蒸れないブログ -62ページ目

しゃっほ5 幻想の夜編 その2

ああ、今日も一人、僕は人を救った。


こうすればいずれ彼女は戻ってくる。

香苗は戻ってくる。


なにしろ、僕は彼女の本質を手に入れているのだから。


あとは、種から育つごとく、彼女の帰ってこれる環境を作らなければならない。


ああ、また動く。それでは皺が寄る。

邪魔だな。潰すか。

それはいらない。

本質ではない。彼女が、また僕に優しく語りかけるには必要のないものだ。

ああ、早く会いたいなぁ、彼女に。香苗に会いたい。

だというのに、肉はいらない動きをする。

やはり肉などいらない。

その本質ではない。

こんな醜いものが本質であるはずがない。

不愉快だ。

とくに頭部が不愉快だ。

何の役にも立っていない。

不必要だ。やはり、最近のマネキンと同じように、顔はない方がよい。必要がないから取れるのだ。早くとってやらないと。

帽子もかぶってないくせに、まったく・・・・。


僕は――





そこに、全力を持って


叩く、叩く、叩く、叩く、

叩く、叩く 叩く 叩く 

叩く 叩く 叩く 叩く 

叩く 叩く 叩く 叩く

叩く 叩く 叩く 叩く


叩く  叩く  叩く  叩く!!!!


まったく、堅いったらありゃしない。




――そこまでにしとけ――


突然、蒼い声を聞いた。


なんだ?どうして、ここで僕をとめる。


僕は、彼女に会いたいだけなのに。


それに、誰も傷つけていない。



ふと、振り返ると、そこに、蒼い男がたっていた。


あの日見た男だ。僕が真実を悟った日、出くわしたあの奇怪な生き物だ。


髪を青く染め、目は混沌のように深く、薄汚れた黒。


その男は、突然、現れた。


「どうしてとめるんですか?あなたこの学校の人じゃないですよね?今の時代、学校に関係者以外が入るのは犯罪なんですよ?」

「それは君だって同じだろう」

「ぼくは、この学校のOBです。それに、僕は、今この人に新しい世界を教えてあげようとしているのです。」


「だから、それをやめろよ、殺人鬼。なぁ、河合良太君」


突然、男は僕の名を呼んだ。びくりとする。全く接点がないはずの男に名前を呼ばれるのは、意外と寒気のするものだった。


それにしても――



「殺人鬼?僕が???」


「いまだって、 その女性徒の頭部を破壊し、殺しているだろう。不満そうに言うなよ」

「何言ってるんだ、確かに、この入らないものを壊してはいるけれど、殺してはいない。ほら、ちゃんと今だって生きてる。」


「生きていない、明らかに死んでる。」


「あんたは!!!あんたは!!!これが見えないのかッ!!明らかに生きてるだろッ!!」


「お前、さっきから人の顔見てしゃべれよ」


「何を言ってるんだ!!僕はお前の顔を見てるだろう!!」


「いや、お前の視線はもっと下だよ。お前、さっきから僕の服しか見てない。」


「はぁ?????」


何を言ってるんだ、こいつは。

意味がわからない。


「そうか――、もう、それすら分からないんだな」


「あんた、狂ってるよ」


なんで、初対面の相手に、邪魔をされこんなことを云われなければならないのだ。

狂ってる。

「河合良太、18歳、大学一年生。君は、小学一年生の頃から虚言癖を理由に病院に通っているね。」

「あんた、人の個人情報を――」

「これは、警察の資料だよ。ありていにいえばね河合良太君、君は殺人の容疑が掛かっている。いや、もう君は明らかにその体から、殺人犯なのだけれど。

さて、続けよう。君は自分の事がわかっていないようだから、。」

「なんなんだ、あんたいったい!」

「通院初日のカルテに、君の虚言癖の症状が書かれている。

君が病院に連れてこられた理由、


それは、突然、父親の白衣に向かって話し出したことからだったね。」


「な・・・・・・・・」


「父親の、河合総一氏は、当時突然自分の方を見て反応も示さなくなった君に驚いた。お父さんはどこにいるの?と、聞かれるたびに、白衣の方を指さし、白衣に話しかけるようになった。当時の両親には、君のそれは虚言癖に見えたのだね。

嘘を吐いているのだと。


けれどちがう。


河合良太君。君の病気は統合失調症だよ。

いや、当てはめれる病名がそれしかなかったのだね。

『君には、人間の識別を服装でしか認知できない。その上、人の顔も、腕も足も他人との区別がつかないんだ。いや、それどころか、今の君はその一線すらも越えた』。


「何を言っているんだ?」


「『君は、外装こそが人間だと認知している』」


「何を言ってるんだ!!お前はさっきから、『そんなことは、当たり前のことだろうッッ!!』」


僕が貼り叫ぶように云った。

相手は狂っている、まるで、あんな血肉の塊が人間であるかのように話す。

そんな、事はあってはならないことだ。


「人間は、玉ねぎのような生き物だ!解剖学書を開こうと、生理学書を開こうと!体細胞ばらし、DNAの配列まで、分離したところで人間は、伽藍洞だッッ!!

本質ではない!!!

人には魂がある!精神がある!それが本質だとするならば、植物の種のようなものだとするならば!そんなもの肉の塊になんて宿るわけがない!!

DNAを複製して、クローン人間を作ったところで、本質である魂が複製されるわけではない!!

魂の座であるはずの脳を全く同じコピーを作っても魂は同じじゃない!


人間の本質は皮だ!魂こそは皮に宿るんだ!!そんなことは、当たり前のものだ!!

肉など、魂を服に宿らせるためのマネキンにすぎない!服の皺、疲弊度、外形こそが人間の本質を如実に語る!


