第三章 幸福在処 3-5 電話でおはよう -小説
平日のわたしの生活は、
初めにこうやってお父さんとお母さんに起こされて始まり。
次に瑠璃社長に電話で学校が終わってからのお仕事をもらいます。
「おはようございます。春咲小羽です。」
うちの電話は黒電話。
不思議と瑠璃社長のお家でもこれは同じです。
わたしは、いつも通り、朝のあいさつで瑠璃社長を起こします。
わたしが、瑠璃社長の家に朝電話をかけて、仕事をもらうのには、仕事以外の理由がありまして。
「・・・・・」
瑠璃社長は、とっても朝が弱いので、私の電話が目覚まし代わりになるそうです。
「こ、はね?」
でも、今日は声が低い。
妙です。
瑠璃社長は風邪でしょうか?
「なんでこんな時間に電話なわけ?」
ん?
この声は・・・
「ユダさん?」
「あん?そうだけど」
「あれれ?瑠璃社長の部屋に直通のはずなのに摩訶不思議です。」
「不思議でもなんでもないって、瑠璃は俺の女なんだし」
「そうなんですかっ!?」
「実は、そうなんだ!」
「でも、瑠璃社長がユダさんの女だと、なんでこんな朝早くの瑠璃ちゃんの部屋にいることになるんでしょう?」
「クリスマスが近いからだ。」
「おお!ほへ?」
「クリスマスが近い男女は、相手の欲しいものを探るために部屋に忍び込むんだ。」
「なるほどぉ!」
「というわけで、瑠璃が喜びそうなものに何か心当たりはないか?」
「可愛いものが良いと思います!女の子は可愛いものが大好きです!」
「え?BLじゃないの?」
「BLってなんですか?」
「俺も良く知らない。この前、アリ―」
と、その時、電話の向こうから大きな音が―
聞けば、女の人の叫び声。―あ、瑠璃社長だ。
「な、なんであなたが!私の部屋で寝てるんですの!というか、私の布団でッ!!」
「なんでって、そりゃ、お前―」
「待って!言わないで!ちょっと待って!今確認します!」
「ここで?」
「あ・・・、で、ででででで出て行きなさい!今すぐ!すぐです!」
「それより、これ―」
「電話?こ、小羽ちゃん!?あ、ああ!そうです!そうですわ!えと、つまり!聞かれて!ふぅ・・・・」
バタンッ!
何か物音
「あ、瑠璃が倒れた。」
「ええええええッ!?あの、大丈夫なんですか?」
「あ、うん。大丈夫だろ。頭打ったわけじゃねぇし。」
すごい、冷静です。まるでいつものことのようです。
「まぁ、いつものことなんだよ。で、どうした?」
「あの、瑠璃社長にお仕事をもらおうと・・・」
「そうかちょっと待ってろ」
ユダさんがそう言うと、しばらく後に。
「スイッチオン」
「ひゃう!」
と、言う声が聞こえた後。
「この変態!馬鹿!何考えてんの!地獄へ落ちなさい!」
と言う声が聞こえて
ものすごいユダさんの悲鳴が気こえました。
はわわわわわっ!
「おはよう。小羽ちゃん。」
瑠璃社長が電話に出ました。
「あ、あのぅ。ユダさん大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃなければいいのに・・・」
瑠璃社長はぼそっと呟く。
「おい!なんでこの家、落とし穴とかあんだ!?前々から気になってたが地下の座敷
牢は何なんだよ!おい!ここから出せ!瑠璃!おい!お~いい!」
あ、電話の向こうで軽く舌打ちが・・・。
どうやら、大丈夫のようです。というか、ざしきろう・・・て、なんだろう?
「ああ、それでお仕事の件だったわね。」
「え、ええ」
わたしは、正直ユダさんのその後が気になって仕方がありません。
「今日は、普通にしてていいわよ。あなたのことだから『なにか』ありますわ」
「それでいいんですか?お仕事なしってことでしょうか?」
「いいえ、仕事はありますわ。今日のあなたの仕事はいつものあなたでいるだけでいいんですの。もう流れに乗ってしまってるもの。」
ながれぇ?ですか・・・相変わらず瑠璃社長の言うことは『てつがくてき』です。
「それじゃあ、今日も頑張ってね。」
「はい、頑張りますっ!」
えへっ、なんだか瑠璃社長の頑張れは元気が出ます。
うふふふ。なんだか、この瞬間はいつも心がむずむずわくわくするんですよね。
なぜでしょう?
これも、櫃代さんの言う『言霊』の力でしょうか?
