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ペリュトンの事 —自在証明ー 1−3


「もしかして、ずっとこの寒空の中待ってたんですか?正月だっていうのに?公務員」
「いや、待ってねぇよ。瑠璃のお嬢が「この時間にこい」と言った時間に行けばそれは間違いなく『ちょうどいい』時間だからな。どうなってんだか…ありゃもはや超能力かなにかだな」
「それ、高柳刑事にダケは言われたくないと思います」
「ああ、鼻か?こりゃ、まあ、病気だからな。そんないいもんじゃねぇよ。」
そんな事より、といって、路駐した自分の車を指差した。
「車内で話をしよう、一応捜査内容を一般人に話しちゃ行けないって決まりなんでな」
「いや、どこか行くわけでもないなら、わざわざ車に乗る必要も無いでしょう、僕の部屋に行きましょう。お茶くらい出します」
「いや、あの部屋に入るとまず間違いないくお前を逮捕したくなる。お前の部屋、あれは良くない。正直お前からは『血の匂い』がしないから放っておいているが、あの部屋を見たら正直お前が健全な人間だなんてかけらとしても思えねぇよ。部屋は人の心の形を表わすのだと言うなら、お前の人格は明らかに壊れた何かだって言える。正直、気持ち悪いし、情緒不安定になるんだよ、あの家具の配置は。まるで殺人鬼の腹の中でも覗いた気分だ」
「怖いことを言う。まあ、わからないでも無いですけど。瑠璃ちゃんがはじめてあの部屋に入った時ももどしそうになってましたから」
高柳刑事は、車に向かって歩いていく。
僕はそれについていった。

◆◆◆

高柳刑事の車は灰色のアペンシスセダン。TOYOTA車である。
ごってりとした外観は、重量感が在り、遊び抜きの質実剛健さが在る。ああなるほど、車もまた部屋と同様持ち主に似る物だななどと思って助手席に乗ると、車中からはタバコの強い匂いがした。
僕の部屋は心の健康に悪いが、高柳刑事の車は体の健康に悪そうだ。
「これが、現場の写真だ。」
と、いきなり操作機密(グロR-18)を見せられる。
本気で勘弁して欲しい。僕は刑事でも探偵でもなんでもなく死体を見慣れてるなんて事も無いのだ。
年の初めにこんな物見せられても困る。初夢にでてきたらどうするんだ?泣くぞ!

写真の内容はと言うと、見まごうことなきグロ画像にはちがいないが
服装から察するに
一人目は女性
二人目は男性の死体だ。

何故、服装から察したかと言えば

「これは、殺すのが目的と言うより」
「ああ、一人の人間からいかに血を噴き出させるかって感じだな。」

そのくらい死体がぐちゃぐちゃに、血だらけにされていたのである。胸には何かで刺突された跡が在りおびただしい量の血が辺りに広がっている。なかなか人一人を普通に殺した程度で此処までの血だまりは出来ない。人に襲われたと言うより大型動物、クマに襲われたと言われた方がこれほどの死体損壊は納得ができる。

「血っていうと、吸血鬼かなにかなのか?これは」
「いや、違うでしょう。吸血鬼なら、むしろ『血が無くなる』でしょう。それに、こんなに血を散乱させたらかえって飲みにくい。」
「じゃあ、何だと思う?」
「そうですね、影が在るってのが気がかりですかね。」
「ん?目撃例の人影ってやつか?人影って言うからには人型だってことか?」
「いえ、むしろ怪異のほとんどには影が無いんですよ。幽霊しかり、吸血鬼しかり。
怪異って言うのはね、要するに現象なんですよ。現象故に正体はない。正体がない故に影が存在しない。影が在るって言うのは、その時点で実体が在るってことなんです。」
「じゃあ、怪異じゃないってことか?」
「いえ、どうでしょう。」
「しかし、怪異でなかったら、普通の人間が空を飛んで逃げた事になる。もちろん、マンホールなんて下手な物も無かったからな」
「それに、翼の音ですか?翼が在るなら鳥でしょう」
「鳥がこんな頃仕方できるか?大型動物に襲われたならまだしも」
「ならば怪鳥と言う事でしょう」
と、其処まで言って、何となく思いついた。

ああ、確かにそんな怪異も在った。

「けれど、だったら『連続殺人』なんて『起こりえない』はずなのに」

だって、あれは一人しか殺せないのだから。




ペリュトンの事 〜自在証明〜 1−2


針が0:00を示し、昨日から今日、去年から今年にかわる瞬間、ほどなくして横倒しになったタンスの上に「我、此処に在り」と鎮座する黒電話が鳴った。

くだらない妄想だが、その様子はまるで、タンスという巨大な獲物を狩りとり、黒電話が勝利の雄叫びでも上げているかのようだ。
まあ、そんな事を言い出したら、深戒櫃代の部屋の家具と言うものは、本来その家具の持つ機能とは全く関係のない使われ方をしているどころか、まともに真っすぐ立たせてもらっているもの自体少ない。
たいてい横倒しなり、逆さだったりするので、それこそ、まともに使われている黒電話一つが他の家具を全員一騎当千にぶちのめした格好だ…。