おい!蒼い髪の男!!」


「ぼくの髪の色は『今は』黒だよ」


「肉の形じゃない、お前の魂の形だ!ぼくにはわかる!制服効果というのを知っているか?警察官が、何故警察官らしくふるまえるか、それは警察の制服が肉にそのような精神的効果を与えるからだ。人の思考順路など、服一つで簡単に変わる!人の魂は、より外装に宿るんだ!服がなければ、皮に!皮がなければ筋層に!筋層がなければ、臓腑に宿る!たかが、頭を壊した程度でなんだ!そんなものを壊した程度で人殺しだと!!?ふざけるな!そんなものは人間にとって必要のないものだ!!」


「そうか―――、それが、君の異常を肯定するための君の宗教か。

大した、成長じゃないか、河合良太。

さっきまで、顔の位置がどこかわからなかった人間の言葉とは思えないよ。

                      ――――ようやく、『語れるようになってきた』。」


「わかったのなら、僕の邪魔はするな。僕は彼女に会わなきゃ、会わなきゃいけないんだ。」


「どうして、それで『そんなこと』をやってるんだ?」


「彼女に帰ってきてもらうためだ。ほら、みろ、僕は香苗の制服を持ってる。彼女の本質だ・・・ああ、愛おしい。ここに彼女の魂が宿っている。

だから、環境さえ整えば、種から木が育つように、いづれ肉も元に戻ろう。

『ああ、香苗。もう、あんなできそこないの醜い肉のせいで苦しむ必要なんてないんだ。病気で苦しむこともない。一緒にいよう。ちゃんと、今度こそ言うよ・・・・だから・・・・・・・」


「予行演習・・・・か。君のこれは実験だったていうのか?」


「ああ、でも、問題ない。いづれ成功する。『あの人』が、教えてくれたから。『魔法』を。

ホントに感謝してもしきれない。『付喪神』を・・・」


「どうだろうな・・・・」


蒼い髪の男は、落胆していった。

憐みの視線をこちらに送っている。


「残念ながら、付喪神は憑かないよ。君は勘違いしている。僕はこれでも怪異専門の怪異殺しだ。

怪異というのはね『指向性のある現象』なのだよ。

現界したところで、その本質たる現象の枠を外れることはない。


いいかい、河合良太。付喪神という怪異は、『自己を投影した結果』をおこるものなんだ。

君のように『他者を物に投影したところで付喪神は現界しない。君が、付喪神で呼び起こせるのは、君自身の一部を投影した結果であって、君の言う『彼女』ではない。」



「なん・・・・・だと・・・・・・・・・」



そんな、馬鹿な。それで話が違う。『あの女』は、付喪神(アレ)は、物体に魂を宿らせ人格を持たせることだといった。

目の前の男が言う事が本当なら、付喪神では、物体に、僕の魂が入るだけだ・・・。

そんなものは、たんなるナルシズムだ。


「考えても見ろ、河合良太。付喪神は、物を大切にした結果の精霊化だ、物体への思い入れが、物に宿る。そこに人が人格を感じる。

さぁ、どこに、所有者と物体の間に赤の他人が入り込む余地がある?

君が大好きなおもちゃがあったとして、そこに強い絆があったとしてだ――そこで、なぜ、何の関係もない他人の魂が宿るというんだ」


「たとえ!そうであったとしても、香苗はどこかで生きている!!それに、これは香苗の服だ!!香苗は、この制服に愛着を持っていた!きっと、その時の付喪神を目覚めさせることができる!!」




「香苗?それは、この小説の中の人物の事か?」



蒼い男は、そういって、僕に一冊のノートを放り投げた。


「問題点のもう一つは、これだ。夢咲香苗なんて人物は存在しない。君の妄想の産物だよ。いや、性格には『夢咲香苗』なる人物の役割をしていた女の子は存在する。けれどね、彼女は一年前、交通事故で死んでいる。君も知っているはずだ。僕は君をその時見ている。



見たんだろ?




あの雨の中―――『シートの中身を』。」



――ああ、見ていた。生きていた。純白のシャツが赤く染まって



なんて、・・・・・・・生き生きとしていた。


「さて――、本格的に語ろう。

――君がその独自の宗教を作り上げたのは、あの瞬間、シートの中身を見てからだ。

あとは、辻褄合わせの都合合わせ。君は、あの時、夢咲香苗役を演じてくれた君を唯一愛してくれた少女の死体を目にしてその死を受け入れることができなかった。

だから、彼女を生かすための理屈と歴史を自分で作ったんだ。


その中に。そのノートの中に。


さて、


君は『狐の窓』にとらわれてしまったんだよ。




次へ

しゃっほー5 kokoroarika編 その1



心は重く、泥のように


     ――彼女は、通りかかった車の前に飛び出て

 

                           ―――死んだ。


ぼくは、彼女の死にざまをその目に焼き付け

                           ―――意識を閉じた。



8月7日に、彼女は死んだ。

8月8日に、葬式があった。

8月9日に、通夜があり

8月10日に、彼女を燃やした。


彼女はこの世からいなくなった。


夢咲香苗 


病死ではなく、事故死。

突然病院から抜け出して、道路に飛び出し、はねられた。


彼女がなぜそうしたのかは――誰にもわからない。


遺書こそなかったものの、それは自殺めいていた。



自殺とは――生者に残された、

           ――この世界に対する、

           ――理不尽な人生を強いた神に対する

           ――ふりかかった絶望に対する

                      最初で最後にして唯一の抗議の絶叫コエである。



彼女に絶望を与えたのは、僕の

                  ――嘘だった。



◆ ◆ ◆



僕は、彼女の幻影から逃げるように、まるで何事もなかったかのように


日々の生活へと帰って行った。

受験というのはかっこうの言い訳だった。

僕は医者になることも、小説家になることもせず

適当に受けた学部に入った。


そして、ぼくは、それ以来、一字として小説をかくことは、なくなったのである。


それでも、罪は拭えない。

いくら忘れようとしても、事実が消えるわけではない。

鉛のように重く、夏の日の陽炎のように――僕の人生は――歪んだ。




◆ ◆ ◆



惰性のような人生だ・・・・・・。

馬鹿みたいに騒いでいる周りの人間の雑音に耳を閉じて過ごす。


苦痛だ・・・・・・。


苦痛だ・・・・・。


周りの人間は何がおかしくてこんな雑音を生み出しているのだろう。

勉強をすることもなく、ただ、あたえられた課題だけを適当にこなして、後は馬鹿笑いを続けるだけの存在。

なにか、理想がある風でもなく、かといって、社会に貢献することもない。

ただ、SEXがしたいだけってのが、見え見えで女に話しかける男。

ただ、アクセサリーをとっ換えるようにおままごとの延長線で男に笑いかける女。

今日も昨日使った、薬がどうとか。

近隣住民の迷惑を顧みない馬鹿騒ぎをまるで自慢話のように続けている。


クズめ―――。


――こいつら、何のために生きてるんだ?


死んでもいいんじゃないか?ホントは生きてないんじゃないか?


