小さな小さな私の娘。


お腹の中にいるときに、旦那と名前を決めていた。



『野々花』



広い野原に咲くお花。
誰もが貴女をみて笑顔になりますように…。


そんな想いを込めて名付けた。


妊娠中、旦那と2人で何度も『ののちゃん』とお腹の中の娘に話かけた。



今は、その名前を呼ぶたびに涙が溢れて仕方なくなる。



分娩後、病室に帰ると娘も看護師さんにだかれ部屋へやってきた。



娘の顔をじーっと見つめ、旦那と
『鼻はどっちに似てる?』
『眉毛はじいちゃんかな』
『美人さんだね。』

なんて話した。

娘を見ているときは、私も旦那も不思議と笑顔でいられた。



目を開けて、泣いてくれたら…。


何度もそう思った。


だけど、娘の顔を見れた。この腕で娘を抱っこしてあげられた。


ただそれだけでも良かった。


深い悲しみと苦しさの中で
唯一、感じることができた
大きな喜びだった。



分娩の翌日、退院だった。

保冷剤で冷たくなった娘を小さな棺桶に入れて、家に連れて帰った。



午後には火葬場に行かなければいけない。



時間が経つのがこんなに嫌だったことは今までなかった…。
『よく頑張ったね。』

助産師さんが、小さな小さな女の子を私の胸に抱かせてくれた。

715g…。

小さな娘を抱いて、
『私はお母さんなんだぁ』と心から実感できた。


そのあとすぐに娘は看護師さんに連れて行かれた。

私は、まだ後産が済んでいなくて自然に出てくるはずの胎盤が出てこなかった。

軽い癒着胎盤だった。
そのまま、子宮掻爬をされた。


我慢していたけど、思わず身体を反らせてしまった。


看護師さんに押されつけられながら処置が終わった。

分娩後にこんなに痛い思いをするとは思わず、
何もかも嫌で、
普通の妊娠、出産ができない自分の身体が恨めしくて仕方なかった。




綺麗にお風呂で洗ってもらった娘が、看護師さんに抱かれて私の元に帰ってきた。



娘を抱きしめて、顔を眺めて思った。


『お父さんとお母さんを選んできてくれてありがとう。』


旦那の顔を見たら、少しだけ潤んだ目をして
優しく微笑んで娘を見つめていた。



『…ごめんね。』

泣きながら謝る私に、
旦那は優しく言った。



『2人とも、よく頑張ったよ。』



この人を選んで本当に良かった。


心からそう思った。
夢なら覚めて…

強くそう願ったけれど、覚めてはくれなかった。

子宮口を開く処置は、思わず叫んでしまう程の激痛で…
隣に付き添ってくれていた旦那の手を握りしめ涙を耐えた。


お腹から、この子を出したくない。ずっと、私のそばにおいておきたい。

そんな思いを旦那の言葉が変えてくれた。


『早く楽にしてあげよう。』


促進剤を投与される前、旦那と2人でたくさん泣いた。


何があっても絶対に泣かないと普段から豪語していた旦那の涙を、初めて見た瞬間だった。



促進剤は効果覿面で、すぐにお腹が痛くなってきた。

痛みに耐えながら、
この陣痛が嬉しい痛みならいいのに…と思った。悲しくて、辛くて、痛いだけのこの分娩が不安で不安で仕方なかった。


出産は、旦那にも立ち会ってもらった。

赤ちゃんが小さかったため、分娩台に上がってから出産するまで、そんなに時間はかからなかった。

つるんと赤ちゃんが出て来たのと同時にお腹の痛みもパタリとなくなった。

…この子の産声が聞きたかった。