第三章 幸福在処 幻想公園 ―小説
「公園・・こんな所にありましたっけ?」
そこには、滑り台とブランコと、ベンチと、水場のある公園がありました。
そして、なにより、大きな大きな桜の木。
「桜が咲かないんだ。」
あれ?人の声。
そう思ってあたりを見渡します。
滑り台の陰から、きれいな綺麗な長い髪を、後ろで結んだ小学校低学年くらいの女の子が出てきました。
女の子は和服に身を包み、ギュッと手を握って、なぜかつまらなそうな顔をしています。
「咲いていない桜は哀れだ。見ていて悲しくなる。」
そういって、私の足元にきて、もう一度桜を見て悲しそうな顔をします。
わたしは・・・。
「でも、春にはまた咲きますよ。」
と、いった。
女の子は、私の言葉途中で首を横に振って
「ちがう・・・」
といいます。
「この桜は今まで一度もさいたことがないのだ。
哀れだ。
やはり悲しい。」
桜の木は、悠然と立っています。
とても一度もさいたことがないとは思えないほど、大きくて立派です。
どうしてだろう?
わたしは、桜の木に近寄って語りかけます。
力強い、生命力にあふれた幹にふれると、ほのかに温かさを感じる。
次に、地面を触ってい見ると、程よい湿気と柔らかさを持つ土。
何より、この桜の木は、そこにどしんと構えていて・・・・。
ああ、そうか。
「そのほう・・・・」
「ひゃい?何でしょう?」
あわててちょっとかんじゃいました。
「何ものだ?」
「はい、申し遅れました!春咲小羽と言います!よろしくお願いします!」
「・・・・春咲・・・はるさき、うむ、知らぬな。どこを由来している。」
女の子は、難しい言葉を紡ぎながら、ブツブツと考え込みます。
む~、この場合私も一緒に考えた方が良いのでしょうか?
む~
む~
むむむ~
今晩の晩御飯は何でしょうか?
きのうはお魚さんだったので、今日はお肉さんあたりが有力だと思われます。
ブブブ
あれ?携帯が鳴ってます。
おかしいなぁ。こんな朝早くにお電話なんて・・・。
メールですね。
えと、
―小羽ちゃんが、ギリギリなんて、めずらしいね~。
風邪ぇ?
先生に言っておこうか?(@^^)/~~~
――し~ちゃんより
ぎりぎりですか?
でも結構速めに出たはずなんですが。
えと・・・・。
九時二十分・・・。
はうぁっ!
大変です!これはピンチです!どうやら、考えすぎました!
晩御飯のことしか考えてなかったはずなんですけど。
「すみません!私いかなくちゃです!それでは失礼しますぅ!」
「まて、小羽。どこに行く。」
「え?あの、見ての通り学校です。」
「うむ、それは制服のようだが、それでどうして学校に行くのだ?」
う~ん
「楽しいからです。」
お友達がいますし、いろんな人に会えます。
「変った精霊だな・・・」
「ふぇ?」
「いや、なんでもない。」
「あの!」
「なんだ?」
「また、会えますか?」
「俺はいつでもここにいる。」
ありがとうございます。
ぺこりと、私は頭を下げました。
「それでは~しつれいしま~すぅ!」
私は再び駆け出しました。
小説 愛食家な彼女 15
「あ・・・」
俺は唖然とした・・・。
なんという顔をしているんだ?
自分の顔面筋群の肉どもが作り上げたそのいびつな形は
醜く卑猥に口を吊り上げ歪んでいる。
それは狂気・・・・・―狂喜。
その笑みを見て、自分自身が青ざめてしまった。
俺はいつから異常(おかしく)なった?
すでに、笑みは消えていた。しかし、脳内に残った映像は早々消えてはくれない。
未だに、俺は―俺と対面し、その歪さに恐怖している。
どうやら、俺はナルシストになれそうにはない。自分に恋するあまり、水面に浮かぶ自己という陰に投身したやつとは真逆・・・・俺は、俺に恐怖するあまり、自己という陰から逃避しようとしている。
「・・・」
そんなとき、ポンと肩に手が置かれた。
藤本刑事が笑っている。
この人はさっきから何がおかしいんだ?
