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ペリュトンの事 —自在証明ー 2−1


男にだろうが女にだろうが二言は在るまい。
一生で一度、あるかないか
まあ、あったところで、なかったところで…と言う気もするが
そういうおねだりのされ方をされたのだ。
ここから、物語を語り続けるのは、「僕」大槻キコアである。
以降よろしく。
では、「僕」と「僕」に起こった事を「主観別に」ではなく、「時系列」でお話ししよう。
つまり、大槻キコアが何故探偵業をプライベートに行う必要が在ったかの話である。

「ええと、瑠璃社長。頭が鹿、胴体が鷲って感じのキマイラだとか鵺みたいな奴がいるとして、そいつとやっぱり似た様なキマイラだとか鵺だとかに共通する事は何だろう?ってことらしいですよ。要するに。そう、深戒櫃代が語りだすと、そのくらい超絶簡単な構図になってしまうそうで。
仮に、そんな生物がいたとして、彼らは自身の事を何者であると認識するか、鹿なのか、鷲なのか、或はほ乳類なのか、鳥類なのか。
その疑問を他者に感じた物を「鵺」と呼び、自己に感じてしまうと「ペリュトン」とそう呼ぶのだと
ただ、それだけの「怪異現象」なのだそうです。

つまりは…」

◆◆◆

大槻キコアは、暇をしていた。「僕」がお薬の会社に勤めてからと言うもの「僕」は暇なのである。
別に、「僕」は無職ではない。僕は僕で仕事をしている。大槻キコアは、小説家なのである。
言ってる意味が分からない?
それは、あなたが僕と言う人の事を未だ良く理解していないからだよ。
まあ、そんな事はさておいて、その日、僕は暇をしていた。
もう、暇すぎて地球が逆回転しないかと妄想するくらい暇だった。
「いやいや、暇じゃないですよ~、キコア先生。締め切りむっちゃ迫ってますよ~」
なんか、後ろの方で陰気な女がぶつくさとつぶやいた。陰気な上に小言臭いのは最悪だ。小間使いみたいな物の癖して偉そうに。本家、イギリスの家令のごとく、無愛想で空気の様な無口な生き物を見習えばいいものを。全く使えない愚図である。
「聞こえてますよおお!モノローグ風に語られてる思考回路が、口からだだ漏れですよおおおお!!って誰が小間使いの愚図かっ!!!」
「愚図!愚図!愚図!お前が愚図じゃないってのなら、ネタの一つでももってこいよ!ちっとも書く物が無いんだよ!!」
「それ!あなたの仕事ですよね!私の所為じゃ無いわよね!!もう!キコア君はいっつもそう!!なんで、こう、ちゃんとしないかなあああ!あの時だってそう——」
「ああ、小言臭い小言臭いおばさん臭い小言臭い!学生時代からちっとも変わってねえよ、この女!!」
「ああ、おばさん臭いって言ったわね?今言ったわよね!?小言臭いに混ぜたわよね!!同年代の美人に対して」
「けっ、自分で言う事か。だいたいお前なんか「僕」に比べたら美人でもなんでもない。よっ!このミスコン2位!!」
「ちくしょう!この「ナルシスト」!あんたが勝手に応募しておいたくせに言うに事欠いてそれか!湖面に顔突っ込んで死ね!!!」
言うに事欠いて、この小説家先生に対してこの愚図は死ねと言ったか、この野郎。僕みたいな天才小説家、ただでさえ歴史に名を残した芥川や太宰のように早死にするフラグぷんぷんなのに、本当に死んだらどうする?世界的損失だっつーの。
ああ、そうそう一応、ご紹介と言うかなんと言うか、この愚図は、「木原みどり」みどりを、漢字にすると難しい方の「翠」を書かなきゃ行けなくてひじょーに読みづらいので表記はこのままで行く。いや、ミドリ=グズ=キハラと表記するか、あ、でもこれはこれで面倒くさい。あ~もう、名前でまでぐずってどういう事だよ。
まあ、いいか。
