イラスト&ショートストーリー製作工場 -86ページ目

「夜間飛行」

今でもたまに空を飛ぶ夢を見る。


中学1年から2年にかけてのおよそ2年間、

3年目にしてようやく友だちができるまで、ほぼ毎日、

僕は登下校で飛行機の操縦かんを握った。


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家と学校とを結ぶ約20分間のフライト。

ただし 実際に空を飛ぶわけではない。

通学路を歩くという、当たり前の日常の中で、

僕はパイロットになったつもりでいた。


自分の身体を飛行機に見立て、足元の路面を地上にする。

小石は建物になり、水溜まりは湖、雑草は森林になった。

歩きながら右手を前に出して操縦かんを握り、

左に操縦かんを倒せば、顔を左に傾け、左方向に進む。


当時何事にも感化されやすく、夢見がちだった僕は、

リンドバーグのテレビドキュメンタリー番組を見てからというもの、

空を飛ぶことに憧れた。いや、リンドバーグというヒーローに憧れたのだ。


当然、そんな風に下ばかりを見て歩いていれば、

かなり風変わりな生徒に見られた。

もちろん親しい友だちもできない。

途中、すれ違う人とのニアミスは何度もあったし、

車の運転手から「どこ見てんだ」と怒鳴られもした。

何が楽しくて続けていたのだろう。

小学生の頃は石蹴りだったし、思えばずいぶん一人ぼっちだった。



万事要領の悪い僕は、大人になっても本質は変わっていないのかもしれない。

山積した書類に手間取り、残業で遅くなった帰り道。

今さらそんなことを思い出して、苦笑い。


故郷とは違い、都会の夜空には星は見えない。

駅からアパートの自宅までは、学校から実家までの距離と変わらないはずだ。

でも、あの頃はわずかに思えた距離が、今はとても長く感じられた。

「引っ越し先を決めなければ」

と、思わず、ひとり言。


暗くなった住宅地の一角、立ち退きを迫れたアパート一階の角部屋に、

ポッンと明りが灯っていた。


そういえば・・・。

携帯に送られた5歳になる娘からのメールを開く。


(こんど、空をとぶときは、わたしものせて)


みんなのヒーローになることはできないが、

だれかのためのヒーローになることはできるかもしれない。

そうして僕は、操縦かんを引き、ちょっぴり機首を上げた。

「サヨナラを言った後で」

「サヨナラ」を重ねるたび、

僕らはおとなになっていく。


でも、僕にはそのことがいいことなのかどうか、

いまだに、わからない。



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「じゃがいもの何が悪い」

その国は多くの国民が不満を抱えていた。


それは何も、じゃがいもが単に嫌いということではないらしい。

だって10年前には民衆は彼を圧倒的に支持し、

当時の元首だったニンジンを追放し、

彼を大統領の地位に付けたのだから。

それにニンジンの前は、玉ねぎだった。


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しかし、10年もじゃがいもを食べ続けることに、

国民が飽き飽きしていたことも確かだ。


抗議行動で広場に集まった人々の持つプラカードには、

「もうポテトサラダはいらない」とか、

「ハッシュドポテトには、こりごり」って書かれてある。


当のじゃがいも大統領は、どうかというと、

政権を譲るつもりはないらしい。

「じゃがいもで、何が悪い」

と彼が演説していたのをCNN放送で見た


世間的には皮むきや、芽を摘むという作業は面倒だけれど、

10年間国を治めてきた自負が彼にはある。

それに民衆の抗議デモも一週間が経つと、

反対に大統領支持派が集まって対抗し始めたのだ。


彼らは口々に「フライドポテトは止められない」と叫んでいる。

デモの警戒にあたっている軍の兵隊も、ポテトチップスを齧っているから、

案外、この政変は長期化する様相だ。


僕は夕飯の支度をしながら、CNNニュースのそんな映像を見て、

「みんな、たいへんだよな」と、思わずつぶやいてしまう。


そして鍋の火を弱めて、カレーの出来具合を一口チェックする。

玉ねぎ、ニンジン、じゃがいも、

「どれも美味しいんだけれどなぁ」

そう思うのだった。