蒸れないブログ -61ページ目

しゃっほ5   その2

◆ ◆ ◆


それ以来、夢咲は、何かと絡んでくる。

絡んでくるだけじゃ飽き足らず、僕にコスプレ(自分の趣味)のカメラマンをさせてきた。

そのたびに、学校に忍び込んだり、公園に呼び出されたりで・・・・・、

まるで、自分の弱味をさらにさらけ出すように・・・・・


ぼくだって、そんな願い事など、断ろうと思えば断れたけれど・・・・



「知ってるだろ?僕は嘘つきだ。不快になる前にどっかいけよ」

「お前、アニメとかのコスプレはしないのな?」             ――「私からすれば、嘘つかない人間こそ怖い人っすよ」

――「訂正しておくと、私は、コスプレマニアでなくて制服マニア何すよ」
――「それって、違いあるのか?」                            「良太君は、童話で例えるとオオカミ少年すね」
                                                  ――「そういうお前は何なんだよ」

                                                  ――「あえていうなら、鶴の恩返しっすかねぇ」

          「どうして、進路なんかで悩むっすかねぇ。良太君頭いいじゃないっすか?」

          ――「どうして、お前が、僕の頭のよさなんか知ってんだよ」
          ――「謙遜もいいとこっすよ、いつも学年順位三位以内に入ってるじゃないっすか」

          ――「人の成績なんか見るなよ。お前とは何の関係もないだろ?」         
          ――「なんで、隠したがりますかねぇ。あたしなら、自慢するんすけどねぇ」

          ――「しらねぇよ」

          ――「私の偏差値、最高で27っすからね」            「あ、今おっぱいじろじろ見てたっすね?」

          ――「それは、さすがにまずくねぇか?」              ――「・・・・みてない」

                                                ――「うわぁ、露骨に嘘ついたっすねぇ。むっつりっす」

「良太君、案外写真撮るのうまいんすね」                       ――「・・・・・」

――「そうか?」                                      ――「男の子は、ほんと、これにはメロメロっすねぇ」

――「素人にしたら上手い方っす。まだまだ甘いっすけど」             ――「人を変態みたいに言うな、そして揉むな」
――「カメラがいいんだろ」                                ――「あ、期待しても、そうそう簡単には触らせないっすよ」

――「被写体がいいんすよ」                              ――「期待してねぇよ!」

――「・・・・・・・」




その上、おれの趣味にもやたらに絡んでくる。

        なんだか、これじゃあ弱味だのなんだのって、

                そんなこと言ってた自分がバカみたいじゃないか。


                     いや――

「次は何着てほしいっすか」

―「浴衣・・・」

―「ヤル気なさそうに言うっすねぇ、しかもそれ、制服じゃないっす」

                                                            「お前、なんで、コスプレしてんの?」
                                                            ――「良太君の小説はどう何すか?」

                        「いつもどんな、小説書くんすか?」               ――「治療―」

                        ――「いろいろ」                           ――「簡素っすねぇ、わたしは・・・

                        ――「読ませてくれないんすか?」                    私は、夢が多いんすよ。

                        ――「読ませない」                             夢が多くて、多すぎて

                        ――「読んでほしくないんすか?」                 そのほとんどは叶えられないっす

                        ――「読んでほしくない」                       叶えられないから、私はせめて

                        ――「けち・・・・・」                           それになりきってみたいんす。

                        ――「・・・・・・・」                            叶った様な、気がするんすよ」

                        ――「私のコスプレは毎日舐めまわすように見る癖に・・・・・」

                        ――「・・・・・・・・・」

                        ――「ホントは読んでほしいくせに」

[ねぇ、良太君                ――「条件①・・・・絶対に笑うな」

   わたしは、良太君の小説       ――「♪」
           大好きっすよ」                           「なんなら、手伝ってあげるっすよ

