第二章 多重存在 吉野巫女 その2 -小説
「別に―嘘ついてたわけじゃないよユダ君。私はその時本当に中学一年生だったんだぁ。」
俺の言葉にそう返す。
ごめんね、と舌をちろっと出す。
「愛染さんに言わせると、『退行現象』っていうんだって、
辛いことがあると人間は逃避するためにいろんな方法を駆使するらしいんだけど、
14個ある防衛規制の一つ、
『退行』が私の場合いき過ぎた挙句、思い込みまでしたらしくって、
ふふ、それでね。
こっからがマンガっぽくないの。
最初はこういうの『二重人格』っていうのかなぁ?と思ったら違うんだって、抑圧されてた意識を、退行で発散しようとしたんだって。そういうのは、すべて意識下で行われてるから『二重人格』とは呼ばないんだってさ。
つまりさー、
私って最初っからこういう女なんだって。性格が悪すぎるんだってさ。」
で、・・・何があったんだよ。お前。
「あれ、話ごっちゃだね?
違う、違う、そんな事が言いたいんじゃないの、えへへ、そう、許してほしいって事。
だって、あれ嘘じゃなくて防衛本能じゃん?
正当防衛じゃん?
嘘の内に入らないよ、んでね。
うん、そう、っこ、心の中では中学一年生だったんだよ。うん」
何があったんだよ、お前
「中学一年生になりたかったんだぁ、えっと!そうそう!心からの若返り!?いやぁ、若かったなぁッ!て!ほら!中学一年生の時ってさ!何も知らないじゃ―!あ、うん、じゃないッ!?えっとさ!ほら、小学生のガキンチョから上がりたてでさ!いろんなこと悩む必要ないわけよッ!」
何があったんだよッ!お前ッ!
「勉強とかッ!クラブとかッ!親のこととかッ!でね!でねッッ!恋なんかも知らないわけだよッ!その頃は、まだユダ君とも会ってなかったんだよッ!ほらぁッッ!私たちが出会ったのって、中二の二学期からジャンッ!その時、ユダ君転校してきてッ!ね!?ね!?何も知らないでしょ!自分の好きな人も知らないんだよォッ!!」
「何があったんだよッ!お前ッッ!」
泣いてないで、ちゃんと教えてくれよッ!
口コミ 「自殺について考える」
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参加中第二章 多重存在 2-23 吉野巫女その1 ―小説
熱帯系の植物の植えられたそこは、片面、吹き抜けとなっていて四階までつづいている。その一面がすべてまガラス張りで昼ならば、屋内にいながら、まるで植物園のように太陽光が差し込むつくりになっている。
深夜の今ならば、月明かりがさす、その広場に、二階のバルコニーから続く階段があった。
その階段の上で、人影がふらっと揺れた。
回転扉をぐるりと回し、俺は中へと入る。
月明かりは、彼女を照らさない。
ただゆっくりと彼女は月明かりが照らす領域へ自ら進んでいく。
「俺はさぁ、お前のこと勘違いしてたわ」
俺は開口一番語りかけた。
「おまえってこう、プライド高い奴だし、いい奴だし、そもそも好みの女だったよ。」
俺はまくしたてるように言う。
こちらも、月明かりの領域に進んでいく。
気軽なものだ。
お友達に語りかけるような口調。お友達に歩み寄るような歩調。
「特に体。もう、俺好みの形の良い乳してたし?その小尻もちゃんと上がってた」
俺はついに、月明かりの領域へと侵入した。
それは階段をゆっくりと降りてきた『桃色血走り』もそうだ。俺達は、見つめあう。
懐かしいと言えば懐かしい。
愛おしいと言えば愛おしい。
「だから、おまえが嘘を付くなんて、正直信じられなかったぜ、心が傷ついた。そう言うのは俺の役目だ。お前はそんなになって欲しくなかったよ。」
月明かりに照らされる、彼女の顔が今では、はっきりとよくわかる。
「なぁ、吉野巫女」
そこにいたのは、吉野巫女だった。裁縫道具を持って、
あの日の様に、・・・あのデートの時のように―明るい笑顔で笑っている。
「何が中学一年生だ。さば呼んでんじゃねぇよ、この大嘘吐きめ」
そう言われて苦々しく笑う彼女を見て、―俺は少しうれしかった。