古代ローマ共和政のもとで非常時の国家大権を与えられた官職。
前5世紀後半に始まる、ローマ共和政のもとで非常時に元老院から国家大権を与えられた機関。元老院が2名の執政官の中から1名を選び、任期は6ヶ月以内で、再任されないと決められていた。非常時とは、主に北方からのガリア人などの異民族の侵入の危機の場合であった。貴族と平民の対立を終結させた前3世紀前半のホルテンシウスなどが独裁官の例であり、任期は守られており、独裁者として権力を行使したわけではなかった。
共和政下のローマの政治体制は元老院・政務官・民会の三者によって成り立っていたとされる。平民による民会が基本であり、それに元老院が意見を加えるのだが、その政治力はその時代ごとに異なる。
古代から民主主義があったということは違いない。しかし、ここにディクタトルという独裁官がいた。それは非常時のみに選出されていた。
なぜこういう制度があったのかを察するに、平時には民意を中心とすべきだが、非常時にみんなの意見を聴いていては危機から脱することはできない。したがって一人の権限を持つ者に統治を任せようというものである。ただし、これはその危機的状況についてのみ政治力を発揮させるのであって、任期もわずか半年と限定させるのは、常時における独裁政治を防ぐためであったと考えられる。
これは選挙運動についても言えることだが、政治というのは民主主義でなければならないので、候補者が提示する政策というのはみんなで決めていい。ただ、いざ戦闘、すなわち選挙戦となれば、いちいち意見を集約していてはまとまらないし、行動を制約するだけである。そこでは組織は機能しなくなるという例が非常に多い。リベラルな政治思想を持つ候補者の陣営でよく起きることだ。
また、火災が発生したり、救急患者が出たりしたときも同じだ。いずれもいちいち民意に諮っている暇はない。だから平時においてはボトムアップ、非常時においてはトップダウンというのは、民を守る護民官はこのシステムによって機能する。
この古代ローマ共和制のシステムは、国と地方自治の関係についても活用可能である。
というわけで、本日の衆議院総務委員会は、5月7日の本会議で審議された
●地方自治法の一部を改正する法律案(213国会閣31)
の審査である。この法案はおそらく立憲民主党ら左派系が反対すると思われる。
(所管課室名)総務省自治行政局行政課
今回の改正法案では、たとえば隣の自治体で緊急事態が起きたときに、要請がなくても隣接する自治体は助けをすることができる内容が盛り込まれている。消防というのは、市町村ごともしくは市町村が集まってできた特別地方公共団体ごとに行われるため、市町村境で目の前が火災だと言っても助けることができない。
さらには、国が主導して危機的状況を脱するための指令をしていくことも必要である。大規模な災害、感染症のまん延、その他国民の安全に重大な影響を及ぼす事態には、ディクタトルのような特例を設けるという、今回の法案は必要なものであると考える。
なにしろ、基礎的自治体はいまや人口減少によって弱体化しつつあり、通常時には自治体の民意を大いに反映させても、危機的状況においては国が助けるのは当然のことではなかろうか。
今回の法改正における特例とは、
①国による地方公共団体への資料又は意見の提出の求め
事態対処の基本方針の検討等のため、国は、地方公共団体に対し、資料又は意見の提出を求めることを可能とする。
②国の地方公共団体に対する補充的な指示
適切な要件・手続のもと、国は、地方公共団体に対し、その事務処理について国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、必要な指示ができることとする。
【要件】個別法の規定では想定されていない事態のため個別法の指示が行使できず、国民の生命等の保護のために特に必要な場合(事態が全国規模、局所的でも被害が甚大である場合等、事態の規模・態様等を勘案して判断)
【手続】閣議決定
③都道府県の事務処理と規模等に応じて市町村(保健所設置市区等)が処理する事務の処理との調整
国民の生命等の保護のため、国の指示により、都道府県が保健所設置市区等との事務処理の調整を行うこととする。
④地方公共団体相互間の応援又は職員派遣に係る国の役割
国による応援の要求・指示、職員派遣のあっせん等を可能とする。
という内容である。
これに対して、野党からは地方分権の時代に逆行しているとの批判を繰り返している。
そのような批判が上がるのも、これまでの地方自治のありかたが、まだまだ中央集権であることから生まれるのであって、与党はこの批判に対して防戦一方になることなく、通常時の地方自治の在り方について、自治体の自由をもっと認めることをしなければならない。通常時に自由を認めることによって、非常時に忠誠的に自治体が効率よく、住民に寄り添って動くことができるからだ。
ただ、政府は「個別法で規定できない想定外に対応するので具体例は提示できない」について野党はブーイングである。想定できないから想定外なのであって、こうしたことに対処する法律は必要だろう。想定できないことが起きてから個別法を立法すればよいことだ。
そのほか、この法案には、「DXの進展を踏まえた対応」及び「地域の多様な主体の連携及び協働の推進」が盛り込まれている。概要は以下の通り。
●参考人出頭要求に関する件
なお、この法案はまだ質疑が続くようで、参考人を招致して次回は質疑される模様。
本日の質疑においては、立憲と共産は反対する構えだと思われる。維新は微妙なところで、国民民主はやや反対しそうである。
それにしても最近、松本剛明総務大臣はろれつが回っていないように思える。脳梗塞の感じがしないでもない。
かつてはもう少し滑舌が良かったに思う。