                                                              小説づくり」

                                                  ――「いらん」


                 ―本当に、

                      バカだったのかもしれない・・・・。



「良太君の作るキャラクターは夢がないっすねぇ」

―「余計な御世話だ」

―「どうすかね?太陽みたいな髪の子で、天使みたいなんすよ?」

―「お前・・・・・絵の才能ないな(メデューサが人間の腕を背負ってるようにしか見えん)」

―「そうすか?小学校の頃は、図画工作で◎もらってたんすけどねぇ」            「よくこんな複雑な話しかけるっすねぇ」

―「せめて、最近の美術の点数を言えよ」                            ―「書き方があんだよ」

―「そりゃ無茶っすよぉ」                                      ―「小説って、単純にウソツキまくるだけじゃないんすね」

                                                    ―「まぁ、あながちそれも間違ってないけどな」

                                                    ―「きれいな嘘は、なんか、やさしいっすねぇ」

                                                    ―「嘘はみんな汚いよ」

                                                    ―「なら、わたしはきれいな嘘を知っているっす」

                                                    ―「ないよ、そんなもの。」

            「その天使の女の子はみんなを幸せにするために来るんすよ」    ―「ため息が出るほどきれいっす、

           ―「じゃあなんで、その女の子は、みんなを幸せにしようとするんだよ」     ・・・・・・・良太君の小説」     

           ―「えぇ~、そこ、重要っすかぁ?理屈っぽいっすよ、良太君」   

           ―「昭和のアニメじゃないんだ。リアリティが重要なんだよ」

           ―「わたし、サリーちゃんとか好きっすよぉ。朝の子供劇場とかでチェックしてるっすよぉ」

           ―「普通、その子にとって損得がないと、感情移入できないじゃないか」

           ―「わたしが、良太君といるのは、損得じゃないっすよぉ」

           ―「なら、僕の『尊徳』だろう」

           ―「小説家っぽいっすけど、偏差値27の私にそのネタに気付けというほうがリアリティないっす」


「良太君の夢はなんすか?」 

―「急になんだよ」

―「聞いたっすよ、先生に。まだ進路希望調査出してないんすよね」

―「お前は、なんて書いたんだよ」

―「白紙っすよ」                                   「小説できたんすか!?待ってたっすよ!」

―「はぁ?それで通るのかよ?」                          ―「なんでお前が待つのさ」

―「書いても仕方ないんすよwいろいろと」                    ―「つれないこと言わないで下さいよぉ。

                                                今回は、私も手伝ってるんすからぁ。」

                                             ―「条件①―」

                                             ―「わかてるっすよ。私が読者第一号っす♪」


何せ、夢咲香苗は、

       そんな、僕の心のバリケードをやすやす突破するのだ。

                              簡単に踏み込んでくるのだ。

                                ずかずかずかずか、どこまでも。


       その上、自分の心の奥深く、ぐいぐい僕を引っ張ってくる。

                           自由奔放勝手無法に巻き込んでくる。

                                 掴んで引いて、抱きよせる。


              そうこうすれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ちょ、まて、お前何ないてんだよ。」

―「だってぇ、ハッピーエンドじゃないっすかぁ

      グッドエンドじゃないっすかぁ。よかったすよぉ。

            ホントよかったっすよぉ(/_;)」

―「そうかぁ?テンプレだろ?こんなの。ありきたりだよ。」

―「けど、良太君。ハッピーエンドは、尊いんすよ・・・・。

            なによりも、私も、こんな・・・送りたかったのに」            「お前、その制服まずくない」

―「もぉ・・・、お前がそんなんじゃ、この話も報われないよ・・」                ―「何がっすか?」

―「じゃあ、どうすりゃいいんすか」                                ―「モロ見えんだろ?誘ってんのか?」

―「よかったって、笑ってくれる用に・・・かい                          ―「モロ見せてんすよ、誘ってんすよ」

            ――なんでそこでまた泣くんだよ、お前は!」             ―「また人おちょくりやがって。帰る」

―「良太君は最低っす!」                                    ―「ああ、ちょっと!もう、良太君

―「何の話だ!」                                             鈍すぎて、こっちこそおちょくられてる気分すよ―」

―「ずぅるぅいぃ~~~!!!良太君、頭いいのに馬鹿すぎるっすよぉ!!」

―「もう訳わからん」

         

                        「ねぇ、聞かせてくださいっす

                              良太君・・・良太君の夢は

                                         なんですか?」


     気がつけば、

         お互いの些細な切っ掛け(弱味)なんて、

                        遥か、心の外側だったのだから。


――ッ――



ある日の夕方、いつも通り、忍び込んだ学校で

                 彼女は二度目の質問を僕にした。

僕は、進路希望調査の紙を彼女に見せた。

やはり、少し恥ずかしかった。


「なんだ、ちゃんと書いてるじゃないっすか」

「中身の問題だよ。」

「小説家・・・・・・」

「僕の父親は、医者だ。

    父親は、僕に医者になることを望んでいて、

             そのために、僕も勉強してきた。

けれど、やっぱり、僕は嘘つきだ。

     勉強ができたって、何をしたって、この性質がある限り、

             人とかかわりあう職業なんて

                         できやしない。

だから、僕は、嘘をついても問題のない職業になりたいと思う。」


ぼくは、ありのままを、隠さずに言う。

       僕の考え、僕の思い、僕の夢。ありのまま。

                ―――隠そうとは、しなかった。



「――ダメっすね。」


「0点っす」


夢咲は、冷たく返した・・・・。


「良太君は、今嘘をついたっす。」

「・・・ついてないよ」

「嘘をついたっす」

「なんだよ・・・・なんなんだよ!」

「ついたんすよ」

「吐いてないって言ってるだろッッ!わかった様なこと言うなッ!」

「そんなこと言う人がッッ!!

        ―そんな風に思ってる人が

               進路希望の紙を

                  ぐずぐず、いつまでも出せないはずないっすよ・・・・。」

・・・・・・・。


――何も言えない。何も・・・・でも・・・・けど・・・・・。


「良太君は、私に嘘を吐いたんじゃないんす。

                自分に嘘を吐いたんす。

                       自分を騙したんす。」


「ぼくは・・・・」


「良太君は、確かに、お父さんがお医者さんで、お父さんも良太君にお医者さんになることを望んでるかもしれないっす。

良太君が、自分にコンプレックスを持ってることも、確かだと思うっす。


でも、だから、小説家になりたいわけじゃないっすよッッ!!」


「ぼく・・は・・・」


「良太君が言えないなら、分からないなら、

なら、私が代りに、良太君の本当を言ってあげるっすよ!本当を教えるっすよ!

良太君は、お父さんが望むから、勉強してたわけじゃないっす。

良太君は、良太君を嘘つきだって一度は拒絶したお父さんに、認めて欲しいだけっす!

小説家になるのだって、嘘をつけるからなんて理由じゃないはずっす。

そんな後ろ向きな心じゃないはずっすよ。

そうじゃないっすよね!?

そうじゃないはずだよぉ!」


気が付けば、僕も、ああ、くそ・・・・なんで、なんで、お前が先に泣くんだよぉ!

泣くなよ!!泣くなよ!!夢咲ぃぃ!!!

お前が先に泣いたら――僕は


「嘘を付いてしまうだけの人が、良太君みたいな小説書けるはずないっすよ!

私が泣いちゃうような、きれいで、まっすぐで、前向きな

                        そんな、『おはなし』かけないっすよぉ!」


「夢咲ぃ・・・」


怖いよ、夢咲。まるで皮をはがされるようだよ。

何もなくなってしまう、心細いような、そうなのに、そんな、心の奥まで

入ってくるな!な?お願いだから!!頼むよ、夢咲ッ!!夢咲ぃッッ!!


 

「良太君、ね?好きなんすよね?そう言って下さいよ!

            自分の思いに、自分の夢に、自分の気持ちに

                       嘘なんか――嘘なんか付かないでくださいよぉ!!」


「僕は・・・・」


――良太君!」


「僕は!!」


―――良太君!!」


「ああそうだよ!ちくしょおおぉぉ!好きだよ!書くと報われた気がするんだよ!嬉しいんだ!たのしんだよ!!

でもさ!でも仕方ないだろッッ!?