こんな・・・・、

こんなやつらが生きる事を当然のように許されているのに――



―――


なんで――



――ッ――



駄目だ・・・・・。それ以上は考えてはならない。

なぜなら、彼女を殺したのは他ならぬ僕なのだ。




・・・・・・・・・・・。





「おい、良太。この間の―――おい!」

「課題があるんだ・・・・話は明日でいいか?父さん」


聞く気なんてないよ・・・・。課題なんてないし、卒業論文くらいだ。


「良太、お前はもう大学四年になるんだぞ!いつまでも、あの子の事―――」

「父さん・・・・・・、あいつの事なら、忘れたよ。もう、顔も思い出せない」

「良太!私はそんなことを――」

「もういいかい、ホント忙しいんだ」

「良太ッッ!おい、良太ッッ!!」



・・・・・・・・・・・・・・・。


どうせ、


どうせ、働く気はない。


ドナー登録カードに全部の臓器を使うようにマークはしてある。

保険証の裏にも書いてある。


―――だから、死んだ方が、まだ幾分か建設的ではある。


ただ、普通に死ぬのは怖いから、なんとなく、事故にあわないかとか、そういう都合のいい機会を待っているだけだ。


だから、そんな一生懸命にこれからの事とか話したってどうなるんだ?


いや、むしろ、ここで僕が脳死にでもなれば、本当は生きたくて生きたくてしょうがない奴らがたくさんいるんだ。

そいつらが、意味のある人生を叶えてくれるかもしれない。


それってすばらしいじゃないか?


だって、少なくとも、今の僕には、意味のある人生なんて送る資格なんてない。


幸せになる資格なんてない。


ホントは生きてる資格だってないんだ。


一人の人間を絶望に追いやって殺したのだ。それが当然、いや、それでも足りない。


キリスト教徒であったかどうかはわからないけど、

もし、そうであれば、彼女は天国にさえいけない。


それも これも どれも あれも なにも いつも なにもかも すべて 


僕のせいで、


僕の罪だ。


こうやって、ただ、彼女のいない生き地獄を味わうんだ。

そして、最後は苦しみもがいて死ねばいい。

彼女の事を頭から消しても、この事実だけは消えない。

筋を通して死ねばいい。


――ッ――



その日、夢を見た。


彼女がいる――顔をはっきりと思い出せない、けど彼女だ。

ずっと、あの頃のまま

ずっと、僕の心には彼女しかいない。


それなのに――どんな声してたかな。


なぁ、そうだ、呼ばなきゃ。

呼んだら、きっと、答えてくれる。


あの、あの優しい声で―――。


『香苗ぇ!』



          ――死ねばいいなんて

                    そんな悲しいこと言っちゃダメっすよ――



――ッ!!!


はっと、僕は目が覚めた。

何故、これほど驚いたのかは、すでに覚えていない。

夢とはそういうものだ。

ただ・・・・・何か・・・・いつか、どこかで聞いた・・・優しい声を聞いたような。

あれ?おれ?



「おれ・・・・寝てたのか?」

気付けば、机の上で寝ていた。

書きかけの論文が置かれていた。

ほほには情けない事に、ペンの後がくっきり残っていた。

論文の紙には涎の後なのか、ちょっと湿っていた。


「あと、10ページは今日中に進めないと・・・・」


僕は目を覚ますために、窓を開く


ぶわっ!


―その瞬間、突然の突風に、ばさばさと、資料やそれをまとめたノートが机の上から落ちた。


「ああ、くそ!」


僕は、ノートと資料を拾い集める。


特に資料はケチって、図書館のコピーを適当にまとめただけなので、バラバラになると面倒だ。


一枚一枚確認するように拾って、内容を見る。

そのながれ、落ちたノートを拾ってひらいて見た。


―――これは。


あの日のノートだった。

僕が稚拙で幼稚な嘘をつきづけていたあの頃の。

あれ以来、どこへいったのか?見かけることもなかったのに―――。


ページを開いて読んでみる。


そこには、あの頃の自分の精一杯と――あの頃の彼女のテコ入れで生まれた少女、『太陽のような髪を持つ天使』が、たわむれていた。


どこをとっても、特に凝った作りの文章ではなく

・・・・・・・・・・・・・・特に驚くような、台詞も展開もない。


(ああ、やっぱ、くだらないものだった。所詮この程度か)


ぼくは、そのノートをごみ箱に向けて放り投げた。


その、放り投げた向こう―――。


!?


僕は目を疑った。


僕の放り投げたノートが、放物線をえがいて、一人の少女の頭部にぶつかったのである。


こつん、とノートに少女が当たると、少女は、痛そうに頭を押さえてうずくまったフルフルふるえている。


(いつから?いつからいた?いや―そんなことより)


そこにいたのは、間違いなく あの、 嘘ばっかりの物語で駆け回っていた。


『太陽のような髪を持つ天使なのである』


新塵碕行の蒸れないブログ



――なんか、天使のわっかが、僕の知ってるそれとはなんか違うけど。


少女の頭の上の天使の輪、ぐにょっと形を変えて ? と書いた。



◆ ◆ ◆



――駄目だ。いや、陰鬱な生活してるから、『いつかは』とは思ってたけど、ついに僕の頭はおかしくなった。

とりあえず、病院―そう病院だ。父さんの病院でMRIとCT取って貰おう。

腫瘍の一つでも見つかるかもしれない――ああいやいや、ただ疲れてるだけってことも――でも、幻覚見るほど疲れることしたっけか?


どんどんと大股で僕は部屋から飛び出し、階段を下りる。


まだ、病院あいてるか?そうだ、夜間診療は隣町の病院でやってる。今から、車で―――って


その大股に、小学生か中学生かよくわからない背の高さの例の少女が急ぎ足でついてきていた。


――なんか、ついてきてる!?


僕は、階段をおりて、一階の玄関に向かうと、途中で父がたっていた。

ちょうどいいのか悪いのか?

いや、父さんとこんな話をしたことでまた、病気だ何だといわれるだけだ。


「おい、良太」

「ごめん、友達との用事が――」


そのまま、大股で通り過ぎようとした時、足に異様な重さを感じた。

気づけば、足に天使がしがみ付いて、俺に引きづられている。


「こいつ――――――

            ――――『小泣き爺』の類だったかッッ!?」


「――だれが、小泣き爺の類だ、良太」

「いや、父さんじゃなくて、いや、どけよ、おい!」

「!!なんだ、親に向かってその口のきき方は!!!」

「いや――だから、父さんに言ったんじゃないんだって!」

「では、誰にいってると言うんだ!」

「いや、あ、だからそれは―――」

(いま、おれのあしにすっぽんの様に必死で張り付いてる天使にだなんて言えっこない)
「すいません、父さん」

「ふん、まぁ、いい。

また、お前の虚言癖がぶり返したのかと思ったぞ。

いや、そんなことより、良太。お前、バイトしてみる気はないか?」

「バイト?」

なんだか、妙な話になった。しかも長そうだ。残念ながら父さん、あなたの息子は、現在それどころじゃないです。きっと脳出血くらい起こしてラリってます。

「実は、うちの病院では、入院生活で学校にいけない子供に対して、

まぁ、学校のまねごとをしてるんだが。

仕事の合間を縫って教師役を勤めていたソーシャルワーカーの女性が産休でな。

何、お前も教員になるのだろう?

