蒸れないブログ -28ページ目

ペリュトンの事 —自在証明ー 2−2


◆◆◆

まあ、そんなこんなで僕は仕事場を抜け出したわけであるが
どこかへ行けばネタが転がっている…なんて言うほど、世界はおもしろおかしく出来ている訳ではなく。
こうして、京都の町中を当ても無くぶらりぶらりと歩くはめになったのである。
まあ、ぶらりぶらりと言うほどカーブの多い町中ではないのだが。
何しろ、この街のほとんどは直線で成り立っている。それは、長安と言う1000年以上も前の都市区画のデザインを、現行においてさえ、この街は律儀に守り続けているからだ。

「なんとも、一途な話じゃないか?」——柄原美雄さん(19歳)

と言っても、この都市区画はここが以前首都として機能していたからこその機能的デザインであり、現在は500㎞以上も東に首都が在る事を考えると、内実の伴わないものを大切に守り続けていると言う、猛襲に近い物なのかもしれない。
これを伝統だと言うのなら、日本人と言うのは非常に盲目的な人種だと、そう思う。
そのくせ、この日本人がちゃっかりしてる所は、結局の所卓越した『便利』には、異様に簡単に負けてしまう所にある。
そう、今からフラっと入るコンビニエンスストアとか。

コンビニエンスストアとは誰が名付けたのか、気になる所ではある。
何しろ直訳すると『便利店』である。直球勝負が過ぎるとそう思う。おかげでストライクもとりやすい訳だが。
きっとネットでも見れば何かしらの答えは見つかるであろうが、あえて記載はしない。
別にネット不信と言う訳ではないが、単純に、端的に、『学習』という過程をすっぽかした知識は自分の物ではない様な気がするからである。つまり、他人の言を借りる事に抵抗が在るからだ。
これは、大槻キコアとしてのポリシーである。
学習を経てその知識を得ようとするとこれはなかなかにメンドクサイ。コンビニエンスストアの歴史をひもとく必要が在る。正直、誰も徳のしない知識である。雑学と呼ばれる物にうち分けられるか。
なるほど、小説家であり、物語を綴っている僕の様な人種としては何かしらの利用価値が在るかもしれないが、いかんせん、それはネタではない。どっちかっていうと、ページを字で埋める為だったり、次のストーリーポイントに移すまでの間を持たせる為の物でしかない。

「やっぱり、そんな無駄な物には間違ったって時間を割けないよな」——大槻キコア(21歳)

欲しいのはネタなのであるから
そんな、薄皮一枚で中は空みたいな空虚な小説書くわけにはいかないのである。——間違っても。

「それってプロ作家としての意地ってやつか?」——深戒櫃代(19歳)

馬鹿な、プロ作家だったら中身が在ろうと無かろうと充実をした物を書くのである。
だからこれはプロとしてではなく、

「無才な僕には、それしか出来ないのだ」——匿名希望(ま、僕なんだけどね)

ファミリーマートの入り口にしかれたマットの上を靴が乗ると、例のあの音楽が聞こえてくる。
「ああ、あれね?」と、わかってくれる人にはこれで通じるのだが、いかんせん、僕は小説家である。万人に愛される小説を目指してここを何か適切な表現で伝えたいのだが、う~ん、どうすればいいもんか。こういうとき小説による表現は正確性に欠ける。音階とかメロディーとか、そういうの正確に伝わらないもんな。
それだけ考えれば、音楽って凄い。「ニュアンス」みたいな物を伝える上では優れた表現方法だと認めざるおえない。
いや、文字にもきっと出来る事があるはずだ!特に日本語は、その表現方法の豊かさとアレンジの聞きやすさがとても生かす言語なのだ。何せ、表音文字と表意文字を両方使っているのである。
やればきっと出来る。

では

—挑戦ー

あ、あ~、え、え~と

—挫折—

駄目だ!全然出来ねえ!これきっと天才とかじゃないと出来ないわ。そして、読者も天才じゃないときっと全然伝わらないわ!
いや、まてまて。
そもそも、才能になんか頼ろうとするのが良くないのだ。かのエジソンも言った。99%の努力と1%のひらめきであると。

「まあ、凡人には、そのひらめきって奴が『1%』なんて高確率に手に入るもんじゃないんだけどね」
                         —深戒櫃代(19歳)

いちいちテンションの下がることを言う男である。蒼い!ネガティブ!