だって、怖いんだよ!!

これだしたら!

もう、もう二度と、二度と――、

父さんも、母さんも振り向いてくれないような気がしてさぁッ!

怖いんだよ!!不安なんだよ!!

心細くてさ、

どうしても、どうしても

・・・・そう思うと・・・・もう・・・・出せなくて・・・・。

ああ、ちくしょおお!だせぇよなぁ!!かっこ悪いよッ!!どうして!!どうして!!!

俺こんなんなんだよぉおおお!!!」


気が付いたら、僕は泣きながら叫んでた。

せき止めるものも何もない、あふれてくる感情の吐露。

自分でさえ、自分でさえ気づかなかった、心の奥底に眠っていた何かが

溢れ返ってくる。


「いっつも、普通に、周りの奴らが羨ましくって!

どうして、どうして僕だけって!

でも、勝手についちまうんだよッ!

怖くて!怖くてさ!

だって、自分の本当を見せたら、

自分の本当なんていいとこなんて何もない事くらい知ってるからさ!!

自分で自分が嫌いで、

だから、そんな本当の自分、見せたらみすぼらしいじゃねぇか!恥ずかしぃじゃねぇか!!?

みんなから、嫌われるじゃないかッ!!

それなのに、とりつくったって、何したって、すぐにばれて、

みんな、みんな、僕のこと嫌いだっていうんだよ!

俺にどうしろって言うんだよ!

どっちでも同じだってわかってるよ!

でもさ、嘘を、嘘で塗りかぶせて、自分の心さえ見せなかったら!

せめて、みんな、本当の自分を嫌いになったわけじゃないって、そう言い訳が立つんだよ!!

幾分か―

幾分かマシなんだよッ!!

お前にとっては小さな、プライドに見えるよなぁ!夢咲ぃ!

けどな!

けど、俺にとって、これまでの人生、そのほとんどが、この小さな、小さな事を守り続けないと、やっていけなかったんだよ!

それくらい・・・・こわかったんだ・・・・・よ・・・・・・」


「良太君は・・・良太君は、馬鹿っすよ・・・・・・・」


夢咲は、僕の小説を手にとって、


開いて、それをいとおしそうに指でなぞった。


一字一字、まるで、泣いてる子供の頭をなでるように、


            やさしい手つきで、指先で、彼女は囁くように言葉を紡ぐ。


「良太君の、本当は、ここにこうして自分で書いてあるっすよ。

       ここに書いてあることは、みんな、み~んな、良太君す。

               きれいで、まっすぐで、暖かくて、やさしくて、透明で

――良太君が、いいところ何もないからっぽだなんて、全部うそっす。

良太君が自分で気づいてないだけっす。

見られたら嫌われてしまうなんて全部うそっす。

だって、こんなにも、私は良太君の、一字一字すべてが大好きっす・・・・。]


夢咲は、頬をほんのり赤らめて、そう言ってくれた。

            赤い、赤い夕焼けに充てられて、余計に真っ赤に見える顔が

                             最後に、小さく笑った。






――「それでも、僕は、きっと嘘を吐いてしまう。そんな自分が嫌いだ」

――「大丈夫っす、そもそも、良太君は、嘘吐きなんかじゃないっす。」

――「信じられない」


――「じゃあ、実験しましょう。良太君。」

――「なんだよ」

――「トランプの『ダウト』って嘘吐きを見つけるゲーム知ってるっすか?」

――「知ってるけど、二人じゃ、やれないだろ?」

――「変則ルール、13枚、1~13までのカードを集めて、そこから、2枚、適当にカードを抜いて、やれば、二人でできるっす。お互いの、持ってないカードを二つ見つけた方が勝ちっすよ、どうっすか?」








◆ ◆ ◆


僕は、自分に、自問自答しながら、カードを出していった。

どうしたら、上手く勝てるだろうなんて考えず、

素直に、

素直に、

あればある

なければない、


順番に、一枚一枚―――始め1から~最後13まで―――生き方を、振り返って・・


けれど、そうであっても、素直に出しても、

ないものはない。

二枚のカード。


その嘘を、僕は、どうしても吐かざる負えない。


そのたびに、

彼女は、僕を「良太君は嘘吐きっすねぇ」といって、

ダウトをする。


彼女は、一度も、ダウトを外すことなく、僕の嘘を見破った・・・・。



◆ ◆ ◆



―ッ―


「良太君の番すよ」

ぼくは、手元のカードを見た。

「『3』出してね。」

そんなもの、僕の手元のカードにはない。

僕は、仕方なく『いつも通りに』5のカードを「3・・・」と、答えて、伏せて出す。

「ダウト」

すっと、自分でめくる。数字は、もちろん5。これもまた、些細な嘘の露呈。

「ほんと、良太君は・・・・・」


いつも通り、言われるだろう。

いつも通り、告げられるだろう。

いつも通り、責められるだろう。


―そんなもの、慣れているけれど

               好きじゃぁ・・・・ないのに―



「良太君は―――ホント―



           嘘がつけないっすねぇ・・・・・・・・・・」



一瞬、目の前が真っ白になった。

蛍光灯のように点滅する意識の中、だんだんと何かが覚めていくような気がした。


その時、

トランプをやり始めてから、

       初めて、夢咲を見たのかもしれない。


彼女は―

      微笑んでいた。


新塵碕行の蒸れないブログ






「良太君の嘘が簡単にばれるのは、良太君が、自分でずっと、本当のこと言っちゃうからっすよ。

本当は違う、そうじゃない。

良太君は正直者っすから。」


「そんなの・・・・」

言われたことない。

「あるいは、馬鹿ともいうっすけど」

彼女はおどけて言う。


僕はぐぅの音も出ない。



――「ね?良太君は、嘘吐きなんかじゃないっすよ」


彼女は、僕をギュッと抱きしめた・・・・・。


◆ ◆ ◆



夢咲からは、いい匂いがした。

彼女の胸に顔をうずめるのはとても恥ずかしかったけど――

              僕の今の表情を見せる方がもっと恥ずかしい。


ああ、なぁ、どうして・・・・夢咲・・・・・・どうして、夢咲は、そこまでしてくれるんだよ。

お前、天使か?

