で、もちろんあの、日本の中で東大教授だけが優れてるわけじゃなくて、かえって東大教授ってあまり優れてないんですけど、実は。東京に居るということとですね、知り合いが多いってことですね。で、それでやりますとね、結局、「全国一律で予測すんのも大変だ」とまぁ、官僚が言いますね。そうすると、東大の先生が「東海地震が非常に近いし、そこを重点的にやったらどうだ」と、

「じゃ、東海地震の予知となったら、東大だな」と。

そんときに東大の先生“あ、これで金がくるな”と、

“研究費がある程度潤沢で、これでもう安心だな”と、こういう感じが胸の中ではするわけですね。

で、ここまで、何もおかしいことないんですよね。



えー、それで発表されますね。松代群発地震も起こって、社会は地震に対して関心が深くなった、と。関東大震災も大変な被害があったので、日本は世界でも地震地帯にあるので、地震予知を進めなきゃなんない、と。これはですね、太平洋から日本列島に潜り込んでるプレートの歪みが大きくなってるんで、東海地方の地震の予知をやるんだ、って。これもう、まったく理屈が通っているわけですよ。しかもこの当時はまだプレートの潜り込みなんてのもですね、あまり皆に知られてない頃ですから。大変にこう新鮮味もあるし、よい子に映るわけですね。


で、これはNHKが今度、悪いというふうには言わないんですが、NHKが「よい子報道」を優先するわけです。これはまぁ事実でしょうね。そうすると、これは「地震予知の研究が始まる!」というふうに、輝かしく発表します。で、そこにNHKにて東大の教授が説明に出てですね、「えー、プレートがこうなってるから、東海地震でこのぐらいの構造になる」ということを説明しますとですね、それを聞いた人達が、まぁ喜び勇んじゃうんですよね。






プレートっていうのはどういうものか、エネルギー蓄積ってどういうものか、って解説し出すんですね。そこでですね、この段階で実は「何で東海地震なんですか?」なんて聞いたらですね、まず袋叩きに遭います。この瞬間が非常に問題なんですね。っていうのはあの、この瞬間こそが、「なぜ東海地震なの?」っていう疑問を呈する一番いい時期なんですが、その一番いい時期だからこそ、逆に袋叩きに遭うんですよ。






その袋叩きする人は誰かって言うと、まず政府ですね、提案者。それを引き受けた東大教授、それを報道したNHK、それだけじゃないんですよ。実はですね、知識人の多くは権威に追従するっていう性格持ってるんですね。ほんとは違うんですね、知識というのは疑って掛かることを知恵と言うわけですから、ほんとは疑うわけですね。だけども日本の知識人は・・・ま、えせ知識人というとちょっと言い過ぎなんですが、そういうとこありましてですね。そいで権威に追従する性格持ってる。この人たちが、激しく攻撃して来ます。






それから常識を重視する人っていうのあるんですね。この「常識」っていうのは、もう一ヶ月前にできたんだけど、常識になっちゃうんですよ。この常識はですね、いわゆる社会の常識と言うよりか、むしろ政府と東大教授とNHKが組んだら、突然、次の日から「常識」になっちゃうんですよ。ま、これが日本ですからね、これを重要視する人。それからまぁ、それにちょっと遅れて「皆で渡れば怖くない」式のですね、皆がそう言ってるから東海地震が来るんだろうと、まぁこういうふうに思う人たち。これで構成されちゃうんですね。




ところがここで、「なぜ東海地震なの?」って疑いをもし誰かが出して、それを袋叩きしなければ、その後40年に渡る膨大なお金は節約され、もしかすると阪神・東北の地震の犠牲者が相当少なくなった可能性があるんですよ。ですからね、非常に残念て言や、残念なんですね。






であの、「東海地震がまだ来るかもしれないよ」って言う人いるんですけど、それはもう、そうです。地震ですからね。だけども、少なくとも「東海地震が一番早く来る」と、「大地震で一番早く来る」と言ってたのに、阪神淡路と東北に地震が来て、多くの方が亡くなったのは事実なんですよ。科学っていうのはですね、事実をまずは見なきゃいけないんですよ。言い訳はできます。言い訳は、人間社会はですね、言い訳がまず最初に頭に浮かぶんですが、科学者は言い訳は一番後にしなきゃいけないですよね。ま、そういうことなんです。



山片蟠桃(やまがたばんとう)っていう人はですね、「大知(だいち)」ということを言ってますが。これは「優れた少数の人の知恵よりも、多くの人の知恵の方が勝る」、ということなんですね。学会なんかでも、誰でも参加できて、誰でも発言する、と。必ず名前と身分を名乗って、議論する。これが非常に重要なことなんですね。まぁあの、名前を明かさないっていうのもある程度はいいんですが、ネットなんかの議論があんまり前向きにならないのは、やっぱり立場をはっきりしてないもんですからね。






これは例えば、私のリサイクルの批判とかそういうのに、例えばリサイクルを推進してる人とかね。それから地球温暖化でお金貰ってる人が私の温暖化の批判しても、これはまぁこれでしょうがないんですね。ですから、その人たちはちゃんと名乗って、言わなきゃいけないんですね。そうしないと前向きにならないわけです。



じゃあ、なぜ東海地震が来ると言われたのか?と言ったらですね、それは東大が研究費を貰えるからであって、科学的に東海地震が先に来る、ということじゃないんですよ。これ難しいですよね。ある人に話したら、頭に入らないんですよ。

「えっ、東海地震が先に来るんじゃないんですか?」

「そうじゃなくて、東大が研究費を貰えるからですよ」と。






最初の議論のときに、東北大学と東大と大阪大学の3者がいて、同じ力関係だったらば、もしかしたら東北か阪神の方の地震の研究費が増えて、そこに観測網ができたかもしれないんですね。つまり、「東海地震が先に来る」というのは、「来るのではなくて、来ると得をする人がその会議にいた」、ということなんですね。まぁ難しいですね。






ですから対策ははっきりしてて、まず第一に阪神淡路大震災と東北大震災を予知できなかった、東大関係の地震学者に研究費をまず出さないことですよ。これ、やるとですね、いくらでもいい加減なこと言いますからね。それから、地震学会も問題でありますから、これを再構築して自由な雰囲気で議論できるようにする、ということですね。ま、そのためには、私が他で書いてる「役に立つ研究」といいますとね、どうしてもですね、東大みたいな力の強いところが「役に立つ研究だ、東海地震だ!」って言ってしまったら、終わりになるんですね。




それからもう一つはやっぱり、NHK・マスコミ・国民ですね。これがですね、決定された過程がオープンでないものは、一応疑って批判をする、と。だから東海地震ってなったときに、「ほんとに地震を予知できるんでしょうかね?」とか、そいから「東海地震っていうけど、他は地震が起こる可能性はないんですか?」とか、「東海地震にものすごく研究費を使って、そこで観測網を作るんで、本当に大丈夫ですか?」というようなことをですね、かなりやればもしかするとね、阪神が先だとか、東北が先だという意見がずいぶん出るかもしれませんね。





いずれにしても、阪神淡路大震災と東北大震災で犠牲になった方々の無念を晴らすためには、もう一度、我々はですね、なぜ東海地震の前に2つも大地震が来たのか? 何が間違っていたのか? という点をですね、科学的に追求しなきゃいけないと、そういうふうに思います。


(文字起こし by danielle)