原発・エネルギー・環境の重要テーマ(2) | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

原発・エネルギー・環境の重要テーマ(2)

被曝で病気にならないために (1/27)

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この被曝が心配なのは、もちろん被曝自体ではなくてですね、もちろんですけども、被曝したら病気になったらいけないなと、まぁそういうことですよね。特にお子さんの病気が心配だ、と。しかも、今ではなくて10年後ぐらいの病気が心配だということなんですね。それでこの、どういうぐらい被曝したら、どういう病気になるんだろうかっていうのが、まぁ皆さんのおそらく一番の関心事なんですね。



で、まぁ非常に簡単に理解することができます。それはですね、どのくらい被曝したらどういう病気にいつなるか、っていうのはですね。全く判ってないってことなんですよね。ええと、判ってないとはけしからないと言われるんで、確かにその通りでですね。えー、判らないのに原子力発電所なんかやって、実際上、放射線で被曝するようになったわけですから。それじゃすまないと、こう、言われる気持ちは分かるんですけども。人間にはできないことがあるんですよね。



その一つが被曝で、どういう病気にいつなるかっていうのが、判らないってことなんですね。で、今「判ってる」って言ってる人がおられるんですけども、それはあの、研究者なんですよ。あの研究者って言うのはですね、本来は社会に発言しちゃいけないんですね。ま、ちょっとこれ難しい問題なんですけども。研究者っていうのはいろんな方がおられますからね。




例えば、酔っぱらい運転でも、安全に運転できるって言う研究者もおられるかもしれませんし、その人が、「酔払い運転を規制するのはおかしい」と言われてもいいんですよね。そいからまぁ、もっと現実的に近い話をしますと、安楽死ですね。「安楽死がいいんだ」ってお医者さんいるんですね。現実的に、患者さんを安楽死させたお医者さんもいるんですよね。ですから、それはそれで研究者ですからいいんですけども。





ええと、皆で考えて、判んないときは「このくらいにしとこうか」っていうのがあるんですね。先ほど酔っぱらい運転の例を出しましたら、「そんなの酔っぱらい運転はいけないに決まってるじゃないか」と言うんですが、実はあの、交通事故っていうのは一年間に5000人ぐらいが亡くなるわけですね。そのうち酔っぱらい運転で亡くなる方って非常に少ないんですよ。大体ですね、普通の交通事故でお亡くなりになる人の20分の1ぐらいなんですね。





ですから、最近よく言われるように、「ガンで死ぬ人が何万人おるんだから、少しぐらい被曝でガンになったっていいよ」なんて言い方をしますとですね、酔っぱらい運転だって別に悪くはないんですね。そういう比較をしますと、まぁいろんなことが言えるわけですね。



ですからまぁ、大体ですね、被曝でどういう病気にいつなるかっていうのが、判らない。病気の種類としてもですね、ガンがありますし、そいから生殖関係の異常がありますしね。そいから知能低下、それから免疫不全、小さいものでは鼻血とか下痢とか、流産とかいろいろあるわけですね。ですから、これはもう何になるのかよく判らないんですよ。





で、判らない理由の一つにですね、ガンにしても、いろんな流産とかそういうのにしてもですね、普通にも起こるんですね。被曝でも起こるわけです。そうするとですね、被曝してガンになったのか、それとも別の原因でガンになったのかっていうのは、今の医学じゃ判らないんですよ。ですから被爆してどうなるってことは、ほんとにはっきりしないわけです。




で、「被曝しても大丈夫だ」って言う方の話をずっと聞いてますとね、自分の研究例なんですよね。それはまぁ、研究者なんだから当然なんですけども。それとですね、ドイツが例えば1年0.1ミリシーベルト、つまり日本よりか更に10分の1に下げてる。この理由とですね、対比させて話していただかないといけないんですね。




ほんとはあの、研究者が話すからそういうことになっちゃうんですけども。ほんとは研究者じゃなくて、いわゆる専門家、狭い意味での専門家でしたらですね、まずあの、自分は研究してるとあんまりいけないんですよね。




これはあの、裁判官が法律作っちゃいけないのと同じなんですね。裁判官っていうのは人を裁くわけですね。ですからまぁ、ある意味じゃ判断するんですけども。その判断のよりどころは自分の作った法律じゃなくて、国会とか、何かが作った法律じゃなくちゃいけないですね。




安楽死がいけないのも、1人のお医者さんが安楽死が良いと思っても、それじゃダメなんですね。酔っぱらい運転をしても良いっていう人もいるかもしれませんが、それはやっぱダメなんですね。



このように、世の中のことっていうのは判らないことが多いんですが、そいから判ってても、人によって意見が違うってこともずいぶん多いんですね。そういったことを社会生活の中で回避していくためには、一応法律とか規則とか、そいからまぁ、申し合わせみたいなのがあるんですね。