まあ、それはそれとして、その努力の結晶である物が『技術とかマニュアル』とか言う物である。
我々は、音階を表現するのに最良の物を手に入れているではないか。
そう、ドレミファソラシド、つまりはハニホヘトイロハである。
ついでに、アルファベットならCDEFGABCである。

—以降、雑談 読ミ跳バスベシ—

なお、普段の僕らが、歌詞を知らない曲を「ラ~ラ~」と歌うのは実は、音階の最初の音がドではなくラであるからだ。実はハニホヘトイロハで言えばイ、アルファベットならもっとわかりやすくAなのである。アルファベットは説明不要なので、イの方の説明からするとイロハニホヘトと言われればわかるであろう。元々は、イロハは数を数える言葉123のことである。「布留の事」という祝詞をご存知だろうか?祝詞として文字で使われていたのは古来漢字だった。ひらがなと言うのは後からできた物だから当然である。皇暦うん千年を数える我が国は案外歴史は深く長く、その初期には文字として漢字しか使われていなかった時期も在るのだ。そんなわけで、古来の祝詞にこんな表記が在った。一二三四五六七八九である。現代の我々なら、何の迷いも無く「いち、にー、さん」と数える所だが、これが、当時の神官たちにとっては、ふりがながふってなかった事も在ってどう唱えるか迷い物だった。そこで、みんな適当に読む事にしたのだ。「ひとふたみよいつむななやここの」だったり、「そてなていりさにたちすいいめころして」だったり。そうやって言いやすい数え歌として神言の一部が民間に広まったうちに、「色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならん 有為の奥山 けふ越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず」という歌謡に当てはめる風習が出来たのである。この色は匂へど散りぬるをの部分を平仮名にし、一音ずつ、分解。「いろはにほへとちりぬるを」として、順番通りに「123…」と当てはめた。ようするに、イは一番目と言う意味である。
まあ、本気でどうでもいい話では在るが。
なお、先ほど他人の言は借りないと言っておきながら非常に残念な事では在るが
この雑学は、ほとんど「深戒櫃代」の受け売りである。

—本編ニ戻ル—

さーて、表現するぞ。ファミマの音だ。
僕の絶対音感を持ってすれば、楽勝だ!

ソミシミファシファ…

うん、つったわらないよね~。わ~かってるって。

あーくそ、最低。

デジタルだったら



これですむのに。
まだまだ、小説家として僕は未熟なのである。
さて、入店して雑誌なんぞ読みながら、他人のネタをパクれないかと思案していると、ふと鏃(やじり)の事を思い出した。
人がこれだけ苦労をしている時に、きっとあの男は、お得意のドヤ顔で優雅に待ったり過ごしている事だろう。いたずらで、今から突然訪問し、彼女とのいちゃラブ休暇を邪魔してやろう。
そう思い立ったのだ。
思いたったが吉日吉時今すぐに。
僕は、コンビニから出て行こうとした時、ふと、香りにつられ、ある女性を目で追ってしまった。
甘い、匂い。
シャネルの5番をきて寝るわ。といってセクシーさを表現した女優もいたが、こちらは打って変わって、匂いだけでその女性が清楚だとわかるようだった。