「馬鹿っすねぇ。良太君は。ホント馬鹿っすよ。馬鹿で、にぶちんす。

             もし、ホントに天使がいるとしたら、それは私にとって良太君なのに」

「お前、ときどき、ほんと、よくわかんない事言うよな。」

「わからないのは、良太君が、馬鹿で、忘れん坊で、どうしようもないからっす。」

「いっとくけど、僕は、けなされて喜ぶ性癖なんてないからな」

「そうなんすか!?」

「なんでそんなに驚くんだよ!」



彼女を、そっと放す。

その時の、僕の表情はどんなものだったのだろう。

笑っていたと思う、けど、どんな笑い方をしていたのか――


             ――ただ、断言できるのは、きっと、僕の顔は、夢咲より、真っ赤だっただろう。」



◆ ◆ ◆



「夢咲」

「他人行儀っすねぇ。良太君は。私は昔から、

良太君のこと良太君てよんでるんすから、、下の名前で呼んでほしいっすよ。」

「じゃあ、香苗」

「はい、なんすか良太君」

「僕は、小説家になるよ。」

「そうすか、いいんじゃないんすかね」

「僕は小説書くのが好きだから―」

「100点っすよ、・・・・・さて」


彼女は、くるりと踊るように、僕から離れて、こちらを見た。


「告白もすましたことですし」

「告白って――」

「私は好きだって言ったはずっすよ、良太君」

一瞬で僕はゆであがった。

すこし、目線が泳いでしまう。


「キスしないっすか?良太君」

「ちょ、何?いま!?」

「夢だったんすよねぇ~。学校で、放課後。夕焼けだけが二人で照らす情景でって――なんか、青春じゃないっすか?」

「お前の青春って、絶対、型番古いよ。」

「うるさいっすねぇ。いいものはいつの時代もいいんすよ。


                    ね?  


                            だめっすか?」


そういって、香苗はゆっくりと目を閉じた。


香苗は、にこにこしながら立っている。

僕は、どうしていいかも分からず、とりあえず、立ち上がった。


(えと、何すればいいんだ?これ?

      あ、いや、キスなんだけど。分かってるけど

                    えと、なんだ?とりあえず・・・・・)


僕は、香苗の肩をつかんだ。


(いやいや、まてまてまて、

     なんでいきなりキスなんだよ?

     今までまともに友達もいなかったやつだぞ?おれ!

        飛び級?

      そう、いろいろ、超えなきゃいけないところ飛び越えすぎだろ?

    いや、でも――)




――「良太君、好きです。好きです。お願い、お願い、お願い・・・します。」――




目を瞑りながら、香苗が何か唱えていた――。


ああ――、そうか――。


こうやって、ドキドキしているのは、香苗も同じだ。

自分が受け入れてもらえるか、不安なんだ―――これは、香苗の

                                   ――精いっぱいの勇気だ。


なら、これは、僕の勇気なんだろうか?


ぼくは、自然と唇を、近づけていく。

不思議だな――ああだって、こうだって、いろいろ考えてたのに。


今は、ぽつぽつと、一言、一言、ぼんやり浮かんでは、消えていくだけだ・・・。


――ああ・・・・


――恋しい。


――愛おしい。


――好きだ・・・・香苗。


いよいよ、顔が近くなって、僕もゆっくりと目を閉じようとした時



彼女の、閉じた瞳から、涙がこぼれるのを見た・・・・・。


「―ダメ」


彼女がそうつぶやくのを聞いた瞬間、目を開くと、彼女は、唇を震わし、苦悶の表情をしている。


「おい!大丈夫かッ!!?香苗ッ!!!


香苗の顔が、どんどん真っ青になっていく。

        ―――胸を押さえて、ついに、うずくまってしまった。


「おい、しっかりしろ!どうした!?おい!」


「痛いぃ・・・苦しい、りょ、りょう・・・た・・・・く――」


「まて、今、救急車呼ぶから!119、119だよな!?おい、しっかりしろ!香苗、すぐに」


香苗は、ついに床に倒れこむ。


「おい!香苗ッッ!!香苗ッッッ!!!!」



――ッ――



◆ ◆ ◆



次へ


しゃっほ5  その3




◆ ◆ ◆



「すいません、すぐに!すぐに!

         救急車お願いします!香苗が!クラスメイトが倒れて!

       それで、それで――ああ、何だ糞!」

―落ちついて、場所をお願いします。

―「神戸市の桜ノ森高校!本校舎の三階、3-B」                        「

―倒れた時の詳しい状況を                                     

―「えと、倒れて、顔は真っ青になって、                              

      それで、胸を押さえて―なぁ!なぁ!助けてくれ!香苗が――」        

                                                      

                                               「血液まわして、あ、君――付き添ってきた男の子から、話を」

                                               ―「それが、先生の息子さんで」

                                               ―「本当か?いや、今は君が言ってきてくれ」

                                               ―「先生、この患者さん、夢咲さんですよ!ほら!」       

                                               ―「馬鹿な、なんで、こんな所に、向こうの病院にいるんじゃなかったのか」



「御両親が来られました!!」

―「香苗は!香苗は大丈夫ですか!!」

―「お母さん、落ちついてください」



                      「香苗・・・お願いだ・・・しなないでくれ・・・・」


「神様、仏様、もうなんだって、誰でもいい、悪魔だっていい

                                                    「君が、香苗をここまで?」

         誰か、誰か、香苗を助けてください、お願いします。」    

                                                    ――「あ・・・・はい・・・」

            「この世に神様がいるってんならさ、いい加減、一つくらい、人間のお願いを聞いてくれよ!