これも勉強の一つだと思ってやってみないか?」


正直面倒そうだ。しかも、子供相手とはまたやりづらい。いう事は聞かないし無駄に騒ぐし――実際、今俺の足にまとわりついてるのも似たようなもんだし。


僕はじろっと天使を睨んだ。


―???-天使のわっかがまた、?マークを描く、しかも今度は三つ。


――その上、なにもわかってない。


はぁ、とため息をついた。

先ほどの父に対する暴言もある――ここは素直に引き受けたほうが得策というものだろう。


ぼくは、いやいやながら引き受けたのである。


ついでに、後日受けた検査では、何の異常も見受けられなかった。

――いろいろと、残念である。



◆ ◆ ◆


わー、わー、わー


わー、わー、わー




バイト初日――最初に感じたこの学校ごっこの感想は


無法地帯である。


わー、わー、わー、わーわーわー


「はいッ!静かにッッ!!」

ぼくは、たまらず大きな声を出して悪ガキどもをいさめる。

このくらいが、躾の範疇――。

その瞬間、――「うっ!」

と、男の子が胸を抑えた。苦しそうな顔をして、そのごもうううううと、唸っている。


瞬間――、あの時の、彼女の様子がフラッシュバックする。


「おい、大丈夫か?」


冷汗がぶわっと出る。駆け寄って、少年の様子を聞く、そうだ、看護婦さんは――


「――ごめんな、大声出し――」


「うそぉー!!」

といって、少年はしてやったりとにんまりわらって、僕を指さし笑った。


――このクソガキ!!


なにが、学校ごっこだ。年齢も内容も幼稚園ごっこだろ!?これ!!僕は教員になるんであって、保育士になる学部に入ってるわけじゃないんだぞ!?


「良太さん――、ここは病院ですから、あまり大きな声は出さないでください」


その上、看護婦さんに冷たい口調でしかられた・・・。まさに、ふんだりけったり。

また、クソガキ共は、怒られる僕の様子を見て爆笑していた。


◆ ◆ ◆


だいたい、なんで、僕が子守なんだ。

そもそも、元嘘吐きの僕が、何か人に教えれるとでも?

いや、そもそも、これは社会とか算数とか理科とかそんなんじゃないよな。


親父は、勉強だと言っていいたが、こいつらに何を教えるのを勉強しろというのだろうか?


さっきから、僕


「それはさわるな」とか「さわぐな」とか「けんかするな」とかそんなことしかしゃべってないぞ?


ああもう、さっきから幻覚の天使は、子供たちと遊ぼうとして追いかけたり、触ろうとしたりしてるが――まぁ、所詮、幻覚なんで触れないし、話せないし、何の意味もないのだろうけど。



―――ああもう、

         まだ、半日しか経ってないのに、

              こんなにくたくたになるとは思わなかった――


ふぅ、っと、一息入れてコーヒーでも飲もうと教室から出ようとした時―

                     天使がドアの前に立ってにっこりと笑った。

 

僕の後ろの方を、すっと指さす。

ふと、振り返ると、僕のズボンの裾をつかんだ子供が絵本を抱えてこちらを見ている。

「どうした?」

小さなその子供、何を恥ずかしがっているのか、もじもじしながらつぶやいた。

「せんせぇ、えほんよんで」

なんだ・・・・、本を読んでほしかったのか?

まぁ、そのくらいなら。

「かしてみ?」

ぼくは、本をとってそれを広げる。

(ああ――、僕も記憶にあるな、これ。

昔からあんまり変わってないんだなぁ。こういうの・・・・)


僕は、その子を膝に乗っけてその絵本を読み始めると。


「むかし、むかし、グリーンマンという・・・・」

すると、一人、また、一人と子供たちが集まってきた。

みんな、わずかな隙間を見つけて、絵本を見ようと必死である。

終わりごろには、教室のほとんどの子供たちが僕の周りに集まっていた。


そして、読み終えると――


「せんせぇ――、つぎはこれー」

「わたし、これよんでほし~」

「だめだよ、それあきたぁ~」

「おれも、あきた~、あたらしいのがいい」


一度にあちこちで要求してくる子供たち。

―それに、全部答えるわけにはいかないし

ああだ、こうだと、中には喧嘩を始める奴まで現れる始末。


(おいおい、なんで、こんな子供だましな話でここまで必死なんだよ、こいつら――いや、こいつら、子供だもんな・・・そりゃ、そうか)


・・・・・・


しかたねぇなぁ・・・・・・。


僕は絵本をぱたんと閉じて


「よし、わかった。絵本みたいに絵はついてないけど、先生が新しいお話をしてやる。だから、お前ら喧嘩すんなよぉ~」


―何年ぶりかの嘘・・・・上手くつけるかは分からないけど――


「あるところに、大きな大きな山がありまして、

    そこにはコロという名のわんこがすんでおりました―――」


僕は即興で物語を紡ぎだし始めた。


かんたんで――

 夢があって――

  優しくなれるような――

    あの頃の様な―――


そんな、夢を――。



物語を、2つ3つ紡ぎ終わったところで


子供たちは昼寝に入った。


おかげで、今度こそ一服つける。ここは、病院だからタバコ吸えないのは残念だけど――。


ふぅ、と、缶コーヒーを流し込む。

少ししゃべり過ぎた喉には、御馳走だった。


(しかし、これってやっぱり学校っていうより保育園だよな)

と、そこに、教室の窓の向こう廊下からおなかを大きくした一人の女性が手を振っているのを見つけた。


◆ ◆ ◆


「あ、っと、産休に入ったソーシャルワーカーのかたって」

「そうです、わたしなんですよぉ。ちょっと検査のついでに、みんなの事が心配だったから覗きに来ちゃって、あ、申し遅れました。春咲知恵と言いますw」

「いえ――こちらこそ・・・・」

想像したより、ずっとずっと若い女性だった。

ぼくと、4つか5つくらいしか違わないんじゃないだろうか?