きっとこの人は、優雅に丁寧に何でもこなせる様なお嬢様なのだろう。
なんとなく、そう思えるほど
そして、見てしまったのである。

彼女は優雅に、「じゃがりこ」を手に取り、優雅な手つきで…
それをバッグに押し込めた。

そして、彼女は例の音楽をならし、優雅にレジなど通らず外に出た。

うん、あれは
      ——万引きだ。

◆ ◆ ◆

sakura咲く頃、あの子の桜 4


私は、御世さまに匂い袋のつくり方を教えてもらい、漸く出来上がったそれの匂いを、すーっと、力いっぱいに吸い込んだ。
甘い匂いが体にしみ込む感じがする。
「いい匂い!」
「でしょ?大人の匂いよ」
なんて話をしていたら、すっと、ふすまが少し開いた。
「御世さま、美晴さま、お食事の準備ができました」
と、声のみだったが、ふすまの向こうにいるのはおそらく古矢だ。
「あら、古矢。あなた、今まで何処にいたの?」
「今日の夕餉の支度をしておりました」
「そんなもの、羽白(ここ)の使用人にでも任せればいいでしょうに、あなたは。他人(よそ)の家の台所にたつなんて無粋よ。恥を知りなさい」
「いいえ、御当主の口に入れる物ですので…」
「頑固者ぉ…、こういう時くらい羽を伸ばしてもいい物なのよっ」
「は、はい、承知いたしましたっ!」
ふすまの向こうで、その表情はよくわからないが、明らかに慌てている。
「いえ、しかし、このたびは、羽白の儀もちかく、使用人は出ていて、人手が不足していた様なので…」
確か似そうなのだ、羽白の使用人は本来もっと多いのだけれど、今は儀式の間近とあって一時的に外に出している。
おかげで、今日の夕餉も母が手伝ってやっとなのだ。古矢の気遣いは母にとっても嬉しかっただろう。

「ああ、そう…『そういう事になっているのだっけ』ね」

ぼそりと、御世様がそんな事をつぶやくと、すっと立ち上がった。
「さぁ、行きましょう?美晴ちゃん。今日は台風みたいな無粋な女がやってくるようだから」

(無粋な…女?)

はて?今日のお客様は全てそろったはずなのに…。

◆◆◆

思えば、弓端の家以外で、こうやって魔術の一門が集まる事は珍しい。
私にとっては初めてだった。
しかも、なんというか、この会の主役は私だった。
そのため、中央奥の上座に私が御世さまと一緒に座るなんて恐れ多い事は、初めてで、恥ずかしいやらなにやら、どうしていいかわからず、私は我が家だと言うのにとたんかちこちに固まってしまって、針のむしろと言うか(いや、違うか)、とにかく緊張してしまっていた。
左右居並ぶ、分家と、末席に座る母様、父様があんなにも遠く、もう両親にすがる事も出来ない。
「さて。羽白の祝いの席ですが、まずは宗家弓端当主として、一言申す。聞け」
瞬間、御世様以外の全ての頭(こうべ)が垂れる。
古矢が「分家一同、ありがたく拝聴いたしまする」と言うと一同「拝聴いたしまする」と続けた。
「さて、古矢、羽白、そして久しくは弦候堂。再びこうして同じ卓を囲めた事を嬉しく思う。
この度、羽白に当主が『帰還をする』。この儀の成功を持って、弓の一門は『2000年』の約定を果たす事となる。
この盟約を守り伝えてきた『羽白家』よ、ご苦労であった」
(え?)
「ははっ」と父と母が相づちを打つも、私は混乱した。
正直、『御世様が何を言っているかわからなかったからだ』。
当主が帰還するも何も、現当主である母はずっとそこにいるのだし、御世様の言う『2000年』の約定とやらも何の事だかわからない。

この時初めて気がついたのだ。

あと、一週間もたたない内に、当主を継ぐと言うのに、私は何も知らないのである。
2008年に起こる戦争の事も、或は現候堂のことも、そして今語っている御世様言葉の内容についてさえ。

「『天女』が伝えたとする2008年の以降の未来が『あるとすれば』、我々はその時こそ、魔術の本懐を遂げ『新たな創世』に立ち会える事だろう。
私は…。」

と、続けた所で、言葉は途切れた。

その時、私は御世様の隣にいたからこそ気づいた。

御世様…手が…震えてる……。

「私は、お前たちと、次の世でも共に魔術の道を歩みたいと祈っている」

—今にして思えば、この時の御世様の言葉は、非常に暗く影を落とした言葉だった。
 だって、共に歩みたいと願う弓端の未来は、実際には存在せず、
 このとき既に、弦候堂と羽白は己が家の存続のみを願い、霧宮一味と結託し裏切り
 後に、古矢は、科学使いに踊らされ、愛する弓端を滅ぼす事に手を貸すのだから。
 この時の御世様の切なる純粋なる幸福を信じた祈りとは別に
     皆、後々、弓端を滅ぼす未来に手を貸してしまうのだ———