この申し合わせとか法律っていうのが、今度の場合は「1年1ミリシーベルト」なんですね。でまぁ、申し合わせとしては1年1ミリシーベルト以下というのがまぁ、割合確実で、それから5ミリシーベルト以上では白血病が増えるんで、これに労災を適用する、と。それから原子力に働いてる人も、1年1ミリシーベルトと、これ平均ですけどもね、自主規制してる、と。大体我々の世界っていうのは法律に違反しなかったりですね、そいから自主規制に従うという意味では「1年1ミリシーベルト以下」と、こういうことになるんですね。





ところでですね、皆さんが迷っておられるのは、まず一つは1年1ミリシーベルト以下にできないときはどうしようかということと、もう一つは「もう1年20ミリでも大丈夫だよ」と、まぁ東大の先生とか、結構地位の高い人がそう言っておられるんでね。これはやっぱり迷われると思うんですよね。





で、自治体とか福島県なんかでも、「被曝は大丈夫だよ」と、「郷土を守るために福島に残ろう」なんて言っておられるんで、それもほんとかな、なんて思っちゃうんですけども。これはね、誰にも判らないことなんですよ。これは医学がもう少し発達しないと判んないわけですね。そいで、10年後にお子さんがガンになっても、おそらくですね、国は助けてくれないと思います。それはですね、ガンになった原因が被曝かどうかが特定できないんですよ、実は。そこのところに大きな問題があるんですね





あの、ヨーロッパの人達が1年0.1ミリシーベルトなんて言ってるのはですね、もともと現在ガンになる人も、被曝のためだとか言ってるわけですからね、ある割合がですよ。だから人間がガンになる原因の一つに原子力発電所があったり、医療で被曝したりするのがあるからだ、ってことですね。




非常にあの、世界的に有名な医学雑誌にですね、ええと2004年でしょうか。日本は医療被曝でガンが4倍だったかな、何か言ってるんですね。ですから、これはまぁあの、まだほんとかどうか実は判らないんですよ。普通はですね、ま、お医者さんにちょっとこれ、からい言い方なんですが、まぁとにかく患者さんにですね、CTスキャンなり検査をすれば患者さんも安心するし、そいから医療ミスにもなりにくいので十分に検査しましたってことで、割合と患者さんを被曝させるって例がやっぱり多いんですよ。




で、これで被曝してもですね、10年後にその患者さんがガンになっても、それはそのときのCTスキャンがガンの原因になるかどうかってのは、立証できないんですよ、実は。今、無責任社会ですからね。患者さん一人一人の人生を考えるわけにもいかないから。一応危険であればCTスキャン撮っといて、そいでまぁ、何でもなければ「何でもないですよ」と言った方がいいって。これはお医者さんが悪意というんじゃないんですよ。悪意というんじゃないんですが、やっぱりそういうふうになりがちだ、ということですね。ですからまぁ、混乱があるということなんです。






私はですね、実はその「被曝しても大丈夫だ」っていう本を出されている方の、やっぱりですね、これは自分の意見を言ってはいけないとか、言っていいとかいう問題じゃ、実はないんですよ。これはですね、もう決まってるんですね。どういうふうに決まってるかって言いますと、研究者はですね、人の健康とか、人の幸福とか、そういうものに直接触れるようなことをですね、社会に言ってはいけないってことになってるんです。




これはあの、私が再々言ってますように、お医者さんもそうなんですね。お医者さんは、やっぱり制限があるんですよ。多くの人が合意してることしか、治療できないんですね。あの私がときどき例にとるのは、風邪を引いたといって医者に行ったら右手を切り取られた、と。聞いてみるとそのお医者さんは、風邪を治すのには右手を切断した方がいいというお考えを持ってるかもしれないけども、それはそのお医者さんの個人的な考えであって、そんなことされると安心して病院行けないんですよね。




これは私、大学で先生してますけども、大学の講義もそうなんですね。学生には、自分の学説とか自分の研究結果ってのは、まぁ特別のときしか話しちゃいけないんです。ま、一通り話してから、「私はこんなこと研究してます」と、いうふうに言ってもいいんですけども、その程度なんですね。なぜかって言いますと、学生はやっぱ標準的なことを覚えなきゃいけないんですよ。





なぜかって言いますと、例えば、この放射線の被爆について勉強する学生にですね、「いくらでも放射線、被爆していいですよ」とこう教えたとしますよ。「1年20ミリ被曝さしてもいいんです」と、先生がそう教えた、と。で、うっかりその学生がですね、その後、社会に出て放射線を使うとしますよ。そしたらお医者さんがね、あの時に大学の講義で1年20ミリシーベルトだって言うからっつって、それやってたら捕まっちゃった、と。「何で捕まったの?」っていったら、「法律は1年1ミリだった」と。もしくは、病気になっちゃったと、こういうことがあるわけですね。