すごくきれいな人で、なによりすごく優しそうな人だった。


ぼくらは、たわいない世間話をしながら、子供たちの様子について話し合った。


――ああ、本当にこの人は子供の事が好きなんだな・・・・そう知るのに十分な時間。


「ええ、前の仕事をしながらだと、少し大変でソーシャルワーカーに」

「へぇ・・・・」

すでに一人子供がいるのだそうで、今回で二人目。

それでも、働くというのがそもそもすごい。


ぼくらは、一通りの事を話し合った後――


「ねぇ、良太さん、あなたは、この子たちの病気について何か聞かされてる?」

――突然そう言われた。

「いえ――」

僕は、その時まで忘れていたが、ここが普通の保育園ではないのだ。

ここは、病院である。

しかも、あの子たちは入院中の患者でもあるのだ。

「そう・・・しばらくお世話になるのだし。知っててもらってもいいのでしょうね。

ねぇ、良太さん。

あの子、勇太君」

彼女が指さした方向には疲れて寝ている男の子。最初に、僕をだました男の子である。

「彼ね、心臓の病気、心臓の中に人工の機械をいれてるの。今はすごく安定してて走るのも平気だけれど、いつ体調を崩すかわからない。」


――そ・・・んな。


重い病気だとは思わなかった。あんなに元気に歩きまわって、声も大きいのに。


「それからね、ゆかりちゃん。この間まで、大きなのう胞ができてたわ。感染症ね。

今は大丈夫だけど、気管支にもともと病気があるの。彼女は一生病気と闘っていかなきゃいけない」


僕に本を読んでとせがんできた子だ。


「そして、啓一君、彼はね――――余命、3年って言われてるわ。」


!!


彼女は次々と、子供たちの病気を語っていく。


そのうち、半分近くが――余命付きだった。


――それは、つまり・・・・・。


「でもね、あの子たち、すごく明るいでしょ?

死ぬって意味が理解できてないだけかもしれない、でもね、ちがうの。

あの子たち、本当に私でも、ひやりとするほど、すごく純粋にまっすぐな目で『自分の死』を理解してるの。」


――つまり、それは・・・彼女と同じということだ。


「でも、希望は失ってない。限られた人生を精いっぱいに生きてる。

私ね――あの子たちに教えてもらいに来てるの。

――無駄な人生はないんだって。

――生きることは喜びなんだって。

――飛びきりの笑顔で、飛びきりの優しさで、純粋さで

あの子たちは、教えてくれるの・・・・・ふふふ、あの娘みたいwいえ、こちらの話ね」


――彼らの半分近くが彼女と同じ人生を強いられてる。それなのに・・・・・。


「本当は、私が色々教えてあげなきゃいけないのだけれど、今できることはお手伝い。

彼らが、精一杯、生まれてきたことを賛歌できるように。

彼らには権利があるの、私たち普通に暮らしている人々一生分の幸せの何分の一でもいい、感じる権利が」


―それなのに、やっぱり、あの子たちは彼女の様に――笑って笑って・・・・。


「ねぇ、良太君。すごいことなのよ。私も二人目を妊娠してそれでもおもうわ。

生きるって、とてもすごいことなのね。」


「――それ自体が・・・・奇跡のように・・・・ですか?」


僕は、彼女が言ったあの言葉を思い出していた。

ああ、ああ、―――――そう言うことか。


「あの子たちは、わかってる。

あの子たちが生きてるのは、なにも自分のためだけじゃないわ。

あの子たちが生きる、それ自体に意味がある事をよくわかってる。

あの子たちが生きている、それだけで、


       私達やあの子たちのご両親が

どれだけ救われているか、幸せか、生きがいかわかってるのよ。


もしかしたら、

  人は生まる時、あらかじめ周りの人を幸せにするだけの袋いっぱいの幸福を

                         たくさん抱えて生まれてくるのかもしれない。


それを、配って多くの人を幸せにしていくのが、

              ほんとの『生きる』って意味なのかもしれない。


夢のような話だけれど―――私には、それが彼らを通して真実のように見える。


ね、良太さん。

   おねがいがあるの。

        あの子たちに、あなたの幸せを少しでもいい、分けてあげて。」



春咲知恵さんは、そういって帰って行った。

なら、あの人もまた、これから、幸せを産むのだろうか?

彼女が僕の心を救ったように、春咲さんの子供もまた、誰かを幸せにするのだろうか?


そんな――きれいすぎる世界は在るのだろうか?

                    僕にも見れるようになるのだろうか?


でも、知恵さん。

ぼくは、その短い人生でのありったけの幸福を僕にくれた人に、絶望を与えてしまったのです、不幸にしてしまったのです・・・・。


ぼくは・・・・生きているのでしょうか?

            誰かを幸せにできたでしょうか?

      

ついぞ、忘れていたが、天使が毛布からぴょんと気まずそうに出てきた。

知恵さんが来てから見ないと思っていたら

                子供たちの毛布に隠れていたらしい。

どうしたというのだろう?          


◆ ◆ ◆


あれから、一か月ほど、僕はこの学校に来ている。

学校という名称はどうやら、子供たちの要望であるらしい。

まぁ、なにが、どうというわけではないが――。


そんな流れからか


「せんせぇ~、わたしせいふくきた~い」

と、女の子が言いだした。

どうやら、この間、この病院の玄関先のテレビでやっていた魔法少女系のアニメが原因らしい。


と、いってもない。


「ねぇ~せんせぇ~、じゃあ、つくろうよぉ~」


そんなこと言ったって、僕はあいつじゃないんだから。


――コスプレ趣味の彼女とは・・・・・・。


◆ ◆ ◆


その数日後、七夕の二日前。

僕と、こども達は短冊を作る事になった。


「ねぇ、りょうたせんせぇは、どんなおねがいごとするの~?」





僕の・・・・・願い・・・・・・・・・・・・。

そうだな―――かなうことなら、彼女にもう一度――いや、何をいまさら。


今更・・・でも、それを叶えるには――僕は死ぬしかないのだから。


せめて、僕たちが織姫と彦星であれば、一年に一度でも会えたのに・・・・。


ぼくらは、もう会えないのだ。


許しを請うことも、あの時伝えれなかった言葉も、短冊にした所でもう叶うことはない。


だから、もう、もう、無駄なんだから、忘れようって決めたじゃないか――。


忘れて―――それで・・・・・・。



それで・・・・・・。



――――どうするんだ?


