第三章 幸福在処 3-9 あなたがいて、だから私がいる。―小説
「ただいまです。お父さん!お母さん!」
私は、家へと帰ってくる頃には日はすっかり落ちて、暗くなっていました。
「おう、遅かったじゃないか。小羽。あんまり遅いから、探しに行くところだったぞ。」
「すみません、連絡を入れそびれて・・」
ぶんぶんと、頭を下げて謝ります。本当に申し訳ないです。
きっと、お父さんのことだから、いろいろ考えたんです。わたしが、交通事故にあったんじゃないか~、とか、UFOに連れて行かれたんじゃないかぁ~、とか、エイリアンさんと仲良くなって、大宇宙に旅立ったりとか―。
「いや、そんな電波なことは父さん考えてないぞ」
とにかく、すみません、すみません、すみません、ごめんなさいぃぃい。
「いや、そんなに謝る必要はない、あれだ・・・、こういうのは親の性分みたいな物だからな。こう、ほらやっぱり、俺は、小羽のことが可愛いから。」
と、その時、お父さんのほっぺがぐいぐいと引っ張られます。
「だ~め~よ~お~と~う~さ~ん、娘に色目使っちぁぁぁぁぁ!!」
「いだだだ、何考えてんだ!?知恵!そんなんじゃない!そんなんじゃないから!」
「だって~、最近~誠一さん私のことかまってくれないしぃ~」
「知恵・・・お前が一番可愛い。」
「誠一さん!」
はぐはぐはぐぅぅ。
今日もお二人は仲がいいです。
「なんというか、あれだな。この親にしてこの娘ありと言った感じだな。」
「ええ、流さん、お父さんとお母さんがいなければ、今の私はあり得ないです!はい!」
「おお、解ってるじゃないか少女!いい子だろう小羽は。」
「ええ、世界一です!誠一さん!だって私たちの娘ですもの!」
「いや、そうではなくてだな・・・」
「知恵!」
「誠一さん!」
「お父さん!お母さん!」
ガシッ!
三人で、はぐはぐ。
「で、そこの少女は誰だ?」
「遅いな!お前たち!」
なんだか、流さんが地団太を踏んでいます。
「さっきからおったであろう!?」
「うん」
「はい」
うなずく、お父さんと、お母さん
あ、ご紹介が遅れました。
「お父さん、、お母さん。こちらは、私の新しいお友達の弦候堂流さんです!」
ぱぱっと、お二人の前に立ち直してご紹介。よし、完璧です!
「失礼した。ご紹介に与りました。弦候堂流と言うものです。本日は、小羽さんと縁ありまして、お友達になってもらい、大変わがままながら、家庭の事情により、こちらに泊まらせては頂けないでしょうか?」
じゅ、十倍完璧です・・・。がく―。
「おう、いいぞ!俺は、お父さんの藤崎誠一だ。」
「私は、お母さんの富時知恵です。」
「・・・はる―」
その時、流さんがなにか言おうとしたのですが、その前にお父さんの爆弾発言!
「さーて!今日の飯は焼き肉だ!」
『やったー!』
私と、お母さんのツインやった―です!今日はお肉です!美味しいです!
「―へ?」
ボー然とする、流さんの手を引いて食卓に向かいます。
「譲ちゃんも腹が減っただろう?早く来い。全部喰っちまうぞ~」
「あ、いや、すまん、御呼ばれされよう。」
第三章 幸福在処 その美しい少女は男の子でした―小説
私はどうしたらいいのでしょうか?
「なぁ、時間があるのなら遊ばぬか?少しでよいぞ。」
「え?ええ」
―私の問いに答えたのは彼女の方。
満面の笑みで私の手を引きながら誘う、少女に―いつの間にか私は頷いて、微笑み返していました。
それは不思議の時間・・・・。
不思議な感覚―。
私と彼女は、公園で遊びます。
追いかけっこ、ブランコ、シーソー・・・はちょっとお尻が痛くなりました。えへへ。
砂場で山を作ったり
鬼ごっこ。
そして太陽はゆっくりと沈みます。
赤い光が辺りを染めて、その中で追いかけた彼女がふと立ち止まります。
「あはは・・・はは、やっぱ変なやつだな、お前。
なんでそんなに俺にかまってくれるんだ?」
「ふぇ?」
「だってそうであろう?こんなガキのことほっとけばいいではないか?それなのに、さ。こんなに日が暮れるまで付き合ってくれる?お前は変だ、変なやつだ。」
少女は、そう言ってこちらから、二歩三歩と後ろに引いて行きます。
「変じゃありませんよ」
「ん?」
「だってそうじゃないですか」
そう、変なんて変です。
「だって、あなたも、私にかまってくれたんじゃないですか?私、あなたと遊ぶのとても楽しいですよ。だから、それは普通のことなんです。
もう、これはきっとお友達と言うやつです。
ご迷惑ですか?」
うん、そうです。私は彼女と友達になりたいです。
「いや・・・ありがとう」
彼女は握っていた手を、こちらに差し伸べます。
私はその手のひらをそっと握り返しました。
それは、握手。
握った掌に彼女の体温が伝わってきます。
熱い・・・。
「小羽・・・もう帰ろう。もう、・・・遅い。」
「あなたは帰らないんですか?」
「帰れない、俺はここから出れないんだ。」
彼女は悲しそうに言います。
「小羽が、どれくらい理解できるか解らないけど。
ここは結界なんだ。
俺はここに閉じ込められている。
・・・・・ここから出れないんだよ」
・・・・・。
「大丈夫です・・・さぁ」
わたしは、その手を引きます。
「おい、お前、人の話を聞いていたのか!?」
「聞きました!
