恐怖と愛の漫画の話

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夏ですね。
双亡亭とレミゼの発売日が一緒だったので喜び勇んで買ってきました。
以下感想です。


双亡亭壊すべし 1 (少年サンデーコミックス)/小学館
¥463
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『双亡亭壊すべし』1巻(藤田和日郎/小学館)

藤田先生の最新刊。
おお……これはガチで怖いモンスターハウスもの。和ホラーと少年漫画的アクションの融合って感じです。
おどろおどろしくて謎めいていて湿り気のある恐怖。

タイトルそのまんま、〈双亡亭〉を壊すのが目的の漫画ですが、この屋敷がミサイル打ち込んでも壊れないわ、入った人間がおかしくなってしまうわ、おかしくなった人がまた怖いわでインパクト大です。
設定と藤田先生の画風が見事にマッチしていて、いいですねー!

双亡亭がとにかく不気味で、正体も何もわからないことだらけ。
絵から出てくる触手…引きずり込まれる人々…航空写真に写らない…
屋敷を建てた画家の怨念? それとも別の何かの呪い?
空間が歪んでいるのか、異界と繋がっているのか?
建物自体が生きているような気もしてくる。
まあ、私がアレコレ推測しても当たったためしがないから止めとこう。

謎だらけと言えば青一くんもですね。
異形の姿であっても心はまだ幼くて、折に触れてお母さんを懐かしむ。好きにならずにいられないキャラです。
家族を思い出す時のやわらかくて寂しそうな表情に惹かれます。
名札なくして落ち込んでるトコロがかわいい。

はじめは青一と緑郎に血縁関係があると思ってた(名前に色が付くから)んですが、まさか凧葉ととは。
凧葉から見た青一は祖父の兄の子で、青一から見た凧葉は父の弟の孫。
調べたら「いとこ違い」と言う続柄なんだそうな。

○凧葉から見た青一:従伯父(じゅうはくふ)あるいは従叔父(じゅうしゅくふ)
   ※凧葉の親と青一どちらが早く生まれたかによる
○青一から見た凧葉:従甥(じゅうせい)

うーん、小学6年生の従伯父/叔父と23歳(推定)の従甥とはロマンじゃないか。
何かこう疑似家族的なものを期待してしまいますねエヘヘ。

出会ったばかりの緑郎のためにスクーター乗り回す凧葉、イイやつだなあ。
このご時世に美大出て絵本作家を志してるというのが好感触ですよ。
青一&緑郎、凧葉&紅の合流シーンが早く見たい。

広げた風呂敷の畳み方に定評のある藤田先生なので、謎が解き明かされる過程に今からワクワクしています。
その中で登場人物がどんな生き様を見せてくれるのかも楽しみです。



LES MISERABLES 8 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)/小学館
¥720
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『LES MISERABLES』8巻(新井隆広/小学館)

堂々の完結です。
ダレンの時も思いましたけど、新井先生のコミカライズ力はホントに凄い。

原作の質量に対してコミックス8巻分というのが、少ないのか妥当な長さなのかは私にはわかりませんが、登場人物たちの苦悩や喜び、絶望や希望といった感情面の描写は充分すぎるほどでした。

「哀れな人々」の「哀れ」には「愚直」という意味もある気がするし、
哀れな人々が愛を全うするからこそ心揺さぶられるんだろうな。

ヴァルジャンに肩入れして読んでいた身としては、「お疲れさま、おやすみなさい」と言いたい気分。

振り返ってみると、光と闇の表現が印象に残っています。
闇の中から光の中へ足を踏み出したヴァルジャン、
ヴァルジャンやマリユスの目に映るコゼットの眩しさ、
信念のために散る瞬間、確かに光を放ったABCの若者たち。
闇の中、黒い渦に身を投げるジャヴェルでさえ、死ぬ間際には光の中にいたように見えました。

8巻ジャヴェルの「私の眼はこんなにも… 暗がりに慣れてしまっていたのか…」は、
1巻ヴァルジャンの「あまりに暗がりに慣れてしまったから…」を思い出さずにいられません。
生まれ変わると決めたヴァルジャンと、死の淵へ落ちていくしかなかったジャヴェル。
なんという対照、なんという共鳴。
一貫して描き続けられてきた「コインの裏表」の関係が、ここに来て極まった気がして感無量でした。

このシーン、
ジャヴェル=過去のヴァルジャン
ヴァルジャンにとってのミリエル司教=ジャヴェルにとってのヴァルジャン
だと思うんですよ。

つまり、自分は変われたのかと自問していたヴァルジャンが、ミリエル司教のような人間に変われたことを裏付けるシーンでもある。
もっと言うと、過去のヴァルジャンが救われたようにジャヴェルもまた救われた。
個人的にそう解釈しています。

とても満ち足りた読後感。
おまけ漫画のテナルディエに笑いました。あんた本当にしぶといな!!