                                   奇跡でも何でもいい!できんだろ!そのくらい!なぁ!なぁ!!神様!」    




香苗は、一命を取り留めた。

まだ、意識は戻っていない


僕は、この時初めて、香苗の両親に香苗の病気のことを聞いた。

香苗は、本来なら、いつ死んでもおかしくない、重い病気を患っていた。

学校に行っていたのも、勉学のためなんかじゃなかった。

           死に際の最後の思い出づくり、彼女の願い

                  本来だったら、彼女にとって遠い夢の高校生活


 彼女の学園生活は――まさしく、それ自体が、終末期医療(ターミナルケア)だった。


医学の限界、

その先の医学は、もう、彼女の体は救えなかった。

                   だから、代わりに、心だけでも・・・。


「なんだよ・・・それ。

    香苗が何したっていうんだよ。

        理不尽じゃねぇかよ、ひどすぎるよ。

              あんまりだ、あんまりだよ・・・・・神様」




彼女の意識が戻るまでの、数日間、僕は、香苗のことを先生に聞いて回った。

香苗の病気のことは、本人の希望により、先生以外には伏せられたままだったらしい。

だから、クラスメイトの誰も彼女の病気のことは知らない。


――ああ、そうかよ。変だとは思ったよ。

       あんな、人懐っこい性格なのに、友達もいなくてさ

         あいつ、自分から人を突き放してたんだ。

            自分の病気で誰かが傷ついてほしくないから。


――うそつきはお前じゃねぇかよ、香苗。ずっと、必死で健康な振りして、

         ずっと・・・ずっと、この教室の雰囲気を、あいつは参加することもなく

               ただ、ただ、ずっと眺めていたんだな。

        どんな気持ちだったろう?

            友達も作れず、

         楽しげな祭り(健康な世界)の明かりを、遠くから眺めるだけの生活は・・・

      お前、そんなんで、本当に満足してたのかよ。

             なぁ・・・・香苗・・・・・・。


いま、思えば、彼女のコスプレは制服ばかり、つまり職業に関するもの

              それは、けして叶わぬ夢の代替行為だったのかもしれない。


「私は、夢が多いんすよ。

    夢が多くて、

       多すぎて

         そのほとんどは叶えられないっす

叶えられないから、

     私はせめてそれになりきってみたいんす。

               叶った様な、気がするんすよ」


そのままじゃないか・・・・香苗。

     明るい顔で言うなよ、何でもないように言うなよ。

          お前、どんな気持ちでそれを言ったんだよ、

                    つらいじゃないかよ。悲しいじゃないかよ。

 お前には、たくさん夢があるじゃないか、希望があるんだろ?

                  僕が撮った写真の分だけ、いや、それ以上に。

そのほとんどだって?

    一つも叶わないじゃないか。

それなのに、くやしくないはずがないだろ?悲しくないはずがないだろ?

                       泣きもしないで何やってんだよ

                              そんなに、俺は頼りなかったかよ。


なぁ、香苗。

目、覚めたらさ、何してほしい?

俺に何か叶えてやれることがあるかな?


香苗・・・・・。


「――良太君?お父さんの病院からだけど、

                   夢咲香苗さん、意識戻りました――」


◆ ◆ ◆


僕は。気づけば―荷物も持たずに学校を飛び出していた。

病院までの道のりを、ずっと走って・・・・・。



――ドアを開ける。



個室に置かれた彼女の部屋である。


「あ?良太君じゃ、ないっすか。どうしたっすか?そんなにあわてて」



また、こいつは・・・・・・・。

そんなに、明るい顔で、何でもないように・・・・・。



「香苗、お前・・・・」


「その様子だと、知っちゃったみたいっすね。そっか・・・・・。

でも、きっとなんか勘違いしてるっす。良太君、やさしいから・・・・・」


勘違いって・・・・・・。


「私の人生は、理不尽でも不幸でも何でもないんすよ、この人生を敷いた神様を恨んでもいないし、いや、むしろ感謝してるっすよ。わたし、神様に愛されてるなぁって――わたしは、すでに、もう、十分すぎるほどの幸運に恵まれてきてるんすよ」


なんだよ、それ。


「すごくラッキー続きでした。

ねぇ、良太君。あたしは、いつ死んでもおかしくないっす。

けど、それはつい最近突然始まったことじゃないんすよ。

私が、この病気にかかったのは、幼稚園の頃、


ほんとは、もうその時に死んでるはずの人間なんすよ。

                           わたしは・・・・・。

今、わたしが生きてるのは、お医者さんから言わせれば奇跡なんすよ。

奇跡――

見たことあるっすか?良太君。

私がまさにそれなんすよ?