そんな黒電話の雄叫びは三度部屋に鳴り響いて、ようやく櫃代は受話器を取った。
「遅いですわ」
とえらく冷淡な声が受話器の向こうから聞こえた。
可愛らしい…可愛らしい少女の声だった。しかし、小学生にあるまじき声だった。不気味だった。
受話器の向こうの少女、霧宮瑠璃(きりみや るり)は小学生。
青くて若くて新鮮すぎて何より未熟な年頃ーその一般解の適合を拒むように
たかだか小学生のロリ少女が言うのだ。
「仕事ですわ」
——と
そりゃあ、不気味だろう。

◆◆◆

「どうせ、あなたの事ですから、正月早々やる事無しに暇を持て余したあげく、とはいえ紅白なんかも見る事なく、時計の針なんか眺めながらぼけっと仕事をまっていたのでしょう?
だったら、せめて、2コール以内に電話にでて欲しい物ですわ。
時間は有限、時間は有料、時間は有償なのですから。」
なんか、新年早々説教された。小学生のロリ少女に社会の在り方を教えられた。
というか、その年で時間は有限とか、最近の小学生は生き急ぎ過ぎと言うか、余裕がなさ過ぎるだろ。
まあ、それはさておき
「あけましておめでとうございます」
と、僕は言った。
「あけましておめでとう」
すんなり適当に挨拶を返された。しかも、どうでもいい感じに。
「仕事内容をご報告します。
さて、深戒櫃代さん、つまり本名×××さん。

あなたの影はヒトガタですか?」

◆◆◆

深戒櫃代は、怪異専門の揉め事処理屋である。
憑物落とし、ゴーストバスター、ヴァンパイアハンターいずれでもなく。
怪異と言う現象に対しての、ケアサービス業だ。

剣も魔法も使えない。銃や爆発物はこの物語にはでてこない。
言葉と人のみの物語だ。

ましてや、殺人事件など、持っての他。
それは、刑事の仕事であって、彼の仕事ではない。だと言うのに。

「これは、警察からの依頼です」
「はあ」
「殺人事件です」
「おお」
「解決してください」
「勘弁してください」
彼の意見等無視して話は進む。
「正月特番ばっかりで、ニュースやってませんけど、新聞は購読なさってらっしゃる?」
「してないよ、瑠璃社長」
「そちらの方には小さいながらも載っていますが、ここ二日ほど連続して人が殺されていますの。一件目は西九条、二件目は祇園で。二人の被害者に共通点はなし、通り魔的殺人と言えるでしょうね。」
「でも、連続していると言うからには要するに犯人が目撃されてるってことなのだろう?じゃなきゃ、二つの殺人は別個の物だ。」
「いえ、目撃はされていません。正確にはその人影のみが目撃されているのです。」
「人影のみなら、犯人が同一人物とは言えない」
「状況が似ているのです。犯行はいずれも袋小路で行われ、第一発見者は立ち去る犯人の人影を見ている。が、いざ、犯行現場を見るとそこには誰もいない。つまり、犯人は空を飛びでもしない限りありえない。そんな事は人間には不可能ですわ」
「いやいやいや、ちょっと待って、瑠璃ちゃん。」
「瑠璃ちゃん?」
「瑠璃社長。正直言って、殺人現場の状況似ているからって連続殺人ってのはひどすぎる。謎のマークや犯行声明文みたいな物が残されてたって感じのサスペンスにありがちなもんの登場は無いの?」
「そうですね。は証言の中に「大きな何か—鳥の様な物が羽ばたく音のみが聞こえる」という共通する妙な証言があることと、あとはまあ、百聞は一見にしかず、すぐにそちらに高柳刑事が来ると思いますから、詳しくはそちらから聞いてください。」
「高柳刑事?またあの人の依頼なのか」
「けだし」
なるほど、納得。
あの人の刑事の鼻は異常である。まったくもって常識と言うレベルではない。
あれは、超能力とか、オカルトの領域で、未来予知とか千里眼に近い物が在る。
よく当るのではなく、確実に当る勘。
その男が持ってくるのだから、間違いなく、これは怪異がらみなのだろう。

僕はあきらめて、部屋をでて、肌寒いマンションの階段を下りていくとそこにはトレンチコートをきて紫煙を揺らす刑事の姿が在った。
おいおい、古風すぎるよ、まるで昭和の刑事の容貌だ。
高柳刑事、絶滅寸前の旧型刑事が其処にいた。



ペリュトンの事 〜自在証明〜  1−1


ーopenー

旧年が終わり、新年が明ける。
今年を自覚するために、人はー0:00ー時計の針が天辺に向くのをじっと待つ。
何故人はこんな儀式を毎年行っているかと言えば
単純な話、生まれ変わりたいのだ。