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深い森の灯台

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私実はスティーヴン・キングの小説を読んだことがありません。
なんとなーく食わず嫌いなのと、作品が多すぎて何から読めばいいのかわからないというのが理由です。
しかし、「キングに影響を受けた」と言われる作家の作品を好きになることが多いので、たぶんキングもイケるんじゃないかとは思うんですよ。

てなわけで、キングっぽいという意見を見かけるマイクル・コリータ本の感想です。
微妙にネタバレあります。


深い森の灯台 (創元推理文庫)/東京創元社
¥1,404
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『深い森の灯台』
(マイクル・コリータ著 青木悦子訳/東京創元社)

深い森の中に立つ灯台で、それを建てた男が自殺した。死の直前の彼から謎のメッセージを受けた保安官代理主任のキンブルは、この土地ではるか昔から恐るべき出来事が続いていたことに気づく。さらに丘陵の周辺で次々に不穏な出来事が起こりはじめる。事故を起こし幻を見たキンブルの部下。夜が来ると攻撃的になる動物たち。そして森に正体不明の青い光が現れ、新たな惨劇が……。(本書裏表紙より)


うはー面白かった。
同著者の『冷たい川が呼ぶ』がかなり好みだったんで読んでみたら、大当たり。
アメリカ・ケンタッキー州の田舎町を舞台にしたミステリです。

自殺者が残した写真に映る人々の共通点は?
死者はなぜ灯台が森を照らし続けることにこだわったのか?
ネコ科獣救助センターから逃げ出したクーガーは一体どこへ?

普通の謎解きかと思われた話に超常現象や幽霊話といったオカルト要素が加わって、しまいにホラーの様相も呈してきます。
物理的な殺傷事件の犯人と、呪いじみた超自然の存在の二つを追うストーリー。
ネコ科獣たちの不穏な動きもハラハラ気分を高めてくれます。

不可思議さ=怖さですね。
不可解な力、人に殺人を犯させる力が、怖いです。
その正体に迫っていく過程が面白いので、ラスボスの正体が判明してからは怖さが薄れてしまってチョイと残念(笑)
いや、ラスボスに立ち向かうシーンも胸に迫るものがありますが。

現在進行形の事件に、かつて町で行われた鉱山鉄道のための構脚橋建設の話が絡みます。
ここらへん「ロンドン橋」の都市伝説や日本の怪談話を思い起こさせていい感じ。
人柱はよく聞くけど、死人が橋を作ったと言うのはどこから着想を得たんだろう。
ヴィージィも昔話や怪談話に出てきそう。

コリータ氏はアメリカの田舎町の歴史を物語に絡めるのが上手いと思うんですよ。
舞台となる町がどんな立地で、どんな産業で栄えて、どんな経緯で今の姿になったのかがあらかじめ設定されていて、主人公たちが図書館や新聞や取材を通して町の歴史を紐解いていく。
フィールドワーク的と言うか、事件の捜査をしながら登場人物が己の故郷を見出す構図になっている。
故郷には単純に出身地としての意味もあるし、精神的な安息地としての意味もある。

廃刊になった地元紙によって町への思いを実感するロイ。
あるいは家である救護センターにとどまるネコたち。
固有の土地への愛情を意識させる描写が好きです。
〈ソーヤー・カウンティ・センティネル〉という新聞名の由来と、それを受けてのアイラの表現がニクい。

どこか孤独感のあるキンブルが、ジャクリーンに対して「家に帰ってきたようだった」と答えるのも印象的でした。その後がかわいそうだけどね。

『冷たい川が呼ぶ』既読者としては、フレンチ・リックとウエスト・ペイデンという地名が出てきてニヤリ。

あとはやっぱりネコ科獣です。
黒クーガーのアイラ、虎のキーノ、豹のジャーファ……たくさん出てきてネコ好きにはたまらない。
クーガーとピューマとマウンテン・ライオンが同じ動物だということをこの小説読んで初めて知りました。


冷たい川が呼ぶ 上 (創元推理文庫)/東京創元社
¥1,015
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冷たい川が呼ぶ 下 (創元推理文庫)/東京創元社
¥1,015
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久々に映画感想。『ズートピア』観ました。
バディ萌え映画だと話題になってますんでね、気にならないわけがなかった。