僕は結局短冊に何も書けずに・・・・・・。


「せんせぇ~、たんざくつけよ~?」

「ああ、うん、わかったわかった。」


ぼくと、子供たちは、笹につるしていく。


願いを・・・・。思いを・・・・・・。


それを病院の玄関先に置いた。


―――そこに、僕の願いはつるされなかった。




・・・・ところで、天使よ。お前はどう頑張ってもペン持てないから。

つばで文字書こうとしても無駄だから。

いや、泣くな。

むしろ、その涙でネズミの絵でも描いてろ、雪船なみに。


◆ ◆ ◆


子供たちの相手にも慣れてきた。

なついてきたと言った方がいいか。

まぁ、大半は僕の嘘(おはなし)のおかげみたいなものだけれど


あれだけ忌み嫌った僕の性質も、意外なところで役に立つものだ。


ほんと――次から次へと、即興で、その場限りだから、もう二度とおんなじ物はできないけれど、あっちらこっちら、嘘が出るってのは、本当に性分なのかもしれないな・・・・。


彼女を殺したあの言葉と、彼女とよく似た境遇が喜んでくれるあの話が

    ――同じ口から出た言葉っていうのは・・・・・・なんて、皮肉なんだろうな。


◆ ◆ ◆



次の日――



玄関先の笹に、入院者や、お見舞いに来た人々が、描いていったのだろう。


ずいぶんと、この笹もきらびやかになっていた。


天使が、いつも通り、僕の周りをうろついていると、それに興味をもったのか笹の葉につるされた、願いを読み始めた。


他人の願いなんて勝手にのぞき見るものでは二と――


そう・・・・おも・・・って・・・・・・・・・・・。



けいちゃんが、はやく、元気になれますように――あいのゆうた



勇太・・・・。

――自分だって病気のくせに・・・このまえ、少しはしゃいだだけで心臓バクバク言ってしんどくなってたじゃないか・・・・。

なのに・・・・なんで、そこで啓一の事なんだよ―――。


あいつは叶いもしないことを願うのだろう。


ちがう、これだけじゃない。


がんばって、勉強してお医者さんになりたいです――まり

                     


                  みぃちゃんとけっこんっしたい!ずっといっしょにいよう!――うきのこうすけ

   


  おばあちゃん、病気治して退院しよう、俺たちずっと待ってるから――会田利樹

                    


        せかいへいわ~ このえひかる                

                                     きょうのしあわせが明日も続きますように――はるのあい


           お嫁さんになれますように―――ななのみちえ      

         

                      しんだおかあさんにもういちどあいたいです―やいだこころ 

             


   みんなが幸せになりますように、小羽ちゃんが、また、会いに来てくれますように――春咲知恵 



     ずっとずっと、みんなのことわすれません――けいいち    



おいしゃさん、かんごふさん、ありがと~ まやのひとみ  

                                   


                                 みんなが、えがおでいれますように――なかた とし 

                       

                   ゆうちゃん、ままもがんばります、お薬たくさん飲んで がんばってなおそう―新田春枝




僕がここにきて一か月――

       


そこには、僕のであったもう命残り少ない子供や

              その彼らにあてた願いの言葉や祈りの言葉が



               夢みたいな希望が  綴られていた。



              ―――その多くが、叶わない。

叶えられるッすよ                                            良太君なら

                 ――それなのに。

                 ――それなのに。

                         良太君のお話にはその力があるっすよ


                      


                 どうして、願ってしまうのだろう

               叶わぬ夢だというのに・・・・。

            そこに書いてある全ては――叶わないのに。

         どうして、それでもこんなに希望の中で生きられるんだ。

          他人が思いやれるほどの優しさを・・・・・もてるんだ・・・。

                他人をうらやましがることもなく

                      あの時と

                   彼女と全く同じだ

                   

                      またか・・・

                  ―また、同じ思いをするのか


この世には死んだっていい様なやつが山といるのに

あの子たちが欲しくても欲しくても手に入らないものを粗雑に扱うやつらがいるのに

なんで、そんな奴らが生きて、他人の幸せを切に願うあの子たちが死なきゃいけないんだ・・・


―――いや


待て――それは・・・僕もおなじか?


彼女が欲しくて欲しくて仕方がなかった命を、死にたいと、ないがしろにしたのは


いや、僕は自分から人生を捨てにかかった、僕は、無目的に生きてるあいつらより、最悪だ。


ふふ、はは、ははは、はははは。なんか、なんか、自分が自分が情けなさ過ぎて涙が出てきた。


俺、何やってんだよ。

彼女がくれたせっかくのチャンスを無駄にして、ふてくされて


自分に正直なるって決めたのに――、彼女が教えてくれたのに。


なぁ、本当の自分は何を考えてる?


今、本当にしたい事は何だ?願ってることは何だ?


あの子たちにまけない、本当の僕自身の願いって何だよ?

                     

・・・・・・・・・・

                      

・・・・・・・・

                

――本当は


――本当はわかってる


       「会いたい・・・・」

             

            「会いたいよ・・・・」

     

  まったく、あいかわらず、嘘t機っすねぇ       彼女に――     良太君は

                自分に嘘はつかないでってあれほど言ったのに進歩ないっす

                 「『香苗』逢いたい・・・・・・・

                                  うん、百点っす 良太君


忘れたなんて、嘘だ!!

       わすれるなんて、出来るはずないだろ!

           お前の顔を、お前の笑顔を!声を!!

 ほんとは何もかも覚えてる!!

    忘れてたのは、忘れてしまっていたのは――

                ―――本当の自分の心だよ、願いだよ。

会いたいよ、香苗!今すぐに!

あの時嘘ついたこと謝りたいんだっ!あの時言えなかったことを言いたいんだ!


届けたいんだ、僕の気持を、僕の本当を!香苗!香苗!!