—本当は、このとき、既に御世様は気づいていたのかもしれない、私たちの全てに—

挨拶に過ぎないその言葉が
このとき、私以外の全ての人にむなしく響いたに違いない。

御世様は、
   母を捨て、姉を捨ててでも
        そんな少女じみた儚く幸せな願いを祈っていたのだから。
                            何も知らないと…思われて。

「いやいや、立派な挨拶をするようになったじゃないか、お嬢ちゃん。
            おっと、こりゃ失礼、今は弓端宗家だったっけかな?」

御世様の言葉の合間の一瞬の沈黙をついて、突然広間に大きな声が響いた。

粗暴な声だが、男とすれば「ちと」高い。
そのとき、ふと、先ほどの御世様の「台風の様な無粋な女」と言う言葉が頭をよぎった。
(ああ、そうか。これが、無粋な女…)
広間の正面、私と御世様の対面の襖がバンッ!と、風船でも割れたかの様な音を出して開いた。

其処から見えた女は、身長にして1m90㎝はある大女。長い長いポニーテールが、テールと言うよりは大蛇のように伸びており、肩には大きな数珠がたすき代わりにかけてある。
そのくせ、ぼろぼろの袴の下に覗いたのはズボンで、しかもブーツで土足だ。

瞬間、全員が戦闘態勢に入った。全ての分家が『殺せる量』の魔力を込める。

「無礼、無作法、傍若無人。相変わらずの風来坊のようですね、古刀家当主」
御世様が、すっと立ち上がって、そう言う。
(古刀家?あの?)
—一歩
私が理解する前に、魔力の風が御世様を中心に爆発した。
まだ、食事が運ばれていない事が幸いだったが、瞬間膳は飛び、私もあまりの魔力の大きさに立ち上がる事も出来ず、床にしがみつくのに精一杯だ。

基本的に魔力は無害だ。魔力が影響力を持とうとすれば物理的には、それはすなわち質量なり熱となる必要がある。
精神的な変換、霊的な変換の詳細は割愛するが、結局何かしらの力に変換する事が必要なのだ。

しかし、これほどの量と密度の魔力は例外である。
御世様のそれはもはや、魔力それだけで、魔術として意味付けをしない状態ですら『兵器』と呼ぶにふさわしかった。
空間に一瞬に解き放たれた魔力が一気に充満し、その濃度限界に達する事で、魔力が勝手に何かしらのエネルギーに変換されだす、魔術としての術式を組まずとも、熱や雷、運動エネルギーは暴風に、霊体を呼び起こして勝手に形になる事で、少しでも濃度限界を超えた空間内の魔力を消費しようとする。
一般人が触れればあっという間に汚染されてしまうほどの呪波。

だが、古刀家当主はそれほどの魔力を目の当りにしても、まったく動じた様子は無い。むしろ、何でも無いかのようにしゃべりながら近づいてくる。

「おいおい、なんだなんだ?人が珍しいもの見たさにはるばる遊びにきてやったっつうのに、ここは茶の一つも出さないのか?御世ちゃん。お前、自分の分家(身内)くらい、ちゃんとしつけておけよ。」

「他人の家に土足で上がり込む様な無作法ものに、出す茶がありますか?ぶぶつけでも食べていけ、野人」

「お?おう?ああ、そうか、悪い悪い。最近海外の方が多かったからな。ついつい脱ぐの忘れちまったよ」
といって、ブーツを脱いで、手に持った、ズタ袋の様な袋に、ぐいとブーツをねじ込む。
「これでいいかい?ほら、武器も何も持ってねえだろ?いい加減、ゴキブリみたいに魔物がわきだすからその魔力放出を止めろよ?祝いの席なんだろ?」
そこで、ようやく御世様の魔力がすっと止まった。
(すごい…)
初めて、御世様の本気の魔力を見た。
人から伝え聞く御世様の偉大な実力だが、とんでもない。その大きすぎる評価のどれもが、全くの過小評価だ。
この人が、弦候堂流の様に『天才』と呼ばれない理由がわかった。
単純にそんな言葉じゃ測れないからだ。才が違うのではない、分家とは比較が出来ないほど『格』が違うのだ、宗家は。
当然同じく宗家であり、日本の魔術の頂点に君臨する古刀の当主も別次元だ。
あれほどあった魔力の波を直接ぶつけられながら、ケロリとしている。
「だいたいな~、弓端の嬢ちゃん。見りゃわかるだろうが、私は手ぶらだぞ?刀一本どころか、魔力を込めてもいないのはわかるだろう?」
「あなたにそんな物はいらないでしょう?古刀家当主。だってあなたは、正確には