兎に角、木原みどりは、高校、大学、そして現職場と、腐れ縁の女である。正直、ここまで一緒だと、こいつが俺のストーカーである可能性も否定できないが、まあ、そんな事はいい。ようは、僕とみどりがかようにいちゃいちゃした関係であると言う事を認識してもらえればいいのである。
もちろん友達として。
「あ~、もう!鏃(やじり)~、担当鏃(やじり)にもどしてよ~、あのロンゲ眼鏡の方がましだったよ~!」
「は~、もう、鏃さんなら、昨日から休暇とってるわよ。よく鏃さんも、こんな奴の面倒見てたわよね」
「アレだぜ?鏃はそれこそ優秀な小間使いだったぜ?料理作れるし、裁縫できるし、選択してくれるし、案外、執事喫茶とか天職なんじゃねーの?」
「うわ~、鏃さんこいつの事甘えさせ過ぎ。これは私の再教育が必要ね」
「安心しろって、お前なんかが洗濯したら、可愛い俺のパンツ「くんかくんか」しだすだろ?うわ、やべえ、ちょーこわい。」
「だ、誰がそんな事するか!見た目がショタイからって、中身までガキが許されると思ってないでしょうね!」
「ショタイとか言うな!ロリイのかもしれんだろ!」
「ああもう!こいつ本当に疲れる!!!!最悪!!」
「だいたいさ~鏃、なんで休みとってんだよ?あれか?彼女できたから調子に乗ってんのか?あいつ?」
「さあ、会社に電話してきたのはその彼女さんかららしいけれど。特に理由は聞いてないわよ?直接電話をとった編集長ならわかるかもしれないけれど」
「ふ~ん、まあ、いいさ。じゃあさ、みどり。今書いた現行ちょっと声に出してチェックしてくんない?なんか、次の発想思いつくかもしれないし」
「しょーがないなー、もう」
と言いながら、僕が差し出した原稿用紙をピラリとつまむ。僕の原稿は、未だアナログだ。デジタルなんて趣味が悪いものは使わない。
「ええ・・・っと、コホン。では、失礼。」
一つ咳払いをすると、みどりは、原稿用紙にかぶりつくように目を這わせた。
実は、こいつは極度の近眼なのである。その上こいつの馬鹿な所は、眼鏡を作るとき、検査であのCみたいな奴の何処が開いているかを見栄で適当な方向を言う物だから、結果いい結果が偶然出てしまい、度の弱い眼鏡をかけているのだ。マジで愚図だ。
『みどりは、そうしてテラテラと濡れる自分のまたぐらに指を這わせ・・・○○が××なかんじのそれに、大きな□□をうけいれよ・・・うと、ひ、ひ、必死に身悶え——』なんじゃこりゃ!!いつからあんたはポルノ作家になったんじゃああああ!!てか、私を妄想に使うなあああ!セクハラよ!完璧なセクハラよ!!!!」
と、愚図なミドリが原稿用紙から顔を話したそのサキに、僕はいない。
「逃げられたああああああ!!」
そんなみどり叫びを、マンションの階段から聞いた。
あの愚図なミドリが原稿用紙の裏に書いた僕の『マヌケ』と言う文字に気づいた瞬間でもあろう。



ペリュトンの事 —自在証明ー 1−5

「そうでしょうか?私たちは良きビジネスパートナーだと思いますけれど?」

霧宮瑠璃は、そんな事を紅茶を啜りながら、「あら?今日はいい天気ですね?」とでも言うようにひらり、すらりとよどみなく簡単に言う。

つまり、挨拶程度の「中身の無さ」でいうのだ。



霧宮瑠璃は小学生ながら美少女だ。

いや、美少女な小学6年生だ。

だが、その風貌は小学生と言う肩書きを、簡単にただのレッテルにする。

この小学生に、小学生たる固定概念が当てはまる所等、せいぜい身長と実年齢だけなのだから。

「女の子は早熟だから」等と言うレベルの話ではなく、単独にて一経営者を勤め、一納税者を勤め、一社会人を勤める人間を指して誰もそれを年齢だけで「子供」と呼ぶ事は出来まい。どちらかと言うとキャリアウーマンだ。加えて彼女の態度がまさにそれ。