以下感想です、ネタバレありますので注意。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


物語の舞台は、人間のように進化した動物たちが暮らす世界。

その大都会ズートピアでウサギ初の警官になったヒロイン・ジュディが、キツネの詐欺師ニックと手を組んで犯罪捜査に挑みます。

ジュディとニックのバディ目当てで観に行きまして、それについては後述するとして。
ストーリーも期待以上に楽しかったです。

要は新米女性警官が軽んじられながらも行方不明事件の捜査して、それが薬物絡みの陰謀に繋がって実はお偉いさんが裏で糸引いてたって話。
「これ刑事ドラマやん!」って思いました。
アクションありサスペンスあり、辛い過去からの脱却あり。最終的には主人公と相棒が認められるサクセスストーリー。
気持ちいいくらい王道の刑事モノですよ。王道大好き。

ズートピアの設定もキャラクターも、言ってしまえば人間社会のメタファーですよね。

肉食動物と草食動物には人種差、性差、マイノリティとマジョリティ、様々な社会的格差が反映されています。
生まれ持った差による偏見やレッテル貼りをどう乗り越えるのか……メッセージ性が濃い映画です。

私が良いなと思ったのは、そうしたメッセージを伝える手段として人間を動物に置き換えただけに留まらず、ちゃんと“動物ならでは”の物語になっているところです。

もちろん人間社会になぞらえた可笑しさってのもあるんですが(あえて服を着ないで生活している動物たち等)、
ウサギのジュディが聴力やジャンプ力を駆使して仕事してたり、
ゾウが素手ならぬ素鼻でアイス売ってるのを指摘したり、
シンリンオオカミの遠吠えを利用して敷地に忍び込んだり、
あらゆる場面で動物の特徴を活かした展開になってるのが面白い。

ヒツジの副市長に対しての「寝る時は自分の数かぞえるのかな」と、
「森へ帰れ!」「サバンナ出身よ!」にも笑いました。ネタが細かいw

伏線が綺麗に回収されるのもいいですね。
「コレがこう繋がるのか!」って、後になってから気付く伏線が複数あります。
最初の方でジュディに両親から電話がかかってきて、後の緊迫したシーンでもう一度着信があってピンチになるとかさ、きちんと計算して組み立ててあるんだなあ。

最初の劇が世界観の説明と伏線の両方を兼ねてるのが秀逸。
「進化」もキーワードの一つであるように思いました。

動物の中には抗えない本能がある、しかし進化によって獣性は理性に変わる。
理性は本能に従って生きていた時代とは別の問題を生むけれど、その問題を解決するのもまた理性の可能性である。
ジュディの言う「世界をより良く」も、そういう人間(動物だけど)の発展性とか可能性を前向きに描いた台詞なのかな、と。
自分好みの方向に飛躍し過ぎだろうか?(笑)

ジュディの前向きなとこ好きですね。

新しいこと、前例のないことを恐れず、理由なき恐怖を笑って否定する姿がグッド。
駐車違反100件検挙しろと言われて、午前中に200件やってやると張り切る精神よ。
見習いたい。


で、ジュディとニックの二人組。
個人的な感覚だと、炎のように燃え上がるバディと言うより温泉に浸かるかのごとく心に染み渡るバディでしたね。
赤の他人がパートナーになる顛末を見守るのは良いものだ(´∀`)

警官と詐欺師の凸凹コンビ感が楽しいですし、ゴンドラのシーン後、心の距離感を縮めていくのもグッときました。
上手くいきかけた関係が一旦こじれて絆が深まる、王道だ。

ジュディにはニックの心の傷が理解できて、それなのに会見で傷付けてしまって……ポロポロ涙を流して謝るのがとてもいじらしい。
ニンジンペンの録音機能を使ったニックの対応が憎らしいほどクールだぜ。
て言うかニンジンペン主演小道具賞かってくらい活躍してる。

好きなシーンいっぱいありまして、特に扉を開けて部屋を覗く時、ニックがジュディの耳の間から顔出すのがツボですw

あと、無理して頭が良いフリはしない方がいいね&人脈って大事だね。
人脈があれば大抵のことは解決しそう。


主題歌も好きだなあ。ガゼルさんが素敵。
吹替版を観たのですが、序盤で一度流れる主題歌が日本語版で、最後に再度ガゼルさん(中の人はShakira)が歌う主題歌は英語版なんですよ。
先に日本語版を聞くことにより、英語版でもなんとなく歌詞の意味が伝わってきますし、その歌詞とメロディが最高に物語にマッチしていて、いろいろ込み上げてくるものがあります。
聴いててちょっぴり涙出ました。