・・・いや、それだけじゃないっす。


私の幸運。


まず、お母さんのおなかから生まれてこれたこと、

       お父さんもお母さんも私に優しかったこと、

            お母さんのご飯がおいしい事

               お父さんの稼ぎが良かった事

                空がとてもきれいだったこと

                  太陽の日差しが暖かったこと

                    雨はちょっと嫌いだったけど、

            小学校の頃の朝顔の咲く瞬間が見れたのは雨のおかげっすね

         人の手があたたかったこと、夢で見たお祭りが楽しすぎたこと

夕焼けが涙が出るほど切なかったこと 満天の星空にはしゃいだこと

 この間のテレビドラマはさして面白くなかったすけど、

             もうひとつ前の月9は名作だったっすよねぇw

ビデオ撮りのがした第1話は、もう一度見たかったす。おしかったなぁww

けど、そろそろ、ビデオ屋さんに並ぶっすよね。

ああそうそう、あのドラマに出てた、わんこが可愛いんすよぉw

私基本、猫派なんすけどね。

ダックス可愛いっすよね。

ヨークシャテリアくらいだったら、家でも買えたかも知んないっすけど、別れがつらいっすからねぇw最後まで面倒みれないっすからww

でも、やっぱり嬉しかったことと言ったら、コスプレっすかねぇw

始めて着てみて、鏡の前に立った時は、ああ、私はきっとこんな感じになるんだって

なれるわけないんすけど―――」


「香苗、俺さ――」


「ここまで生きてこれたこと―――」


「香苗、何か――」


「本当だったらなかったはずの、学生生活―ふふふ、女子高生っすよ、こそばゆいっすねぇw」



「なにか、できることないかな?」


「なにより、良太君に会えた――」


「香苗、聞いてくれよ」


「奇跡ばっかりっすよ。どれも、これも。目を閉じれば・・・・きらきら光ってる。」


「聞いてくれよ!!!」


そう叫んだ僕に、彼女は少しさびしそうな顔をした。


「じゃあ、そうっすね。ここに私の制服持ってきて欲しいっすよ。」


僕はうなずいて

僕は―病室から飛び出した。





◆ ◆ ◆


走る、走る、走る。


何かしていないと、早くしないと、彼女の命は、ふわりと、タンポポの種が風に舞うような気軽さで、どこかに行ってしまいかねない。

―そう思うと、気が気でなかった。



帰ってくる。彼女に渡したいつもの制服、を受け取った彼女は、僕を部屋の外で待たした後、「入ってきて」と、僕を呼んだ。


「ねぇ、良太君、じゃあ、お願いです。


         この間の続きをしましょう。


ここは、夕方でも、学校でもないけど、もう贅沢は言わないっす。」



僕は、あの時と同じように待つ彼女に、あの時と同じように近づいた。


「―あ!!!!」

突然、香苗大きな声をあげた。

僕はびっくりして、近付けた顔をはなして、目をぱちくりさせた。


「あ!ちょっと待って下さい!!良太君、これ噛んでください。私も噛むっす。」


こいつ!!この場でこの空気で、キスミ○ト渡しやがった!僕の口は、臭くねぇよ!


「でも、やっぱり、わたしのファーストっすからね、いい香りでやりたいっす」


ああもう、雰囲気ぶち壊しじゃ、ないか、まぁ・・・・・こいつらしいっちゃ、らしいけど。


「――ね、良太君。もうひとつ、忘れてたことがあるっすよ・・・・・。

「なんだよ。」


「わたし、良太君から、まだ好きって言ってもらってないっす」


なんだよ、いまさら・・・・。


「言って下さい、良太君―――そしたら―そしたら、私、ちゃんと『死ねる』っすから」


しね――る・・・・・・?


「もう、心のこりないっすから、ほんとは、一番なりたかったお嫁さん位にはがんばったらなれたかもしれないっすけど、もっと言えば、良太君との子供も産んでみたかったすけど、ひとまず、良太君のキスと告白で、許してあげるっす」


そういって、香苗は微笑む。でも、そこに小さな影が見えたのだ。


――こいつ、このまま・・・・・・もし、このまま僕が告白したら、簡単に死んじゃうんじゃないのか?こいつが、ここまで生きてこられた奇跡が、叶えたい夢のおかげだとして、――そんな事をすれば、香苗は満たされてしまう。逝ってしまう。


―――そんなのは、嫌だッ!!!


「さぁ、良太君。男の子としての正念場っすよw

私が死んじゃっても、この経験はきっと、のちの良太君の幸せのお役に立てるっす。

さぁ、小説家になるんすよね?

とことん、感動的なの頼むっすよwww」


そういって、彼女は、病院のベッドに腰掛けて、笑う。


――ダメだ、香苗、できないよ。そんなこと。

            香苗がいなくなるなんて、僕にはできない。そんなの無理だ。


できるわけ・・・ないだろ!!!!


「僕は、」


「はい」


「僕は――」


「はい」



「ぼく・・・・・は・・・・・・・・」


「僕は――――お前のことなんて嫌いだ。お前のことなんて何とも思ってない」


――――僕は・・・・・嘘を吐いた。


その後の、彼女の様子を見るのはつらかった。


雷に打たれたように驚いた顔は、どんどん泣きそうになって、ついに俯いて――。



「そうっすか・・・・・・。」


そう呟いた。


僕は、その場にとどまることもできず、病室を出た。

彼女が泣きじゃくる声を、その背に聞いて―――――。



天気予報では、今日はこれから天気が崩れる――――荷物は全部学校だ。


今日は、雨に打たれて帰るか・・・・・・・・。




「うう、やっぱ、面と向かれて言われるとショックっすよ」

「うん、分かってるっす。良太君、やさしいっすから。私の生きがいになってくれようとしたんすよね」

!!

「仕方ないっすよねぇ・・・ミスったなぁ。うん、普通に軽口叩かなきゃよかったっすね。でも、ほら、私、乙女っすから、なんかしゃべってないと、胸がバクバク言ってて、あのままだと心臓破裂して、良太君の前で、爆死するところだったすよw」

???

「神様のくせにおかしなこと言うっすねw胸のドキドキなんかで、ホントに爆死するわけないじゃないっすか。

うん、けど、本当にありがとうっすよ。いろいろ、無理させた見たいっすね。

因果律とかいうのっすか、そうっすか、もう神様でも、私の命つなげることは難しいんっすね。

うん、私、神様にもあえてよかったと思ってるっすよ。

大丈夫――大丈夫っすよ・・・・・こっからは、こっからは、自分の力だけで

良太君に、私の思いを伝えるっすから・・・・・・。大丈夫っすよ。私なら、良太君ことを思うだけで、いつだって、すぐに――でも・・・・とりあえずは」



◆ ◆ ◆



僕は、雨に打たれて帰った。

帰り道、この季節、雨は冷たい事こそなかったが、強く僕を打ち付けてどこか痛かった。


肌が痛いのか――

心が痛いのか――


頭の中で、彼女の最後の悲鳴に似た鳴き声が残響する。

罪悪感が、体の隅々までを重くしていた。


ぼくは、近くのコンビニで少し雨宿りしている―――。


これでよかったのか?