でも、難しいことは分からないので、とりあえず、私のお父さんに聞いてもらましょう!」
私は彼女の手を引いて二歩三歩・・・。
「おい!ちょっと、だから結界がだな」
四歩五歩・・・・。
「大丈夫です!お父さんは頭がいいので、結界さんも何とかできます!」
六歩七歩、そして―
「何とかできな―」
「ほら―」
公園の外に出ています。
境界になっている、二つの柱の向こう側。
あちらとこちらを分けるもの・・・。
目には見えないその違い。
でも、それはただ足を延ばせば超えられるもの。
「ね☆私の家に行きましょう!
大丈夫です!
ここから出られる方法をお父さんが考えてくれるはずです!」
少女はこちらをぱちくりぱちくり見て、口をポカンと開けています。
「ぷっ、あはは、んふ」
少女は笑い始めます。
「どうしました?」
「お前、やっぱり変なやつだな。」
「そうでしょうか?」
「もう出てるじゃないか」
「え?あ、本当です!すごいです!解決です!」
「解っててやったんじゃないのだな、あは、あはは、んふふ、あはははは!」
変なやつ、変なやつと、私を指さして笑います。
「もう、小羽はそんなに変なやつじゃないです!えっと―」
えっと、そう言えば、お名前を聞いてませんでした。
そう、顔に書いていたのかもしれません。
私の顔を見て、その少女は、深々と礼儀正しくお辞儀をすると、静かな声で、大人びた声で告げました。
「人から名前を聞いておいて自分が名乗らぬのは無礼だったな。
済まなかったな、小羽。
遅くなったが、名乗らして貰って良いだろうか?
俺の名前は、弦候堂(げんこうどう) 流(ながる)。
日本最古の術師の家系、
古刀(ことう)、
弓端(ゆみはし)、
槍弥(そうや)の内が弓端、
その第二分家の流れたる弦候堂家の長男、
流の名を持つ6歳の『男児』である。
以後お見知り置きを・・・。」
その和服の長く美しく流麗な髪を持つ少女は・・・男の子でした。
第三章 幸福在処 3-8 あなたはだぁれ? ―小説
はぁ はぁ はぁ
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
そこにはあの女の子がいました。
半球体の丘の上に立ってずっとずっとあの桜の木を見ています。
彼女の瞳は何でそう寂しそうなのでしょうか?
「わかりません」
私は、女の子の問いかけにそう答えていました。
そう問いかけて、自分でも何を言っているか分かりませんでした。
「わからないけど、伝えなきゃいけない気がして・・・」
でも、この時私には何を伝えなきゃいけないのか分かりません。
何でこんなこと言ったのかもわからない。
どうして、なにを、何か伝えなきゃ・・・。
「そう・・か、やはり変わっておるな。とても、精霊とは思えぬ。」
「小羽は精霊じゃありません。」
「ならば、俺の記憶か?俺はお前のことを知らない・・・」
「記憶でもないと思います。私も初めて会ったと思います。」
「なら、なんだ?」
「小羽です。」
それは答えになっていませんでした。
でも、私にはそれしか答えがなかったから・・・。
「もしかして―外から来たのか?」
少女は驚いてこちらを見返してきます。
そんな・・・ありえない。
そう少女は呟いて、こちらにつたつたとやってきて恐る恐るこちらに手を。
「はきゅっ」
伸ばして、私の鼻をつまみました。
その後も、ほっぺをつねつねしてきたり一通り顔のあちこちを触ってきます。
「本当だ、霊体(エーテル)ではない。どうなってるんだ?お前」
「ひゃい?」
「ここは、結界の中だぞ?なんで、こんなに普通に入ってきてるんだ?お前、普通じゃないぞ?」
「あの、しょれより、私の顔で遊ぶのやめてもらえませんか?」
「だめだ、思ったより感触がいい。しばらく触らせろ」
「駄目です!」
私は、すかさず二歩下がります。
「そうか・・・」
少女は悲しそうにそう呟くと、急におびえたように二歩下がりました。
なんだろう・・・
少女は幼く・・小さい
私には儚く見えてしまった。
「あの・・・・少しならいいですよ」
「いや、もう良い。悪かったな・・」
少女はかぶり振るように頭を振ると俯いてしまった。
「お前は悪くない、俺が勝手に嫌なこと思い出しただけだ。」
「どう・・したんですか?」
ああ、・・・・ふれていいのでしょうか?
簡単に壊れてしまいそう。
簡単に折れてしまいそう。
簡単に溶けてしまいそうな彼女を。
私はどうしたらいいのでしょうか?