そういう雰囲気を持っているーそれが彼女の最も異常な所であると、会社員大槻キコアはそう思う。

彼女の他の外見的特徴、それこそ綺麗な細く真っ黒な髪だとか、右目が赤、左目が青のオッドアイの瞳だとか、真っ白なぺろぺろしたくなる肌だとか、対照的に真っ赤な唇だとか、そういう浮世離れした幻想的容貌は全部オプション装備みたいな物だ。



ああ、そうそう・・・注釈をつけておく必要が在るが、僕、大槻キコアはロリコンである。



性別はあえて伏せるが、普通に外見は良いと自負している。



さらに、衝撃的な事実を皆にお伝えする事になるが

今回のこの物語の主人公は、今ようやく登場した僕なのである。



深戒櫃代を主人公だと思っていた皆々様、申し訳ないが予測が甘いぜ。

あまあまである。そんな誰もが予想しうる様な物語を書いて、物書きが納得するはずが無いだろう。

思わせぶり、嘘、大げさ、紛らわしいは、物書きにとってちっとも悪徳ではない。むしろ美徳なのである。

第一、あんな、バッドエンドフラグの蒼い人を主人公に据えるなんて暴挙は一作品だけで十分だ。あんなぺちゃくちゃむちゃくちゃあっという間に地の文が埋まる様なキャラクターは困る。その上、勘の鈍い、陰鬱なキャラクター世の中が認めても、ぼくが認めるわきゃーねーだろ?そーだろ?いや、そうに違いない。

新鮮味に欠けるし、何より彼は主人公を語るには些か万能過ぎる。



万能な主人公ほど、物書きを展開的に困らせる物は無いのである。

想像してみたらいい。

事件発覚直後、主人公登場、二秒で即解決!

そんな物語、お前ら読みたいか?読みたいよな。実は僕は結構読みたかったりする。

いやー、実は僕は小説が嫌いなんだよ。っていうか、活字が苦手なんだ。大の苦手。全く持って大嫌い。ひとつの物語を知るのに、あんなかったるい物って在る?2Pも3Pも読んでらんないよ。時間がないんだ、社会人には!というわけで、つぎから報告書は全てわかりやすい漫画で書いてきて欲しいと思う。

まあ、僕はヒラで下っ端だから書く方がめっぽうだけど。

うわーそう考えると、漫画最悪だな。あんなに書くのに努力とか根性とか愛情とか必要な物無いぞ?時間もかかるし。

やっぱ、時代は動画か?ビデオで撮って、声を吹き込む。

ああ、これドキュメンタリーみたいでいいかもな。OKそうしよう。



「あの、人の話を聞いてますの?」

「え?なにかいいましたか?」

「最悪の変態が目の前にいる様な気がする…」

気のせいである。僕はストーキングを趣味とするごく一般的なサラリーマンなのだから。

「ですから、あなたに探偵として働いてもらいたいのです。大学生の時は、かなりやり手だったと聞いていますが」

「はあ、つまり、僕にこの探偵社に入れと?」

「いいえ、バイトをして欲しいのです。あなたは、内の社員にするには少々無能が過ぎますから。他のアルバイター、あなたの知っている所では、深戒櫃代と同じ様な契約を結んで欲しいのです」

「うわー、やだなー」

別に、この瑠璃探偵社が嫌なわけではない。一軒家を改造したオフィスは、会社と言うよりカフェのようで、なんかおしゃれだし。置かれた机等の備品もアンティークでそういう所も結構好きだ。ツタが絡まる外観に赤いレンガなんて、ちょっと乙女チックでイカスと思う。給料も今の倍以上いいだろう。薬品会社の会社員だったのだが、正直、営業つまらないし、其処まで愛社精神も強い方じゃない。

でも、なんか嫌だ。

特に、深戒櫃代とおんなじなのが嫌だ。

「そんなに彼を嫌がる事は無いでしょう。あなたも彼に救われた一人なのだから」

「うう、そうなんですが」

「それどころか、惚れたのでしょう?」

「ち、ちがいます!!一時の気の迷いだっ!僕は!!僕はって、…ああもう!!」

言っておくが勘違いするなよ。

僕は、まだ、僕の性別が男か女かも言ってないからな。

なおかつ言えば、僕はロリコンだし、瑠璃のお嬢が戯れに嘘を言っている可能性だってある。その辺り、読者はよく理解していて欲しいって読者って誰だよ!