ぽたぽたと、涙は流れた。とめどなく溢れてきた。

僕はそれを吹くこともなく、短冊に願い事を書いて、笹につるすと走り出した――。


◆ ◆ ◆


彼女の家に行くのは、お葬式以来である。

あれから、この近くに寄りつくことすらなかった。


「引っ越してなくて良かった・・・・・」


ぼくは、インターホンを押した。


◆ ◆ ◆



太陽は南中にきて、さんさんと照る外とは逆に、部屋の中はすこし、その影を濃くしていたような気がした。


彼女が死んで4年も月日が流れてしまったのだな――。

そんなことにすら、今更気づくのである。


僕は、香苗のお母さんの美知枝さんに彼女がいる所に案内された。


「良太さん、ありがとう。」

と、香苗のお母さんに言われた。

――僕は逆に謝りたい気持ちでいっぱいだったというのに。


仏壇の前に座る、

そこに――彼女がいた。


そうだ――写真の中の香苗は、僕の心の中の彼女と寸分たがわない。


ああ・・・やっぱり、忘れてないよ――お前の事。


そう思った瞬間、またぽたぽたと、涙がこみ上げてきて


僕は震える手で手を合わせ、震える声で「今まで来なくてごめんな」と言った。



「良太さん」



そう呼ばれた。

         
僕は、こぼれた涙を拭きとって、向き直る。

香苗のお母さんは、僕の前に正座すると、彼女の制服を僕の前に出した。


そして・・・・・。


「香苗の寝ていた病院のベッドのそばから、みつかったんです」


一枚の手紙だった。


――「あなた、宛てです良太さん・・・・・本当に、本当にありがとうございます」


そう言って、香苗のお母さんは泣き出してしまった。


「私―、私たちは、私が、あの子をちゃんと健康な体に産んであげられなかったから」

「美知枝さん!」

「あの子は、ずっと不幸で、それなのに笑ってて、でも、そんなあの子が学校に行きたいって、でも、友達はいないようだったから―――」

美知枝さんは、ぽつぽつと語り出す。

「私たちは、不安だったんです!怖かったんです!このまま、このまま香苗が、香苗が、誰にもその存在がなかったかのように忘れ去られるのが――私たちだけが見ていた幻になって行くのが―――本当は、香苗はいなかったんじゃないかって、あれだけ、あれだけの幸せを私たちにくれた子なのに。

誰からも忘れ去られていくのが――怖くて。

それが、全部私たちのせいだと思うと・・・・私は―――。」

美知枝さんは、僕の前で頭を下げる。

「美知枝さん!止めてください!ぼくは、ただ――」

「ありがとう、良太さん!香苗の事、憶えていてくれて・・・あの子の事を忘れないでいてくれて――ありがとう、ありがとうございます」


ぼくは、美知枝さんが泣き止むまでそばにいた。香苗の事をいっぱい話した。

最後に、美知枝さんは笑った。

ええ――香苗を産めてよかった・・・・と、そう言ってほほ笑んだ。

天使はその様子を微笑みながら見ていた。


次へ

しゃっほ5 幻想の夜編 その3

狐の―――窓?」


「いっただろう。僕は、怪異専門だってね。君の巻き込まれた怪異はそれだよ。


そうだな、君が小さいころ、母親に本をよく読んでもらう子供であったのなら聞いたことがあるかもしれない。

おそらく、実際の民族学的なものより、童話の方が有名だ。

あらすじは大体こうだ。

『ある時、白狐を追いかけていた猟師が、桔梗の原に迷い込んだ。
猟師は、その白狐が化けた染物屋に入り、お客として白狐の話を聞くことになる。

そこで、桔梗の花の汁で染めた指で作る窓に、もう2度と会えない人や懐かしい風景が見えることを知る。

猟師は鉄砲を代金代わりに、自分の指を染めてもらうが。

しかし、家に帰ってきた猟師は習慣で手を洗ってしまい、そのふしぎな窓の光景を二度と見る事はできなくなった。』

という、話だ。

死んだ者にとらわれた猟師は、大切な銃を捨ててまでその思い出に浸ろうとしたが、そんなものははかなく消えて、死んだ人はけして蘇ることはないと知る。

人間は死んだ人を引きずって生きていくことはできないという説話的な側面もある。


――まさに、今の君そのものだ。


だが、柳田國男によれば、『狐の窓』とは、こういったいかにも折れそうなほど複雑な指の形で枠を作り


『怪異』を見るための霊視の窓だ。

他にも似たようなものに、袖覗きとか、股のぞきといったものがあるが、どれも内容は同じだ。


囲いを覗き、カメラのファインダーのように、そこに『あちら側』と『こちら側』の世界を作る。

逢魔時―そこには、遠近差でうすぼんやりとした、こことは違う何かを見る。


『逢魔時』とは、夕方や、暁時、昼と夜との境界の事を云う。

夕方の影とその周りにできたうすぼんやりとした影の彩る世界は、京極先生などは、『まさしく魍魎が跋扈して、人を境界の向こう側へと引きずりこむ』とでもいうのかね。

案外、一般的に勘違いされやすいが、怪異というのはこの逢魔時にあらわれるものなのだよ。

丑三つ時が勘違いの代表にあげられやすいが、丑三つ時にあらわれるのは幽霊であって怪異ではない。

幽霊と怪異は全然違う。

幽霊は思い出と罪悪感。怪異は現象だからね。

まぁ、お互いにそれぞれの性質を獲得するときはあるけれど、これは基本のようなものだ。



さぁ、君の狐の窓はどこにあるかな?



指で作った枠の向こう?

いや、枠はあるだろう。白い枠だ。ノートを開いてもう一度見てみろ。君のノートだ。きみがここで、獲物を物色している間に、急いで君の家から取ってきたまぎれもない正真正銘の君のノートだ。」


僕は、まるで逆らえず、ゆっくりとノートを開く。


「開けばあるはずだ。



―――真っ白いノートの四角の枠が、


         そしてそこには、君が書き込んだ、

               『向こう側』の世界がびっしりと覗いている。

                                           


「嘘だ・・・・そんな、あ、あ、ああああああああ、あああああああ」


創作であるはずのそこに、僕の過去がつづられる。自身の筆跡で、自分の過去が否定される。



「君が描いた小説のシーンはのほとんどが夕焼け時。つまり、逢魔時。

狐の窓を小説という枠で再現した、怪異『狐の窓』だ。


怪異とは、僕の持論では、ただの現象じゃない。

『指向性のある現象』だ。

ゆえに、怪異はその目的である最終到着地点に映るまで、常にその時世の文化風習の影響を受け、変異し進化し分化する。


君はそれを自分で作り巻き込まれた。


挙句の果てに、人殺しまでさせられた。


『いもしない彼女に、執着するあまり、あるいは、いもしない彼女を演じ死んだ彼女のために』


君は幻想を求めた。


でも、物語の結末は童話と同じだよ。


君は・・・何も手に入れることはできない。」


「嘘だ!!!嘘だッ!!彼女はいる!!絶対にいる!!いるんだ!違う!だったら、僕は何のために!あの思い出は!彼女との会話は!!!彼女のかけてくれた微笑みは本物だ!!全部ニセモノじゃない!!!ニセモノであってたまるか!!彼女を嘘にさせない!!僕は嘘つきじゃない!!彼女はいる!彼女はいる!!絶対に!また笑いかけてくれる!!、あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