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最近、自分はオカルト混じりのミステリが好きなんだと言うことに気付いて、そういう本ばっかり読んでいます。
子どもの頃から狼男とか吸血鬼とか出てくる話は好きだったんですが、ただモンスター退治をするよりは、謎解きに超自然の存在が絡むのがツボらしいのです。
舞台がヨーロッパかアメリカだとなお良いですね。

この本は幽霊要素と探偵要素が上手くミックスされていてドンピシャでした。
以下感想です。

ロックウッド除霊探偵局 霊を呼ぶペンダント 上 (児童単行本)/小学館
¥1,512
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「ロックウッド除霊探偵局」シリーズ
(ジョナサン・ストラウド著 金原瑞人・松山美保訳/小学館)


第1巻『霊を呼ぶペンダント』、第2巻『人骨鏡の謎』、いずれも上下巻で出ています。

除霊探偵局とは、霊をふうじこめ、除去することを専門にする会社。
霊の出没騒ぎが各地で起き、霊との接触で死者まで出るようなロンドンでは、除霊探偵局が、活躍している。霊視力にすぐれ、<訪問者>=霊の声を聞きとる能力を持つルーシーが、ロックウッド除霊探偵局にやってきた。霊の声を聞くことのできる少女、霊オタク少年、鋭い勘を持つリーダーが次々に霊も凍る怪事件難事件を解決していく。彼らにどんな事件が、待ち受けているのか?(Amazonより)

「バーティミアス」シリーズの著者ということで、前から気になっていたシリーズ。
社会規模で幽霊が問題になっている、言わば仮想ロンドンが舞台です。

これはねー、
細部まで行き届いた世界設定だとか、霊の描写が本気でホラーだとか、探偵稼業がスリル満点だとか、面白い要素はたくさんあるのですが、
何と言ってもロックウッド除霊探偵局のメンバーが魅力です。

ルーシーはめちゃくちゃ気が強くて、ジョージは皮肉屋で、ロックウッドも意外と辛辣。

仲良しこよしではなくケンカもするし秘密もある、主体性の強い
3人です。
その全く遠慮のないやり取りがクセになるし、ふとした時に照れくさそうに互いを思いやってるのが好ましい。
3人各々の力を発揮し事件に挑む、バランス良く突き抜けたチームが痛快です。
たまにコントみたいな掛け合いするのも楽しい。

共同生活の描写が好きだなあ。
お菓子は一つずつ順番に取る決まりだったり、テーブルクロスにメモ書きを残したり。
はじめは敬語使ってたルーシーがいつからタメ口になったのかとか、ジョージが入社した経緯とか、想像すると楽しいぞ(笑)


あとはやはり、幽霊屋敷への潜入シーンが怖い。
霊の姿や行動以上に、霊が必ずいるのを知っていながら暗闇を進むルーシーたちの緊張感が恐怖を煽ります。
「くるぞくるぞ……きた!」みたいな。私が人一倍怖がりなせいもあると思いますが。

特に1巻の〈赤い部屋〉の描写にドキドキしました。
上から滴ってきて逃げ場奪うのはアカン。

2巻はフィッテス社の図書館シーンが好きだ。
ドレスアップした女の子を「きれいだ」と褒めた口で「逃げ足の速いカニみたいだった」と評するロックウッド君はティーンエイジャー紳士。

2巻が気にならざるを得ない終わり方をしているので、はやく続きが読みたいです。
根本的な疑問である「なぜ霊が出没するようになったのか」にも言及してほしいし、
頭蓋骨の霊も、ビッカースタッフとの関わり以外に何か秘密があるのかな?

頭蓋骨の霊と言えば、訳者あとがきの『どこかの妖霊』発言が嬉しかった。
愛を感じるなあ金原さん!



バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝/理論社
¥2,052
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読了ホヤホヤの感情を残しておきたいので、本の感想は読み終えた直後にスマホに打ち込んでいます、郷里です。
誤ってデータを消去してしまって焦ったのですが、既にパソコンに転送しておいたんだった。

というわけで事なきを得た感想記事です。

12人の蒐集家/ティーショップ (海外文学セレクション)/東京創元社
¥1,728
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『12人の蒐集家/ティーショップ』
(ゾラン・ジヴコヴィッチ著 山田順子訳/東京創元社)

「よろけヴァイオリン」、「惚れ睡蓮」、「陽気な骸」、そして「詰めこみモンキー」……変わった名前の菓子ばかり扱う謎のパティシエのケーキショップ。明け方に電話を掛けて「夢」のチェックをし、高額での買い取りを申し入れる謎の男。人を監禁して「希望」を自分に譲れば解放すると主張する誘拐犯。12人の異様なコレクターの姿を描く連作に、喫茶室を舞台とした迷宮的物語「ティーショップ」を併録。東欧のボルヘスと名高い著者が贈る奇妙な驚きに満ちた13の物語。(Amazonより)