「わかりましたよ。バイトでしょ?バイトでいいんでしょ?僕はそれでかまいませんよ。で、どうしたいんですか?あなたは」

「何、単純な話。あなたの身に、ここ一週間で起こった事を私に教えていただいて、今、まさに行っている、探偵まがいの行為を、私の会社の名義で行ってもらいたいのです」

聞きました?皆さん。

今、ひどいことを言いましたよ?この人。

人の個人的な探偵行為をまがい物呼ばわりしたあげく、その成果やこれからの事を全部瑠璃探偵社の成果としなさいと、つまり、そういうことを言ったわけですよ?この人。

「あら、あなたがプライベートで、しかも、ボランティアで行っている『人助け』なる物に、お給金を出してあげると言っているのですよ?」

道理の問題と道義の問題は別物だと言う事をこのお嬢様は知らないのだろうか?こんなにかわいいのに。

というか、こんなにかわいいのに。

本当に、これで私の事を「ね~ね~キコアちゃん、お人形さん買って?」とか、小首を抱えて言われた日にゃ、鼻血が出るほどかわいいのに。

「今日び、私の年齢で「お人形さん買って?」は、ないでしょう」

冷徹に言われた。小学生に。

「やる気おきね~。絶対やだ。絶対こんなバイト受ける気にならね~よ~」

「・・・」

すっげえ、冷たい目で見られた。うわ~小学生(美少女)の冷たい目線痛いわー、むっちゃ、つらいわー。でも、そこはかとなく快感を覚えるのは、何故?



そんな事を思っていると、瑠璃お嬢は、すっと立ち上がって、奥の部屋へ引っ込んだ。

どうしたのだろう?すねちゃったのだろうか?だったら、これ以上にかわいい事は無い。

萌えである。ついに、瑠璃ちゃんの時代キタってかんじであるが、まー、そんな事は天地がひっくり返って、日本の景気が突如良くなっても起こりえないだろう。

と、奥の部屋から瑠璃お嬢が戻ってきた。




新塵碕行の蒸れないブログ




ふわふわのドレスに身を包み、胸にはクマのお人形さんを抱えて、今までに無い、「てとてと」という効果音がよく似合う小走りする様な動きでこちらに歩いてくる。そして、社長の豪華な椅子ではなく、今僕が座っている椅子のすぐ隣、円卓横の椅子に「ちょこんっ」と座り



「ねえ、ねえ、キコアちゃん、お仕事受けて?」



小首をかしげられた。



もう、受ける他に道はない。

今僕から現在進行形でほとばしっている鼻血に賭けて!!



ペリュトンの事 —自在証明ー 1−4


そっと、手を伸ばす事で始めたのだ。
私は、『私以上』になりたかったから、努力を続けただけなのだ。
初めはそんなちっぽけな意地っ張りから始まった。

私は、理想の私を求めて、ひた歩く。
それは良い事だと人は言う。
良き心がけと誰もが認める。
向上心は高ければ高いほど良いと父は私を歓迎し、そんな私を母は誉れと思った。

ただ、私のそれらはやっぱり度が過ぎていたのだと思う。
だからこそ、私は理想の私があまりにも遠くに在りすぎて、必然的に遠出をする事になってしまった。
あるけどあるけど、全くその背中は近づけないほどに。
そうして、歩き通した旅の末、ついに私は理想の私を見失った。
理想郷にそれは在ると信じるならば、それを求めて彷徨った。迷い失い、目を伏せた。
気がつけば、元いた故郷も何処にも無い。私は旅の途中、ついには終点(ゴール)も始点(スタート)も失って、宙ぶらりん。私は帰る事も行く事も出来なくなった。彷徨う事しか出来なくなった。
そうなると、もう私が元は何であったのか、何を目指していたのかすらわからなくなった。