ですからそんときには、研究結果っていうのはそのまま使えないんですね。教えちゃいけないんですよ。教えちゃいけないってのは、別に教えることに制限があるんじゃないんです。何を教えてもいいんですが、やっぱり教えるってのはですね、ちゃんとしたことを教えなきゃいけないんですね。弁護士になるとか裁判官になる人も、法律を勉強せないかんですね。自分の正義ってのはあるかもしれません。自分の正義があってもですね、その自分の正義はちょっとこう下げて、そいで法律に基づかなきゃいけないんですね。ま、こういうことあります。




それから、「武田は、法律ばっか言う」っていうふうに言われて、この前も東大で講演したときにそういう質問が出たんですけども。あのこの「1年1ミリ」っていうような法律は、科学的に議論した法律なんですね。制限速度が何キロなんてのも同じなんですけども。あの、法で決めたっていうんじゃないんですよ、お医者さんがいろいろ議論して、どうも1年1ミリぐらいにした方がいいだろうということになって、1年1ミリにしたんですね。





ですから最初の頃、私、「1年1ミリって武田が言うんなら、データ出せ」なんて言われたんですけども。いや、データはですね、山ほどあるわけですね。山ほどあって、それを専門家が協議をして、1年1ミリにしたわけですね。ですから、被曝で病気にならないためには、いろんな人の話に惑わされず、1年1ミリ以下にするっていうのがですね、お子さんのためにはいいと思います。





じゃ、1年1ミリにならないときに、それはやっぱり基本的には移住するっていうことなんですけども。それはそれしかできないんですよね。例えば、新型インフルエンザがものすごく流行(はや)った、と。で、バタバタと子どもがインフルエンザに感染する、と。どうしたらいいんでしょうか?と。 「一応、そこんところを離れるのが一番いいでしょうね」ってことになるんですね。これはあの別に特に、今までの病気ではいつもそうなんで、あの特別なことじゃないんですよ。





えー、それからですね。あの、「放射線に負けない子どもを作ろう」なんつうのあるんですけども、こんなの全然ダメなんですよ。それはね、水銀が毒物ですね。「水銀に負けない子どもを作ろう」、「だから水銀を飲ませていいんだ」って、これはやっぱダメなんですよね。




あの、こういうことは精神的にはあり得ますけども、やっぱりこれは健康を守るっていう点じゃ、「放射線に負けない」とか「福島の農家を救うために、汚染された野菜を食べよう」なんていうのはですね、ダメなんですよ。




「水俣の漁師を守るために、水銀で汚れた魚を食べよう」って言って食べてもですね、それはダメなんです。やっぱり水銀で汚染された魚は捨てた方がいいですね。そいで放射線に被曝した野菜はやっぱ捨てた方がいい。これはまぁ、極めて健全な考え方ですね。やっぱり世の中は善良であって、健全じゃなくちゃいけませんから。ま、そういう点ではですね、ちょっとこういう言い方をする方は控えてもらいたいなぁ、って気がしますね。




そいからこの前、産経新聞って割合いい新聞なんですけども、産経新聞に「給食で被曝したっていいじゃないか」と、「お母さん方、神経質すぎる」なんて記事が出ましてね。またお母さん方が悩んじゃったわけですね。




この記事もひどい記事ですよ、えぇ。「給食に腐ってるかどうかも判らないものを出していいんですか?」と、ね。「給食に水銀が入っている魚を出していいんですか?」と。ダメなんですよ。やっぱりね、給食を食べることは大切なことですが、そのためにはですね、給食を出す人が「放射線に汚染されてない」ということを示さなきゃいけません。




それもですね、暫定基準のように「セシウムだけで1年5ミリ」、他の元素入れると1年に17ミリなんていうですね、法律違反状態の暫定基準を決めてるわけですから。その給食を食べるのが嫌だと言うのは、国民の権利ですね。日本国っていうのは封建主義じゃありません。お殿様がいるわけでもないので、ま、そういうふうにしなければいけないと思います。




従ってですね、私、福島で苦しんでる方々に大変に恐縮なんですが、やっぱり「被曝で病気にならないためにはどうしたらいいんですか?」というとですね、今、福島に住んでおられようと、どこに住んでおられようと、やはり被曝で病気にならないための行動は、一つしかないんです。




それは1年1ミリシーベルト以下になるようにするということですね。それは人間には判らないことです。神様しか判らないことなので、ま、そこんところはですね、頭にしっかり入れて、そして大人としてですね、子どもに対してどういう態度をとるか。これから後はですね、僕はこれは個人個人の問題だと思います。私たち科学者が言えるのは、もうそこしか言えない、とまぁいうことですね、これもハッキリしといたらいいと思いますし。




私は今ね、「被曝しても大丈夫ですよ」と言ってる人に、もう一個深く考えてもらいたい、と思いますね。本当に10年後に責任取れるんですか? 20年後に責任取れるんですか? ってことをですね、もう一回考えていただいて、混乱がないように対策をとる必要があるんではないかと、まぁこういうふうに思います。


(文字起こし by danielle)