すごくうれしそうにこちらを見て、手に持った俺のスーツを肩にかけた。
「もう動けるだろう?高柳。私はお前のせいで腹が減っているんだ。飯をおごってやるから付き合え」
・・・・
正直、胃に何か入るとは思えなかったが、―俺のせいで腹が減ったとなれば付き合わずにはいられない。
いまだに、藤本刑事の由来不明の笑みは不快だが―。
彼女が俺のそばにいた時間、この空間に拡散した香水の匂いは・・・・・
すごくすごく優しかった。
第三章 幸福在処 3-6 和服の女の子 ―小説
「いってきま~す」
「行ってらっしゃい。小羽ちゃん。」
「行ってきます、お父さん。」
「おうさ、行って来い。」
わたしは、スニーカーを履いて外へ飛び出しました。
目覚めた時に、窓から見えていた空はさらに高いです。
びゅんと、かぜが私と一緒に駆けだします。
一緒に走る風は私の背中を押して押して私を風に溶け込まそうとします。
途中、ご近所の新一郎さん(ゴールデンレトリーバー)にご挨拶。
毎日の日課なのです。
「今日も朝から門番ご苦労様です!」
新一郎さんは「わん!」と一声かけてくれます。
内容は『帰りにジャーキーの一つでも買ってよこしやがれ!』です。
「ごめんなさい、買い食いは駄目なので」
新一郎さんは、さらに一声くぅ~んと鳴いて―ああ、この内容は『てめぇが食うわけじゃねぇよ!』です。あううう、相変わらず突っ込みが厳しいです。
さて、そのくらいで新一郎さんとの朝のこみにゅけ~しょんを終了し、もう一度駆け出します。ここからは加速が大事なんです。
私のお家は兵庫県の海辺を見渡す高い位置にあります。
だから、坂はすっごく長くてきつい、
帰りは大変だけど、いきはとっても楽しい道です。
坂を下っていくと、大きなカーブ。
私は急いでスピードを落としていきます。
急に歩幅が小さくなって、ちょっとこけそう、おっとっと。
えいっ。
おおきく、足を踏み込んで、体の向きを一気に変えて、カーブは何とかクリア―です。
私の学校は、本日、冬季特別編成授業中っていう、九時三十分始まりの時間割なのであんまり急ぐ必要はないのですが、これは私の楽しみの一つなのです。
ここの下り坂は、風もきつくて、長くてきつい、そのおかげで、最後まで走り切るとまるでジェットコースターのようですっごく楽しい。
カーブの次にはまた下り坂。
そこを、―とと、とっとっ!?
「はい?」
足が、あしがからま、てて、うあああ!!!?
下り坂で、こけそうになりながらも、なんとかなんとか、バランスを元に戻します。
大丈夫、大丈夫、スピード落ちてきた。
おっとっと、
と
・・・・
ふぅ。何とかなりました。
今のは結構ピンチでした。
と、落ちついてきた所で、ふと、目に、風が入ってきました。
瞼を半開きにして、風の通ってきた道を見ると、
そこには見たこともない細い道があります。
ほそいほそい、道と言うにはあまりに細い道です。
人が一人ギリギリ通れるくらい。
坂の上から二股に分かれるようになっていたから、今までみたいに走っていたら絶対見落としていました。
うふふふふ、あれですね。
災い豚汁河豚と茄子です。←×災い転じて福となす。
◆ ◆ ◆
時間もありますし、より道です。
わたしは、ほそいほそい路地をひたすら下って行きます。
下っていった先に、突然開けた場所。
二つの木の柱を境界にして・・・。
「公園・・こんな所にありましたっけ?」
そこには、滑り台とブランコと、ベンチと、水場のある公園がありました。
そして、なにより、大きな大きな桜の木。
「桜が咲かないんだ。」
あれ?人の声。
そう思ってあたりを見渡します。
滑り台の陰から、きれいな綺麗な長い髪を、後ろで結んだ小学校低学年くらいの女の子がゆらりと現れました。
少女は・・・・ただ桜を悲しそうに見つめていました。