と、その時、ユダさんの悲鳴が・・・・。
「おい!瑠璃!助けてくれ!釣り天井!釣りてんじょおおおおお!て、なんでこんなもん家に作ってんじゃあああぼけええええ!!!」
「はわわわわ・・・・」
「小羽ちゃん?」
「はい!」
「見つかるといいわね」
そこで、電話は切れてしまったけど・・・大丈夫だったのでしょうか?ユダさん。
小説 愛食家な彼女 14
それは警察署のベッドのなかで俺が見た夢だったのか・・・・
それとも、おれはまだあの暑い日差しの中、京都の細い路地を歩いていて、
じりじりと照りつける太陽の熱さに、汗と自らの吐く息すらもうっとおしく思いながら
宙という空の中に見た陽炎の続き―白昼夢だったのか・・・・
あるいは、悪い魔法使いにかけられた幻覚だったのか・・・・
定かではないー。
それは見ざめた瞬間に知ること、そして忘れること
刹那の事実~~たゆたう
俺は上もなく下もなくさまよっていた。
舌の上には、あの芳醇な鉄の味がする。
鼻腔には、あの芳しき鉄の匂いが残る。
耳の奥、外耳道、鼓膜、中耳、内耳、聴神経へ
脳の中でこだまする・・・あの声・・・・・
俺のなかの思考回路を一撃で殺滅したあの声・・・・・
取り込まれる―おぼれている―彼女の海におぼれている
ああ
俺は彼女の声で目覚めるのだ・・・・・・・。
「高柳さん」
俺はその声で目を覚ました。
夏の空の青は濃く、日差しは世界のコントラストを上げていく。
海鳴りが
騒騒、砂砂と響き。
彼女の声はかすかに聞こえた程度だった。
だが、それで充分。十二分。
俺は目を開けた。体を起こし、ウミネコの歌を聴く。
彼女のあの白いワンピースが
ふんわりと吹きつける風に乗ってたゆたっている―ああ、それは波ににている。
夏の暑い日差しが、彼女の姿をはっきりととらえさせる。
そのたびに、俺は彼女と夏が好きになった。
心のどこかでこうあるべきだという幻想が、ここを現実と識別できないでいる。
彼女は美しい。
美しいものが悪であるはずはない。
―だから、あの惨劇が本当であるはずはない。
美しいものが醜いものを生み出すはずはない。
―だからあの死は彼女の生み出したものではない。
ではあの肉を喰ったのは・・・・・誰だ?
―それはお前。お前以外にあり得ない。故にお前は食わなくてはならない。
喰わなくてはならない!!
息が切れる。呼吸ができなくなる。
あの血は、人間が飲むには粘度が強すぎる。
舌に絡みつく、喉に絡みつく、臓物を穢していく
頭が、頭が回る
廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る
ぐるぐるとぐるぐるとぐるぐると
――
・・・・・・・・・・・。
「高柳さん」
もう一度、彼女の声がこだまする。
俺はその声に救われた。
また、この浜辺に戻ってくることができる。
この彼岸に戻ってくることができる。
あの光の中に戻ってくることができる。
「どうしたんですか?顔が真っ青ですよ。」
彼女の描ける言葉が美しい。
それにふふっと、俺は笑うと
「真っ青にもなるさ、悪い夢を見たからね。」
といって、今までうなされていた自分がばかばかしく思える。
「そう、お疲れなんですね。きっと―でも大丈夫。ここには太陽と海と浜と、鳥に魚しかいない」
「それに、俺と君だ・・・・薄野紗江さん。」
「いえ、紗江でいいと思います。けれど・・・それはどうでしょうか?」
「ん?」
「高柳さんと、私は、その存在を確定できない。自己を自己で同定することはできません。それは幻想かもしれない。」
「君から見た俺も・・君に同定できない?」
「私には、あなたというものを、私の概念というガラス越しにしか認識できない。高柳さんは人間だもの・・・、もっと言えば知り合ってしまった。私はすでにあなたを特視している。それはフェアなことではないと思いません?」
「しょせん、俺達のいる世界は、俺たち一人一人が個人的に作った小さな脳の生み出す表現の一つでしかない。他人が見ているものは俺のとは違うし、俺が見ているものは君の見ているものとは違う・・・けれど、同じように感じれる事柄があるのなら・・・そこに幻覚はないように思える」
「そう」
「だから、俺は君を信じていると言っていいし、だからこそ、俺はあの時喰ったに違いない。」
「そう、・・・・やさしいんですね。でも、それは結局言い訳。あなたは現実を見ていない。
現実というものはー」
◆ ◆ ◆
「!!」
俺は間抜けな声を出して飛び起きた。
ぐらぐらする頭の中で、状況を確認する。
警察署の医務室―そのベッドの上。
その時、背後で誰かが笑った。
俺は驚いて振り向く。
「やぁ、高柳刑事。いい夢が見れたようじゃないか?」
藤本刑事???
何を言ってるんだーこのありさまを見て、寝汗で体はべとべと、血相も悪いに決まっている。
「わらっているぞ?高柳―」
おれは、部屋の窓に映った自分を見た―そこには確かに嗤っている俺が居た。