蒼い男は、壊れた僕に一瞥もせず、ただ、暴れる僕の頭に手を伸ばし




新塵碕行の蒸れないブログ

僕の頭を押さえて呟いた。


そんなに認められないなら、認めさせてやる


                さぁ、

                     悔い改めろ・・・・・・・



血だまりの中、茫然と自分の手が初めて汚れていた事に気がついたのは、サイレンの音が遠くから聞こえたその時だった。




「ああ、じゃあ、『彼女』は、誰だったというのだろう?」



◆ ◆ ◆




新塵碕行の蒸れないブログ

今から、このルートの真相編が始まりますが

はっきちいって、一見様には、なんじゃそら?な内容となっております。

そのため、こちらのしゃっほ~4の内容の方を読破されていると

より楽しめると思いますので、リンクを付けておきます。

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◆ ◆ ◆ 


真相編









河合良太に『蒼い男』と呼ばれた男は、ひとり、病院の診察室の戸を開いた。


この事件の真相は明かさねばならない。



「河合良太君を殺人鬼にまでいざなったのは君だね。美晴先生。


いや、―――『羽白 美晴』ちゃん。」




「そろそろだとは、思っていたけど。『憂鬱多弁』(ブルーブルー)。あなたを呼んだのは、高柳警部かな。」


「まったく、魔法使いっていうのは、本当に何をやるかわかりかねる人種ではあるけれど、君、大学一年生だろ?精神科医のまねごとなんてやってどうするんだい?」


「まねごとなんてしてないわ。みんなが勘違いしているだけ。羽白の家系の魔術特性は(追跡と誘導)。あなたも含めて、ここを勝手に診療所と思い込んでいるだけだし、私を医者だと思い込んでいるだけ、そのように人の思考を『誘導』した。」


「年下の女の子怒るのはどうも苦手だけど、はっきりいって怒ってるよ。今回の事はやりすぎだ。河合良太が作った狐の窓はほぼ完ぺきだった。これに肝の魔術的要素が付加すれば、


『本当に異界の門ができあがる』とこだったんだぞ。


そうすれば、彼岸に行ったものは彼だけでは済まない。この町の人間ごっそり全員向こう側の倫理におかされて、狂った世界が出来上がるところだった。」


「それも、また仕方がない。すべては、hinokiちゃんのためだから」


「そのヒノキちゃんが、君を探すために魔法使いになったよ。今もずっと君を探してる。今はどこぞの魔王の指示ですっかり君たち側の人間だ。

そんな、ヒノキちゃんをほっておいて何が彼女のためなんだい?」


「そう―馬鹿な娘。・・・・でも、それでも、これは必要なこと。

hinokiちゃんのお父さん。眞時清十郎を殺すためにはどうしても必要なこと。」


「ヒノキちゃんのお父さんを殺す?」


「hinokiちゃんはね、いまだに私ではなく、自分の父親の事を愛しているの。

家族愛ではなく、恋愛感情で。

このままでは、hinokiちゃんは一生あの男に心縛られたまま過ごして

私の事を見てくれない。私だけを愛してくれない。


そのためには、あの男の足跡を追うか、あいつのほうから私に接触させなければならない。



わたしはね、今回、hinokiちゃんのお父さんが残した研究を引き継いだだけなのよ。」


「どういうことだ?」


「今回の狐の窓からの異界の門を生み出すという実験ももとはと言えば、彼が途中で投げ出した研究ノートを見つけたから。

いったい、何者なんだろう?hinokiちゃんのお父さん。


魔法使いの私が言うのもなんだけれど――尋常ではないわ。



ヒノキちゃんが言うにはただのサラリーマンのはずなのだけれど。あの男は、私が廻っただけでも、北海道、東北、鹿児島、岩手に、同規模の研究の跡を残してる。

おそらく、青森が2008年に最も酷い異界現象に見舞われたのも、あいつが原因だわ。


もはや、魔法使いですら思いつかないような大魔術を今もどこかでたくらんでいる。

そう思うだけで、hinokiちゃんの事がなくても生かしておくわけにはいかない。


だから、彼の研究を勝手に起動させたものがいると知ったら、あいつがここに来るかと思ったのだけれど、着たのはあなたのほうだったか・・・・・。」


「だからと言って、君が河合良太にした事を許すわけにはいかない。」


「私は今回何もしてないわ。ねぇ、彼が服にしか人を認知できなくなってしまった『いろんな意味でやばい制服萌え』の男になった理由はね、かれが幼少期の虐待を受けていたhinokiちゃんにあったからなのよ。彼はそこで、彼女を励ますために小さな小さなウソを吐いた。


そして――眞時清十郎に見染められた。モルモットとして。


彼は人工的に、統合失調症にされたの。

その影響か、河合良太の小説に出てくる『夢咲香苗』のキャラクター性は、胸の大きさを除けば外見を含めてhinokiちゃんにそっくりだった。


河合良太が求めていた本当の彼女って、きっとhinokiちゃんだったのね。


私は、そこに、研究ノートの通り、代役の女の子を立てて、その女の子の死を待っただけ。


彼女が死んだのは事故よ。


まぁ、それも、あの男の計算通りなのかもしれないけれど。


まさか、こんなことになるとは思ってなかったし、河合良太が殺人を犯すようになるとも思ってなかったわ。」


「それは、嘘だ。すくなくとも、君は河合良太が狐の窓を完成させた後もカウンセリングを行っていた。すべて織り込み済み、彼が殺人事件を犯すのをずっと観察していた。」


「そう、相いれないのね。それで、どうするの?私を殺すの?」


「ぼくは殺さない、もう誰も殺さない、君にはヒノキちゃんのところに帰ってもらう。言霊を使ってでも強制的にだ。」


「そう、なら、私は全力で逃げるとしましょう『憂鬱多弁』(ブルーブルー)。さて、あなたに最後の質問だけれど、今回の事で誰が一番悪いのかしら」


「そんなもの、制服にきまってるよ」





                                        BAD  END


というわけで、このルートはバッドエンドです。別ルートをみたい方は、下のリンク表からお願いします。ついでに、もうひとつのほうがTRUE END

長く拙い文章ですが、


読了ありがとうございました。


あと、新塵碕行のしゃっほーは前回同様、2日目と3日目がございます。お楽しみにww




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