—魔法使いでは『ない』のだから」

魔法使いで…ない?どういう事?

「皆の物、魔力を込めるのをやめなさい。もはや我々はすでに『死んでいます』いえ、『死んだも同然です』」
「物騒だなぁ」
「物騒なのは、あなたの存在そのものです」
「あの…御世様…」
訳が分からないのですが?と、すぐにでも漏らしたかった。
だって、そうでしょ?このとき何も知らなかった私は、魔法使いとして常識的な知識と常識的な発想で、世界を捉えていたのだから。

—何故?
なんで、日本の魔法使いの頂点に位置するはずの古刀の当主が『魔法使い』でないのか。
なんで、その魔法使いでもない非武装のただの人間が、御世様と対等以上なのか。
なんで、既に私たちが『死んだも同然』だと言うのか
何故、何故、何故?

「単純な話よ。美晴ちゃん。この世にはね、科学でもなく、魔法でもなく、ただの暴力を極めきる事で、科学或は魔術の領域にまで到達してしまった武術が存在するのよ」

武術

「あなたのお父さんが、空手家で、魔術の領域に達しているように、古刀家は『当主のみ』厳密には魔法使いではない。彼女はね、文字通り、剣術による戦士—つまりは、剣士なのよ。」

剣士

「おうよ、サムライガールと呼びたまえ!はっはっは!」

こんなでっかい女、ガールと言うほどの可愛らしさは無いけれど。

「もちろん、古刀である以上、魔法は使えるわ。けど、どちらかと言うと、私たちと違って、それはオプションの様な物よ。古刀の武術はもはや、魔法以上、神代の魔術に匹敵するかも知れないわ。
そんな女が、こうして広間の中央に陣取った。私の魔力の爆風を受けても動じる事無く。
これで、私たちは全員、彼女の剣戟結界の中に入ってしまった…」

射程範囲

「彼女がその気になれば、全員の首がこの場で跳ね上がるわよ。私以外のね」

「だから、物騒だなぁ、私にそんなつもりはかけらも無いのに」
でも、出来るんだ…。
「武器等持たなくてもね、剣士は、それが刀でさえあれば、手刀でさえ脅威なのよ。
あるいは、空気でさえその手に持てば刃物にかわる。
切断、断絶、切り伐り斬り。あちらとこちらを分ける分断マニア。
それが、古刀で、あの女よ」

「おいおい、だから物騒だっていってるだろ?だいたい、紹介してくれるなら、もうちょっとましな説明をしろよ。まだ、私の名前さえ出てないぞ?
ええっと、美晴ちゃんだっけか?例の羽白の。
うん、私は、『古刀 霧早紀(きりさき)』。ご紹介通りのカッターハッピーな人間でなくて悪いが、実に温厚な人間だよ」


「おねえちゃんを奪ったくせに…」


御世様が何かをつぶやいた。しかし、古刀は無視して続ける。

「実は、珍しい物が見れると聞いてやってきたのさ。美晴ちゃん。君だ。
いやー、本当に動いてるね?しゃべってるね?人間然としているね?
まあ、この業界にとって全くその事自体は珍しくないのだけれど。まあ、うん、要するに、日本の魔法使いを預かる物として、見届けにきた。そして、冷やかしにきたのさ。わかるかい?
君を楽しみにきたと言ったのさ、美晴ちゃん。はっはっは!おい、弓端、そういう事だ。私の飯も用意させろ」
なんて人だろう、祝いの席をここまでぶちこわしにしておいて、飯まで食っていこうと言うのだ。
図々しいにもほどがある。