嘘吐きではないと・・・そう教えてくれた彼女を裏切って


それで、彼女が報われるわけじゃないのに

それで、自分が報われるわけじゃないのに



「おい、向こうで人が死んでるらしいぞ!」


「何?交通事故?」


「なんでも、頭を強く打ってて、血が・・・・・・」


「若い女の子らしいよ・・・・、桜の森の制服を着ていたって――」




――――まさか・・・・・・・。




ぼくは、その日の夜、大好きな人の死んだ姿を、雨に打たれながら、脳裏の奥へと焼き付けた。



彼女の表情は――――――。




◆ ◆ ◆


夢を・・・・・みた。


真っ白な世界の中で 罪悪感が心をむしばむ。


ああ・・・・・・・・・・。


ああ・・・・・・・・・・。



彼女の影が、向こう側へと言ってしまう。

僕は香苗の影を・・・・・・・・・・・。


                選択肢


→眺めていた・・・・。              →追い続けた・・・・・・・。










しゃっほ5 幻想の夜ルート その1

人の本質を求めるならば、

平常ならば、中へ中へと潜っていく。

薄皮をはがし、えぐり、取り去って、そこに残った中心こそがきっと本質に違いない。

誰だってそう思うだろう。それが普通である。


だれもかれもが、みかんを手に取る時、それを食す時、

皮をむいて、実を食べる。さらには、中に種がある。この種がみかんの本質である。

本質というものは大事なものなので、それを秘奥へと隠し、皮で覆うものであるとそう信じて疑わない。

そして、みかんの場合、それは正しいのだろう。

皮も実もなくとも、種さえあれば、また同じみかんができる。みかんの本質は皮に隠され埋まっている。


だが、それを人間に当てはめるのは間違いだ。


人間はみかんのような生き物ではない。


人間の皮をいくらはいだところで、

筋層をかき分け、組織をちぎり、臓腑をはがしたところで、

人間には、体腔と呼ばれる伽藍洞しかない。


あなたが、魂の座として、信じて疑わない脳にしたってその例外ではないのである。


人間とは引き裂いてその中身を見ても、何もない空虚な生き物なのである。

その秘奥に、何も埋まっていない、空っぽだった宝箱。

それでも、人間の実質は存在し、我々は生きている。


なぜなら、人間の本質は、その皮にこそあるからである。


皮こそ人間の本質である。

だから、我々人間は、みかんのような生き物ではなく。


玉ねぎのような生き物だ。


猿が、その身を取り出そうとして、いくらむいても、玉ねぎからは、皮しか出てこない。ついには、皮しかないことに気付く。皮こそが玉ねぎの本質である。


それと同じで、人間の本質は切り分けた、表面の浅い、外装の部分、皮膚であり、骨であり、筋層であり、脂肪組織であり、臓器にあるのだ。


ならば、人間の本質を見つけるのに、中身など関係はない。


外装こそが重要である。


現社会において、人間の外装とは何であるか?その本質はなんであるか?


語らずともわかるだろう。みな必死になって金をかけて取り繕う、まさにそれである。


これでわからないとするならば、――、一言。



ところで、諸君は、『身なりをしっかりしなさい』と、怒られたことはないのかね?



◆ ◆ ◆


雨の中、走り続けた。


病院に向かう道、その途中。


野次馬がまるで彼女のの遺体に群がるハイエナのように見えた。


僕は、野次馬を押しのけ、描き分けていく。


やっと開けた視界に見つけたKEEPOUTのテープの向こうに、彼女の遺体はビニールに覆われそこにあった。


警察官が、彼女の周りにラインを書いていく。


――それは、どこか、儀式めいていた。


ぼくは、叫びながら、テープの向こうに向かおうとする。

「香苗ッ!香苗ッッ!」


だが、途中、警官に抑えられる。

「君、関係者かい、被害者の知り合いかい?なら、こっちへ、話を聞きたい。」

「そんなことより、香苗に!香苗に合わせてくださいッ!」

「見ない方がいい・・・・・」

「なんでですかッ!!」


「死体の損壊がひどい・・・、まともな精神じゃあれは見れないよ。」


そう、警官に言われ、僕は一気に腰が砕けた。

突然襲った脱力感。


「こちらへ、今の彼女の状態も説明してくれる」


◆ ◆ ◆


ぼくは、そう言われて、パトカーのほうに向かった。

車内には、一人の刑事がいた。

年のころ、40か、それ以上か。

まるで、昔の刑事もののドラマに出てきそうな風体の男。

「高柳といいます。君の名前を、教えてくれないか?」

「河合―――河合良太。」

「年齢は?」

「18です。」

「高校生か――今年受験だな」

「あの――、そんなことより、香苗の事を」

「香苗、何、香苗だい?」

「なにって・・・」

「被害者の名前だよ、なにぶん、身元を示すものが何もなくてね、君の学校の制服を着ていたことから、今学校に問い合わせているんだが――」

「なにやってるんですかっ!!被害者の身元もまだ分かってないなんて!!!」

「いや、何分、顔がぐしゃぐしゃでね・・・・・・、だから聞いてるんだよ。

誰の遺体なのか。『君』に・・・・・」

「何言って・・・」

「どうということはない、君が被害者を特定した根拠を聞きたんだよ。死体には、ビニールシートが被せられ、我々は被害者はだれなのか一言も言っていない。そこへ飛び込んできた『受験生』、しかも、被害者の名前らしきものを叫んでいる、出来すぎか?」


――ようやく、理解した。

そうか、疑われている。


「いえ―――今、冷静になりました。実は、友人、夢咲香苗といいます。今しがた、彼女とケンカしたばかりで、追いかけてきているものかと――そしたら、外で交通事故が起きたというのを、話に聞いて、もしやと。でも、確かに、香苗じゃないかもしれない。――そうだ、病院に、病院に電話してみてください。もし、香苗が病院を飛び出していないのだとしたら、それで、僕の無実は証明されるし、僕も安心できます。」


「してみよう、病院の名前は?」「桜ノ森病院です。」


男は、迷わず携帯電話のボタンをプッシュした。


――雨に打たれたせいか、パトカーの冷房のせいか、体が冷え込んでくる。

まるで、冷蔵庫の中にいる気分だ。


冷静になってみれば、彼女が僕を追いかけてこれるはずがない。

昨日今日倒れたばかりの彼女か・・・・・。



「もういい、帰っていいぞ」


刑事は、携帯電話の電源を切って――そう答えた。


「なら、香苗は――」


「帰っていい」

刑事は、僕の顔も見ずにそう言った。


パトカーから追い出され、再び雨に打たれることになった僕は混乱した。


なんだというのだ?