去年いろいろあったけれど、それらの事をを水に流すために。
或は『過去の出来事』にするために。
去年と言う年とともに、過去の自分に死を与えて、今年の誕生とともに、今の私は産声を上げるのだ。
そうやって、過去の自分の行いに区切りを付けて、
背負ってきた「行為」という実績をどこかにおいていかない事には、人間はやってはいられない

ーまあ、ようするに息切れしてしまうのである。

人間の精神は延々と連続する時の流れに耐えられるほどに強固には出来ていないのだ。
だから時間を小分けにして、その度「自分」をリセットするのである。

「人生にリセットボタンは無い」などと、かっこいいことを述べたてる現実主義者(リアリスト)にしたって
なんてことはない
無意識のうちに、リセットボタンと似た様な物を、文化として受け入れて、それに無自覚に救われている事に違いはないのだ。

「まあ、いいわけは誰にでも必要なんだよ。要するに」
どんなに新鮮な気持ちで今年を始めた所で、罪業「殺人鬼」という役割を与えられた僕にとっては
そんな「安全装置(文化)」はまったくの役不足だ。
チャップリンは、「一人殺せば殺人者、100万人殺せば英雄だ」などと皮肉ったそうだが
彼の勘違いは凄まじい。
100万人殺した人間にとっても、処女童貞である一人目は、間違いなく殺人となるのだ。
人を人として殺し、人を人として殺した罪科を実感し、その罪を背負う。
その時点で殺人者となった人は、その行為に意味があったと所で、幾年時がたった所で、他人に評価された所で、100万人の人を殺めようともたった1人の下種を殺めようとも、何をしようとも、自己の意識の中で英雄になんてクラスアップする事は無い。
加害者は、他人に何と言われようと罪の意識を苛まれるのである。
人とはそういう物であり、それ故に人は殺人者となり得る。

戦争行為に対する「英雄」とは
そんな罪の意識に、人の心は耐えられず、正当な言い訳を必死に求めて社会的に発明した「言霊」にすぎない。英雄と言う名の—これも安全装置(言い訳)なのである。
言い訳が出来た時点で、彼らの行いは殺人ではなくなり、別の正当な何かになる。人は人ではない何かを殺すようになり、人を殺さなくなる。
言い訳を得た殺人はもはや、殺人ではない。
戦争中
人は、人を殺すのではなく。敵を殺すようになり、人は安心して殺人行為にいそしめるのだ。

しかし、皮肉な話ではあるが、それらの安全装置が起動する条件—その主電源はあくまで「殺人」と言う罪の意識に他ならない。

つまり、「英雄」となるには前提条件として「殺人者としての罪」を負わねばならないのだから、結局、殺人者は主観として殺人と言う苦悩から、解き放たれる事は無いのである。

「ああ、だからやっぱり、言い訳をしなかった時点で、もう僕は耐え切れず壊れているのかもしれない」
と、彼はつぶやいた。

—殺人者は死すべきである。言い訳の余地はない。
 殺人者は死すべきである。この他の原理はいらない。
 殺人者は死すべきである。文明と言う機械にいらない部品なのだ僕は

 僕は世界から外れてしまった物なのである。

 それが真実である事は、僕の蒼い蒼い髪が告げているのだ—

$新塵碕行の蒸れないブログ


そのように自分に言い聞かせて、
彼は、最初の一人目以降も、殺人に対する『言い訳』を怠ってきた。一度だってその罪から逃れる事もできず、ずっと
もう何人殺してしまったかわからない自分の罪の数を、一つ一つ、処女童貞を散らした「初めての殺し」と同じ痛みを繰り返し繰り返し感じてきた。

だから、保証しよう彼のつぶやき通り、あるいは確信通り
                      彼は壊れいるべきだし
                           それより何より死ぬべきだー

◆◆◆

西暦2005年。つまるところ、蒼い髪の男、深戒櫃代が大学一年生ぐらいの事である。
その日の正月、多くはテレビを見ながら、あるいは家族団欒しながら、そばでも啜りつつ迎えていたであろう一般的な状況とは違い。櫃代は時計の針をじっと見つめるだけだった。
Aliceがいない、櫃代など、こんな物である。彼と言う男は少年時代、テロ組織に拉致されて以来、ずっと虚空なのだ。
薄皮一枚、中は空(から)。まるでシャボン玉のようだった。
文化や風習、行事と言った物を大事にする心は、家族、或は恋人であるAliceがいるからこそ出てくる余裕で
独りである今の彼には、そんなものは因習に過ぎない。
だから、じっと息を殺すようにして時が経つのを待っていた。まるで寿命がつきるのを待つかのように。

別に新年を迎えたかったわけではない。

単純に、新年明けに仕事が入る予定だったのである、

そう—彼は、仕事を待っていた。
仕事内容を告げる電話のベルの音を待っていた。