「いや、ご飯ください。実は、その、お腹すいててさ」

急にしおらしくなったと思ったら、次の瞬間、きゅ~っと可愛らしい腹の虫が当りに響いたのだ。

◆◆◆

sakura咲く頃、あの子の桜 3


◆◆◆

ほどなくして、宗家 弓端御世様が到着された。
幼くして、すでに宗家の当主を継がれたのその天賦の才は言うまでもないが、私がこの人が凄いと思う部分は——。
「御世お姉ちゃん!!」
私は玄関のとが開かれて、御世様が目に入った瞬間嬉しすぎて、つい後で母に怒られる事も忘れて抱きついてしまった。
「お久しぶり、美晴ちゃん」
と言って私の頭をなでてくれた。
暑い中を歩いてきてくれたと言うのに、御世様からはほんのりいい匂いがする。
「御世おねえ——こほんっ、御世様、この匂いは香水ですか?」
「どちらかというと、香り袋かしら。こちらは虫も多いからちょうど良いと思って」
と、御世様が愛らしく私の前で手を振ってみせると、手首にかかっていた可愛らしい小袋が、ふんわり匂いを放ちながら揺れた。
「後で、美晴ちゃんにも教えてあげるからね」
そういって、にっこりと微笑む御世様のお顔はまぶしい嫌いに可愛らしく美しい。
私は、この人のこういった魔法使い然としない態度と言うか性格が最も凄い所だと思うのだ。
きている物だって、洋装のワンピースをきこなし、ふわりふわりとスカートを揺らしている。

「御世さま~、まってくださいよぉ~」

後から、御世様とは対照的に、ちょっと陰気な感じの男の子が入ってきた。御世様よりも背が低く、眼鏡をかけたその少年は、重そうな荷物を抱えながら、必死にこちらの玄関戸を目指して暑い日差しの中をひいひい歩いている。
なんとも小間使い然としているが、彼こそ、日本三大魔術家系であり、我が宗家の弓端家。
その分家を担う最後の一角、古矢家の次期当主だ。未だ当主の跡は継いでいないが、優秀な魔術師だと聞いている(ただし、彼の魔術を私は一度としてみた事が無いが)。

古矢家は分家の中でも少し特殊で、弓端家に代々、直接使え、身の回りの世話もしている。
小間使いと言えば、確かに小間使いではあるが、良い言葉を使えば、執事とか、家令としての役割を持っているのだ。

御世様は「古矢、遅いわよ。男なんだからシャキッっとしなさい!」
と、今も必死に荷物を運ぶ少年に檄を飛ばす。
少年は「は~い~」と、何とも頼り無さげに急ぐのだが、抱えた荷物を落としとうになって、上手く前に進めないよう。
「もう、あんまり情けないと側に置いてあげないだから、惣ちゃんたら」と、御世様はつぶやいた。
私は、古矢の少年の事は、余りにも無私に仕え、空っぽの人形の様であまり好きにはなれないが、この二人のこういった会話は常にニヤニヤしてしまう。
二人は仲良しさんなのだ。(まあ、宗家、分家の立場からけっして結ばれる事は無いだろうけれど)

さて、そんな二人の後をゆったりと歩いてきているのが、御世様のお父様である弓端家元当主と古矢家現当主夫妻だ。

あれ?

「御世様?御世様のお母様は来ないのですか?」
と、私は問いかけた。

とたん、御世様は、その瞳から光が消えた。
しばらく、蝉のだけが聞こえて、古矢の少年がこちらに駆けてくるまでの間、全くの沈黙が流れた。

蝉  蝉  蝉  蝉

「—余りに聞き分けがないので、母は贄としました。」

蝉  蝉  蝉  蝉

と、御世様は、淀みなく、まるで、綴られた文字を声に出して読んだだけの様な抑揚の無い声で、そういった。
その時の御世様は今でも忘れられない。いつもの太陽の様なあの明るい御世様ではなく、魔術師の目をしていたから。

とてもとても、怖かった。

え?っと、聞き返す事さえ、出来なかった。