人をさんざん犯人扱いしておいて、わびの一つも入れずに放りだされる。

その扱いに腹を立てるのもあるが、あの刑事の様子がどうもおかしい。


何か、触れてはならぬものを触れたような・・・・・そんな様子だった。


何が…なにがあったというのだろうか。

それとも――


ふと、死体を包むビニールシートが気になった。


帰る最中、死体を包むシートの中身を覗いてしまった。


ああ―――。


ああ、そうか―――。


僕は、納得してしまった。


――その死体は、生きている。


傷一つなく、汚れ一つなく、それは完全じゃないか。



――憑いている。――



ふと、聞きなれぬ音に振り返った。


人の声――の、ようなもの。


僕はあたりを見回す。


そこには、・・・・・『蒼い男』がいた。立っていた。


◆ ◆ ◆



次の日、ぼくは知ることになる。


           『夢咲香苗』は失踪した。



◆ ◆ ◆


八月七日、今日のトップニュースです。

本日未明、神戸市内とある路上で、警察官飯島なほこ巡査の遺体が発見されました。

飯島巡査は、帰宅途中を何者かに襲われたとみられており―――


                                             神戸市内で、この一週間だけでも三名の遺体が発見されており、

                                             そのいづれも、頭部を激しく損傷されているとの

                                              共通点以外の関連性は見つかっていませんでしたが――



しかし、犯行に使われた凶器の索状痕が一致したことから

警察は、今日の午後からの会見で、一連の事件を連続殺人事件として発表する予定であり、

事件早期解決を図っていく予定です。


                       「殺されたのは、いづれも女性ばかりですね」

                       ――「職業はどれもバラバラ、警察官、看護師、ガソリンスタンドの店員・・・」

                       ――「女性ばかりが狙われているのに、暴行の後はないのでしょう?」

                       ――「殺人以上の暴行がありますか?」

                       ――「いえ、そういう事が言いたいのではなく、

                          この犯人は、弱い者を狙っているようでいて、子供を殺してはいない

                          かといって、性的暴行を受けた後がない。

                          私は、犯人は、女性に何らかの強い恨みが

                           ある男性だとかんじます」

                                                   「私は、職業がこうもバラバラな方に違和感を感じるね

                                                    普通に通りすがりを狙うのならば、女性で一番多いのは

                                                    主婦だ。

                                                    けれど、被害者の職業に一人も主婦が入っていない。

                                                    つまり、意図して特定の職業の女性を狙った

                                                     のではないかと」

                                                    ――「しかし、職業はバラバラなんですよね」

                                                    ――「ええ、ですから、意図的にバラバラの職業を狙った

                                                       犯人は偏執的な側面を持ち、まるでコレクターのように

                                                       いろいろな職業の人間を殺しているのかと」


「しかし、何故頭部なんでしょうか?」

――「顔は女性の命だからではないでしょうか?

   昨今の女性は強いですから、

   男性は、本能的な征服感を得られず不満に思っているのでは?」

――「君たち、女性学研究者の言い分は常にそれだ。

    何でもかんでも男性を悪者にする。もはや、君たちのそれは

    言いがかりのレベルだよ。」

――「日本で男性が女性を虐げてきた歴史は消えませんし、今でもそうだと言いたいのです。」

――「その日本の最高神は、女性神なのだよ。」



◆ ◆ ◆


香苗が行方をくらました後、僕は彼女の影を追い続けた。



何故



その一言が何度も頭の中を駆け巡り、

僕はその続きを求めていた。




彼女はいない――その事実は、僕の中身を空っぽの伽藍洞にして、彼女の最後の聲(なげき)のみが残響する。




僕は、医学生になっていた。

彼女の行方は分からずとも、彼女の病気が癒えるわけではない。

彼女の足跡は、症例(カルテ)からは、消せないからだ。


彼女が生きているにせよ、死んでいるにせよ、いや、生きているには違いない。

だからこそ、僕はこの道を歩んだ。


彼女の脆い体が、皮肉にも、僕と彼女をつなげる最後の手立てだった。


ああ


しかし、彼女はそんなものに頼っているからこそ、苦しんでいる。


だからこそ、僕は早く教えてあげたいのである、あの日見つけた真実(ホントウ)を




――脆い操になぞ、拘らなければ

            人間は永久に在れるのだと云ふ事に――



◆ ◆ ◆



「では、まだ、見つかっていないのね、彼女は。」


僕は、いつも通り、いつもの時刻、習慣というより、習性のようにここに来ていた。

そう、医学生になった今でも、精神科の美晴先生のところに通っていた。


だが、それはすでに治療と呼ぶより、話相手を求めてと言った方がいいのかもしれない。


今の僕は――


彼女を見失ってからの僕は――


黙って放っておけば、思考の渦に溺れていくほど


心と理性が離れていた。


「ところで、良太君、あなたは、最近話題の殺人事件についてどう思うかしら」


「さて、興味がないというより理解ができない。許せないが、当たり障りがなく言うなら、もっと人の役に立てることをすればいいのにと思います。」


「そう、ごもっともな意見ね。まぁ、医学生の君は、これから多くの人を救う可能性がある」


「そこにさほど興味はありませんけど」


「あくまで、『彼女』が中心なのね、君は。」


「いえ、そうじゃなくて、学問として覗いた時点で


         『医学』が人の役に立つとは思えない。」


「それは、また、私の存在を全否定する意見ね。」


美晴先生はクスクスと笑う。『まぁ、あなたはそれでいいのだけれど』という。


「じゃあ、僕は、これで帰ります。今日も香苗を探さなければならないので」

「そう、がんばってね。今日はどのあたりを探すのかしら?」


「初心に帰ってみようと思います。」


「そう、『学校』なのね。ところで、あなた――」



美晴先生が、僕の手をつかんだ。


「小説はちゃんと書いているかしら?」

「ええ、もちろん。」



そう、それならいいわ。と、今日の診察はここで終わった。



次へ