コレクターを題材にした短編連作集。
本編と装丁がマッチしてて良いですねー!
こういう本を手に取ると、やっぱり紙の本は素敵だなって思います。

主人公自身が蒐集家である話と、主人公が蒐集家に出会う話とがあります。
蒐集家が集めるのは、日々、爪、今際の人のサイン、夢など、ほとんど超現実的。
不可思議な世界なんですが、読んでいて「こういう人いるかも」と思いました。
「蒐集家」という人種の心理や傾向がファンタジックに誇張されている一方、リアルでもあるなと。

登場する蒐集家は、独自のこだわりを持ち、神経質なくらいコレクションに没頭する人ばかり。傍から見ていると滑稽なくらい。
でも、蒐集によって生活の秩序や心の安定を得るってのはわかる気もします。

コレクション内容はもちろん収集手順、保管場所や収納方法が多様で面白いです。
どんなものを収集するかに、なんとなくその人の人となりが表れているようにも思う。

何に価値を見出すかは人それぞれ。
大多数の人にとってはつまらないものでも、コレクターには垂涎モノだったりする。
そして取るに足らないと思って手放したものが、実は必要不可欠なものだったことに気づかされる。
物事の価値と、それを手放す代価を問われている気がしました。

●日々
特別なケーキを食べるために、自分ならどんな日々を支払うか考えてしまう。
ケーキのネーミングと幻想性がお気に入り。
●爪
最後の一文が強烈。呆れるっていうか何ていうか。
ジョジョ四部の吉良吉影を思い出した。
●ことば
共感と満足感を覚える。
●夢
この出来事そのものが夢だったのではないかと疑わせるような話。

この4篇が好きですね。
散々コレクターたちの執着を書いておいて、最後に「コレクションズ」を持ってくる作者は意地が悪い。
全ての話に登場する紫が印象的。

併録されている「ティーショップ」は千一夜物語っぽくて好み!
物語のお茶は憧れるけど、自分が語り手の中に入っていくのは躊躇してしまうなあ。


14番目の金魚/講談社
¥1,728
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『14番目の金魚』(ジェニファー.L・ホルム著 横山和江訳/講談社)

ある日突然、天才へんくつ科学者のエリーのおじいちゃんがやってきた。おじいちゃんは若返りの薬(クラゲ)を発見したという。疎遠だったおじいちゃんと食事したり、学校に通ったりするうちに、科学への興味がわき、エリーの世界は一変する! おじいちゃんとエリーの仲間たちは、研究所に奪われた若返り薬(クラゲ)を手に入れる奪還計画を実行にうつすのだが…。(Amazonより)

小学校中・高学年向けの児童書です。

私ゃ老人と子どもの交流モノにめっぽう弱い。好きですこの本。
おじいちゃんが若返る以外そんなに大きな事件が起きるわけじゃなく、若返り薬奪還作戦も割とあっさりした展開です。
本書の魅力はそういう冒険よりもむしろ、科学を通した女の子の視野の広がりとか、気づき、みたいなものなんでしょう。

可能性を広げることだったり、価値観を見直すことだったり、科学と倫理のバランスだったり……エリーの姿を追いながら、気づけば読者も考えている。

主軸はあくまで、少年になった老人と孫の日常です。
おじいちゃん、頑固で独善的な態度にイラッとする場面もあるんだけど、憎めないし考え方が面白い。
キッチンと研究室を重ね合わせるのは私にはない発想だ。

博士号にこだわるおじいちゃんと演劇好きのお母さんの親子関係とか、
そんなおじいちゃんが見せるおばあちゃんへの愛情だとか。
ちょっとしたエピソードが微笑ましい。
ゴスファッションの男子がすごく気のいい子だったのが高ポイント。

科学の二面性(世界を幸せにも不幸にもし得る)を、きちんと書いてくれているのが嬉しかったです。
特にオッペンハイマーに対するエリーの視点の変化。
私たち日本人は子どもの頃から原爆について一定のことは教わる(授業だけでなく、絵本やアニメやいろいろなメディアで)けれども、アメリカの子どもの認識ってこんな感じなのかも。

「14番目の金魚」の意味を知った時、感動しました。

読者対象は9~12歳とのこと。
この本を読んだ子がその子なりの14番目の金魚に出会ってくれればいいと思うし、
大人として子どもに向かい合った時、自分は14番目の金魚になれるのだろうか、と内省的な気持ちにもなりました。