その時まで、努力する事、遠きを目指して旅をする事の本当の恐ろしさを知らなかったのだ。
そんなに遠くまで歩いて、たどり着けなかった時の事を、そんな当たり前のリスクマネージメントを私は何もわかっていなかった。
成功へ法則とは、『ただ、遠くに在った目標を追いかければすむだけのモノだ』とたかを括って妄信し、それが陽炎ほどにもおぼつかない物である事に気がつかなかった。
いや、そもそも私が見つけたその影は…ああ、あれ?
あれは、本当に私の理想の姿だったのだろうか?あれは陽炎?いや、蜃気楼?
ああ、もうそれすらも、わからない。

ただ…もし、私が失ってしまった「私と言う存在」を、もう一度思い出す事が出来るとすれば
もはや、他人に頼る他に無い。
何しろ、私の私は空っぽなのだ。薄皮一枚、中は空。
何も無いのだから仕方が無い。だから、中身が在る人間に頼もうと思う。

ああ、そういえばー人間の中身はその60%は水だったか—。

◆◆◆

私は髪を切った。
ショートヘアーが好きなのだ。
私がではない、『彼が』である。
彼は研修先の教育係だった。髪は長く黒髪で眼鏡をかけたいかにもと言った感じのインテリ系。
最初はそれがひどく癇に障って仕方なかったが、何故だろう。
それが気に入ったと言うより、どうでも良くなったと言った方が正しい。
何しろ私は今の私がどうでもいいのだ。私は既に私自身に興味を持てない。
だから、私を必要だと言ってくれる彼に、私の興味を預ける事にした。

私だって初めからこうだったわけではない。
都会にでてきて3年半
夢みたいな理想を持って、憧憬の火を灯して田舎からやってきた私は、あまりにも簡単にコンクリートジャングルの中で遭難してしまった。
最初の目的等とうの昔に忘れて、かといって、目標としていた物は遥か遠くに在るとわかり、私は道なかばにして足を止めた。
後は
惰性 惰性 惰性。

息をしているから生命活動を仕方なしに行っているだけで、『生きている』なんて自信を持って語る事が出来ない。
私は死んでないだけで、ただ、それだとあまりにもむなしすぎて自分が空っぽだからー薄皮一枚、中は空ー何かで埋め合わせをせざるおえなかった。
別に好きでもない彼に依存して、空っぽの私を彼で埋めるのだ。

—だって、私を好きだと言ったのだ…彼は—

中身の無い私を好きだと言ったのだ。ならきっと、それは彼が、『私が無くしてしまった本来の私』を知っていると言う事であり、そんな彼の中身を根こそぎ私に移植すれば、もしかしたら、私は私を取り戻せるかもしれないではないか。

ああ、なんとひどい人間だろう、私は。
まるで悪女のようじゃない?いや、そうだけど。
ならば、本当の私は悪女?いや、そんなはずはない。私は夢を持って歩いていたはず
キラキラしていた物を追いかけていたはずの私の中身が、今のように濁った泥の様なはずは無い。

私は、美容院から出て、歩いた。
車が無いのだ。免許も持ってない。
今思えば、その程度の社会スキルも無いくせに田舎から出てきた事になる。
私は何処まで世の中を嘗めていたのか?
しかし、不便は無い。
都会は車が走り回っているイメージなのだが、存外、車に依存する必要がない環境なのである。
バスは5分置きにやってくるし、地下鉄はクモの巣のように広がっている。タクシーなんて乗り場に行くまでもなく路駐しているのである—大変迷惑な話だが。
むしろ車なんて持っていてもしょうがないくらい。駐車場だとか保険だとか。メンドクサイ。
だから、不満は無いのだが
こういう所が私が空である要因の一つなのではないかとも思う。
まったく、何も詰まってない、すかすかの私は、だからこんなに脆く都会の重力に負けて壊れてしまったのだろう。

そんな事を思って歩いていると、ふと、路地裏から物音がしたように思えた。
私は、どういうわけか非常に気になって、そちらの方を覗いたのだ。
路地の壁に人影がずずっと伸びた。
誰かいる。
何かいる。
わたしは、路地裏へと進む。
そこで私は。とてもうらやましい光景に出会った。

ああ、自分を取り戻す方法はこんなにも簡単だったと
私もああなりたいと ひどく ひどく 羨望したのである。

それはとても理想的な光景でした。